【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第2分科会 まちの元気を語るかよ~町ん中と山ん中の活性化~

 大分県自治研センター地域活性化部会では、2016年度の活動として、地域活性化における外部人材の活用をテーマに研究を行う中で、「地域おこし協力隊」に注目し、県内自治体の協力隊担当者及び協力隊員との交流を行った。その中で、協力隊員と自治体との思惑のミスマッチ等を聞くに当たり、自治体及び協力隊双方の実態を把握すべくアンケート調査を行った。



地域おこし協力隊アンケート調査から
 

大分県本部/大分県地方自治研究センター・地域活性化専門部会

1. 調査の背景

 「地域おこし協力隊制度」は2009年度に創設された制度であるが、創設時の目的は都市部から地方部へ、人口、特に働き手の世代や若者が移住することを後押しできるような仕組みをつくるということである(地域活性化センター理事長 椎川忍)。(注1
 大分県においても現在別府市を除く17の自治体で協力隊員の受け入れが行われている。大分県自治研センター地域活性化部会では、2016年度の活動として、地域活性化における外部人材の活用をテーマに研究を行う中で、「地域おこし協力隊」に注目し、県内自治体の協力隊担当者および協力隊員との交流を行った。
 その中で、協力隊員と自治体との思惑のミスマッチ等を聞くに当たり、自治体および協力隊双方の実態を把握すべくアンケート調査を行った。


2. 調査の概要

実施時期

平成29年2月~平成29年3月

調査対象

大分県内全自治体および地域おこし協力隊員

調査方法

(自治体)各自治体の自治労単組を通じ、地域おこし協力隊担当部署にアンケート用紙を送付、回収を行った。
(協力隊員)各自治体の地域おこし協力隊担当部署より協力隊員にアンケート用紙を配布。回収は担当部署を通さず無記名で郵送にて回収。

回答者数

(自治体)15自治体 ※県内自治体18市町村
(協力隊員)86人


3. 調査結果

3-1 自治体アンケート

(1) 地域おこし協力隊の導入目的
 ほとんどの自治体で、地域おこし協力隊制度の目的である、地域活性化、地域振興への寄与並びに定住を掲げている。達成状況としては、8自治体約66%が「達成できている」又は「概ね達成できている」と感じている。

(2) 採用人数(過去5年)

年度

2011

2012

2013

2014

2015

2016

男 性

1

4

6

18

33

51

65.7

女 性

1

1

1

11

24

21

34.3

2

5

7

29

57

72

 

 過去5年間の協力隊員の採用数を見ると、2011年度は2人であったが、2014年度には29人、2016年度には72人と急激に増えている。そのうち男性が65.7%、女性が34.3%となっている。年代別に見ると30代が男性47%、女性57.6%と約半数を占めている。しかしながら、男性は20代~40代で92.2%を占めているのに対し、女性は20代と30代で90.6%と、40代の採用者が少ないことがわかる。

(3) 協力隊員卒業後の進路
 協力隊員の卒業後の進路として、任務地である当該自治体が30.8%、任務自治体ではないが、大分県内が9.6%となっており、40.4%が大分県内に留まっていることがわかる。任務自治体に居住している協力隊員の就業状況としては、起業、行政(非常勤)、就農などとなっている。
 ただ、多くの採用があった2014年度以降の協力隊員については、まだ任務中ということもあり、卒業した協力隊員の絶対数が少ないため、今後卒業する協力隊員の動向が注目される。

(4) 募集方法
 協力隊員の募集方法では、全14自治体でホームページを活用している。また、4自治体では都市部での説明会を開催している。その他、新聞、雑誌などを使った募集を行っている。
 広報に有効な媒体として多くの自治体がJOIN(一般社団法人 移住・交流推進機構)のホームページ(注2)を挙げている。同ホームページには地域おこし協力隊専用のページがあり、多くの移住希望者が閲覧しているということが理由である。
 また、都市部で説明会を実施している自治体では、担当者より詳細に制度等の説明を行うことで、採用申し込み前の不安要素を取り除くことができるとの意見があった。

(5) 協力隊員の活動状況の把握
 ほとんどの自治体で、業務日報、月報等の活動報告書提出により状況把握を行っている。また、定期的な活動報告会、ミーティング、面談等を行うことで把握を行っている自治体も多い。

