【自主レポート】

NPO法人設立に見る、市民参画による
港まちづくりについて
~小松島市本港地区~

徳島県本部/小松島市職員組合 上原 徹也

 小松島市は、県庁所在地である徳島市の南側に隣接し、紀伊水道に面した人口約4万人の地方港湾都市であり、古くから港町として栄えてきました。しかし、鉄道の廃線、住宅の郊外化、モータリゼーションによる商業の郊外化と中心市街地の衰退など、地方都市で共通する同様の課題を抱えていました。また、平成10年4月に開通した明石海峡大橋は、瀬戸内海における海上輸送の再編成を促すこととなり、特に港町として栄えてきた小松島市本港地区においては急速に衰退化が進み、まちの活気が失われつつありました。更に、平成11年4月、昭和39年から35年間続いた歴史を持つ「南海フェリー」の小松島-和歌山航路が休止となり(現在は廃止となっている。)徳島市に移転したことにより、小松島市本港地区所在の南海フェリーターミナルビルが遊休化したことを契機に、本港地区の活性化を図ることは緊急性を帯びた課題となったのです。
 活性化計画の策定にあたって、従来の手法を用いるとすれば、港湾管理者である徳島県よりコンサルタント等に計画を依頼し、それを実施するという行政主導によるものでした。しかし、当時において、フェリー航路復帰の目途は立たず、海上輸送による物流拠点としての機能も市内別地区への移転が検討されている状況であり、本港地区においては物流機能についても衰退化を辿っていました。そこで、「交流拠点としての人流による活性化」に目が向けられました。市民主導によることを今後における大きな流れとして捉えることとし、活性化計画策定の過程においても、市民参加による手法が取り入れられることとなったのです。
 初年度である平成11年度から、市民を主体とした意見集約を目的に、公募により参加した市民をはじめ、地元団体や、関係者等が参加する「小松島港ワークショップ」が開催され、本港地区及びフェリーターミナルビルの利用アイデアが数多く出されました。さらに、「小松島港ワークショップ」で出されたアイデアは、活性化策の検討・策定主体として、国・県・市による行政関係者、並びに地元関係団体や学識経験者により組織された「小松島港本港地区等活性化検討委員会」並びに「小松島市本港地区等活性化懇話会」の場でも報告・検討され、本港地区の整備イメージが関係者間で共有化されることとなりました。
 平成12年度においては、4月にフェリーターミナルビルが南海フェリー㈱から小松島市に譲渡され、本港地区活性化に関する担当部署である小松島市商工港湾が入居したことを受け、平成11年度における整備イメージの具体化に向けての検討が進められました。本港地区活性化の拠点施設として位置付けられたターミナルビルの利用については、再度、市民参加によるワークショップを開催し、引き続き課題が整理され、平成11年度の「小松島港本港地区等活性化検討委員会」を引き継ぎ、更に「小松島港ワークショップ」に参加された市民も含めた形で組織された「小松島港港利用企画調査委員会」の場において具体的な検討が進められました。
 この間における、担当部署である小松島市商工港湾課の活動して、ワークショップ等における市民からの提案を具体化するための取り組みとして、平成12年10月と平成13年3月に本港地区周辺においてフリーマーケットを開催しました。開催当日は数千人の来場者が訪れ、また出店者からは本港地区がフリーマーケットの会場として好立地の条件を有しているとの意見が出され、定期開催の希望が表明されるなど定着への足がかりが得られました。また、平成13年1月から3月の間に、フェリーターミナルビルを試験的に市民への無料開放を実施し、のべ53日、約1,100人の利用があり、フェリーターミナルビルの利用ニーズを具体的に把握するに至りました。
 これらの経緯から、平成13年度は、フェリーターミナルビル活用における受け皿組織の立ち上げが主な検討課題となり、平成12年度から継続された「小松島港港利用企画調査委員会」での検討の場において、「NPO法人の設立」という方策が提案されました。このことを受け、平成13年1月から3月のフェリーターミナルビル試用期間中に利用した個人や団体に呼び掛けを行い、関係者による「NPO設立準備委員会」が開催され、さらに、設立準備委員のうち地元小松島市内に居住する市民を中心に「有志の会」が組織され、フェリーターミナルビルを活用しての具体的な活動等についての討議が行われました。同時に、小松島市商工港湾課としては、平成13年11月にフェリーターミナルビルの名称公募を行い、「小松島みなと交流センターkocolo(こころ)」として正式名称が決定しました。
