1. アンケート調査の実施概要
連合北海道、全建総連北海道、自治労道本部、北海道公務労協、公益社団法人北海道地方自治研究所は、旭川市での道内初の公契約条例制定(2016年12月)を契機に、「公契約条例を社会に広げることをめざすワーキングチーム」(以下、公契約WT)を共同で設置し、17年3月より活動している。
公契約WTの活動の一環として、18年春、道内全35市の入札・契約に関する現状や課題などを把握するため、アンケートを実施した。調査票では、①入札・契約の実施体制、②総合評価落札方式による入札の実施状況、③ダンピングなどの不正対策の実施状況、④公契約の適正化に関する取り組みの現状、の4点を尋ねたほか、2014~16年度における入札・契約の件数、総合評価落札方式の審査に用いられている評価基準(評価項目・配点)について情報提供を求めた。別途ヒアリングを行った札幌市を含め32市から回答が寄せられた(回答率91%)。本レポートは、アンケートの結果に基づき、主な特徴を報告するものである。
2. 入札・契約の実施体制
入札・契約の実施体制に関し、入札・契約の主管セクション(以下、主管セクション)の有無を確認したところ、設置している市が27に上った。配置職員数は、札幌市が27人と最多で、旭川市12人、函館市9人と続いたほか、3~6人が15市、2人が9市となった。
主管セクションと各課との取り扱い案件の分担基準を尋ねたところ、各案件の「予定価格の金額」と、工事や役務委託など「分野」の2つが基本的な基準とされていた。「予定価格の金額」を基準とする場合、基準額を設定し、基準額超の案件は主管セクションが、基準額未満の案件は各課が取り扱う、という振り分けである。基準額は「地方自治法施行令」別表第5(随意契約可能金額の上限)とリンクする例が多かった。その上で、最も多かったのは、「分野」ごとに「予定価格の金額」に基準額を設定して分担するという振り分け方であった。
分野別に、27市における主管セクションへの案件の集約度を見ると、工事が全市と最も高く、役務委託が12市と最も低かった。
3. 2016年度の入札・契約の件数と特徴
2016年度における工事、工事関係業務の委託、役務委託、物品購入の4分野について、一般競争入札(市内限定型、総合評価、その他)、指名競争入札(公募型、事後審査型、総合評価、その他)、随意契約(見積合せ、プロポーザル、特定随契)の各件数について記入してもらったところ、以下の特徴が見て取れた。
第一に、随意契約ではなく、競争入札を実施している割合は、分野別では、工事が84%と最も高く、以下、工事関係業務委託76%、役務委託32%、物品購入17%と続いた。
第二に、一般競争入札を実施する割合では、工事が52%と最も高く、以下、工事関係業務委託34%、役務委託7%、物品購入4%と続いた。指名競争入札を実施する割合は、工事関係業務委託で42%、工事で38%、随意契約を実施する割合は、物品購入で85%、役務委託で68%を占めた。
競争入札の全件数における一般競争入札の実施率の分野別平均値は、工事52.6%(32市)、工事関係業務委託20.0%(29市)、役務委託15.9%(23市)、物品購入13.0%(27市)である。工事で50%を超えているものの、その他の分野は1~2割程度にとどまっている。一般競争入札の実施が最も進んでいる工事では、32市のうち15市で50%を超え、50%未満は17市となり、ほぼ半々であるが、これに対し他の分野では2/3~3/4で0%となっている。
これらの結果から、道内の市では、指名競争入札から一般競争入札へのシフトを積極的に進めているところと、従来型の指名競争入札を継続しているところに両極化しており、大半の市では依然として指名競争入札が根強く継続されている現状が垣間見える。
ただし、一般競争入札を実施しているといっても、その大半は「市内限定型」であり、今次調査で把握された分だけでも、一般競争入札の全件数(3,560件)の約半数(1,717件、48.2%)を占め、さらに札幌市の「制限付き一般案件」(911件)も市内限定型である可能性があり、これを合わせると約3/4(2,628件、73.8%)に上る。
一般競争入札と指名競争入札にはそれぞれ長所と短所がある。一般競争入札は入札参加資格における公正性(機会均等)と経済性に勝るが、不誠実な事業者や技術力不足の事業者を入札から排除できず、品質や安全性の確保が必ずしも保障されない。指名競争入札は、過去の実績などから自治体側が入札に参加できる事業者を予め絞り込めることから、品質・安全性の確保がある程度約束される半面、入札参加者が限定されることから談合の温床になりやすい。自治体の入札においては、公正性・経済性と品質・安全性確保をいかに両立させるかが課題であり、市内限定型一般競争入札の割合の高さは、こうした自治体の事情を反映しているものと見られる。
4. 総合評価落札方式の現状と課題
32市のうち、総合評価落札方式を導入している市の数は、2018年3月現在、一般競争入札で14市、指名競争入札で3市に上る。一般競争入札と指名競争入札で比べると、前者の方がはるかに導入している市の数が多い。
総合評価落札方式には、国交省のガイドラインなどで「高度技術提案型」、「標準型」、「簡易型」、「特別簡易型(市町村向け簡易型)」の4タイプが設定されており、自治体側で選択が可能とされている。工事の一般競争入札は、標準型1市、簡易型9市、特別簡易型10市で、指名競争入札は、標準型、簡易型、特別簡易型がそれぞれ1市で導入されていることがわかった。他の分野では、工事関係業務委託で2市(一般1、指名1)、役務委託で3市(いずれも一般)で導入されていた。
