【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第2分科会 まちの元気を語るかよ~町ん中と山ん中の活性化~

 県内で生産される清酒・焼酎をはじめとする酒類は全国に誇れる味わいで、国内外でも高い評価を得ています。しかし、その県産酒に対する県民の認知度は高いものでなく、むしろ県外での消費量が多くなっている現状にあります。今後、県内で県産酒が愛飲される文化を広めていけば、蔵元だけでなく原材料の生産者にも活力が生まれ地域活性化にも寄与すると期待しています。それを目的とした「NPO法人 大分県地酒・焼酎文化創造会議」の取り組みについてレポートにまとめました。



NPO法人 大分県地酒・焼酎文化創造会議の取り組み
―― 県産酒は、郷土の誇り・郷土の味力(みりょく) ――

大分県本部/大分県議会議員 木田  昇

1. 取り組みの背景

 大分県は、酒だけでなく味噌・醤油の製造など、古くから醸造文化の栄えた地域です。江戸時代には全国に名高い「麻地酒(あさじざけ)*次項で説明」を生んだ銘酒どころで、現在でも県下各地の蔵元がそれぞれの気候風土を生かした清酒を醸造しています。また、「おおいた麦焼酎」に代表される焼酎生産県でもあり、県内30以上の蔵元が「麦・米・芋」など地元産の豊かな素材を活用し、様々な創意工夫を凝らした個性的な味わいを醸しあげ、多くの焼酎ファンを楽しませています。
 しかし不本意なことに、一部の全国ブランド、地域や店舗を除き、蔵のある地元の酒屋や居酒屋でも地元産の清酒や焼酎が多くは提供されていないのが現状です。地元住民や県民がその魅力的な味わいに触れる機会はかなり限られており、私たち大分県産酒のファンは忸怩たる思いを感じていました。
 こうした中にあり、県内の蔵元や酒販店の有志、そして関係団体による積極的な取り組みが始まり、少しずつですが、県産酒を愛する同志の輪が広がりつつあります。
 大分では、2018年に国民文化祭と全国障害者芸術・文化祭、2019年にラグビーワールドカップの開催を控えており、国内外からのお客様に県内各地で大分の県産酒を楽しんでもらえる環境づくりも必要ですし、県産酒の消費量が増加すれば蔵元だけでなく、原材料の農業生産者にも活気が生まれると期待するところです。
 大分県産酒を愛する者として、蔵元や蔵を支える地域、原材料生産者や酒販関係者などとともに、県産酒がまずは地元で愛飲される大分県の新たな地酒・焼酎文化を創造し、県内外はもとより海外へもその素晴らしい味わいを発信できるよう、活動の基礎となるネットワーク組織「NPO法人 大分県地酒・焼酎文化創造会議」を設立することとしました。

2. 大分の酒の歴史(大分県酒造組合のHPから)

(1) 清 酒
 初めて登場するのは、1468年の「豊後練貫酒(ぶんごねりぬきざけ)」。この酒は、もち米、白米、麹、焼酎を一度に仕込み、3、40日してから臼でひき、絹漉ししたもの。ちょうど現代の白酒や、清酒のような味で広く庶民に愛飲されていたようです。その後、江戸時代の豊後の国に、全国にその名を知られる「麻地酒(あさじざけ)」が誕生します。麻地酒は、蒸し米、米麹、水を仕込み、密封して土の中に埋め、翌年の土用頃まで熟成させてつくる甘美な濁り酒。「甫庵太閤記(ふあんたいこうき)」、「御伽草子(おとぎぞうし)」にもその名が見えます。土の中に埋め、草茅などで覆うので「土かぶり」とも呼ばれていたようです。日出藩は暘谷城(ようこくじょう)の二の丸に麻地酒をつくって貯蔵し、幕府への献上品としていました。大分の清酒は、この麻地酒の製造工程の流れをくんだ酒といえます。

(2) 焼 酎
 江戸時代、豊後の国・大分はまだ清酒王国で、清酒粕を原料に「粕取(かすとり)焼酎」がつくられていました。これは清酒粕を発酵させたものに籾がらを混ぜ、セイロで蒸してアルコール成分を抽出したもので、籾がらを混ぜるのはセイロの中で蒸気が通りやすいようにするためでした。明治中頃になると焼酎の製造技術の進歩はめざましく、白糠や穀物からも焼酎がつくられるようになりました。原料は依然米麹と穀物でしたが、1951年、麦の統制撤廃とともに本格的な麦麹の開発が始まり、1972年、おりしも健康食ブームで麦の栄養価が見直されだした頃、優れた麦麹の開発に成功し、麦麹と麦を原料にした麦100パーセントの大分の本格焼酎が誕生したのです。香ばしく、まろやかな味、口あたりよく酔い覚めさわやか。そんな大分の本格焼酎は時代の趣向にマッチし、またたく間に全国に焼酎ブームを巻き起こしたのでした。

