【自主レポート】
県立産業技術短大設立5年目の通信簿
岩手県本部/岩手県職員労働組合・職業訓練職員協議会
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1. はじめに
岩手県立産業技術短期大学校(以下、短大と表記)は平成9年4月に岩手県の職業能力開発施設の中核的な施設として開校し、今年度で開校5年目を迎えた。今回、事業主(256社)、県内高等学校(100校)、卒業生(315名)、県内職業能力開発施設職員(84名)のアンケートをもとに、短大のこれまでを検証し、今後、短大はどうあるべきかをセンタースクールの役割、魅力ある校づくり、校を活性化させるための外部との関わりについて検討した。
2. センタースクールの役割
(1) 短大の4年制大学構想
産業界における短大への期待に応えるためにも、今後積極的に産業界におけるニーズ調査を進め、早期に4年制大学構想を構築していく必要があると思われる。
(2) 指導員研修の実施
指導員研修の実施は短大の事業の中でもその中心となるものと考えられる(職員のアンケートからその65.6%が産業技術短大は県立施設の中心的な機能を持つ施設と考えられている)。短大は職業能力開発施設の中核であるので、県内の官民問わず職業訓練指導員の資質向上に努力していかなければならない。系あるいは科、もしくは系、科の枠にとらわれない定期的な指導員研修を短大で実施すべきである。
(3) 教材開発
雇用・能力開発機構立の短大などは、その教材を職業能力開発の中心校である職業能力開発総合大学校で開発することが多い。本県の場合も、短大は県内の中心校であるから県内能力開発施設の教材開発を積極的に行っていかなければならない。
(4) 講師派遣
企業ニーズはあるが、指導できる人が見つからず在職者研修を実施できないことがないように、短大は県内指導員の専門技術をデータベース化し、県内職業能力開発施設の在職者研修の実態を把握し、必要であれば短大、県内職業能力開発施設から指導員を派遣する体制を確立すべきである。
(5) 研 究
短大に対する評価は学生の就職に関するものがかなり大きなファクターをしめるが、直接学生に接する指導員の資質によるものも大きい。各指導員が個性を発揮でき、時間的にも精神的にも余裕を持って教育訓練あるいは研究に打ち込める学校運営の体制を作らなければならない。さらに、企業などと共同研究を行うことは、指導員の資質向上や短大のPR効果が絶大であると考えられるので、共同研究を行う制度づくりが必要である。
3. 魅力ある学校づくりを目指して
(1) 専門高校への配慮と学生募集の検討
当校の入校生は推薦入試と一般入試によって選抜されている。高校もその枠組みが従来のものから変化してきており(総合高校設置など)、意欲ある学生を入校させるためには指定校制などを含めた学生募集方法を検討する時期にきているのではないだろうか。
また、生涯教育と経済状況悪化に伴う失業者の増加に対処するためにも、当校は新規学卒者だけでなく若年労働者の再教育の場(いわゆる入校対象者は新規学卒者に限らないこと)であることをもっとPRする必要がある。
(2) 就職とそのフォローアップ事業の展開
就職に関しては開校以来厳しい経済情勢のなかで、職員の努力によりほぼ100%の就職率を確保している状況である。しかし、就職後、直ぐに離職してしまう学生もいるのが現状である。学生の就職のミスマッチをできるだけ少なくするためにも、卒業後の追跡調査(卒業後2~3年を目処)は是非とも必要である。
(3) 事業所や学生のニーズに即座に対応できる法体制の確立
履修教科および時間に関しては短大設置条例、施行規則で定められており、校長の判断でそれらを改正することは不可能である。指導側からすれば時代にマッチした教科や実習科目を設定しようにもその改訂には時間がかかってしまい折角のアイデアもしりすぼみになってしまう。他の県立短期大学校ではほとんどが校長決裁で教科および時間を含む履修規程等を改正することが可能になっている。当校もそのような体制とすべきである。
(4) 学生が意欲的に取り組めるカリキュラム
短大の企業からのニーズに即座に対応するためと、将来の4年制を目指すためには現在のような硬直したカリキュラムではなく、選択制単位を導入するなど柔軟なカリキュラムが望まれると考えられる。
(5) 教育訓練効率の向上
本校の特徴は実学一体であるので全ての教育訓練のベースを実習に置き、実学一体の教育訓練を今以上に実施すべきである。そのためにも、集中実習、ユニット型訓練も検討すべきである。
(6) 資格制度取得を目指した科目の設定
職業能力開発とは「職業の能力を向上させることが目的であること」からこのような職業の能力を証明する手段として各種の資格制度が存在している。短大の授業の内容にこのような資格取得を目指した科目設定を検討することが必要と考える。
(7) 施設利用
職業能力開発施設の特徴はその実習の多さにあるが、効率の良い教育訓練、実習をする上での実習場なり教室がどうあるべきかを検討すべきである。
(8) イメージソングの作成
