【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第2分科会 まちの元気を語るかよ~町ん中と山ん中の活性化~

 兵庫県神崎郡神河町の寺前周辺地域唯一のスーパーマーケットであった「寺前マーケット」が2017年8月、運営会社の倒産により突然、閉店されました。一時しのぎとしての移動販売車や、買い物送迎バスの運行が取り組まれ、1年経った2018年7月末、(株)寺前村振興公社による「寺前楽座"まちの灯り"」をオープンすることができました。
 旧店舗が閉店に至った経過や、新店舗オープンまでの取り組み及び検討の経過、今後の目標や課題として考えている事項をレポートします。



(株)寺前村振興公社「寺前楽座“まちの灯り”」
―― 寺前地区唯一のスーパーマーケット再開の取り組み ――

兵庫県本部/県議会議員・(株)寺前振興公社代表取締役 上野 英一

レポーターと地域の紹介
上野英一 1974年5月 大河内町(現神河町)役場入庁
     2003年2月 退職
           この間、単組役員25年、県本部役員(休職専従)3年6月
     2003年5月 大河内町長
     2005年11月 町村合併で失職
     2007年6月 兵庫県議会議員(現在3期目) 
神河町  2018年7月31日現在4,186世帯11,505人
     平成の合併で神崎町と大河内町が合併……合併しても県下最小の町
     寺前村:11集落(野村、新野、比延、寺前、鍛治、大河、上岩、高朝田、宮野、南小田、上小
     田)約1,300世帯
         長谷村と昭和の合併で大河内町となる。 
     寺前村・長谷村(大河内町)、越知谷村・大山村・粟賀村(神崎町)の財産区・財産区議会が
     存在



1. 神河町の現状と経過

 平成の合併の評価では、多くの自治体で中心部は良いが周辺部が寂れたとしての否定的な意見が多い中、数少ない成功例と言えるのではないかと、思っている。
 旧大河内町は農林業以外にこれといった産業がないが、関西電力の揚水発電所があり財政的には豊かであった(一時期は不交付団体)。旧神崎町は、町立病院を持っているが財政的にかなり厳しい状況であった。しかし、特に合併前後から病院周辺にスーパーマーケット3店舗、薬・業務用スーパー2店舗、ホームセンター3店舗、金融機関3店舗と集積して、一大経済圏域を形成している。(周辺の市川町、朝来市生野町、多可町等からの患者・買い物客で賑わう)
 「新町建設計画」では、本庁舎と唯一の統合中学校を人口規模の小さい大河内エリアに設置したことにより、バランスのとれた神河町となっている。  
 また、神崎エリアでは日本歴史遺産に選定された銀の馬車道沿いの粟賀町・中村区周辺等で、古民家を活用した移住者による飲食店等を含めて多くの店舗が展開して、賑わいを生み出している。大河内エリアでは、2017年国内では14年ぶりとなる新設スキー場がオープンして、計画を大きく上回るスキー客を呼び寄せている。

2. スーパーマーケット「寺前楽座"まちの灯り"」開店の経過

 旧大河内町の玄関口にあたるJR播但線寺前駅前では、21年前にJA神崎北(2001年にJA兵庫西に移行)が「寺前マーケット」の新店舗を建設して営業を続けてきた。しかし、11年前に今後の収益の見通しが立たないとして、寺前店だけでなく多くの店舗を閉鎖した。その内の寺前店、たつの市神岡店、姫路市安富町富栖店を(株)三輪又商店に委託をした。(株)三輪又商店は富栖店を6年前に閉鎖をして神岡店と寺前店の営業を続けてきたが、2017年の8月31日をもって突然に閉店・倒産となった。たちまちに高齢者をはじめ住民には大きなショックと、日々の買い物に不自由をすることとなった。多くの住民の方々から、私をはじめ役場や町会議員、区長さん方に何とかして欲しいとの声が寄せられた。
 店舗に隣接をする寺前・鍛治・比延地区では、従来なかった移動販売車の配送を手配したり、社会福祉協議会が買い物送迎バスの運行を一時的に行ったりした。
 そんな中で9月2日に、南小田区のお通夜式があった際に南小田区の役員、区選出の三谷町議(元大河内町総務課長、大河内町職3役経験者、(株)寺前振興公社専務取締役)とで、再開に向けた話を行った。

3. 再開に向けての検討課題

(1) 経営状況はどうであったか。
 まず、店長であった福岡氏とJA等に経営状況の聞き取り調査を行った。儲かりはしていないが全くの赤字でもないようであった。しかし、JAには家賃の引き下げを求めたり、滞納もあったようである。同時に再開するときには、福岡氏とJAには全面的な協力依頼を行った。

