【代表レポート】
「BSE」がもたらしたもの?
「北海道議会の一年を振り返って」 |
北海道議会議員 木村 峰行
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2001年9月10日、日本列島に衝撃が走った。国内では、発生しないという牛海綿状脳症(狂牛病またはBSEという)が千葉県で発生を確認したというニュースである。更に驚いたのは、その牛が北海道佐呂間町で生産されたということであった。
1. 国の無責任体制の露呈
狂牛病発生後、と畜場での全頭検査が始まって1週間後「世界で一番の安全体制になった」と武部農水大臣が安全宣言をしたが、消費者の狂牛病への疑問は深まる一方で牛肉離れは加速した。影響は食肉、加工食品、流通業界、さらに焼肉屋などに深刻な打撃になった。中でも肉牛経営農家は、市場が停止による肉牛の過肥や資金繰りなど厳しい環境に追いやられた。
当時の農水省永村武美畜産部長は、狂牛病確認以前「国内では100%発生しない」と言い切っていた。また、当時の熊沢英昭事務次官も平成13年6月18日の記者会見で、日本の高い安全性を強調した。前日の「日本にも狂牛病の可能性がある」というEUの警告を無視する会見であった。その後、狂牛病の牛が「焼却処分された」との発表が実は飼料製造工場で肉骨粉に加工され飼料として出荷される寸前であったことが判明した。
このように、狂牛病の発生から事後の対応をみるとき、農水省の危機管理体制の貧弱さと無責任さが露呈し、その後大きな問題となった国内での食の安全が消費者を裏切る「牛肉の偽装事件」や食品すべてにおける「表示義務違反」などが次々と明らかにされた。
「BSE」発生以来、約1年間の動きを北海道議会での議論や法の改正などを基に、食の安全について検証してみた。
2. わたしたちの取り組み
9月11日、北海道庁内に緊急対策会議が設置され、「第1回牛海綿状脳症(BSE)を疑う牛に関する緊急対策会議」が開催された。早速私たち(道議会民主党道民連合)も、それぞれ連絡をとり、正確な情報収集に努めた。その結果、BSEを疑う牛は北海道産であること、BSEに限りなく黒であることなどが判明した。
9月18日、第3回定例道議会前日委員会で、北海道(以降道という)として経過が報告された。9月19日、本会議開催前の早朝、我が会派の「BSE」対策委員会を発足させると同時に第1回対策会議を開催した。、私は「BSE」対策委員会(土田弘委員長)の事務局長に就任した。
3. 「BSE」対策委員会の取り組み
10月4日第1回現地調査を実施した。調査対象は、生産から消費まで関係団体を訪問し聞き取り調査及び現地視察を目的とした。第1班は、石狩家畜保健衛生所、石狩南部農業改良普及センター、千歳森ファーム。第2班は、北海道農業協同組合中央会、サツラク農協配合飼料工場、北海道畜産公社道央事業所札幌工場、スーパー。それぞれ、現在抱えている課題や不安などについて意見を聴取した。次に、第2回現地調査を10月22日に北海道の肉牛生産の約4割を占める十勝管内で実施した。北海道十勝支庁、帯広食肉衛生検査所、㈱北海道畜産公社、十勝地区農業協同組合長会、社団法人帯広消費者協会を訪問し意見聴取した。また、12月25日には11月21日に発生が確認された宗谷管内猿払村の現地調査を行った。
このように「BSE」発生以来、生産現場や検査体制そして流通販売から消費者に至るまでの牛肉の安全について、「BSE」対策委員会で検討協議し北海道議会での議論により、問題の解決に向け取り組みを進めた。
尚、この後の議会議論の内容は、私たちの質問に対して道側の答弁の趣旨をまとめたものである。
(1) 平成13年第3回定例道議会
① 「BSE」発生以来、これまでの経過と道の対応
千葉県において日本で初めての狂牛病を疑う牛が発生し、英国での検査の結果、9月22日には狂牛病(以降「BSE」という)と確認された。この牛が本道で生産されたことから、道として庁内に緊急対策会議を設置し、「BSE」の正しい知識や発生状況に関する情報の提供を行い畜産農家や道民の不安払拭に努めた。また、国の調査依頼により、生産現場での当時の飼料の給与状況や売却後の移動状況などの結果、当該農場では狂牛病の原因となる肉骨粉等が飼料に含まれていないことや異常牛が発生していなかったことが確認された。さらに、道内の132万頭のすべての牛について緊急立ち入り検査を実施し、異常牛は発生していないことを確認したが、5支庁18戸の農家で過去に肉骨粉などを使用していたことが明らかになった。
今後、日常的な家畜診療時における異常牛の早期発見技術の向上、牛の個体識別システムや地域の監視体制、消費者に対する信頼回復に努めることとした。牛の飼料については、国は反すう動物を原料とする飼料への使用の禁止など飼料安全法関連省令を改正したことに基づき、道は、関係団体と連携し道独自の取り組みを強化することとした。
