【論文】

第37回土佐自治研集会
第2分科会 まちの元気を語るかよ~町ん中と山ん中の活性化~

 熊本県荒尾市、玉名市、南関町に跨がる小岱山と小岱山に設置されている「小岱山ふるさと公園ビジターセンター」の活用を通して、登山者の増加と、玉名地域への回遊性増加による地域振興をめざして、登山者(施設利用者)、施設管理者、玉名市、熊本県の各担当職員が共同で取り組んだ事例について報告します。



小岱山の魅力を伝えることによる玉名地域の振興
―― 登山者(利用者)・施設管理者・玉名市・
熊本県の共同の取り組みについて ――

熊本県本部/草野 僚一・園田 美和(熊本県)・安川 一美((一財)玉名市自治振興公社)
郷戸 成紀・永田 浩二(玉名市)

1. はじめに

(1) 取り組みの概要
① 小岱山とは?
 小岱山は、熊本県荒尾市、玉名市、玉名郡南関町に跨る筒ケ岳(標高501m)、観音岳(標高473m)、丸山(392m)を中心とする山塊の総称であり、熊本県下で最初に県立公園に指定されたほか、九州百名山にも選定されており、温暖な気候で1年中登れる低山であることから、年間3万人以上の登山者が訪れるなど、人気の登山スポットになっています。また、観音岳の麓には、熊本県が設置した「小岱山ふるさと自然公園ビジターセンター」(以下ビジターセンター)、「丸山キャンプ場」等の施設もあります。今回は、観音岳の麓、林道小岱山線に面した、熊本県が建設・設置したビジターセンターで取り組んだ、小岱山の魅力を伝えることによる地域振興と、ビジターセンター活用のために取り組んだ活動について、ご報告させていただきます。
② 取り組みに至ったきっかけ
 本活動に取り組んだきっかけについて述べます。ビジターセンターと丸山キャンプ場については、熊本県から、玉名市、一般財団法人 玉名市自治振興公社に管理委託を行っているのですが、それぞれの担当者に、ビジターセンターの利活用促進と、小岱山を利用した地域振興を行いたいとの思いがありました。特に執筆者でもあり、長年、ビジターセンターの管理に携わっている安川が、「もっと小岱山を知って貰いたい、もっと、小岱山、ビジターセンターに多くの人に来て貰いたい」と熱い思いを吐露したことがきっかけになりました。
 そこで、2013年度から2014年度にかけて、熊本県の事業である「チャレンジグループ支援事業」を活用し、同じ志を持つ、登山者(施設利用者)、一般財団法人 玉名市自治振興公社、玉名市、熊本県玉名地域振興局の関係職員により「チーム小岱」(以下チーム)というグループを作り、小岱山を活用した地域振興と、ビジターセンターの活用の取り組みを行いました。


2. 方 法

(1) アンケート調査
 まず、利用者の属性を把握するために、ビジターセンターにアンケート用紙を設置し、調査を実施することとしました。なお、2013年度には、登山者の意識調査を行い(表-1)、2014年度には、ビジターセンター利用者へ施設改善のアンケート調査((後述)(表-2))を行いました。

(2) 方向性の検討について
 アンケート結果をもとに、チームで小岱山の利活用方法や登山者増加のための情報提供と情報発信、ビジターセンターの利活用の検討を行いました。

(3) 実行について
 方法を検討した後、すぐできることに関しては取り組みを行いました。また、ビジターセンターについては、アンケート調査をもとに、施設の改善を行った後、効果測定のために、再度アンケート調査を行っています(後述)。

表-1 アンケートの質問項目
質問項目
1 記載日
2 居住地
3 性別
4 年代
5 訪れた目的
6 登山後の立ち寄り先
7 小岱山の魅力は何か?
 