(2) 経営形態をどのようにするか。
 ①JAは、今後どうか。②進出してくれる民間業者はいるか。③人口減少、高齢化の中で、将来に向けて持続可能な経営ができるか。
 と考えたときに、寺前村11集落で運営会社を設立して、集落の住民が[おらが店]として利用を図る以外に道はないと考えた。

(3) JAに対する11区長会からの要望
 土地・建物の所有者であるJA兵庫西に再建のお願いをしたが、農協からは現店舗を運営しているところを数点当たってみたが難しいので、町・その他団体・個人の方々でやっていただける方があれば、できる支援策を検討したいとのことだった。

4. 運営会社の設立に向けて

(1) 11区長さん方への働きかけ
 一人ずつ家庭を訪問して、話合いの場を持っていただくように要請を行った。10月26日にその意見交換会を行い、区長さん方の間には正直温度差があったが、その場でアンケートを全世帯に行うことを確認した。そして、12月11日にアンケート結果の報告会を開催した。その結果79%の地域住民の方々が店舗再開の強い願いがある結果が報告され、この結果を受けて関係者の総意により一刻も早い後継店の開店をめざすことが確認された。私は、12月には再開しなければとの思いが強かったので、アンケートを取るとなった時には正直嫌な思いがした。しかし、結果的にはアンケートの取り組みが11集落区長会と区民の皆さんの思いを一つにしたと考える。
 そして、12月27日に我々言い出しっぺ有志を中心に役場も調整役として加わり、作成した再建案を11集落区長様と意見交換しながら方向性と具体案が決定された。

(2) 再建案の策定にあたって
① 厳しい経営状況にありながらも、そこそこの運営を行ってきた大きな要素として、店長福岡氏のフェイスtoフェイスの利用客との信頼関係があった。ひとり暮らしの高齢者が多いため「福ちゃん弁当380円」をはじめ、惣菜の売り上げが一番の売り上げであった。また、従業員との信頼関係も福岡氏の人間性によるところが大きく、利用者さんとのコミュニケーションも好評であった。
 しかし、その相反するところに客単価の低さは、肉や魚などのメイン食材の不十分さにあった。高齢者以外の利用が少ない、食材調達が完結しないので結果別店舗に流れる現状にあった。
② そこで、再建に当たって店長は福岡氏をおいてないと判断して、快諾を得る。さらに経営のプロの参画を求めた。神河町の「ホテルモンテローザ」や市川町の「どんぐりころころ館」、播磨町の「朝来の家」を指定管理する(株)田舎暮らしや、道の駅「但馬まほろば」と兵庫県企業庁が2018年6月に開業した「三田まほろばプレッツァ」を経営する(株)グリーンウインドの役員であり、自らは朝来市山東町でスーパーマーケット「こめやストアー」を経営する習田氏と福富氏に参画をお願いして、運営会社の設立準備に入った。
 結果、代表取締役社長 私 上野英一(県議)、取締役専務 三谷克己(町議)、取締役専務 習田大介、取締役常務 福富宏三、福岡圭介(前店長)、取締役 (株)田舎暮らし の6者が20万円ずつ出資をした。

(3) 資金・経営計画について
 聞き取り調査では、儲かりはしていないが全くの赤字でもないようであった。しかし、JAには家賃の引き下げを求めたり、滞納もあったようである。このことから、土地・建物をJAから取得(2,200万円)をして神河町名義にすることで、家賃をゼロにする。1,226世帯から1世帯1万円を出資してもらう。この1,226万円を運転資金に考えていた。その原資は、寺前財産区から提供をいただくことで、11区長から寺前財産区に申し入れていただき決定した。
 年間の売り上げは実績で、約1億3千万円、1日の平均利用客350人/日、客単価約千円、1千円×350人×30日×12月=1億26百万円であった。目標は、客単価と利用人数をそれぞれ3割増しとして、計画表を作成し、3月開業をめざした。これは、三谷町議と私で試算した。

(4) 具体的検討での誤算
 建物は少しの補修は必要と考えていたが、ショーケース等は全品入れ替えの必要があるなど、新たに約4,600万円必要と分かり、3月から国・県の補助金を模索した。幸いにも関係機関のご理解を得て、全国で4市町が選定を受けた総務省の地域経済創造事業交付金と県の地域再生大作戦等の補助金を受けることとなった。地域経済創造事業交付金は、国と神河町の随伴を入れて約2,075万円、それと同額を地元金融機関の無担保融資とした。5月に正式に交付申請をして、6月末に全国4市町の一つとして採択された。通常考えられないことだが、それだけ地方創生(地域創生)の先進的取り組みとして認められたものであったと考える。トータルで約8,200万円の事業費となった。しかしそれだけではなく、職員の休憩室や倉庫、あるいは厨房の手狭等まだまだ不十分で改善を要す。

