【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第2分科会 まちの元気を語るかよ~町ん中と山ん中の活性化~

 人口減少への歯止めと東京一極集中を是正することを目的とした「まち・ひと・しごと創生法」が2014年11月に成立。臼杵市では、全国に先駆けて「臼杵市まち・ひと・しごと創生本部」を設置して「臼杵市まち・ひと・しごと総合戦略」を策定し、移住・定住を重点戦略のひとつに位置付け、本格的に取り組みを始めました。移住先進地の大分県の中では、まだまだ発展途上にある臼杵市の取り組みをご報告します。



臼杵市における移住・定住促進の取り組み
―― 「住み心地一番のまち」をめざして ――

大分県本部/臼杵市職員労働組合 安部啓二朗

1. はじめに

(1) 臼杵市の人口減少問題
① 人口の推移
 臼杵市の人口は、戦後間もない昭和25年(1950年)が6.7万人とピークであったものが、昭和30年代から始まった都市部への人口移動の後、昭和50年代には5万人程度と比較的安定して推移しました。しかし、時代が平成に入ってからは、都市部への人口流出に加えて、出生数の減少と高齢化による死亡数の増加によって、人口減少が顕著となり、平成25年(2013年)には4万人を下回ることとなりました。2040年には3万人を下回り、27,346人になることが推計されています。
② 人口減少の現実
 「臼杵市まち・ひと・しごと総合戦略」を策定した前年の2014年度末の人口は38,999人(前年比▲555人)、2015年度末の人口は38,509人(前年比▲490人)と、年間500人前後の人口が減少しています。その後も年間500人前後の人口減少は続いており、移住・定住への取り組みを本格的に始めた2014年度以降も減少の幅は変わっていません。これは、自然増減(出生数-死亡数)の死亡数が上昇していく半面、出生数は低下していくという少子高齢化の影響であることや、社会増減(転入-転出)の転出数を抑制できていないことによるものと考えられています。転出数においては、市内企業で働いている外国人労働者が帰国するタイミングが重なったりと、臼杵市特有の要因の影響を受けることもあります。
③ 人口の目標
 「臼杵市まち・ひと・しごと総合戦略」では、4つの重点戦略のひとつに「地方への新しいひとの流れをつくる」を掲げ、"ふるさと臼杵UIJターンによる「うすき暮らし」の推進"に取り組むこととし、市外から臼杵への転入移住者数"年間40人以上増加"を目標に設定しています。2040年の推計人口27,346人に対し、31,600人を目標として達成すべく、移住・定住に関する取り組みを進める運びとなりました。

2. 「うすき暮らし」推進の取り組み状況

(1) うすきおためし暮らし
① 移住希望者向けモニターツアー「うすきおためし暮らし」
子どもたちを海で遊ばせる市職員
 移住検討中の方には、移住前に候補地での暮らしを体感していただくことが重要であると考え、2014年度から移住希望者向けモニターツアー「うすきおためし暮らし」を開催しています。大分県までの交通費のみが自己負担のこのツアーでは、空き家物件や生活インフラ見学等による生活環境の確認、有機農場見学や生産者との意見交換、市役所各部署の職員が対応する移住制度説明会&相談会、地元の人々、先輩移住者や市長も参加する大交流会等、盛りだくさんの充実したメニューで「うすき暮らし」を体感していただきます。臼杵市に移住した女性が所属する団体が企画・実施を支援しているため、参加者の要望に応じたきめ細やかなプログラムを組むところも特徴的です。また、基本2泊3日の農村民泊で、田舎のお父さん・お母さんの温かさに触れたり、地元の食材をふんだんに使った手料理を味わってもらったりと、満足度の高いツアーとなっています。このツアーに参加した方の約4割が臼杵市への移住を決めています。
② 移住体験滞在施設「臼杵おためしハウス」
木造平屋建ての「おためしハウス」
 移住を検討している方が臼杵市に一定期間滞在して、ゆっくりと臼杵の雰囲気を味わって、居住地域や住居などを選定できるように、2017年1月から移住体験滞在施設「臼杵おためしハウス」を設置し、運営しています。庭園を備えた築70年を超える昔ながらの木造平屋建ての「臼杵おためしハウス」に滞在して、臼杵時間を体感することができます。移住モニターツアーとは違い、個人の都合に合わせた日程で訪れることができるのが魅力のひとつです。施設の利用は最長で連続7日間と設定しており、稼働率は6割を超え、移住希望者の入れ替わりが頻繁に行われている状況です。メンテナンスには、移住・定住サポーターにも清掃等の協力をお願いしています。これまで60組を超える移住希望者が利用し、10組22人が移住を決めています。

