【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第1分科会 自由は土佐の自治研より

 東京への人口集中が顕在化している中で、私たちの住む熊野市も例に漏れず人口減少、高齢化が進行している。そんな中で、熊野市がその流れに逆行し、住みたいと思えるようなまちづくりを行うにはどうすればよいか。そもそも熊野市の魅力は果たしてどこにあるのか。そういった観点から、人口減少の進むまちの魅力を見出し、まちづくりへつなげる方法について提言する。



東京とはちがう熊野市の魅力発見
―― 歩いてまちづくり ――

三重県本部/自治労熊野市職員労働組合・自治研部

1. はじめに

 東京は、飲食店やショッピング施設、娯楽施設などが充実し、大学など学ぶ場や働く場も多い。そんな東京に人口が集中し、地方自治体の人口減少が続いている。熊野市は、飲食店や娯楽施設も少なく、若者は、高校を卒業するとほとんどが市外に出ていく。今回の活動では、熊野市には、どのような魅力があるのかを発見し、どのようにまちづくりをすればよいのかを考えてみた。

2. 熊野市の現状

 日本創生会議から発表された報告に衝撃を受けた。全国の地方自治体の半数にあたる896市町村で人口減少により存続が危ぶまれるという。そこで、熊野市の人口減少、高齢化の現状を確認してみた。

図1 熊野市の人口及び世帯数の推移(資料:国勢調査)
 
図2 熊野市の年齢区分別人口(出典:国勢調査)

 図1を見てみると、熊野市の人口及び世帯数は、2000年と比較して2015年では5,318人(23.4%)、1,560世帯(16.0%)も減少している。さらに、その減少割合も増加していることがわかる。また、図2を見てみると、15~64歳の人口は、2000年と比較して2015年では4,606人(35.5%)も減少している。さらに、14歳以下の人口も2000年と比較して2015年では、1,185人(40.6%)も減少しており、少子化が進んでいることがわかる。
 その一方で、65歳以上の人口は、むしろ増えている。人口に占める65歳以上の人口の割合である高齢化率は、2015年では約41%となっており、高齢化が進んでいることがわかる。
 改めて熊野市の人口の推移を見てみると衝撃的な結果である。市内を見てみても人口減少や高齢化に伴い、空き家や休耕作地が増加している。また、少子化に伴い、子どもが外で遊ぶ姿を見ることも少なくなった。学校単位で野球チームが組めず合同チームとなるケースもあるという。人口減少や少子高齢化の影響をいたるところで確認できる。
 さらに、三重県が発表した2014年度の県内市町村別経済推計によると、熊野市の市内総生産は、51,697百万円で、市の中では、最下位となっており、前年度比2,203百万円(4.1%)減少している。また、1人当たりの所得は、2,143千円(県内平均3,144千円)で29市町中28位という結果であった。1位は、いなべ市で4,074千円、続いて四日市市、川越町とベッドタウンといわれる市町が続いている。熊野市民の所得は、県内でも低い水準であることがわかった。飲食店に行くと、ひと昔前は毎日多くの人でにぎわったという話をよく耳にする。熊野市の中心である、熊野市駅前は、シャッターを下ろした店が目立つ。

3. 東京とはちがう熊野市の魅力とは

(1) 身近にあふれる魅力
 熊野市は、どのようなまちなのか。熊野古道や花の窟などの世界遺産がある観光地であり、磯釣りや海水浴、丸山千米田での田植え体験など自然を満喫することができる。また、熊野地鶏やみかん、新姫など特産品も多く、温暖な気候を活かし、ソフトボールをはじめ野球やラグビーなどのスポーツ大会や合宿も盛んに行われている。自治研部の活動がきっかけで始まった、自然の中を駆け抜けるトレイルランニング大会も人気の大会となっている。
 このように魅力あるまちであるが、熊野市に住んでいるにもかかわらず熊野古道や花の窟に行ったことがないという人も少なくない。また、熊野地鶏やみかんをそれほど食べるものでもなく、全国的なスポーツの大会が開催されていても観戦する人は、多くはない。
 しかし、都会の友人と一緒に花の窟に行くと、友人は、御神体である巨石の大きさに感動する。その時、私たちは、改めて魅力あるものとしてその価値を認識する。そこに、まちづくりのポイントがあるように感じる。

