【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第2分科会 まちの元気を語るかよ~町ん中と山ん中の活性化~

 離島というハンデを背負いながらも、島の特色を生かした、行政と住民の協働による地域活性化の取り組みについて紹介します。



隠岐の島ウルトラマラソンによる地域活性化について
―― 小さな島で大きな感動 ――

島根県本部/隠岐の島町職員組合

1. はじめに

 隠岐の島町は、島根半島の北東約80kmの日本海上にある隠岐諸島最大の島「島後」に位置し、総面積は242平方キロメートル、人口約15,000人の町です。隠岐島は、特徴ある自然、文化、歴史が数多く残されており、『ユネスコ世界ジオパーク』に認定されています。また、日韓をめぐる領有問題となっている竹島が属する町でも知られています。
 2004年10月に島内の1町3村が合併して誕生した隠岐の島町。島全体が一つの町となったことから、交流人口の拡大と地域振興を目的として町の目玉イベントとして始まったのが「隠岐の島ウルトラマラソン」です。
 その「隠岐の島ウルトラマラソン」がもたらした、地域活性化の取り組みについて紹介します。

2. 「隠岐の島ウルトラマラソン」の魅力について

(1) 最大の魅力は、島民挙げての「おもてなし」
 隠岐の島ウルトラマラソンは、100km、50kmの2部門があり、100kmは朝5:00にスタートし島を一周するコースを走る大会となります。
 大会当初は、定員800人に対して半分の400人に満たない出走者数であった大会が、10年で1,000人を超える人気大会に成長しました。その背景には、地元中高生、地域住民を中心とする700人を超えるボランティアスタッフ、地元企業など島民による地域の活力が大きく影響しています。
 100kmのコースは島まるごと一周するコースとなっていることから、大会までに各地区の住民たちはコース上の草刈り、ごみ拾いなどを自発的に行っています。また、大会当日の沿道からの応援は、早朝から、老若男女いつ来るかもわからないランナーを待ち続け盛大に応援してくれます。
 この応援で特徴的な点が、事前に島内の全世帯に配られているランナーのゼッケンと名前が書かれた、ランナー名簿を見て、走ってきたランナーの名前を呼びながら行う応援です。知らない土地で、知らない人から名前で応援され、参加したランナーは「人生でこんなに人に感謝したことはない」、「一年で一番素直になれる日」とおもてなしの心に感謝しています。

 「遠くからこの島にきて走ってもらうのに、失礼があってはいけない」、「自分たちにできることを自分たちでやろう」と、地域が動き出す。漁村地区においては大漁旗を掲げ、沿道を華やかにし、芸達者なおじちゃんおばちゃんたちは仮装してランナーの応援に華を添えています。
 大会の公設のエイド(給水所)は約2.5kmごとに設置していますが、私設のエイドを設置する島民も増えてきています。ランナーが快適に走れるように各地で工夫を凝らし、冷やしたおしぼり、スイカ、ドリンク、温かいお茶などを準備し、中には焼き肉も振る舞う施設エイドもあり、この施設エイドの充実とおもてなしも魅力の一つとなっています。
 こうした取り組みは、すべて行政が働きかけたものでなく、住民が協働で自発的に考えて実施しているもので、ランナーもこの取り組みに感謝し相互に「感謝」の気持ちが生まれ、大会が一つのきっかけとなり地域に大きな活性化をもたらしています。


(2) 地域を活性化させたのは「島外から訪れたランナー」
 島外からの参加者は、第12回大会では北は北海道から南は鹿児島県まで、約800人が訪れています。毎年全国各地から参加いただいていますが、交通の便、費用等を考えても安易に訪れることができる島ではありません。また、アップダウンが激しく、国内屈指の難コースとも言われている大会ですが、リピート率は毎年6割を超えており、多くのランナーが「隠岐の島の大会だけは特別な大会」と言っています。
 回を重ねるにつれ、ランナー同士が「隠岐の島ウルトラマラソンはとても素晴らしい大会」、「一度は走ってみる価値のある大会」と口コミで評判が広まり、近年ではランナーのためのインターネットサイト「RUNNET」の「ウルトラマラソン部門」では人気1位を独走しています。
 この影響から、第1回大会開催時には島内の参加者数は僅か30人程度でありましたが、10年で約10倍に増えています。島民たちはそんなに素晴らしい大会なら、「自分たちも参加したい」、「一回くらい走ってみるか」という気持ちで参加者が増え、島内の参加者が増えることにより、沿道の応援もさらに活性化され、にぎわいをみせています。また、ボランティアスタッフにあたっている島内の中高生もいつか自分たちが大人になったら走ってみたいと感じており、全国に誇れる地域の魅力を再認識するきっかけにもなっています。

3. 「隠岐の島ウルトラマラソン」がもたらしたその他の効果

 このウルトラマラソンがきっかけとなり新たな展開も生まれています。世界陸上マラソン日本代表で最強の市民ランナーとして活躍している川内優輝選手は、隠岐の島町に縁があることから、第6回大会からこの大会に参加しています。招待選手として大会に参加している川内選手は、大会前日には、地元ランニンググループが主催する子どもたちとのミニマラソン大会にも参加しています。川内選手の参加は、大会を盛り上げてくれているだけでなく、隠岐の島のPRにも大きく貢献しています。
 また、ランナーとして参加した島外の医師は、この大会に魅せられて、医師不足に悩んでいた島への移住を決意し、離島医療に携わる医師として活躍しています。
 今年で第12回目の開催となった「隠岐の島ウルトラマラソン」。ランナー同士で結婚し島に移住した夫婦も生まれるなど、回を重ねるごとに新たな取り組み、展開が生まれ、スポーツイベントの枠を超えた大会となっています。今では「地域おこしの参考にしたい」と島外からの視察者が訪れるなど、地域活性化の一つの取り組みとして注目されています。
 「隠岐は絵の島花の島、磯にゃ波の花が咲く、里にゃ人情の花が咲く~」
 これは島で親しまれている民謡「隠岐しげさ節」の一節です。江戸時代後期に北前船の風待ち港として繁栄していた頃に伝わったといわれており、島の自然と人情を象徴する民謡です。隠岐の島の豊かな自然と温かい人情に魅せられて海を渡るウルトラランナーたちは、まさに島に活性化と交流をもたらす現代の北前船です。
 2018年の第13回大会は6月17日(日)。次回も「隠岐の島ウルトラマラソン」を舞台とした新たな取り組みが生まれます。


◎大会エントリー者数の推移
大   会 参加者数・島内参加者
第1回大会(2005年)  537人 /  30人
第2回大会(2007年)  348人 /  46人
第3回大会(2008年)  411人 /  55人
第4回大会(2009年)  633人 /  80人
第5回大会(2010年)  683人 / 109人
第6回大会(2011年)  782人 / 146人
第7回大会(2012年)  941人 / 227人
第8回大会(2013年)  975人 / 221人
第9回大会(2014年)  996人 / 295人
第10回大会(2015年) 1,323人 / 346人
第11回大会(2016年) 1,167人 / 320人
第12回大会(2017年) 1,221人 / 338人