(2) 移住・定住に関する補助制度
① 移住支援
 移住に要する費用をカバーするため、移住者に対し、引越し費用(上限20万円)、不動産仲介手数料(上限5万円)の補助に加え、移住奨励金(5万円)を交付しています。これらの補助を受けるには、5年以上臼杵市に住んでいなかったこと、転入後5年以上臼杵市に住むことの誓約等が条件となります。また、賃貸住宅に居住する移住者への家賃補助として、40歳以下の単身者(上限月1万円・2年間)、40歳以下の夫婦(上限月1.5万円・2年間)、子育て世帯(上限月1.5万円・3年間)を対象に運用しています。このような移住支援補助金の交付を受けた移住者数は、2015年度が172人、2016年度が203人、2017年度が266人と、順調に伸びている状況です。また、2017年度は世帯主の約8割が20~40代と、若者や子育て世代が多く占めています。
② 定住促進
 市外に流出する若者や子育て世帯に定住してもらうことを目的に、2015年4月から、三世代家族が同居する場合の住宅新築、購入、改修等に要する費用の補助制度を運用してきました。しかし、流出数に歯止めをかけるまでには及んでいないことから、2017年4月から、市内で結婚をする若者に対し、引越しや不動産仲介手数料に要する経費、住宅取得に要する経費を助成する新婚生活応援事業補助金の運用を始めました。2018年4月からは、市内で住宅を取得して定住する若者や子育て世帯向けの若年・子育て世帯定住促進住宅取得補助金(最大40万円)をつくっています。これらの制度は、利用が進んでいない状況のため、制度の周知を徹底する必要があります。

(3) 移住・定住に関する各種取り組み
① 地域おこし協力隊制度の運用
 臼杵市では、2014年度から地域おこし協力隊を採用しており、2016年度からは、有機農業に特化した地域おこし協力隊の採用も始めました。現在、地域づくりに携わる一般隊員が3人、有機農業隊員が6人、計9人が活動しています。採用を始めた2014年度以降、任期満了や早期退任を含めて、6人が活動を終えており、半数の3人が臼杵市に定住しています。定住した3人のうち、2人は起業、1人は就業している状況にあります。有機農業隊員については、任期終了後は臼杵市で独立した有機農家等になることが目的とされており、第1期生が2019年3月末で任期終了となります。

② 情報発信
 
  移住定住促進ポスター
 東京都、大阪府、福岡県等の都市部で開催される大分県主催の「おおいた暮らし塾」や、全国的な移住フェアにも出展して臼杵市のPRや個別相談対応をしています。2016年度からは、東京都世田谷区で有機野菜等のメニューを提供している農民カフェ下北沢店と連携して、店舗内に移住や観光パンフレット等の設置や、「ほんまもん農産物」をメニューで提供する「うすきフェア」開催によって、うすき暮らしの魅力を発信しています。2018年度には、臼杵の"住み心地の良さ"をPRするため、地域おこし協力隊(移住担当)が移住定住促進ポスター(3パターン)を作成し、都市部での移住フェア等での貼付のほか、市内の店舗・施設等にも貼付にご協力いただいています。
③ 仕事情報の提供
 移住でネックになるのは仕事であり、子育て世代にとっては特に重要な問題となります。臼杵市では、ハローワークと提携してリアルな仕事情報を提供する就職支援サイト「うすきJobナビ」を2016年3月に立ち上げました。このサイトでは、臼杵市から一時間程度で通勤できる範囲の求人情報を、条件に合わせて検索することができ、利用者からは、「調べやすい。」「見やすい。」と上々の評価を受けています。現在は、移住情報を含めた移住・就職支援サイト「うすき暮らしナビ」として生まれ変わり、うすき暮らしの情報発信にも寄与しています。
④ 移住・定住サポーター制度
 「臼杵に移住するための情報をもっと知りたい」、「誰かに移住後の生活のことを相談したい」「移住したけど不安」、このような思いをもった移住希望者や移住者に寄り添った支援を提供するため、2016年度から、移住・定住サポーターを設置しています。サポーターには、移住希望者への情報発信や相談対応、移住モニターツアー等市が開催するイベントへの協力等での活動をしていただいており、現在27人が登録しています。また、11人が移住者のため、移住希望者や移住者と同じ目線でサポートしていただいています。
 