(2) アンケート調査
 熊野市は、正月やお盆、大型連休中、多くの人でにぎわう。普段見られない交通渋滞が発生し、観光施設の駐車場は、満車状態である。
 熊野市の魅力を確認するため、ゴールデンウィークに観光客でにぎわう世界遺産鬼ヶ城でアンケート調査を行い、32人から回答を得た。
 熊野市の魅力について聞いてみたところ、海、山などの自然に関する回答が非常に多かった。身近にある海、山、川などの自然は、魅力あるものなのである。
 次に熊野市に観光に来ている人は、どのような人かを確認してみた。

表1 熊野市を訪れた回数
1回2回3回4回以上
13人7人2人10人

 「4回以上」と答えた人の多くは、帰省によるものと思われる。このことから、観光に訪れる人は、熊野市に初めて訪れる人が多いことがわかった。

表2 住んでいる地域
三重県愛知県、静岡県大阪府、奈良県その他(青森県、岩手県、長崎県など)
7人7人9人20人

 三重県内から訪れる人は、比較的少なく、近隣府県や大型連休を利用して遠くは青森など遠方から訪れる人が多いことがわかった。

表3 旅行で特に重視するもの(複数回答)
食事観光名所自然特産品地元住民の人柄
18人17人7人5人1人

 「食事」と回答した人が最も多く、続いて「観光名所」、「自然」という結果であった。旅行者は、食事と観光名所を重視していることがわかった。
 また、海がない奈良県や長野県から訪れた人は、海を見に来ていることや犬を連れて一緒に旅行している人が非常に多いことがわかった。
 今回のアンケート調査は、短時間であったが、たくさんの発見があり、とても貴重な時間であった。アンケート結果から、熊野市に観光に来る人は、比較的遠方から初めて来る人が多く、食事や観光名所を重視していることがわかった。また、熊野市の自然には、魅力があることも確認できた。ちなみに、調査部員の一人は、初鬼ヶ城であった。

鬼ヶ城でのアンケート調査

(3) 自治研全国集会に参加して
 2016年10月に宮城県で開催された第36回自治研全国集会に参加した。第5分科会「まちムラの見方『見えているもの』と『見えていないもの』~下を向いて歩こう♪~」では、路上観察という考えを学び、まちの中を歩くことは、さまざまな発見につながることがわかった。興味を引く看板、趣のある建物、ジグザグの歩道などよく観察してみるとそれぞれに社会的背景があり意味があることに気づく。歩いてまちの中を観察することが、そのまちを知ることにつながり、まちづくりに生かせるのではないかと感じた。

(4) 地域の魅力を知る活動
 歩いてまちの中を観察することが、そのまちを知ることにつながる。
 ゴールデンウィーク期間中、七里御浜では地元有志による「泳げ 鯉のぼりくん」が開催される。行ってみると、約200匹の鯉のぼりが太平洋をバックに泳ぐ姿は爽快である。観察してみると、さまざまなことに気づく。風が気持ちいい。波の音が聞こえる。子ども連れや写真を撮る人が多い。

