【自主レポート】

「森林ボランティアの会」の活動について

青い森林づくりボランティアの会・事務局長 西野 久志
青森県中南地方農林水産事務所・林業改良指導員 神   敬

1. はじめに

 2001年は、ボランティア国際年でした。あなたは何かボランティアと呼べる行いをしましたか。
 「青い森林づくりボランティアの会」の西野久志と申します。一昨年の3月までは、自治労青森県本部、青森県職労の組合員でした。自分の所有する山林の経営と、所属するボランティアの会の活動のため、定年まで7年残して県庁を退職しました。
 このレポートでは、青森県内唯一の森林ボランティア団体「青い森林づくりボランティアの会の活動」と、青森県中南地方農林水産事務所の林業改良指導員の関わりについて報告します。
 皆さんは、この募金箱を見たことがありますか。これは、たぶん皆さんも利用したことのある大手コンビニエンスストアのレジ脇に置かれているものです。
 よく見てください。「緑の募金」と書いてあります。この募金箱等に入れられた県民・国民の善意が、社団法人国土緑化推進機構を通じて、今回の森林ボランティア活動資金となったことをまず報告します。
 「青い森林づくりボランティアの会」は、1997年に青森県において開催された「全国育樹祭」を契機に発足した会です。
 青森県内の豊かな森林を、県内共通の財産として保全し、次世代に継承することを、楽しみながら実行することを目的としています。会員数は、2002年4月現在で29名、年齢は、16歳から76歳まで様々です。職業も定年退職した人から会社員、高校生と多様です。こうした人達の、「森林づくりを楽しみたい。」、あるいは、「豊かな森林の維持、造成の必要性を感じて、自ら行動を起こしたい。」という思いが1つになって会をつくり、活動を続けることになりました。
 当会の活動は、当初、弘前市周辺の会員所有の森林を中心に行ってきましたが、次第に活動範囲を広げつつあります。県をはじめとする自治体主催の行事にも、ボランティアとして参加を要請されることも多くなりました。2001年に津軽半島の今別町で開催された県育樹祭では、「枝打ち」の技術指導を、各農林水産事務所の林業指導員と共に担うことができるまでになりました。
 県内唯一の森林ボランティア団体と申しましたが、全国的にはたくさんの森林ボランティア団体があります。現在では、市民団体やNPOを中心に600近くの団体がありますが、この数は、5年前に比べ約2倍となっています。

2. 市民参加の植樹行事の企画と林業改良指導員の関わり

 前置きが長くなりましたが、「青い森林づくりボランティアの会」主催の平成13年度植樹行事と林業改良指導員との関わりについて報告します。
 平成13年度当初、ボランティアの会は、市民と一緒に植樹行事を行うため、「植樹場所(林地)の確保」や「苗木代をはじめとする活動資金の捻出」のため、青森県中南地方農林水産事務所に相談しました。そして、この時点から、ボランティアの会と林業改良指導員の共同作業がはじまりました。
 植樹場所(林地)は、ボランティアの会の地元、弘前市の理解を得て、岩木山麓の市有林を提供していただくことになりました。
 活動資金は、社団法人国土緑化推進機構に助成してもらえないかを検討しました。推進機構の窓口である青森県緑化推進委員会を経由して、「緑の募金公募事業」としての採択を要請したところ、推進機構は、当ボランティアの会が計画している植樹行事を、公募事業の趣旨に合致していると認め、採択してくれました。森林ボランティアの会と林業改良指導員の共同作業が実を結んだこの時点で、プロジェクト「岩木山麓防風林造成事業」が正式にスタートする運びとなりました。
 6月から8月にかけて、数回にわたり、県緑化推進委員会、弘前市役所、中南地方農林水産事務所、そして、森林ボランティアの会の4者で打ち合わせ会を実施しました。また、植樹行事開催当日に植樹作業のお手伝いをしていただくことになる弘前地方森林組合にも、時々でしたが参加をしていただきました。
 さらに、平成13年8月23日には、資金提供元である㈱ローソン本社からも参加していただき、最終打ち合わせを実施しました。
 平成13年9月7日の地元新聞「東奥日報」の紙面に、植樹行事開催の参加者募集記事を掲載したところ、弘前市近辺はもとより、遠く三沢市在住の方からも参加希望の連絡がありました。同じ日に、弘前市の隣の黒石市で開催された「コケシの森林づくり」と人気を二分する結果となり、改めて、「参加型森林づくり」に対する県民意識の高揚と、ボランティア意識の高さを感じる結果となりました。