 そして、平成14年1月26日、NPO法人としての団体名を「港づくりファンタジーハーバーこまつしま」として設立総会が開催されたことを受け、小松島3月定例議会においても「小松島市交流センター条例」が議決されました。
 現在、4月30日付で徳島県よりNPO法人として認証された「特定非営利活動法人 港まちづくりファンタジーハーバーこまつしま」は、「小松島みなと交流センターkocolo」として生まれ変わったフェリーターミナルビルの管理運営を含め、広く市民に開かれた組織として、小松島市本港地区及び小松島市の活性化を推進するべく、小松島市との友好都市である北海道本別町との地域交流事業、音楽コンサート・フリーマーケット・講演会等のイベント企画・運営事業、まちづくりセミナーとしての研修等の企画・運営など、様々な活動を行っています。
 以上ここまで、問題の発端からNPO法人の設立に至るまで、小松島市本港地区活性化における経緯を述べてきました。しかし、今現在では大きな流れとして捉えられている「市民参画によるまちづくり」を推進していく上では、行政としての様々な問題がありました。以下、特に大きな問題となった3点ほどを報告したいと思います。
 1つは、市民参画を前提としたことによる、市民の参加方法です。今では、全国的にも主流となっている「ワークショップ方式」ですが、当時開催された「小松島港ワークショップ」への参加者の大半は国・県・市の行政関係者、若しくは青年会議所等の地元関係団体からの出席者であり、公募により参加した市民は十数名に止まりました。参加者総数が五十数名いたことから考えると、市民の参加はその3分の1にも満たないことになります。「市民参画によるまちづくり」を標榜していたことを考えると、満足の得られる数字ではありませんでした。今後、まちづくりへの市民参画を意図する場合においては、「何らかの仕掛け作りにより、市民に興味を待たせる。」ということが、非常に大きな課題になってくるかと思われます。
 2つ目は、港湾施設に係る活性化計画策定段階における独特の問題としての、県条例の規制でした。当該フェリーターミナルビル及び小松島市本港地区周辺については、徳島県より「港湾施設」として位置付けされており、「徳島県港湾施設管理条例」によりいくつかの規制がありました。最も大きな障害となったのが、「港湾施設における物品の販売の禁止」です。例外として、「旅客フェリーターミナルビルでの物品の販売」は認められていましたが、既にフェリー航路は廃止されており、「港湾施設」としての位置付けは宙に浮いた形となっていました。ワークショップ等においても、「交流拠点としての人流による活性化」を目指していたわけですから、市民からは、当然、物品の販売を主体とした計画が数多く提案されました。ここで、「徳島県港湾計画」におけるフェリーターミナルビルの位置付けの改訂が、当面の課題となったわけです。しかし、ワークショップにおいて市民から提案があったという事実だけでは、港湾計画を改訂することは出来ず、県・市の担当部署間での協議により、実績づくりによる手法が提起されました。試験的にフェリーターミナルビルを含めた小松島市本港地区周辺において、物品の販売を主体とした何らかの行事を行うことにより、どれだけの人が集まるのか、そういった実績を以して、港湾計画改訂に繋げていこうというものです。結果としては、前述のフリーマーケットに多数の来場者があり、現在においても年2回程度ながらも提起的に開催されているという実績を得ることが出来たことから、「平成13年度徳島県港湾計画改訂」においてフェリーターミナルビルは「交流拠点用地」として位置付けされ、物品販売による交流拠点としての活性化に道が開けることとなりました。行政の立場として、せっかくの市民からの提案にも即時対応することができないということが大きな問題となったわけです。