表-2 アンケートの質問項目
(ビジターセンター)
質問項目
1 利用頻度
2 利用目的
3 ビジターセンターの魅力は何か?
4 改善して欲しいこと


3. 結 果

(1) 登山者へのアンケート
 2013年8月13日から同年11月13日まで、181人の登山者の方からアンケートの回答をいただくことができました。
 母集団平均の解析を行うと、3万人の意見を代表するには137人のデータが必要となり、十分な数の回答が得られたと考えられました。
 小岱山を訪れている人を居住地別にみると、熊本県内(35.8%)や、玉名郡市(17.7%)、荒尾市(5.9%)と県内の方がほとんどを占めることがわかりました。また、福岡県内の方が32.3%を占めましたが、おそらく、大牟田市、八女市などの近隣の方が多いのではないかと推察されました(図-1)。
 また、年代別では60代の方が多く、なかでも60代の女性が45人と最多を占めました(図-2)。
 登山後の立ち寄り先としては、そのまま帰宅される方が最も多く(図-3)、55%を占めました。単純に計算すると、年間延べ16,500人、特に、地元を除く熊本県内からの登山者延べ5,907人、福岡県内からの延べ45,329人が、登山後どこにも立ち寄らず帰宅していることが分かりました。

図-1   図-2   図-3

(2) 小岱山のよかとこ探し
 チーム小岱で検討した結果、年間3万人ほどの登山者が来訪するものの、福岡県の英彦山などは年間20万人以上が訪れます。このことから、まだまだ登山者が増やせるのではないか、また、年間延べ16,500人、特に購買力のある60代女性を登山後、そのまま帰すのはもったいない、ということになりました。つまり、登山者をもっと増やし、玉名地域への回遊性を高めることで、地域振興を図れるのではと考えました。
 検討中に、メンバーであり、熊本県が委嘱した小岱山の巡視員でもある吉村哲雄氏から「登山していたら、多くの人から、小岱山について色々と質問がある。自分たちが当たり前と思っていても、他の地域の登山者にはおもしろい物が多くあるのではないか。」との発言があり、これをきっかけに、小岱山の魅力を増加させ、登山者を増やすために、「小岱山のよかとこ探し」を実施することにしました。
 よかとこは、熊本県の方言で、「良いところ」という意味です。
 具体的には、1 よかとこをみんなで共有するためのホワイトボードミーティングの実施、2 登山してよかとこを探す 3 外部講師を招聘してアドバイスをいただく などの活動を実施しました。

(3) よかとこの活用
 よかとこ探しを行い、チームで検討を行ううちに、メンバーから次のような意見が出されました。
・小岱山の魅力を伝えるために、複数ある登山道ごとに、季節を分けてよかとこをまとめたマップを作ってはどうか? 但し、希少な植物やきのこ等もあるので、盗掘防止のためと、探してもらう楽しさの提供のために、配布せず、案内専用で作る(この時期は、このような見どころがあります、という情報発信用)。
・イベント告知、今見られる景色、今見られる花、などを発信して集客するためにFacebookを活用してはどうか。
・ビジターセンターを、小岱山だけではなく、地域情報の発信基地として活用できないか? 玉名地域の情報を発信することで、回遊性や滞在時間が増加するのではないか。
 これらを踏まえて、よかとこの案内用マップ(図-4)の作成や、常連の登山者の方に小岱山の魅力を発信してもらうために、メンバーを講師としたFacebook学習会の開催(図-5)、(一財)玉名地域振興公社職員である安川が中心となり、ビジターセンターFacebookページの作成を行いました(図-6)。
 また、地域情報の発信については、メンバーの玉名市役所職員永田により、観光パンフレットをビジターセンター内に置くことにしました(図-7)。