札幌市では2016年度以降、9つの型式が運用されており、うち1つが簡易型(計画審査型)、このほかは全て特別簡易型である。
また、総合評価導入の14市のうち8市から、「評価基準」として、各評価項目の配点表の提供を受けた。今回提供を受けたのは計23表で、配点表の提供の無かった6市のうち、3市からは、案件毎に評価基準をその都度設定しているため、定形的なものはない、という趣旨の回答があった。23表について、分野別では工事向け21および役務委託向け2、型別の内訳では簡易型2、特別簡易型21である。
23表の評価項目の分類は、①「企業の評価・施工能力」、②「配置予定技術者の評価」、③「配置予定従事者の労働環境」、④「地域貢献等の評価」の4つに集約される。「配置予定従事者の労働環境」を含むのは23表のうち、以下の4市(函館市、帯広市、富良野市、石狩市)の5表にとどまった。
○ 函館市:支払賃金(平均賃金)/通勤手当の支給の提案
○ 帯広市:従業員の退職金共済への加入の有無
○ 富良野市:従業員の建設業退職者共済及び中小企業共済等への加入の有無
○ 石狩市:従業員の建設業退職金共済組合及び中小企業退職金共済事業団への加入の有無など
総合評価落札方式の運用上の課題について、選択肢から選択(複数回答可)してもらったところ、最も選択が多かったのが、「事務が繁雑になり、担当職員の負担が大きい」と、「落札者の決定に時間がかかる」(それぞれ9市)で、次いで多かったのが「審査委員会の設置や運営に難しさがある」(6市)であった。自治体の担当者にとって、同方式の課題としては、事務の手間と落札者の決定にかかる時間の増大が、通常の入札にはない追加的な負担として強く自覚されている現状がうかがえる。
5. 公契約の適正化にかかる取り組みの現状
公契約のルール化の現状については、以下の選択肢から一つを選んでもらった。すなわち、(a)「公契約条例を制定し、運用中」、(b)「公契約条例の制定を検討中」、(c)「公契約に関する内規(規則、規程、方針、実施要領など)を策定済み」、(d)「公契約に関する内規(規則、規程、方針、実施要領など)の策定を検討中」、(e)「条例制定、内規策定、いずれの予定もない」、(f)「その他( )」である。
その結果、21市が(e)「条例制定、内規策定、いずれの予定もない」を選択し、最多となった。次いで、(c)「公契約に関する内規(規則、規程、方針、実施要領など)を策定済み」が4市(北見市、苫小牧市、士別市、名寄市)、(a)「公契約条例を制定し、運用中」が1市(旭川市)、(d)「公契約に関する内規(規則、規程、方針、実施要領など)の策定を検討中」が1市(美唄市)、(f)「その他」が3市であった。(f)「その他」を選択した3市からは、「道庁および他都市の状況により、対応を検討する予定」(函館市)、「現時点では予定はないが、今後の状況により検討する」(江別市)、「国の動向や近隣市などの状況を注視しながら、情報収集や調査研究を行っている」(北広島市)といった記述があった。
条例や指針などに記載される基本方針(目標)の内容は、①公平・公正で透明性の高い入札・契約制度の確立、②品質と適正な履行の確保、③地域経済の活性化、の三項目に概ね集約される。
6. 今次調査結果から見た公契約条例の展望
今次調査の結果、総合評価落札方式を導入している市は道内では15市ほどにとどまることが明らかになり、また、評価基準に従事者の労働環境を含めているのは3市、賃金水準を項目として明記しているのは1市であることも判明した。同方式による入札の実施を通じて、労働者の賃金水準を適正化しようとするならば、道内市においてはまず、同方式の導入をさらに積極的に推進していく必要があるとともに、導入済みの市も含め、評価基準の中に従事者の労働環境に関する評価項目を明確に位置づけ、評価点全体に占める価格以外の評価点の占める割合を一定程度の水準にまで高める必要がある。
現行の入札・契約制度の中で総合評価落札方式の導入や労働条件の調査・規制の実施を進めること自体は批判されるべきものではなく、さらに積極的に進めて然るべきと考えるが、今次調査で垣間見えた実態から、価格競争が本来の目的である入札の運用を通じて労働者の賃金・労働条件の適正化を図るこれらのやり方は実践が容易ではなく、そもそも入札の中で労働者の賃金・労働条件の維持・向上のような政策課題に取り組むこと自体、入札制度の趣旨に悖るとの批判も一方にはある。この点で公契約条例に可能性を見出すとするならば、入札制度の趣旨のような軛を免れて、自治体と契約先事業者との間の契約内容において、双方合意の上で労働者の賃金・労働条件も含む様々な事項の適正化を図れるということにあると思われる。
公契約条例の制定を進めていく上でクリアすべき課題として、総合評価落札方式とも共通するが、自治体側が持つ負担感の増大という意識をどう克服するかという問題がある。近年、自治体職員(正職員)の数は減少傾向にあり、慢性的な人手不足の状況が続くなかにあっては、財政的制約ともあいまって、この問題は極めて深刻である。その意味で、同条例制定自治体を拡大させていくには、まず各自治体における基本的な入札・契約の実施体制をいかに整備・充実させるかという観点が非常に重要である。その場合、道外の同条例制定自治体における入札・契約の実施体制なども参考にした各自治体での取り組みが期待されるところであり、公契約WTとしても関係情報の収集と発信に今後努めていきたいと考えている。
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