  相談窓口を一本化
 
 

「田舎暮らしの本」
2018年2月号(宝島社)

⑤ 移住・定住相談窓口の一本化
 2018年4月から、移住・定住に関する相談窓口や手続きを一本化しました。まちづくりや空き家対策の業務を所管する都市デザイン課が担っていた空き家バンク制度や新婚世帯への補助事業等を、移住定住施策の企画やPRを担当する秘書・総合政策課に集約し、移住希望者の相談や手続きなどをワンストップで受け入れる体制が出来ています。また、市職員等に加えて、特別地方交付税措置の対象となる地域おこし協力隊、定住支援員を配置して、移住・定住業務に携わる人材に厚みをもたせ、多岐に渡る相談に対応できる体制を整えています。
⑥ 「住みたい田舎」ベストランキングでの上位ランクイン
 田舎暮らしの本(宝島社)が毎年総力を挙げて行う特集「2018年版 住みたい田舎ベストランキング」が2018年2月号で発表され、人口10万人未満の小さなまちで、臼杵市が総合第3位、若者部門、子育て世代部門などの各部門でも上位にランクインしました。これは、臼杵市が海、山、川等の自然環境に恵まれたコンパクトシティであること、移住・定住支援制度を着実に整備し、若者や子育て世代に向けた支援も充実させていること等が要因として挙げられます。

3. 移住から定住へ

(1) 若者流出等の問題
 臼杵市には、大学等の教育機関がなく、高校卒業後の若者が働きたいと思える職場も少ないため、多くの若者が高校卒業等を機に市外へと転出します。企業誘致等により、若者の雇用の場を確保することは喫緊の課題となっていますが、市内の企業に就職した場合でも市外に居住して臼杵市に通勤している若者がいるという現状があります。このような状況のため、市内企業を巡って、移住・定住制度の説明や従業員に臼杵市に住んでもらうことへの協力をお願いする必要もあると思います。また、若者が臼杵市に帰ってきたいと思うことが重要となりますが、臼杵市教育委員会では、小中一体教育を核として進める「3つのきょう育」(郷土の郷育、協力の協育、響き合いの響育)により、「学ぶ力」「誠実さ」「たくましさ」を身につけた「臼杵大好き"臼杵っこ"」を育てるための特色ある教育を実施しています。

(2) 子育て世代の定住
 臼杵市は大分市に隣接していることから、大分市の職場まで通勤している方も多いものの、子どもの就学等のタイミングに大分市で住宅を取得するケースも増えています。大分市と臼杵市の社会増減(転入転出数)でみると、年間で400~500人が大分市に転出して、200~300人が臼杵市に転入しており、100~200人ほどのマイナスが生じている状況です。しかし、この数値を子どもの数でみるとプラスになっており、特に10歳未満の子どもの転入が多く、大分市からも子育て世代が流入していることが分かります。これは、臼杵市が近年、子育て環境を整備し、子育てがしやすい環境であることが認知されてきたことによると思います。臼杵市では、2016年1月に、妊娠期のママから18歳の児童までの様々な相談にワンストップで対応し、子どもに関する行政手続きもできる子ども・子育て総合支援センター「ちあぽーと」を開設。2016年度には、臼杵市総合公園や野津吉四六ランドの遊具をリニューアルしています。また、市内の保育施設としては、待機児童問題が発生していないこと、病児病後児保育のサービスも受けられること等、安心して働ける環境にもあります。このような子育てしやすい環境にあること、定住促進住宅取得補助金(2.(2)②参照)があること等を周知することにより、子育て世代の定住を促進する必要があります。