図-4 よかとこ案内マップ   図-5 Facebook学習会
 
   
図-6 ビジターセンターのFacebookページ  
  図-7 観光パンフレットの設置

(4) ビジターセンターの活用
 前述したようにビジターセンターを地域情報の発信基地として活用することを考えたときに、まずは来訪者にビジターセンターに「入ってもらう」ことが必要と考えました。また、検討を進めるなかで、「照明や雰囲気が暗く、入りにくい」との意見も出ました。
 そこでビジターセンターの来訪者にアンケートをとり、ビジターセンターを入りやすく、利用しやすくするために、改善を図ることとしました。
① アンケートの結果
 アンケートは2015年11月4日から12月28日まで実施し、67人の方から回答をいただきました。アンケートの設問は前述(表-2)のとおりです。
 ビジターセンターの利用頻度は、毎回立ち寄る人が最も多く(46.3%)次に初めて立ち寄る人が二番目に多いという結果になりました(表-3)。また、ビジターセンターの利用目的としては、チラシの収集の人が最も多く(31.3%)、次に情報収集の人が多い(26.9%)という結果になりました(表-4)。
 来訪者の多くが、チラシ収集や情報収集を目的にビジターセンターを訪れていることから、ビジターセンターに入りやすくすることで、再来訪者や初めての方を引き込み、情報発信を行える可能性があると思われました。
 また、ビジターセンターの魅力を尋ねたところ、管理人さんの対応が良い、優しいが最も多い(46.9%)という結果になり、応対がとても大事だということがわかりました(表-5)。

表-3 ビジターセンターの利用頻度
初めて              22 32.80%
毎回立ち寄る           31 46.30%
2~3回に1回           7 10.40%
10回に1回             6  9.00%
殆ど利用しない           0  0.00%
 
表-4 ビジターセンターの利用目的
登山届の提出            3  4.50%
チラシの収集           21 31.30%
情報収集             18 26.90%
展示物閲覧             8 11.90%
情報交換              2  3.00%
イベント              4  6.00%
その他              15 22.40%

表-5 ビジターセンターの魅力は?
管理人さんが優しい。
対応が良い            15 46.90%
案内、展示物、情報が良い      7 21.90%
交流の場として利用         3  9.40%
清掃が行き届いている        3  9.40%
その他               4 12.50%

② アンケート内容の活用
 同アンケートで、ビジターセンターの良い所、改善点などについて尋ねたところ、表-6のようなご意見を頂きました。
 この意見をもとに、メンバーで検討し、1 照明の色を変更(館内の明るさを改善)、2 BGMを流す、3 ビジターセンターへの入りやすさの改善と、情報伝達のために木製ボード、ホワイトボード、案内板を設置する、4 周辺地域の登山情報、鳥、きのこ、薬草等の書籍を管理人室に備え付ける、などの改善を行いました。

図-8 ビジターセンター   図-9 検討状況
 

表-6 ビジターセンターの魅力アップのための改善点、意見
肯  定 改善提案
キノコ類写真をいっぱい展示してあるのでビックリしました

訪れるたびにセンター内のレイアウトが変わっていて努力が感じられて良いと思う。
希望としては特にありません。

写真がきれいです

入りやすい。チラシがありわかりやすい

とてもいい

入りやすい

写真が飾ってあり、すごく良かったです


写真とかいいですね

とても入りやすい

子どもが模型を点滅させて遊んでいるのを見て、地域に興味をもってくれたらいいなと思い、来てよかったなと思いました。ありがとうございました。


とても心良くむかえて頂き楽しかったです

照明が少し暗い



音楽等を流してはどうですか

入りやすさ

イベントの開催。山登りの定期ツアーの開催

周辺の観光マップ、近隣の登山情報の提供

飲み物販売したほうが良い。自動販売機

自然・山登りのたのしさをアピールする

自然観察のための入口として季節ごとの見どころの展示やイベント、勉強会を定期的に

展示物の更新

特にありませんが、キャンプ場等無料なので、立派な小岱山地図もあるし、募金箱とか設置してもらいたいです。申し訳ないです

管理棟を使用できるようにしてもらいたい。

センター自体は特にありません。

図-10 改善例(木製ボード設置)   図-11 改善例(ホワイトボードの設置)
 