(6) 行政として感じている協力隊制度の理想と現実
 市町村の地域おこし協力隊担当部局が感じている制度の理想や現状には、以下のようなものがある。
① 隊員のこれまで培ったスキルを生かし、地域住民を巻き込んで地域活性化をはかり、地域住民たちだけで継続して繋げることが理想である。
② 起業への強い意志・目標を持って活動できる協力隊員は任期終了後の定住に結びつく可能性が高いが、その他の協力隊員は就業するしかなく、田舎には企業が少ないため、定住に結びつきにくいという状況がある。
③ 業務と地域に定住するための活動の線引きが難しい。予算執行も同じで線引きが難しい。
④ 行政としては任期終了後のことを見据えて、明確なビジョンを持って活動に取り組んでほしいと思うが、実際には少ない。
⑤ 公務員として採用し、活動すると活動の幅に制限ができる。
⑥ 協力隊員は自由に活動費を使えると思っているが、国の特別交付税措置での事業で活動費が公金であるが故に、協力隊員の活動経費として認められない部分もあるのが現実である。財政担当課と経費支出面での折衝が多々発生し、認められない場合は担当者と隊員の間で不和が生じる。
⑦ 地域に定着して何らかの事業により活性化を継続していくことが理想だが、現実は生活していくことで手一杯である。
⑧ 行政側の受入体制の構築が困難である。

(7) 国に対する要望
 財政面については、特別交付税措置ではなく直接補助金(交付金)措置を望むという意見が出されている。また、活動費の使い道について多くの自治体で協力隊員とトラブルになっているため、公金の支出は地域に活かすことができる事業で、市町村の裁量に従う旨を前面に出してもらいたいとの意見が出されている。
 制度については、任期の延長と任期終了後の定着の手段について検討を求める声が出されている。また、多くの自治体と協力隊員の間でトラブルになっている事例を検証し、採用する自治体まかせではなく、制度として見直しをお願いしたいとの要望が出ている。

3-2 協力隊員アンケート

(1) 協力隊員の年齢、性別等(回答者)
 回答を得られた協力隊員86人の内訳は、20代21人(24.4%)、30代41人(47.7%)、40代19人(22.1%)となっており、20代から40代が94.2%を占めている。また、男性が62.7%、女性が37.3%となっている。
 回答時の任期としては、1年目が55.0%、2年目が33.8%、3年目が11.3%である。

(2) 移住前の地域について
 移住前に住んでいた地域は、東京都が24.1%と最も多く、次いで大阪府16.5%、大分県13.9%、福岡県12.7%となっている。半数以上を東京、大阪、福岡が占めており、特に神奈川、埼玉、千葉等も含めると関東圏からの移住者が多いことがわかる。

(3) 地域おこし協力隊の活動に対する満足度
 1~5段階(5が満足度が高い)で評価していただいたところ、5(12.2%)、4(37.8%)、3(40.2%)となっており、約半数の協力隊員がある程度満足している一方、40%の方がどちらとも言えない、10%の協力隊員は満足していないという結果であった。

(4) 入隊前と後でとのギャップについて
 58.8%の協力隊員についてギャップがあったと回答している。特に仕事の内容や進め方について、また、自治体の対応についてギャップがあったという回答が多い。入隊前はある程度自由に仕事ができるイメージであったのが、実際は様々な制約があったり、行政に移住・定住に関するビジョンがあまりないように感じているようである。

(5) 業務遂行上において自分のアイデアを活動に生かすチャンスはあるか
 約8割の協力隊員についてはチャンスがあると回答しているが、約2割の協力隊員についてはチャンスがないと感じている。具体的には、役所の業務遂行、予算提出に適さないことは実現が難しいこと、決めてあるルールから外れることは許されない、などの意見が出された。

(6) 協力隊として活動している中で悩んでいることは
 任期終了後のことも含め、相談する場がないという意見、任期後の自立に対する不安の声も聞かれた。
 また、行政担当者の意欲が感じられない、行政の方向性がわからない、決まった内容以外の活動ができないため、起業に関しての準備ができないという、行政や制度に起因する悩みも見られる。

