【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第2分科会 まちの元気を語るかよ~町ん中と山ん中の活性化~

 農業者の高齢化・担い手不足等の理由により近年、営農が行われなくなった耕作放棄地の面積が拡大しており、農村地域の荒廃化が進行しています。これを受け町では、耕作放棄地の解消を目的とし2013(平成25)年度からそばの作付を振興し、年々作付面積を拡大しています。2017(平成29)年度には、町の産学官連携事業により、企業・教育機関・行政が一体となりそばの播種・収穫・意見交換会を行い、そばの振興による農村地域の活性化を提言しました。



常陸秋そばの振興における農村地域の活性化
―― 農業女子プロジェクト in Amiイベントを通じて ――

茨城県本部/県南ブロック・阿見町職員組合 井手 陽平

1. はじめに

 阿見町は、茨城県の南部、霞ヶ浦に面し、首都東京より60km圏内に位置しています。JR常磐線や常磐自動車道・首都圏中央連絡自動車道を利用し、東京・水戸・つくば・成田方面へのアクセスも良好です。
 阿見町の面積は71.40km2、人口は47,442人(2018〔平成30〕年4月1日現在)です。
 近年では3つの工業団地や、「あみプレミアム・アウトレット」のオープンなどにより、都市と自然が調和した明るく住みやすい町として発展しています。
 地勢については、谷津が台地部に複雑に入り組んだ地形が特徴で、台地部を中心に市街地が形成されています。霞ヶ浦に接する湖岸沿いは沖積層の低湿地で、中央から西部、南部にかけては関東ローム層の稲敷台地で構成されています。
 農業に関しては、当該地域の経営耕地面積は1,012haで、そのうち、水田が579ha、畑が398ha、果樹地が35haとなっており、主に水稲作と畑作による農業体系が確立されています。
 今般では農業者の高齢化・担い手不足等の理由により、営農が行われなくなった農地、いわゆる耕作放棄地の面積が年々拡大しており、営農を主たる所得としている人の多い農村地域の荒廃化が進行しています。

(1) 農業従事者の高齢化・担い手不足
 国が5年に一度行う農業等に関する統計データである農林業センサスによると、阿見町の販売農家戸数は以下の表のように変遷しています。農業者の高齢化・担い手不足等の理由により、販売農家戸数は、年々減少しています。

表1 阿見町の販売農家戸数
 2005年(H17)2010年(H22)2015年(H27)
販売農家戸数(戸)773640507
(農林業センサス)

(2) 耕作放棄地の状況
 農林業センサスによると、阿見町の耕作放棄地率は以下の表のように変遷しています。農業者の高齢化・担い手不足等の理由により、耕作放棄地面積は、加速度的に拡大しているのがわかります。

表2 阿見町の耕作放棄地・耕作放棄率
 2005年(H17)2010年(H22)2015年(H27)
耕作放棄地(ha)
(5年前比)
438
 
485
(47)
574
(89)
耕作放棄率(%)28.031.236.3
(農林業センサス)

2. 耕作放棄地解消における常陸秋そばの取り組み

 耕作放棄地拡大の現状を受け町では、耕作放棄地の解消、また、美味しい常陸秋そばの地産地消を目的として2013(平成25)年度から常陸秋そばの作付を振興しています。振興策としては、耕作放棄地再生利用緊急対策交付金の交付や、水田でそば作付を行った者に対し、町独自にそば作付への交付を行うなど、対策を講じています。更に、町の認定農業者連絡協議会では蕎麦倶楽部を組織し、そばの収穫に必要不可欠である汎用コンバインを共同購入。これらの取り組みの成果もあり、常陸秋そばの作付面積は、年々拡大しています。

(1) 町での常陸秋そばの取り組み
 阿見町が常陸秋そば生産振興に取り組むようになったきっかけは、2013(平成25)年に採択された茨城大学学生地域参画プロジェクトにおいて、認定農業者蕎麦倶楽部と茨城大学農学部生が、共同で1haの耕作放棄地を活用し、美味しい「あみ蕎麦」を地元の方に食べてもらおうと、常陸秋そば栽培に取り組んだことです。この取り組みを皮切りに、年々常陸秋そばの作付農家は増加し、その作付面積を拡大しており、2017(平成29)年度には53.8haにまでその面積を拡大しました。

表3 阿見町の常陸秋そば作付面積および作付農家数
 2013(H25)2014(H26)2015(H27)2016(H28)2017(H29)2018(H30)
(予定)
常陸秋そば
作付面積(ha)
1.08.016.033.053.866.0
常陸秋そば
作付農家数(人)
1515161821

(2) 常陸秋そば産地化の取り組み
 町の認定農業者連絡協議会では、蕎麦倶楽部を組織し、そばの収穫に必要不可欠である汎用コンバインを共同購入。常陸秋そば作付面積を年々拡大し、安定生産のできる産地として畑を中心に形成できました。
 また、高品質のそば生産をめざした産地化の取り組みとして、井関農機(株)ゆめある農業総合研究所の協力を得て、機械化による収量増の取り組み等の試験栽培を実施し、土づくり、肥培管理について学びました。
 こういった取り組みによる成果もあり、2017(平成29)年度の茨城県そば共進会において、蕎麦倶楽部会員が「優良賞」を受賞、それに続き、全国そば優良生産において、全国農業協同組合中央会会長賞を受賞しました。
 また、2018(平成30)年度からは、常陸秋そばの特別栽培農産物認証の取得に向けた取り組みが始まります。

茨城県そば共進会にて優良賞を受賞

全国農業協同組合中央会会長賞を受賞

(3) 耕作放棄地再生利用緊急対策交付金による支援
 町では、荒廃農地を引き受けて作物生産を開始する農業者等が行う再生作業や土壌改良、営農定着等の取り組みを行った者に対し、交付金による支援を行っています。この制度を活用し、荒廃農地を開墾し、常陸秋そばの取り組みを行った実績面積は以下のとおりです。