(3) 地域の受け入れ
 2016年度から2017年度にかけて、臼杵市で住み始める際に必要となる、自治会(地区)に入る時の負担金や行事等について、306自治会(地区)を対象に調査を実施しました。この調査により、自治会(地区)に入る際の負担金(入区費)を数十万円求める自治会(地区)があること、毎月の区費を数千円求める自治会(地区)があることが分かり、住む前に移住希望者へと情報提供できるようになりました。このことにより、移住後の移住者と地域とのトラブルを回避できるようになりましたが、特に次世代の担い手が少ない地域においては、負担金等の軽減についてお願いをする必要があります。

(4) 移住者が地域を活性化
① 暮らし全般の提案市場「100人スコーレ」
 臼杵市では、移住者が有機的に繋がり、市内で幾つかのイベントが開催されるようになりました。そのひとつに暮らし全般の提案市場「100人スコーレ」があります。様々な人が集い、つながりを広げる場をつくろうと、臼杵市の移住者や団体等が企画し、2017年6月から毎月10日、市内外で、物品販売やワークショップを開いてきました。このイベントは、絵本の読み聞かせ、演奏、子ども向けワークショップ等、誰でも何でも出店できる仕組みとなっており、臼杵市への移住者が次々と繋がって出店し、楽しいイベントとなっています。
② Usuki Farmer's Market ひゃくすた
 
  「ひゃくすた」開催状況
 
  地域活動を楽しむ二宮さん
 農薬・化学肥料不使用、市長が認めた「ほんまもん農産物」を活かした朝ごはんや加工品を販売する「Usuki Farmer's Market ひゃくすた」が毎月第一日曜日に開催されるようになりました。「ひゃくすた」は「百姓ニュースタンダード」の略で、地域おこし協力隊の有機農業隊員を中心に、市内の有機農家や加工者が集って、2017年10月から開催され、ほんまもん農産物をPRする場、消費者と生産者が顔を合わせて交流をする場として、広がりを見せています。
③ 地域活動
 移住者の中には、積極的に地域活動に参加する方も増えています。2015年に福岡県からご夫婦で移住した二宮さん(63歳)は、市内でも少子化高齢化が進んでいる佐志生地区の空き家に居住し、お祭り、ひょっとこ踊り等に積極的に参加されているほか、防災士の資格を取得して地域の自主防災組織にも参加しています。佐志生名物としても定着しつつある「ひょっとこ踊り」では、他の地域からも声がかかったり、高齢者施設・介護施設等で披露したりと、忙しく活動しています。また、自宅近くの遊休農地を活用してキウイ、桃、各種野菜を栽培する農業も始めています。二宮さんによると、地域の人とうまく付き合うコツは「誘われたら断るな。」、「もらえるものはもらっておけ。」ということ。地域や住民との関わりに悩む移住者が多い中、市の定住支援員としても移住希望者や移住者に対し、実体験を通じたアドバイスをしています。

4. まとめ

 臼杵市では、2014年度から移住・定住支援に取り組み、移住者数の増加により一定の成果は挙がっていると言えます。しかし、年々、自然増減(出生数-死亡数)のマイナスの幅は広がり、社会増減(転入数-転出数)のマイナスの幅は狭まったものの依然プラスに転じられず、人口減少、少子高齢化に歯止めをかけるまでには至っていない状況です。増え続けている空き家の活用、若者や子育て世代の流出抑制等、今後取り組むべき課題は多いため、移住先進地である大分県の他自治体や、全国の先進事例も参考にしながら、制度をより充実させていく必要があります。また、臼杵市に住んでいる人が「住みやすい」と感じられるまちづくりを進めることによって定住が促進され、移住者の獲得にも繋がるものと考えます。移住者が移住希望者を惹きつける魅力や、臼杵市特有の「人の良さ」を大切にしながら、未来の臼杵市を担う人財を確保したいと思います。  



臼杵市における移住・定住促進の取り組み(資料)