3. 法人設立までの経緯

 何と言っても、「大分県議会平成28年第三回定例会」にて、藤田正道県議(県民クラブ所属)が本県の地酒・焼酎に関する一般質問を行ったところに端を発します。質問の趣旨は次のとおりです。
① 観光素材としての地酒・焼酎の位置づけと観光振興施策での具体的な取り組み状況および今後の取り組みは。
② 県内産原材料を使用した地酒の消費量が増えれば、県内農業生産額の増加につながるが、県内メーカーが県内産原材料を効率的に仕入れる方法や醸造用精米・精麦を県内で促進する方法は。
③ (現状では流通上の問題もあり県産酒を)県内の消費者が口にする機会が少ないが、これまでの蔵元に対する支援と今後県内への販路拡大などの支援策は。
④ 国民文化祭、ラグビーW杯など国内外からのお客様に県内各地で県産酒を楽しんでもらえる環境を整え、県民一人ひとりが誇りをもって県産酒を愛飲する姿を大分の文化として発信するため、関係団体や事業者との連携の下で県民運動を喚起できないか。
 これらの質問と提案に対する県執行部からの答弁(概要)は次のとおりでした。
① ツーリズム戦略では、観光素材磨きとして食と組み合わせて県産酒を積極的にアピールすることとし、デスティネーションキャンペーンでは観光素材集への掲載、旅行商品「地酒を楽しめるお宿」の造成、OKB48等のキャンペーンに取り組んだ。引き続き酒造組合とも連携し、本県の素晴らしい地酒・焼酎を食とともに積極的に情報発信し売り込み、観光誘客につなげていく。
② 酒米・焼酎用麦の精米・精麦は技術面から県外業者に頼らざるを得ないが、醸造用原料として県産酒米や大麦を生産拡大し、農業所得を高めることは重要であり、酒造メーカーとの連携を進め、県産原料の供給拡大を図っていきたい。
③ 産業科学技術センターによる製造技術・品質向上や大分オリジナル酵母の開発や試作開発の支援に取り組み、今後も個性的な焼酎づくりや試飲会など意欲的な蔵元の取り組み支援や食品産業企業会や酒造組合等と連携し、商談会や県通販サイト等を通じ蔵元の個性や特徴を売り込む。
④ 国民文化祭では市町村実行委員会事業として発酵醸造文化をはじめとする特色ある大分の伝統文化も広く発信し、文化祭終了後もレガシーとして例えば地酒・焼酎の愛飲といった発酵醸造文化に対する県民の愛着を深め、全国に大分ファンを増やすなど地域の活性化につなげていきたい。臼杵市では、酒造メーカーの奮起が乾杯条例施行につながり、地酒を愛飲する運動が盛り上がっており、こうした取り組みが県内各地で行われ国民文化祭の盛り上げになることを期待したい。
 続く第四回定例県議会の会期中に、さらに取り組みの後押しをするため、関係団体と県民をつなぐネットワーク組織としてのNPO法人設立に向け、県議会議員有志(全会派)による設立発起人と世話人を組織し、世話人会を中心に設立準備を進めました。
 翌2017年2月20日には、世話人会が法人設立に向けた機運醸成と現状把握を目的として、関係団体代表者(酒造組合、酒販組合、旅館ホテル生活衛生同業組合、飲食業生活衛生同業組合、社交飲食業同業組合、全農、消費者、県関係部局)を県議会委員会室に招いて懇談会を開催しました。
 懇談会では、「卸酒販店では県産酒を扱いたいがロットが確保できない」、「小売酒販店も同様だが、仕入れルートがない」、「旅館ホテルでは、全国的に有名になった銘柄が調達できない」、「小規模飲食店は仕入れ量が少なく、価格も安いため量販店で購入している(地元調達していない)」、「提供サイド(飲食店・酒販店)では、価格差を超越して勧めるための付加価値(県産酒の魅力・ストーリー性)が必要」等の意見を集約しました。
 そして、同年3月28日に大分県庁新館13階「レストランぶんご」にて、広瀬大分県知事をはじめ県内各地から関係団体の代表者を招き、「特定非営利活動法人 大分県地酒・焼酎文化創造会議」の設立総会を開催し、満場一致で法人設立が決定され、設立時の役員構成は次のとおりとなりました。
・理 事 長  大分県議会議長 井上伸史(同年3月29日の県議会本会議にて選出)
・副理事長  大分県小売酒販組合連合会長、藤田正道(大分県議会議員)
・理  事  酒造組合副会長、中央町商店街振興組合理事長、県議会議員5人
・監  事  消費者、県議会議員1人
 また、法人設立当初の会費は次のとおりとしました。
・正会員会費  一口 12,000円(年額) *個人一口以上、法人・団体二口以上
・賛助会員会費 一口 12,000円(年額) *個人一口以上、法人・団体二口以上
 なお、法人の設立期間は2020年度(東京オリンピック・パラリンピックの開催年)までです。

4. NPO法人としての今後の取り組みと課題

(1) 事業実施の方針
① 法人の存在および趣旨を広く啓発し、関係団体・企業のネットワーク化を図るとともに、財政基盤を確立するため、会費500口を目標として会員拡大に取り組む。
② 情報発信基地となる「おおいた地酒・焼酎展示館」の設立(2017年GW期間中にプレオープン・7日間で約1,800人が来館)と機能充実に取り組む。
③ 県民に大分県産の清酒・焼酎の魅力を広く周知するため、関係団体・企業と連携したイベントを企画・実施するとともに、「おおいた地酒・焼酎ファンクラブ」の設立と会員拡大に取り組む。
④ 関係団体との連携により新たな地酒・焼酎の県内流通ルートづくりに取り組む。

(2) 課 題
① 法人正式認可後の専任職員確保(会員管理、財務管理)
② 「おおいた地酒・焼酎展示館」の運営体制と機能(プレオープン中:開館は"土日祝日"の13時~17時、スタッフはボランティア、試飲はできても販売はできない)
③ 法人会員とファンクラブ会員の特典設定(記念品、イベント招待など)
④ 会員の拡大と継続