表4 阿見町での耕作放棄地再生利用緊急対策交付金・交付実績(常陸秋そば)
(m2
 2015(H27)2016(H28)2017(H29)
交付金対象面積
(常陸秋そば)
2,5933,4444,989

(4) 経営所得安定対策による支援
 経営所得安定対策としてのそば作付への支援は、水田でその作付を行った者に対し、転作助成金として交付されます。更に町では、市場より需要の高い常陸秋そばの作付拡大を図ることから、1ha以上のまとまった水田でそばの作付(そば団地)を行った者に対しては、町独自の補助金として上乗せして交付を行っています。また、常陸秋そばの種子を購入した認定農業者等に対しては、町補助金での補助を行っています。

表5 阿見町での経営所得安定対策によるそば(水田転作)取り組みへの補助
(円/10a)
 経営所得安定対策(水田活用の直接支払交付金)
区 分産地交付金/県設定枠産地交付金/町設定枠町補助金
そ ば20,000
そば団地(1ha以上)20,00010,00030,000

3. 農業女子プロジェクトを通じた常陸秋そばの取り組み

 阿見町では、町の産学官連携事業の一環として、東京農業大学と連携協定を結び、地域資源を活用した新商品の開発を始め、6次産業化に関わる人材育成講座の開催等、様々な連携事業を展開しています。2017(平成29)年度においては、東京農業大学が農林水産省の採択を受けて行われた農業女子プロジェクトに、阿見町と(株)井関農機が参画し、阿見町内において、東京農業大学の学生による、農家インターンシップ、そばの播種・収穫実習を実施しました。また地元の井関農機(株)が、そばの播種・収穫に欠かせない農業機械の操作についての講習を行いました。
 プロジェクトの報告会として称された、農業女子プロジェクト in Amiイベントでは、この産学官連携事業に携わった関係者、JA、認定農業者、商工会等が一同に会し、耕作放棄地の解消から始まった、常陸秋そばの取り組みについて経過を報告し、学生・農業者によるトークセッションにおいて意見交換を行いました。また、そばの6次産業化についてもアイディアソンを行い、改めて常陸秋そばの魅力を再確認しました。

(1) 常陸秋そばの収穫・播種
 2017(平成29)年度において、東京農業大学が農林水産省の採択を受けて行われた農業女子プロジェクトにおいては、8月にそばの播種作業や、農家インターンシップ。また、11月には、8月に播種をしたそばの収穫作業を行いました。いずれも、そばの播種・収穫に欠かせない農業機械の操作について、地元の井関農機㈱が参画し、講習を行いました。圃場での作業を終えたあと、女性目線による、常陸秋そばを使用した商品開発に関するアイディアソンを実施しました。

機械によるそばの播種

そばの商品開発に関するアイディアソン

そばの手刈りによる作業

汎用コンバインの講習

(2) 農業女子プロジェクト in Amiイベント
 2017(平成29)年12月、そばの播種・収穫を通じた農業女子プロジェクトでの取り組みの報告会「農業女子プロジェクト in Ami」を開催しました。報告会では、8月、11月に行った常陸秋そばの播種・収穫および商品開発に関するアイディアソン等の活動報告に始まり、学生・農業者によるトークセッションによる意見交換会を行い、若者の目線から見た阿見町での農業の魅力について話し合い、学生インターンシップについての意見交換を行いました。また、そばの6次産業化についてもアイディアソンを行い、改めて常陸秋そばの魅力を再確認しました。
 また、常陸秋そばの十割そば、二八そば、そばがき等の試食会を行い、参加者より大変に好評を受けました。

学生・農業者・町職員等によるトークセッション

常陸秋そばの十割そばや、そばがきの試食会

4. 阿見町産常陸秋そばの店舗 ~地産地消から町外へ~

 阿見町産の常陸秋そばの普及拡大のため、町では、そば店や地域イベントで使用するのぼりや、町独自のそばの袋を作成しています。阿見町で育った常陸秋そばは、町内4店舗にて提供されています。店舗によっては「限定十割蕎麦」として提供しているところもあり、プレミアム感を持たせています。また、隣接した土浦市の店舗での提供、更には千葉県香取市や東京都港区の店舗でも「阿見町産十割そば」と称しメニュー提供されており、阿見町産であることを強くアピールしています。
 こういった取り組みも、阿見町における常陸秋そばの生産振興を盛り上げ、更なる活性化につなげようとしています。

阿見町産常陸秋そばののぼり

阿見町産常陸秋そばの袋


しのぶあん「限定 十割蕎麦」
阿見町鈴木5-4

味わいそば大名「限定 田舎蕎麦」
阿見町吉原576-3

信太の里「天せいろ」
阿見町若栗2765-4

手打ち蕎麦切屋木鉢坊「セイロそば」
阿見町若栗3353-11

筑山亭かすみの里「天せいろ」
土浦市おおつ野7-5-1

昌平「十割せいろ 茨城県阿見町産」
東京都港区芝公園2-12-15

香蕎庵「茨城県阿見町産十割かけそば」
香取市佐原イ3844-2

5. まとめ

 こうした常陸秋そばの振興により、耕作放棄地の解消、担い手への農地の集積、常陸秋そばの産地化、更には農村地域の活性化をめざして、取り組みを行ってきました。こうした取り組みは、今回のようなイベントのみならず、継続していくことが非常に重要であり、小さな布石による波紋も、何度も投じることで大きな成果に結びつくことを信じ、今後も関係者一体となって更なる取り組みを行っていきます。
~農業女子プロジェクトで播種を行った常陸秋そばの開花~