(7) 地域内の各種団体との関わり合いについて
 関わり合いがあると答えた協力隊員は74%であり、具体的には町内会、市民活動団体、商工会、青年会・婦人会と回答した方が多い。その他としては、生産者グループ、地域歴史研究グループ、学校、スポーツ施設等が挙げられていることから、それぞれの活動に関連する団体との関わり合いが強いようである。一方26%の協力隊員が、特に関わりがないと回答しており、地域おこし協力隊としての活動を行う上で地域との関わりが薄いのは問題ではないだろうか。

(8) 任期満了後について
 定住を考えている協力隊員は45.1%、検討中が41.5%となっている。定住を考えている協力隊員については、16%が農業、教育・地域づくりが12%となっており、その他には、飲食業、観光業、ICT、建設業等が挙がっている。


4. 考 察

 今回のアンケート結果を見ると、二つの大きな課題が見えてくる。
 一つ目は、国から協力隊導入自治体へ特別交付税という形で措置される、一人当たり400万円の使い方である。
 自治体としては、公金であるが故に協力隊員の活動全てに充てられるものではないという考えを持っている一方、協力隊員からすると様々な予算上の制約があり、自由に活動できないと感じているということである。
 二つ目は、自治体の担当者および協力隊員それぞれの認識に温度差が見られるということである。
 多くの自治体では、協力隊員を非常勤職員という身分で雇用しているが、そのため一般の非常勤職員と同様の扱いで捉えられているケースもあるのではないだろうか。協力隊を所管する政策担当部署においては協力隊の主旨を理解していると思われるが、協力隊員の多くは、それぞれの事業実施部署に配属されており、各部署の受け入れ担当者まで十分に理解されていないということも要因として考えられる。そのため、協力隊員が起業・就業し、地域に定住するまでの先を見通した指導、支援が不十分となっている面もあるのではないだろうか。
 一方、協力隊員においても、起業、定住にむけての明確な目的を持った人とそうでない人とで業務への関わり方の違いが出ているように感じられる。
 今回、大分県自治研センター地域活性化部会で、いくつかの自治体の協力隊員からヒアリングを行ったが、協力隊員として、また起業、定住へ向けての目的を明確に持っている方については3年という期間の中で計画的に準備を進めている。一方で、協力隊員として働きながら自分の可能性をこれから見つけていこうという方もいる。
 アンケートでも、協力隊員の約45%の方が任期満了後、任務地域で起業したいと考えているが、実際に任期満了後の進路を見ると、当該任務地域に残っている人は3割程度であり、そのうち起業に至った人は4割弱という結果である。
 これらの課題に対しては、まず、協力隊の制度を活用しょうとする自治体が、「何のために協力隊員を募集するのか」「どのような地域をめざすのか」そのために「どのような活動を協力隊員に期待するのか」を明確にする必要がある。そのうえで、「どのように協力隊員を移住・定住に結び付けていくか」を検討する必要がある。
 これについては、地域サポート人ネットワーク全国協議会が作成している"「地域おこし協力隊」をはじめとした外部人材の公募に向けたチェック・リスト"が参考になる。
 また、大分県内で最も多くの協力隊員を受け入れている竹田市職員労働組合の後藤雅人氏のレポート「地域おこし協力隊による地域活性化の可能性」(2017年6月)では、協力隊員の配置先と希望業務のミスマッチについて注意するよう指摘されており、担当職員がコミュニケーションをはかる中で隊員の不安や悩みを一早く気づいて相談に乗ることが重要なスキルとされている。また、隊員の孤立を防ぐために協力隊員同士の情報交換も大切であるとされている。


5. おわりに

 地域づくりにおいて、外部からの人材(外の風)の活用というのは、住んでいる人にはわからない地域資源の発掘、活用といった面で、以前より重要なファクターとして位置づけられているが、地域おこし協力隊の制度はそれを政策的に行い、移住、定住まで繋げていこうというものである。
 今回のアンケート調査等を通して、地域づくりに対するビジョンを自治体と協力隊員が共有し、制度の目的の認識と理解を再確認することが大切ではないかと感じたところである。
 実際に担当する自治体職員にとっては様々な制度の狭間で悩まれることも多いと思うが、反面、自治体の裁量に任されている面もあることから、各自治体の独自性を出すことでより効果的な活用を期待したい。




<参考文献等>
(注1) 地域おこし協力隊 日本を元気にする60人の挑戦(学芸出版2015)
(注2) 一般社団法人移住交流推進機構(JOIN)ホームページ https://www.iju-join.jp/