3. 植樹行事の実施

 平成13年9月23日の日曜日、一般参加者40人を含むボランティア会員ほか総勢100人は、心地よい秋晴れのもと、弘前市郊外の岩木山麓に集合しました。
 主催者あいさつ、㈱ローソンへの活動資金提供に対する感謝状授与の後、弘前市が所有する林地、面積0.3ヘクタールに、「コナラ」と「ヒバ」の苗木を植樹しました。一面の荒れ地だった林地は、数日前に地拵えを実施したとはいえ、鍬では容易に穴を掘れませんでした。まして一般公募の参加者は、女性が多く、穴掘りの経験もなかったことから、ボランティアの最初の仕事は、「穴を掘るコツを伝授する」ことでした。作業開始後30分も経過すると、参加者の鍬を持つ手もだいぶ慣れてきて、笑顔で作業できるほどに余裕が見られるようになりました。暖かい日差しのせいもあって、作業を重ねるうちに、参加者の額には汗が滲み出るようになりました。植栽するための穴を掘り終えた後は、林業改良指導員から模範的な植栽方法を学び、参加者各自がそれに習って植栽を開始しました。植樹の作業予定時間は、1時間30分程度を見込んでいたのですが、天候に恵まれたこともあり、予定時間内にすべて終了することができました。少ない木陰を求めて昼食をとり、最後に参加者全員で記念撮影をしてこの日の行事を終了しました。
 一般公募の参加者は、この後、弘前市に隣接する西目屋村の白神山地ビジターセンターを見学し、ブナ原生林が世界遺産登録された経緯や、森林の持つ公益的機能について見聞を広め、帰宅しました。
 この日の昼食時に、一般参加者の何人かに対して、今回の植樹行事へ参加した感想を聞いたところ、「心地よい汗をかくことができました。来年もまたやってきて植樹したい。」との声が、数多くあがりました。また、「時々ここに来て、自分の植栽した樹木を、将来にわたって見続けたい。」という感想も少なからずありました。このお願いに対しては、弘前市当局が理解を示してくれました。「弘前市が管理する森林ではありますが、今日の植樹行事参加者は、好きな時に現地に再訪してよろしい。」との許可を与えてくれたのです。自己所有の山林を持たない参加者ばかりなので、「自分の植栽した樹木を、将来にわたって見続けたい。」という願いを抱くのは当然のことなのかもしれません。

4. まとめ

 以上、森林ボランティアの会主催の植樹行事の経過を報告しましたが、以下に、森林ボランティアの役割と課題をまとめてみました。
 森林ボランティアに期待される役割としては、いろいろありますが、1つに、「森林整備の担い手」としての役割があげられます。特に、自治体がボランティアに期待している役割のように感じられます。
 弘前市の場合もそうですが、公有林は勿論のこと、私有林でも「森林の整備」は遅れています。その理由の1つに「森林で働く人達が老齢化し、後継者がいない。」という状況があります。このような状況の中で、「あなたの森林の整備のお手伝いを、無料でしてあげます。」というボランティアが増えてくれば、森林整備の大きな起爆剤になります。労働の対価を求めることなく、森林整備に参加したいという人が、潜在的には多数いるわけですから、こうした人達の熱意によって、地域林業は、加速度的に進展するかもしれません。
 2つ目は、地域林業の指導者としての役割です。現在、地域林業の担い手は、森林組合の作業員が中心です。しかし、森林組合の作業員の多くも高齢者なのです。知識も技術も持っているこの人達が、この先いつまでも担い手という役割を続けることはできません。こうした状況の中で、営利を追求することなく、常に森林と向き合い、その整備に関心を持ち続ける組織が存在することになれば、森林組合の作業員に続く、第2の担い手としての期待が高まることになると考えられます。
 3つ目は、森林・林業の重要性を啓発・啓蒙する主体としての役割への期待です。県民・国民の余暇を利用しての諸活動が広がる中で、自分の住む地域・郷土への関心が高まりつつあります。また、ごみのリサイクル活動に見られるように、環境への関心も非常に大きくなっています。環境保全という関心から、森林の持つ多面的機能に目が向けられ、森林・林業の重要さも再認識されることになってきたといえます。「自分の手で木を植えてみたい。植えた木が大きくなるのを見てみたい。毎年、植樹行事に参加したい。」等の気持ちが、一般公募への参加の動機になっています。こうした動機を持つ参加者個人個人の体験が、家族や友人へと広がり、森林・林業への関心が多くの人達に浸透していくことになれば、森林ボランティアは、啓発・啓蒙する主体としての役割を十分に果たすことになります。
 最後になりますが、森林ボランティアおよび林業改良指導員に、今後残された課題をいくつかあげておきます。
 1つ目は、潜在的にはたくさんいると考えられる森林ボランティアの掘り起こしと、所在の把握です。全国には600余りもあるボランティアですが、青森県内には未だ1つしかありません。緑の豊かな青森県なので、身近にもたくさんの森林があるため、都会に住む人達のように「緑を渇望する。」という状況に置かれているわけではないからかもしれません。したがって、青森県においては、何十もの森林ボランティアの組織ができることは考えにくいのですが、10近い団体を組織化する程度には、活動家が潜在しているはずです。森林ボランティアと林業改良指導員は、日頃の普及活動を通じて、「森林の造成に熱い思い」を抱いている潜在ボランティアの所在を、正しく把握する必要があります。
 2つ目は、個々の森林ボランティアのグレードアップです。ボランティア自身が、必要な知識を身につけ、技術の研さんに努力する必要があります。同時に、林業改良指導員は、林業知識普及活動の専門家として、個々のボランティアが実りある活動を行えるよう、適切な助言をしてあげる必要があります。特に、ボランティアの会は、円滑に活動できるように、森林所有者、森林組合、地方自治体とは密接な連携を図らねばなりません。この点でも、林業改良指導員の適切な助言は欠かせません。
 3つ目は、森林ボランティア活動の継続性を保つことです。ボランティア活動は、息の長い活動です。一過性の活動で終わることなく、こつこつと続けていくことが重要です。その意味では、林業改良指導員の助言も一過性のものであってはなりません。
 活動は派手さは必要ないのですが、森林ボランティアの会の諸活動が、新聞社に評価され、何度か新聞紙面に掲載されたことがありました。こうした記事が、会員の満足感、充足感をくすぐり、「もっともっと頑張らなくては……。」という気持ちにさせました。新聞に掲載されるために、ボランティア活動を続けているわけではなりませんが、掲載されれば、会員のやる気が増し、また、記事を読んだ読者が、新たなボランティアになってくれるという相乗効果をもたらすこともわかりました。
 2002年、昨年のボランティア国際年を契機に、皆さんも行動を興しませんか。