③ 効果の測定
 改善の効果を測定するために、2016年2月22日から、同3月10日に、再度、アンケートをとることにしました。
 設問は、1 照明の色、2 BGMの効果、3 木製ボード・ホワイトボードの設置、4 周辺の観光施設・飲食店のパンフレットの設置、5 周辺地域の登山情報や図鑑などを備え付けたことについての感想と、6 ビジターセンターに入りやすくなったか、についてです。
 結果は、表-7のとおりとなりました。
 照明については、初めてなのでわからない方が最も多かった(41.7%)という結果になりましたが、BGM、木製ボード・ホワイトボード、パンフレットの設置については、大多数の人からあった方が良いと好意的な評価を頂きました。また、書籍についても、利用した・これから利用したい人が大多数を占めました(合計83.3%)。
 ビジターセンターに入りやすくなったか、との設問では、初めてなのでわからないという回答が50%と最も多かったのですが、41.7%の方が入りやすくなったと回答しています。
 期間も短く、回答者も少なかったのですが、管理者側の意見だけではなく、利用者の意見を聞いて、目に見えるできることから改善を行ったことが、高い評価につながったと考えます。
 このことにより、「入りやすく、情報発信ができるビジターセンター」への改善が図られました。

表-7 改善の評価
質 問 回 答 回答者数 構成比
照明の色 ちょうど良い
気付かなかった
初めてなのでわからない
3
4
5
25.00%
33.30%
41.70%
BGM あった方が良い
無い方が良い
その他
11
0
1
91.70%
0.00%
8.30%
木製ボード あった方が良い
無い方が良い
12
0
100.00%
0.00%
パンフレット あった方が良い
無い方が良い
12
0
100.00%
0.00%
書籍 利用した
これから利用したい
無回答
3
7
2
25.00%
58.30%
16.70%
改善後、ビジターセンターに入
りやすくなったか
入りやすくなった
変わらない
初めてなのでわからない
5
1
6
41.70%
8.30%
50.00%


4. 考 察

 今回の取り組みを通じて、初めて小岱山を訪れる方だけではなく、リピーターにも魅力を伝えられる体制が整えられ、情報発信により登山者を呼び込む体制が整えられました。
 このことにより、ビジターセンターを「小岱山の案内所」から「玉名地域の案内所」にステップアップさせる取り組みと合せて、まだまだ不十分ではありますが、登山者の増加や地域の滞在時間、回遊性の増加による玉名地域の振興にもいくばくか貢献できる体制が整えられたと考えます。
 また、地域振興というと、とかく市町村職員などの地方公務員が中核となりがちですが、登山者(施設利用者)と、協同した本取り組みを通じて、小岱山の魅力アップのための方法や、小岱山を活用した地域振興について、話し合いながら役割分担を行い、進めていく体制が作られていき、自分たちで考え、行動するという意識の変化がメンバーに見られました。
 メンバーの内、筆者である草野、園田、郷戸、永田を始め、玉名市、熊本県の職員はその後転勤し、直接関わることはなくなりましたが、現在も安川と登山者のメンバーにより、環境の改善や、情報発信などが続けられています。
 このように、地域の方と同じ目標を持ち、意見を出し合い、問題意識を共有し、共に考えて改善を行うことで、あまりお金をかけなくても、地域の振興が図れ、皆が幸せになれるのではないかと思います。
 利害関係もあるので、きれいごとばかりは言っていられませんし、忙しいなかでは省きがちですが、それでも、地域住民と協同し、共に考えて、合意を得ながら、共に行動するということは、地方自治の基本ではないかと思います。
 なにより、このような体験は、筆者にとっても大変貴重で、大切な体験となりました。


5. 謝 辞

 地域づくりの専門家として貴重なアドバイスを頂きました、中島久宜氏、本活動にチーム小岱のメンバーとして加わっていただいた、福山宣高氏、宮崎世津喜氏、前田勇平氏、小嶋研二郎氏、植原敏美氏、植野春夫氏、野中忠臣氏、中島紀弘氏、川原喜久代氏、その他多くの登山者の方、地域住民の方にご支援を頂きました。厚くお礼を申し上げます。
 本取り組みは熊本県の「チャレンジグループ支援事業」の助成を受けて実施しました。
 また、チーム小岱のメンバーでもあり、いつも貴重なご意見をいただいております、吉村哲雄様には、改めて厚くお礼申し上げます。