岩手県立大学では学生歌(風のモント)を作成し好評を得て、学生の帰属意識を高めている。本校においても、校のイメージソングを作成し学生の本校に対する帰属意識を高めるべきである。
(9) 障害者の入校
近年のノーマライゼーション・インクルージョンの社会に対応するためにも障害者の入校を積極的に進める制度を検討する必要があると考えられる。
4. 校を活性化させるための外部との関わり
(1) 在職者研修
① オーダーメイド型研修
最近の企業活動は従来型の産業の業務遂行体系から比べるとかなり高度な技術要素を使うことが多くなっている。そのような高度な技能・技術を習得するためには本校で実施している在職者研修の最低規定時間の12時間ではこなすことができないものもある。在職者研修の時間を延ばすことを検討する時期にきているのではないだろうか。
② 指導員の在職者研修の積極的な取り組み
県立の職業能力開発施設の大きな役割は新規学卒者の職業能力の向上である。一方、雇用・能力開発機構立の短大、大学校においてはその指導員が新規学卒者の職業能力向上と在職者研修の企画、立案、実施を業務としてこなしてきている。当校でも開校時より、新規学卒者だけにこだわった従来の職業能力開発の考え方を変え、積極的に指導員が在職者研修の講師も勤めている。指導員は今まで以上に在職者研修の企画、立案、実施を業務としてこなしていく必要がある。
③ 企業ニーズの取り込み
在職者研修に企業ニーズは反映されているだろうか。在職者研修修了後はその研修のアンケートをとっているが、それが、その後のコース設定、講習の進め方に必ずしも反映されていないのではないだろうか。毎回のアンケートをデータベース化することも必要である。また、内部講師と外部講師のバランス、あるいはコースの実施順序、夜間や土日開催を検討すべきである。
(2) 聴講制度
本校では設置条例の中に聴講制度があるが、いまだに利用された実績はない。これはPR不足と合わせて校の聴講制度を実施する体制が整備されていないことと、企業との連携がうまくいっていないことが原因であると考えられる。聴講制度を広げるには、校の制度の検討とどのようにして企業のニーズをつかむか考案すべきである。
(3) 受託教材の活用
当校のように実践教育を謳っているところでは、企業から委託されたものを是が非でも教材として取り組む必要があるのではないだろうか。実践技術者養成の観点からは実際に市場に出まわる商品、製品開発についても手がけていく必要がある。実際市場にでるものを手がけることで学生、指導員もかなり自信がつくことは間違いないことであろう。
(4) インターンシップ制度
短大では昨年度から体系的にインターンシップ制度を利用し、35人の学生が企業において1週間ほどの研修を体験してきた。体験した学生からは、有意義であったとの意見が多く寄せられた。しかし、この制度は特に本校のカリキュラムの単位に振り替えられることもなく、ただ企業と体験者の慈善行為のようなスタイルであった。本来的には単位として振り替えられるように制度を検討したほうが良い。
(5) 校運営推進協議会、教育研究振興会、後援会、同窓会
校運営推進協議会は校運営に係る最高の諮問機関であるが、現状は短大の業務報告が中心となっていて、その機能は十分に発揮されていない。校側からの問題点を事前に提示する等、具体的な項目を諮問することにより活力ある校運営が成されると思われる。
教育研究振興会は学生の教育及び就職を直接支援出来る機関であり、より連携を深めることにより企業ニーズ・就職情報を収集できると考えられる。
後援会は学生の福利厚生の支援組織として設置されている。学生自治会助成と就職活動支援をこれまで以上に校とタイアップした運営をしていく必要があると考える。
同窓会は第1期生が卒業後、その活動はほとんどなされていない。同窓会組織は県内就職者が多い中でしっかりした組織にしていく必要があるのではないだろうか。
(6) 海外姉妹校
県内、文部科学省系の大学においては海外の大学と姉妹提携を結ぶことが多くなっている。グローバル化が叫ばれる世の中において海外の職業能力開発施設と姉妹提携を結ぶことは非常に重要であると考えられる。
(7) 情報発信
校のPR不足は今回の事業所からのアンケートから多数指摘されている。校のPR手段としては、入学生募集、就職、技能五輪への参加、技能フェスタへの出展、在職者研修の実施、学園祭、指導員の研究など多岐にわたっている。これらの事業に積極的に参加、実践することも必要であるが、近年の情報化の発展により当短大をPRする手段としてHP(ホームページ)をもっと効果的に利用する必要があるのではないだろうか。
5. まとめ
今回の検討はあくまで中間的なものであり、このレポートを起爆剤として当校がより県内外の企業に愛され、信頼される短大として前進していくことを切に願ってやまない。
これらのまとめとして検討および実施すべきことを記す。
① センタースクールの役割
② 魅力ある校づくり
③ 校を活性化させるための外部との関わり
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