泳げ 鯉のぼりくん

 世界遺産熊野古道を歩いてみると、さまざまなことに気づく。峠では、心地よい風が吹いている。鳥の声があり、葉っぱが揺れる音がする。花の匂いが感じられる。外国人観光客が多いなど。
 ある1日の熊野古道客数を数えてみた。平日、交通の便が悪いが、絶景と歴史を感じることができる人気の熊野古道を12km程度歩いて(走って)みると、22人の古道客に出会った。そして、なんと外国人が18人で日本人は4人であった。まさに世界の遺産である。また、外国人のほとんどは欧米人であった。平日ということもあり、日本人が少ないのは当然のようであるが、ここは外国かと思わせるぐらい、日本人に会うほうがまれで貴重な体験であった。
 歩いて地域のことを観察してみるとさまざまな発見があり、東京にはない熊野市の魅力がある。

4. まちづくりに必要なこと

 まちづくりにおいて必要なことは何かを話し合ってみた。
 私たちは、住んでいるまちにあるものを魅力あるものとして、その価値を認識できていない。それは、自然や文化が日常的な風景の一部になっていて、当たり前だと感じるからである。
 まちづくりのポイントは、「よそもの」、「わかもの」、「ばかもの」と言われる。「よそもの」感覚でまちを観察し、「わかもの」のような行動力で、「ばかもの」になり常識にとらわれないことが必要なのである。
 まず、まちづくりに必要なことは、私たちの住んでいるまちを歩いて観察することである。歩いて観察するとさまざまな発見がある。空き家や休耕作地が増えている、1人世帯が増えている、シャッターを下ろした店が目立つなど。歩いて観察することで、私たちの住んでいるまちには、何があるのか、何がたりないのかを発見することができる。
 次に、そこに住む住民が集まって話し合う場が必要である。一人でまちづくりを行うことは難しい。観察して得られた情報を全員で共有し、どのようにまちづくりを進めるのかを全員で話し合う必要がある。空き家が多ければ、治安への影響はないか、貸し出すことは可能か、活用できないかなどまちづくりについてさまざまなアイデアが出てくる。
 さらに、話し合う場では、必ず意見の対立がある。そういったときに、話をまとめられるキーマンの存在が必要である。
 また、地域住民によるまちづくりには、自助(自分で行う)、互助(地域で行う)、公助(地域と行政が協働で行う)という考え方をはっきりさせる必要がある。公園が汚れていて、管理者である行政に清掃を頼むと、なかなか断りにくい。利用しているのは、その地区の住民であり、片づけるのは当たり前という認識があれば、地域で清掃することも可能である。地域の全員で声をかけて清掃を行えば、コミュニケーションをとる場ともなる。

まちづくりに必要なことは……
・地域にあるものの価値を認識する
・「よそもの」、「わかもの」、「ばかもの」になる
・地域を歩いて観察する
・地域住民全員で話し合う
・意見をまとめられるキーマンをみつける
・自助、互助、公助の考えを取り入れる

5. おわりに

 国は、人口減少、少子高齢化社会を迎え地方創生の名の下、移住定住の推進、雇用対策、子ども・子育て対策などさまざまな政策を行っている。国が考える地方創生では、全国一律の政策ではなく、各地方の自主性を重んじ、対策を地方に委ねている。地方のことは、地方でしかわからないからである。
 地方の人は、存在感があり、地方には都会に比べ人が輝ける場があると感じる。魅力があり人が輝くまちには、人が集まってくるのではないだろうか。
 熊野市は、人口減少、高齢化が進み、所得も県内で低い。しかし、今回の活動では、熊野市には東京にはないたくさんの魅力があることがわかった。
 熊野市職員労働組合自治研部としては、今回の活動を活かすため、まちを歩いて観察することを通じて地域の魅力を発見し、よりよいまちづくりにつながる活動を行っていきたい。皆さんも自分のまちを歩いて観察してみてはいかがか。




参考文献
・小林勇治、波形克彦「『地方創生』でまちは活性化する―まち・ひと・しごと創生による地域活性化事例」株式会社同友館 2015
・桑子敏夫「わがまち再生プロジェクト」角川書店 2016
・トーマツベンチャーサポート株式会社、日経トップリーダー「地方創生実現ハンドブック」日経BPマーケティング 2015