1. 伊是名島について
① 沖縄本島北部、本部半島の北、約35kmに位置し、周囲約17km、面積3.84km2、1つの有人島と3つの小さな無人島からなる。
② 人口約1,500人。零細な農漁業を中心とし、沖縄では珍しい稲作やモズクの養殖が盛んに行われている。
③ 交通アクセスは非常に悪く那覇から陸路約2時間、北部運天港から1日2便のフェリーで約1時間。
2. 中津市について
① 大分県北部、福岡県境に位置する。面積491km2。2005年に中津市、三光村、本耶馬渓町、耶馬溪町、山国町が合併した。
② 人口約84,000人。ダイハツ九州などの企業がある。郡部では農業や林業、観光業などが主要な産業である。
③ 交通アクセスは東九州自動車道の開通により福岡市まで車で約1時間半。また、JRでは特急の停車駅(中津駅)もある。
3. 古民家再生事業、座学、討論
日時:2017/2/16(木)、2/17(金)
場所:沖縄 伊是名島 字勢理客
(1) 古民家再生事業
沖縄独特の古民家が朽ち果てて、島の景観が崩れていくのを防ぐために、島の風は古民家再生事業を行っている。ミッションは、「島を残し、守り、伝える」。小さなコミュニティの中でスモールビジネスとして成立させている。空き家になった古民家を所有者と10年間の賃貸契約をし、リノベーションを行う。再生した古民家を一棟貸しの宿泊施設として、島を訪れる観光客等に貸している。
単に空き家の再生という観点で物事を見ると、スモールビジネスとして成立している観光業であるが、ここでの空き家の再生はミッションとしての「島を残し、守り、伝える」ことを実践するための手段に過ぎない。地域にとって、大事なものは何か、次世代に残さなければならないものは何かの答えのひとつが古民家再生事業ということだ。その古民家再生の現場で、再生前古民家の修復作業をした。
(2) 座学、討論
常々、行政に観光は不要なのでは? という思いがあった。観光は経済効果と経済波及効果があるとはいえ、所詮観光業者が儲かるだけではないか? 例えば、特定の靴屋を行政が支援すれば、批判も出てくるが、こと観光に関しては行政が支援をしても不思議と批判がない。なぜ観光業者の支援だけは許されるのか? 限られた資源の中で、福祉や教育に回せるべきお金を観光に使うべきなのか? 果たして本当に行政には観光が必要なのか? この問いに対し、参加者からは次のような意見が出た。
とりわけ、他の産業がなく観光が主要な産業である沖縄に関しては事情が違う。長い目で観光ができるのは、行政しかないとのことだった。観光協会や民間は、直に結果が求められ、長い目で観光振興することは困難で、短期に結果がすぐ出る施策になりがちだという。一例を挙げれば、ある島の観光PRに全国的に有名な男性アイドルユニットを起用したところ、多くの観光客が訪れた。しかし観光客の数が島のキャパシティーを超えて、駐車場が乱立し、かつての美しい島の風景というのが、損なわれたという。こういったものを制限することができるのは行政だけということだった。このあたりから、観光分野における行政の役割というものが導き出せるのではないか。
特に、過疎・高齢化が進み、リゾート開発や基地建設などの諸課題と直面する沖縄の若い人達は、熱く、地域の未来に対して真剣に考えている人が多い。どうすれば地域を守ることができるか、どうすれば自分は社会的な責任を果たすことができるかを考えている。
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日時:2017/2/18(土)、2/19(日)
場所:沖縄 伊是名島 字勢理客 勢理客公民館
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4. それぞれの地域の将来像
僕が、内山先生の講演を聞き、話をし、感じたことはこうだ。
内山先生は、思考の幅がものすごく広い。一般的には、農山漁村にシンパシーを抱いている人達は、盲目的だというイメージがあるかもしれない。都市や近代経済を否定し、原理主義的な思考に向う人達が少なからずいるからだ。しかし、内山先生にそういった視野の狭さはない。むしろ経済についても深く理解しているために、経済や現代の科学技術を踏まえ、今後グローバルに左右されない持続可能なローカルを模索しているように見える。
そして、ある面で内山先生が暮らす上野村は、その答えにかなり近づいている。経済発展からは取り残されているが、都市経済には左右されにくい、持続性のある地域社会と地域経済が残されている。上野村は、力強いローカルのモデルとなる。しかし、今後自分達の地域が上野村のコピーをすればいいかというとそういうことではない。答えは地域ごとに違うという。ここに内山先生が「里山資本主義」の作者である藻谷浩介氏と対談した際の言葉を一部抜粋する。
