1. はじめに
総務省が2013年に実施した住宅・土地統計調査によると、全国の空き家の戸数は約820万戸と推計されており、空き家率としては約13.5%であり、約7軒に1軒が空き家という状況である。名古屋市の空き家の戸数は16万8千戸と推計されており、空き家率としては約13.2%で、全国平均より若干は低い数字である。
今後は少子化・高齢化の進行などにより人口が減少し、空き家の数は増加していくものと考える。
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(名古屋市総合計画2018より) |
2. 法律・条例の経緯
適切に管理が行われていない空き家が、防災、防犯、衛生、景観等で地域住民の生活環境に深刻な影響を及ぼしており、地域住民から通報・相談などが市役所・区役所に寄せられている。
問題が多岐にわたり、専門的な対応が必要である空家等対策について、2014年2月定例会において議員提出による「名古屋市空家等対策の推進に関する条例案」(以下「空家条例」という)が可決し、同年4月1日から一部施行(7月1日全面施行)した。
国では「空家等対策の推進に関する特別措置法」(以下「空家特措法」という)が2015年2月26日に一部施行し、同年5月26日に完全施行した。
① 時系列
・2013年7月 | 条例制定に向けた市会議員勉強会発足 |
・2014年3月 | 2月定例会で議員提出による「名古屋市空家等対策の推進に関する条例案」が可決(同年3月28日公布) |
・2014年4月1日 | 同条例一部施行 |
・2014年7月1日 | 同条例全面施行 |
<空家特措法制定・施行 ※2015年5月26日全面施行> |
・2015年9月 | 9月定例会で条例改正案が可決 |
・2015年11月1日 | 改正条例施行(空家特措法全面適用) |
② 「空き家」と「空家等」の違い
住宅・土地統計調査とは、住宅とそこに居住する世帯の居住状況等の実態を把握し、その現状と推移を明らかにするため、5年ごとに国が行う調査である。本調査は抽出調査であり、調査結果の数値は推計値である。
住宅・土地統計調査における「空き家」とは、「二次的住宅(別荘等)」、「賃貸用又は売却用の住宅」、「その他の住宅」に分類され、空家特措法に規定する「空家等」の定義とは異なる。
戸数に関しても、例えば住宅・土地統計調査における「空き家」には、共同住宅等の「空き室」が1戸と数えられているのに対し、空家特措法の規定する「空家等」は、共同住宅等の全ての住戸が「空き家」となった場合に、「空家等」と見なす。定義がそれぞれの場合で異なる。
住宅・土地統計調査の結果などに基づく場合は「空き家」と使い、空家特措法などで用いる場合は「空家等」と記載している。
3. 空家等への対応
名古屋市では2014年度から市民経済局地域振興部地域振興課(以下「地域振興課」という)に専任職員3人(係長級1人、技師2人)を配置した。
地域振興課を条例所管課として、マニュアル等の作成を行った。
各区に関係部署を集めた「区空家等対策会議」(課長級の会議)や「区プロジェクトチーム」(係長級以下の会議)を設置し、市民から相談・通報のあった空家等をどのように対応していくかを議論している。ここで言う関係部署は、地域振興課、各区の地域力推進室、環境事業所、保健所、土木事務所、消防署を指す。
2017年12月25日に空家等対策の方針・方向性を明確化し、より効率的・効果的に推進していくために「名古屋市空家等対策計画」を策定した。
空家等対策の課題は、「予防」「適切な管理」「利活用」の3つに分けられる。
(1) 予 防
少子化・高齢化、高齢者の単身世帯の増加など、今後も空き家も数は増えると予想される。規制が入らない限りは空き家の数は増えるものと考え、問題となる空き家にしないための施策を行う必要がある。
名古屋市では専門家団体などと「空家等対策に関する協定」を締結し、協力・連携しながら空家等対策を進めている。その一環として愛知県司法書士会が行うセミナーに市職員を講師として派遣し、また愛知県弁護士会による一日無料電話相談「空き家問題110番」の広報支援をしている。
それ以外にも空き家問題に取り組んでいる弁護士やNPO法人の代表を招いた講演会の実施、空き家に関する専門家へインタビューを行い、市公式ウェブサイトに掲載するなど、市民意識の醸成を図っている。
予防の観点から言えば、「相続登記の促進」が重要となる。
例えば土地・建物の登記を確認すると、何世代か前の方のままになっている場合があり、相続人が100人近くになることもある。
相続人が1人(もしくは複数人)であれば、所有者等調査にかける時間も少なくでき、自身の財産という意識があるため管理の対応も素早くなる。
名古屋市では納税通知書や死亡届が区役所に提出された際に渡す書面に相続登記について記載し、相続登記の促進を図っている。