(5) 開店を準備する中で学んだこと
 生鮮食料品以外のメーカー等の加工食品の仕入れ先として、全日本食品(株)と取引をすることとなった。全国1,800店が加盟するボランタリーチェーンであるが、田舎の八百屋さんやスーパーが大手スーパーマーケットの進出により次々と閉店していった。それは、仕入れ価格の競争に敗れた結果であった。全日本食品に加盟をすると、多少の加盟費等は要りようだが大手スーパーに負けない価格仕入れができ競争に耐え得る。まさしく、私たちがめざす地域創生の思いと合致した。

(6) 設立の影の功労者
 自治労の地域生活圏闘争として、直接には神河町職との連携とはならなかったが、私自身が自治労組織内議員、専務取締役が元組合役員で合併問題の大変な時に私の片腕として総務課長を務めてくれた三谷町議、国や県の補助金の交付申請をはじめ事務処理を一手に担ってくれた山下地域振興課長も私の組合仲間であった。

(7) 屋号は、寺前楽座"まちの灯り"
 11区区長さんとの初めての会議でも、「まちの灯が消えたようだ」「スーパーマーケットが1軒もないようでは、まちは寂れてしまう」また、アンケートでも同様の声が多く寄せられた。

(8) 一般社団法人でも良かったが、責任の所在を明らかにするために株式会社とした。取締役には区長さんに就いて欲しかったが、結果的に言い出しっぺの私と三谷町議が就任して、監査役に鍛治区長に就いていただいた。取締役は全員無報酬とした。法律的には取締役が最高機関だが、寺前活性化協議会(11区長)を最高議決機関とした。

5. 今後の目標

① 開店10日間の状況
 7月26日からプレオープン、7月30日にグランドオープンした。まだまだスタッフも不慣れで、また準備不足の感は否めない。しかしそんな中でも、お客さんのすべてから「ありがとう」「待っとったんや」「みんなで盛り上げんとな」また、従業員とは、「久しぶり」「元気やった」「また、よろしく」などの声が飛び交っている。営業成績も、客単価は千円に停滞している。これはまだまだ準備不足、品揃えが十分に機能していないことによる。利用者は、約400人/日の状況である。
② 収益が出れば、まず店舗のさらなる充実を図りたい。その次には、従業員の待遇を改善したい。多くの女性が、配偶者の扶養の範囲であるが「私はフルタイムで頑張ります」という方が2人いる。面接の折には、やる気があれば経営にも参画してほしいと伝えた。経営が軌道に乗ればできるだけ彼女たちや若者に、経営を譲っていきたい。
③ 移動販売車の運行を、従来からやっている方と連携をした。その方も決して若くないので、将来は我社で行う。さらに、将来的には買い物送迎バスの運行まで行いたい。宅配も良いが、やはり店に来て商品をみながら、さらには他の買い物客と「久しぶりやな」の会話が交わせるようにしたいと考える。
④ 「まちの灯り」をもとに、今後考えられるソーシャル・コミュニティービジネスを考えていきたい。地域生活圏闘争の核としたい。

 区民のみな様へ

寺前活性化協議会 
旧寺前村11区長会  

スーパーマーケット「寺前楽座"まちの灯り"」
開店のお知らせとお願い

 暑い夏が始まろうとしていますが、みな様にはご健勝でお過ごしのことと存じます。
 さて、昨年の8月末日に、寺前地域唯一のスーパーマーケット「又右衛門」が、突然閉店いたしました。多くのみな様が驚きとご不便を感じられたと思います。
 そして、「何とか再開してほしい」「まちの灯りが消えたようだ」「スーパーが一軒もないようでは、まちはさらに寂れてしまう」等々の声が寄せられました。
 引き続き経営してもらえる業者を探しましたが、引き受けてくれる業者はありませんでした。そこで、旧寺前村11区区長会でアンケートを実施し、その結果、79%の方が再開を望まれていましたので、運営会社を立ち上げて再開する計画をたて、寺前財産区や役場に助けをいただきながら、取り組んできました。
 資金面では、建物や土地の取得、店舗の改修、全日本食品(株)へ加盟、運転資金などで約8,200万円が必要となりました。
 これの財源は、寺前財産区から3,426万円、国・町補助金が2,074万5千円、出資金120万円、残りは金融機関からの借り入れとなっています。
 寺前財産区からのお金の中には、旧寺前村11区1,276戸、1戸当たり1万円の協賛金1,276万円が含まれています。
 "まちの灯り"と名付けたこのスーパーマーケットは、旧寺前村11区で立ち上げ、そして育てていく店です。品揃えや価格も大手スーパーに負けない店舗をめざしていますが、みな様の利用が多ければ多いほど、内容も充実できます。
 "まちの灯り"は、7月26日(木)からプレオープンし、7月30日(月)にグランドオープンいたします。
 みな様方には、お誘いあわせのうえご来店いただきますようお願い申し上げます。