「かつて資本主義から社会主義へというのが新しいモデルの時代もあったのでしょうが、もうそういう時代は終わりました。だから、里山資本主義は新しいモデルではありますが、『こうしなくてはならない』というモデルではなく、地域の条件などを考えながら生きていこうというものです。抽象的なモデルならあるかもしれませんが、具体的なモデルになってくると、どう具体的な実践活動をするかで変わってきます。(中略)これからの社会は、動きの中でしかローカルモデルを発見できないし、具体化できない。車輪1センチぐらいのローカルモデルが社会の様々なところに存在し、一斉に回って動いているようなイメージです。大きな車輪を1つだけ回していくというものではありません。」 (出典:新評論(2014)「哲学者 内山節の世界」p.132)
新しいモデルは参考にはなるが、地域の条件を考えながら生きていかなければならない。上野村も伊是名島も海士町(島根県)も新しいモデルを提示している。ただ、海士町が新たなモデルを提示したとき、全国の過疎地域はモデルのコピーに必死になったところがある。それは正しい姿勢とは言えないのではないか。地域で暮らす自分達が将来を考えながら取捨選択をしていかなくてはならない。
こと、自分の住む地域(中津市)について考えようとすると難しい。地域といってもまず、どこを地域というか。合併し拡大した市内全域を地域というには大きすぎる気がする。それでも、市という行政単位を基準にして考えていかなければならない。そこで行政の役割を見極めていく。
5. 行政の役割
行政の役割というのは、長期的な視点で地域をとらえ、将来を見据えた上で、差し迫った課題に取り組むことではないかと思う。前述の島塾参加者から出た沖縄観光での行政の役割についての話も同じことが言える。沖縄では長期的な視点で地域をとらえたときに、観光分野を無視することができない。では、中津市に関してはどうか? 主要産業は、製造業であって、産業としての観光は決して主要ではない。ただし、合併前の旧市町村単位で見てみると、旧郡部は観光業が主要な産業であるということもできる。市街地と過疎地の産業体系は異なる。まとめると自治体財政への貢献度という観点からは、次のことがいえる。市全体でみれば製造業が牽引し、旧市町村単位の町村を見れば、観光業が牽引している。
そうは言っても、産業支援は果たして行政のするべき仕事なのか、という疑問が残る。
福祉や教育、医療など差し迫った課題が山積する中で、商工業や観光業などの支援はどこまで必要とされているのだろうか?
改めて言及するまでもなく、行政は、住民福祉の充実が最優先事項である。この極めてシンプルな思考ができる自治体が驚くほど少ない。移住者を増やそうとしたり、観光客を呼ぼうとしたり、新規企業などの誘致に奔走する。優先するべきは、今住んでいる人を大切にすることである。それは、福祉や教育、医療分野だったりするのではないか。住民福祉の向上を第一に考え、付随的に商工業や観光業の発展があれば、悪いことではないが、あくまで結果として捉えるべきである。
さらにいえば、住民の福祉の充実を図らなければ、仮に新たに人を呼んだところで、それは短期的なものに終わる可能性が非常に高い。住民福祉が充実していないのに、新たな住民がその後満足できるはずがない。そして、中津市の場合で言えば、仮に自動車メーカーが経営破綻したとしても、従業員が、今の地域へ愛着があり、満足していれば、地域内で新たな雇用を探すだろう。国内での限られたパイの奪い合いに参加するよりは、まずは足元をみて、課題の解決に奔走すべきである。
沖縄観光の話に戻るが、観光は長期的視点に立って行政が役割を担うとの意見があった。これに関しては、次のようなことがいえる。
内山先生は、地域にデザイナーがいなくなったという。かつては労働や経済、生活、自然、文化などが一体的に結びついた世界があり、一体的世界を創造するデザイナーが地域にはたくさんいた。今世間で呼ばれているグラフィックやイラストを描くデザイナーではなく、地域社会を、全体を見通して、未来を創造するデザイナーだ。地域デザイナーが地域に乏しくなったという。このことが問題だという。
沖縄観光のことで言えば、行政を含め、地域にデザイナーがいなくなってしまったことが問題だということだ。行政であっても、観光協会であっても、地域にデザイナーが十分に存在すれば、短期的な結果を求められる観光施策の過ちを食い止めることができたはずだ。
今後、どういった地域社会を作っていくかというと一言で言えば「伝統回帰」だという。昔の形に戻すわけではなく、一体的世界を取り戻すという意味での伝統回帰。一体的世界というのは、労働、経済、生活、自然、文化、地域などが一体的に結びついている世界のことだ。現代は、経済発展に重きがおかれ、これらが分離されてしまった。経済発展は悪くないのだけど、戦後の経済発展はまずかった。どういう経済発展が人を幸せにするのか、考えながら発展しないといけない。
そして分離されてしまったものを現代の枠組みの中で、結びつける作業が必要となってくる。それが伝統回帰であって、決して復古主義的なものではない。そして、その伝統回帰は、ローカルでは可能になってくるということだ。伝統回帰には、持続する地域をつくるために、どのような労働があればよいか考えることも必要になってくる。新しい技術を導入することや経済的にも持続できるように工夫することも必要だ。
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