② 我が会派の指摘
いたずらに混乱を招くことは厳に慎むべきである。その意味で、農水省の対応ぶりは混乱を加速させている。急ぐべきは狂牛病感染の原因、経路を突き止めること。徹底した情報の公開により、生産者、消費者に正しい知識を伝えることである。また、食肉処理による副産物の処理・処分について、焼却施設の整備など国と十分連携し、1日も早く、食の安心、安全を確保すること。
(2) 平成13年第3回定例道議会予算特別委員会
① 補正予算について道の対応
道内のと畜場は18施設、その内、牛を処理しているのは15施設があり、道内の食肉衛生検査所及び保健所で、と畜検査に従事している獣医は131名配置している。と畜場でのスクーリング検査の導入により、検査の結果判明まで枝肉などを衛生的に冷蔵保管するため、これまでの体制を変更しなければならないと同時に、と畜場の安全確保のための施設整備を図る。検査体制についての国の支援は、「BSE」検査機器について3分の1の補助、その他は当面国が負担する。「BSE」の感染経路と経路の究明について、道では患畜を生産した農場において、当該牛の同居牛が廃用するまで飼養されていた牛は80頭、その内追跡調査の結果道内で11頭道外で13頭が確認されエライザ法等の検査の結果全て陰性と判定された。給与されていた飼料から肉骨粉の使用は確認されなかった。
千葉県の発生農場も検査の結果、北海道と同じ結果であった。農家経営への支援について、「BSE」の影響緩和措置として生産者の借入金の償還猶予など関係機関と連携し国に求める。
(3) 平成13年第3回定例道議会予算特別委員会知事総括
① 検査と肉骨粉処分について道の対応
肉骨粉について、国は10月4日以降全ての肉骨粉の製造・販売の一時停止し、法的規制について検討に入った。「BSE」発生の原因究明、緊急対策について国の責任で実施するよう国に求めている。国は、「BSE」の全国一斉検査を10月18日から行うとしているが、道は10月29日(その後の国の方針により、10月18日から検査の実施となった)からになると考えている。肉骨粉の焼却処分について、市町村の一般廃棄物焼却施設と産業廃棄物焼却施設について、可能かどうか調査を実施している。
(4) 平成13年度第4回定例道議会
① 発生前からの国の対応と肉牛経営について
平成8年4月と6月に、反すう動物の組織を用いた飼料原料については、反すう動物に給与する飼料とすることがないよう通知を行った。その後、平成12年12月に、EU諸国での多発を踏まえ、「BSE」発生国からの肉骨粉の輸入停止措置をとった。平成13年に入り、EU諸国において肉骨粉の全面的な利用禁止により、国は、本年(13年)9月の「BSE」発生まで、反すう動物用飼料への反すう動物等由来タンパク質混入防止に関するガイドラインの制定などの通知を行った。この間、輸入肉骨粉等の輸入禁止措置がとられず、結果として、海外からの「BSE」感染を招いたものと認識している。
肉用牛経営対策については、「BSE」の発生に伴う枝肉価格や子牛価格の下落による影響緩和措置として、国は、現行制度に加え、再生産を可能にする「BSE」緊急対策として、物財費の補てんや飼料代等の助成を行う。道として、今後共必要な対策を国に強く求めていく。肉骨粉の禁止については、反すう動物への肉骨粉の飼料利用と反すう動物由来の肉骨粉の飼料・肥料などへの利用は禁止を継続する。道としては、当面の飼料給与指導方針をパンフレットにし指導の徹底を図る。10月17日以前(「BSE」検査以前)に、と畜された国産牛肉について市場から隔離するため、焼却処分を含め検討しているが道として実現できるよう国に働きかける。
(5) 平成14年第1回定例道議会
① 北海道ブランドに関して
食品の北海道ブランドについて、北海道は、豊な大地と海の恵み、農林水産や食品製造業が培ってきたすぐれた技術を生かし、全国の食卓に安全で良質な食べ物を提供する我が国の食料基地として大きな役割を果たしている。北海道でつくられた食品は、そのおいしさや新鮮さに加え、緑豊な自然がもたらすイメージから、消費者の皆さんに北海道ブランドとして高い評価をいただいていた。しかし、今回の雪印食品の問題は、これまで築き上げてきた北海道の食品全体に対する信頼までもが揺るがしかねない事態である。食品の安全確保について、消費者の皆さんの信頼を確保するために、生産や加工から流通・消費に至る一連の流れにおいて安全と安心を支える確かな仕組みが必要である。道としては、平成14年度予算案において北海道の食品ブランド対策を盛り込み、庁内に検討チームを設け、道産食品に関する消費者意識の調査や流通での課題について検討を進める。