(2) 適切な管理
空家特措法の施行に伴い、空家等の所有者等に対しては空家特措法に基づく指導を行っている。
周囲に特に影響を与える「特定空家等」については、国のガイドライン基準に基づき、各区空家等対策会議(及び区プロジェクトチーム)で該当判断し、(所有者等調査を行った後に)所有者等に指導等を行う。
「特定空家等」と判断するにあたり、名古屋市の場合は国のガイドライン基準に基づき、比較的幅広く「特定空家等」と判断するため、件数は多くなる。「行政代執行」を見越した上で「特定空家等」と判断する場合は、比較的幅狭く「特定空家等」と判断するため、件数は少なくなる。
これはどちらが良いかというものではなく、例えば台風が多く接近するような地域や雪国のような所では早めに判断する必要があるが、隣家との距離があり緊急性や切迫性がない場合などは先に優先すべき事項があればそちらを進めていくなど、各自治体の都合で判断を行えば良いと考える。
空家特措法に基づき、助言・指導、勧告、命令と行い、最後に代執行となる。勧告を行うと住宅用地特例が外れ、土地の税金が上がる。
名古屋市では「老朽危険空家等除却費補助金」という国の社会資本整備交付金を活用しながら、空家等の所有者等が解体を行う際に最大で60万円を補助する仕組みがある。保安上危険な建物の中でも、危険度が高いものを年間の予算で15件程度までとなっている。その補助も命令を行う前、勧告までに対応しなければ活用できないものとなっている。
除却費の補助金については、補助金を活用せずに解体した人との不公平感などの意見がある。空家特措法に「行政代執行」までの規定が盛り込まれた中で、空家等が倒壊し、周囲の住民などに危害が及んだ場合の賠償などの訴訟リスクや、指導等を引き続き行う場合の人件費などを総合的に勘案すると、金額の多寡にもよるが肯定的に受けても良いのではないかと考える。
話は少し変わるが、勧告を行うと住宅用地特例が外れ、土地の税金が上がるが、土地と建物が別々の所有者である場合があり、この場合に勧告を行うと対応をすべき建物所有者より、特定空家等により迷惑を被っている土地の所有者の税金が上がるという構図になるため、空家特措法の見直しが入る際には修正が必要になると考える。
(※特定空家等のイメージ) | | |
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(除却前) | | (除却後) |
(3) 利活用
利活用の取り組みについては、2017年3月に(公社)愛知県宅地建物取引業協会と、同年12月に(公社)全日本不動産協会愛知県本部と、「空家等対策に関する協定」を締結し、空き家に関する相談窓口を各団体に設置し、売買だけでなく解体業者の案内から空き家の管理代行などを紹介できる体制を整えている。
利活用に関しては、空家等対策における各自治体の施策の色が出る。
移住定住促進で空き家の所有者と移住希望者のマッチングを積極的に行う自治体や、古民家などの改修補助金の制度を持つ自治体、協定を締結して不動産団体に相談窓口を設置して貰うなど、幾つかの施策がある。名古屋市の空き家の8割程度は既に市場に流通しており、また空き家のリノベーションを行う地域団体なども存在するため、専任職員が3人の中で利活用の対応を考えると、直営で何か行うよりは不動産団体による対応が効率的・効果的に空家等対策を推進できるものと考える。
一方で不動産団体などの事業者を紹介するのは、不動産取引による利益が生じるためにいかがなものかという批判もある。
名古屋市では(公社)愛知県宅地建物取引業協会と(公社)全日本不動産協会愛知県本部という2団体を所有者等に紹介することで、各事業者の機会の公平性を、不動産団体に関しては公益社団法人のみと協定締結していることから公正性を一定は確保できるものと考え、空家等対策に取り組んでいる。
実務を行う上で、空家等を放置している所有者等から「解体業者を紹介して欲しい。」といった問い合わせがあった場合に、協定締結前までは「自身で調べてください。」という対応で終わり、結局そのままにされている場合が散見された。協定締結後は解体に進む場合も増えており、一定程度の成果が出ている。
4. 最後に
空家等対策の歴史は浅く、行政代執行などの事例も少ない。所有者等の情報など個人情報に触れる部分が多く、また個別の課題も多いため、取り組みの情報などの共有はあまりなされていないと感じる。
そこで組合同士、横のつながりを持って各対応策を共有することができれば、特殊ケースと思われた案件も解決につながるきっかけになるかも知れない。
できるだけ関係性を深く構築して、少しでも抱えこまない体制が作れればと思い、報告した。
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