【自主レポート】
大阪市におけるドメスティックバイオレンス
(DV)施策の推進 |
大阪府本部/大阪市職員労働組合・市民支部
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1. はじめに
1975年の国際婦人年以降、「平等・開発・平和」を目標に、世界的に女性の人権尊重・男女の平等を求める動きが強まりました。ドメスティックバイオレンス(以下DV)に関する動きとしては、1993年に国連において「女性に対する暴力の撤廃に関する宣言」が採択されその中で女性に対する暴力の定義及び家庭内での暴力について述べられており、さらに、1995年に北京での世界女性会議において採択された「行動綱領」には女性に対する暴力が重大問題領域として上げられており、国家政府の責任を明確に位置付けています。さらに2000年の「女性2000年会議」でも更なる取り組みの促進が確認されています。
日本でDVに関して本格的な調査研究が行われたのは、1992年に「夫(恋人)からの暴力」についての調査研究会が実施した「夫(恋人)からの暴力についての調査」からだといわれています。また、それまで家族の問題、夫婦間のプライベートな問題として他人や社会が介入すべきではないとみなされてきたことが社会問題として取り上げられるようになってきた背景には、マスメディアによる報道だけでなく、世界情勢の変化に伴う外圧も影響したと考えます。
これらの状況により、1999年に総理府による全国的なDV実態調査が行われ、2000年に結果が報告されています。これを受け2001年10月13日に「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」(以下DV防止法)が一部施行2002年4月1日から全面施行され、日本の行政の中で本格的なDV対応が行われることになりました。
2. 大阪市における動き
大阪市では1983年に「大阪市婦人施策に関する基本計画」を策定し、婦人施策をすすめてきました。その後、女性の人権尊重を基盤とした女性施策の充実を図ることを目的に「大阪市女性施策に関する基本計画」に改定しました。
さらに、女性の問題解決だけではなく、男女が共に個性と能力を発揮し共同できる社会「男女共同参画社会」を目指した施策への変革を図るため、「大阪市男女共同参画プラン」(以下「プラン」)への改定を行いました。
1999年6月に施行された男女共同参画社会基本法及びDV防止法と「プラン」との整合性を図るため、2002年2月に一部改定を行うとともに、女性への異性からの暴力を明確にDVとして位置づけ、大阪市におけるDV施策がスタートしました。
この「プラン」を踏まえ、2000年6月に庁内での検討組織である大阪市女性施策推進協議会の中にDVに関する検討部会を設置し施策のあり方について検討を進め、その成果物として「DV相談対応マニュアル」が作成されました。また、これからのDV施策の推進方法をこれまでの縦割り的な対応ではなく、広域的な対応ができるよう検討をすすめるとともに2000年9月には市民3,000人を対象にDVに対する意識と実態の調査を行ってきました。
3. 支部の取り組み
これまで市民支部は1997年5月28日に労使の検討委員会として「市民局・市民支部女性施策検討委員会」を立ち上げ、男女共同参画センター体制のあり方の確立を行ってきました。
また、「プラン」の改定については、全庁的な取り組みが必要とされ、男女共同参画社会の実現に向けた具体的な施策の検討を行いつつ、市の取り組みに対して政策提言を行うことが重要であることから、大阪市職本部は「男女共同参画プランプロジェクト」を立ち上げ、支部としても同プロジェクトに参画し実効ある「プラン」となるよう取り組みをすすめてきました。
さらに、「プラン」改定後、DV施策に関して、労使間で引き続き検討を行うとともに、執行委員会でも議論を重ね、以下に記述する課題認識のもと取り組みを行ってきました。
4. 施策構築における検討課題
大阪市におけるDV施策を構築するにあたり、以下の検討課題があると考えました。
(1) 緊急一時保護施設の不足と24時間受入体制の確保
緊急母子一時保護事業として、母子生活支援施設3箇所での対応となっていますが、緊急時に満室で対応できない場合があることや母子生活支援施設は本来児童福祉法に基づく施設であることから単身女性については緊急避難的例外措置として保護されることがあるものの、市としての保護施設がなく大阪府の施設で対応するしかありませんでした。母子・単身にかかわらず市として責任を持った施設の確保が必要です。
また、DVに関する相談、特に緊急一時保護を必要とする相談は夜間や休日を問わず緊急な対応を求められることが多いが、本市として20時以降の対応窓口がなく、緊急一時保護の相談について警察との連携により24時間対応できる相談窓口が必要です。
(2) 総合的な相談窓口の不在
DV被害者がかかえる問題は、緊急避難の問題や生活費・住宅確保等の経済的保障の問題、心理的なダメージなど多岐にわたっていることから、多数の関係機関が関与しているものの、それらに総合的に対応できる窓口がありませんでした。
DV被害者への効果的な支援には、さらなる関係機関の連携と市としての総合的な相談窓口を設置し、個々のケースに合わせた対応を行うことができるよう体制整備することが必要です。
5. 総合的なDV施策の構築