 3つ目は、前述により「交流拠点用地」として位置付けされたフェリーターミナルビルの管理運営方法に係る、行政と市民の立場の違いによるにニーズの相違でした。当初、担当部署である小松島市商工港湾課が既に常駐していることから、そのまま管理運営主体となることが提案されました。しかし、市民の参加による、市民の主体性を尊重した形で計画を進めてきた中で、行政である小松島市商工港湾課が管理運営主体となることは、前述の例もあるように、市民からのニーズに即時的・弾力的に応えられない場合があります。そういったところから解決策として提案されたのが、行政と民間の橋渡し的な役割のみに止まらず、行政や企業では対応できない活動分野のすき間を埋めるという重要な役割を担い、既に全国で約6,000団体が存在する「NPO法人」を、新たに小松島市本港地区活性化の主体的な組織となるべく、第三者的機関として立ち上げ、フェリーターミナルビルの管理運営を小松島市から委託するというものでした。しかし、「小松島市港ワークショップ」並びにフリーマーケットの開催、そしてフェリーターミナルビルの試験的無料解放等により、市民参加に対するある程度の下地、若しくはニーズが把握できていたとはいえ、当時としてはまだ認知度が低かったNPO法人を立ち上げるということは、非常に困難を極めるものでした。前述の「NPO設立準備委員会」や、「有志の会」における、フェリーターミナルビルを活用しての具体的な活動等についての討議の場においても、行政側の規制上・財政上の問題と、出席者からニーズに折り合いが付かない場面が終始、多々ありました。しかし、最終的には「市民参画によるまちづくり」という当初の目的の下、行政は市民の主体性を重視する上で、設立された「NPO法人」の活動への協力、及び運営資金の助成等を行う補助的な立場であるとの認識により、可能な限り市民側のニーズを受け入れるという結論に至りました。こういった結論に至った理由の1つとしては、「NPO法人」設立後、真に活動的な団体となり、可能な限り市民主体によるNPO法人の自主運営を行うことができ、ひいては小松島市におけるNPO法人活動のモデル事業の一つとして位置づけられ、市民のNPO法人活動に対する理解と関心が高められることを期待するという側面もあったからです。
 現在、「NPO法人」が設立されたことにより、小松島市本港地区の活性化における今後の方向性についても、一応の目途が付いたところではあります。平成14年3月21日の春分の日には、NPO法人旗揚げ記念事業として、本港地区周辺においてフリーマーケット並びにその他の共催イベント開催され、天気の不調にも関わらず約3,000人の来客で賑わいました。
 しかし、今後の課題がいくつか残っている状況でもあります。最も重要な課題としは、「NPO法人」としての運営資金の確保です。事業を続けていく上では避けて通れない課題であり、全国的にも「NPO法人」の運営上大きな課題となっています。補助すべき立場にある小松島市としても、全国各地の地方自治体と同様に財政難が問題となっており、補助金等による支援は難しく、「NPO法人」独自の努力に頼っていかざるを得ないのが現状となっています。
 小松島市本港地区の今後については、まだまだ課題が山積している状況ではありますが、平成11年度から始まったこれまでの経緯の中で、最も大きな成果として挙げられたのは、自身の生まれ育った地元の活性化に情熱と意欲を持って自発的に参加する「人材の発掘」であったと思います。それぞれ参加の仕方、関わり方に違いはあるものの、こういった方々は、現在の「NPO法人」の活動においても、独自の役割の下で積極的に参加していだたいています。
 従来の「行政主導型によるまちづくり」ではなく、「市民参画によるまちづくり」が求めらている昨今において、何らかのアクションを起こす際にはいずれの場合においても言えることであると思いますが、「情熱を持った人」による「マンパワー」が非常に大きな要素と役割を果たします。特に「市民参画よるまちづくり」を成功させるためには、各地域における「情熱を持った人」の発掘が、最も重要なカギとなってくるのではないでしょうか。財政的支援が困難になってきている現在の地方自治体の今後の役割は、そういった人々の活動の奨励、更には講演会等を開催することによる人材育成を目的とした場の創造等、財政的支援に代わるものを提供していくべきであるように思います。