食品に関する情報について、消費者の皆さんの理解を得るためには的確な情報の提供が大切である。牛肉について個体識別システムを活用し、一頭一頭の牛が農場での飼養管理が全て店頭でも把握できるシステム検討すると共に、北海道の食品を消費者の皆さんに安心して召し上がっていただけるシステムをつくる。北海道における認証制度について、クリーン農産物についての表示制度の創設や食品製造施設におけるHACCPの考え方に基づく衛生管理の評価基準づくりといった独自の取り組みを進め、地域の経済を支える農林水産業や食品製造業が厳しさを増す地域間競争に打ち勝つために、産地や生産、製造などのプロセスに関する情報を消費者の皆さんに正しく伝え、道産食品の優位性を一層高めていくことが重要である。
「BSE」対策に関して、高齢乳用牛の出荷について、輸送経費や農協による買い上げに要する経費などに対して助成する国の事業が措置され、価格の低落分について一定の補てんがなされた。道としては、14年度において「BSE」発生農場の経営の安定に必要な経費に対して助成する経営再開支援対策を講じる。国においても、「BSE」発生農場の経営継続や、新しく牛を導入するための支援を検討されている。
牛肉の認証制度については、先進事例を参考に、生産農場ごとに与えて飼料や治療の状況を記録するほか、個体識別番号やDNA鑑定も活用し、正確な情報を消費者に提供するシステムを構築し、できるだけ早く道独自の制度を取り組む。
② 我が会派の指摘
知事は、道産牛肉の安全・安心認証制度について、できるだけ早くスタートできるよう取り組むと答弁されましたが、消費者の牛肉に対する信頼を取戻し、牛肉の消費を1日も早く回復することで酪農・畜産農家の経営継続への不安解消と経営安定が図られる。食肉の表示に対する消費者の不信を払拭するためには、情報の開示を根幹とする本制度は極めて重要な役割を果たすものと期待される。この制度を効果的なものとするには、生産から流通・消費に携る関係者の理解と協力、とりわけ流通業者や消費者の理解が不可欠であり、消費者の期待に応えれる牛肉の新しい流通システムのスタンダードとなりえる制度の確立に努めるべきである。
(6) 平成14年第1回定例道議会予算特別委員会総括質疑
① 食品行政の確立
食品の安全について、国民の食品に対する信頼を回復していくためには、消費者重視の視点に立って、生産、製造、流通から消費までの総合的な食品安全行政の推進を図ることが大切である。道産食品安全室について、道産食品の安全、安心を確保していくには、緊急課題であり、強い決意で臨まなければならない。農政部内に道産食品安全室を設置し、安全確保のシステムづくりを担う。室の設置の趣旨は、道産食品を取巻く状況に強い危機意識から、消費者の皆さんの信頼を確保し、北海道ブランドの再構築のための仕組作りを急がなければならない。
道産食品の安全確保システムについては、食の原点は安全、安心の確保にあることを改めて認識した。このことから、道産食品の品目ごとに表示や認証といった具体的な仕組みを着実に整備すると共に、常に中立性や客観性を持ってチェックする機能が働くような北海道独自の安全確保システムづくりを進める。安全確保のための監視体制について、本来、消費者が生産者を支え、生産者が消費者の暮らしや健康を守っていくという、よきパートナーの関係にあると認識する。危機管理や食品安全監視機構をどうしていくか、「食」のいわゆる北海道スタンダードとして、道産食品の安全・安心フードシステムといった新たな仕組みづくりを早急に進める。
4. あとがき
日本の食料自給率が40%を切り、いわゆる私たちの胃袋には好むと好まざるに関係なく、輸入食品が半分以上入ってしまているのが現状である。これまで、日本は大丈夫と思っていた家畜の病気がどっと入ってしまったのである。
一方で、世界を駆け巡る食料に押されぱなしの、国内地場生産物が生産者の知らない内に、他の産地の商品に化けてしまっている現状があります。さらには、「BSE」対策で検査前の国産牛肉を国が一括買い上げる制度ができると、外国産牛肉が国産牛肉に化けてしまった事件は象徴的でした。JAS法違反事件(表示違反)は、牛肉から米・味噌・塩……止ることを知らない位あらゆる食品に、かなり前からあったことが判明しました。日本の「食」は「うそ」で固まっていたのです。
「食」は、生きるもの生命・健康に貢献してきました。このことを生産者・消費者をはじめ行政・製造業者・流通業者……など、国民的に改めて問い直すことが大切です。
「BSE」それは、わたしたちに「食」を問い直すチャンスを与えてくれたのではないでしょうか。
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