上記の問題点を勘案するとともに、区役所及び男女共同参画センターの機能向上という視点も踏まえ、労使間での協議検討を重ねた結果、2002年4月から区役所の健康福祉サービス課をDV担当に位置づけ区DV窓口の明確化を図りました。このことにより大阪市における総合的なDV施策をスタートすることができました。
(1) 区役所へのDV相談窓口の設置
市民サービスの第一線職場である区役所において、健康福祉サービス課をDV相談窓口に定めることにより、DV被害者への適切な助言や相談を日常的に行うことが可能になりました。さらに相談の結果、緊急一時保護が必要となった場合には保護施設の確保を行うとともに、生活保護制度の適用が必要な場合には福祉事務所と連携し、すみやかに受けられるようにするなど、スムーズな対応を行うことができます。
(2) 新たな緊急一時保護施設の確保及び24時間受入体制の整備
大阪市内において市の福祉施設を活用してDV被害者を受け入れることになりました。(2002年8月より実施)これにより保護施設の拡大が図られ、大阪市行政としての受入体制も一定整ったことになります。
また、同施設において、加害男性からの脅迫・暴力行為を防ぐための施設警備を行うことにより被害女性の安全確保のための体制が整備されました。さらに、警察等との連携により24時間体制での保護が可能となりました。
(3) 男女共同参画センター中央館における相談体制の構築
男女共同参画センター中央館において、週1回、ケースワーカー・カウンセラー・弁護士を配置した総合的なDV専門相談の新設や大阪市内の施設で保護した被害者に対する3ヵ月間継続したカウンセリングの実施、さらには市の福祉施設に保護された被害者に対する出張してのカウンセリングや自立支援に向けたケースワークを実施するなど、DV相談体制が確立されました。これにより、区役所等との情報交換を密にして一人ひとりのケースに応じた効果的な支援が図れます。
(4) 関係機関との連携
DV被害者が抱える問題は多様であり、効果的な支援を行う為には、多種多様な機関との連携が重要です。そのため、大阪市行政の関係部局はもとより大阪府の施設や警察、緊急一時保護施設、民間シェルター、弁護士会とのネットワーク「大阪市DV施設ネットワーク会議」を立ち上げました。この会議において、平素における具体的な連携の方法、手続きや取り決め、今後の課題などを検討していきます。
6. 今後の課題
(1) 緊急一時保護後のDV被害者の自立支援策
緊急一時保護に関する対応については一定整ったものの、その後被害者が自立していく上で数々の課題がありますが、特に住と職の確保は重要です。
一時保護後の新しい生活の場所として、民間のNPOなどで「ステップハウス」の取り組みが行われていますが、行政としても住宅確保のための施策充実が必要です。
さらに、自立して生活していくためには就業し安定した収入を得ていくことが必要であることから、様々の雇用施策部門との連携を密にし、被害者の職の確保に向けた取り組みを強化していかなければなりません。
(2) 加害男性への暴力防止策
DVの発生を防止していくためには、意識改革を基盤とした加害者となる男性への働きかけが重要です。加害男性に対する暴力防止プログラムは、欧米で先駆的に行われているのが現状であり、日本では開発途上の段階といえます。
今後は、男性向けの相談事業の検討や男女共同参画センター中央館が有する機能の1つである調査・研究事業を活用して検討していくことが必要です。
(3) 3年後のDV防止法の見直しに向けた取り組みについて
現在のDV防止法では、被害者の申し立てにより、裁判所が加害者に対し接近禁止命令・退去命令を発する保護命令の制度が新設されましたが、効力の範囲は身体的な暴力に限定されており、現状のDV課題に即した規定となっていません。これに加え、市町村が施策を行ううえでの重大な問題は、都道府県の設置する施設には「配偶者暴力相談支援センター」としての機能を付していますが、市町村で行う施策には適用が及んでいません。そのことにより大阪市の相談を受けている被害者が接近禁止命令・退去命令の申し立てを行おうと考えた場合、警察か府の「配偶者暴力相談支援センター」に同じ内容を相談しなくてはなりません。
今後、同法の問題点を解明し、3年後の改正に向けた取り組みを進める必要があります。
7. おわりに
DVは明らかに女性に対する人権侵害であり、労働組合として、男性と女性の不平等な関係から引き起こる性差別に起因する社会問題であるとの認識のもと、問題の解決に向け取り組む必要があります。
これまでDVは啓発事業が男女共同参画施策で、緊急一時保護が福祉施策で、という縦割りな体制で行われていましたが、今回、総合的なDV施策として再構築することによって、縦割り事業における弊害を一定排除することができ、よりDV被害者に対して適切かつ迅速な対応ができるようになりました。
しかし、初期段階での施策は一定確立したもののDV被害者の自立には就労支援など欠かすことのできない課題が残っており、今後も組織内で充分議論できる環境を整備し、現状の問題点を明らかにしながら取り組みを進めていく必要があります。
今後、DV被害者が一時的に逃れるだけではなく、被害者が新たな人生の第一歩を自然に踏み出せるような施策の充実となるよう、DV施策のあり方を検討していきます。
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