【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第3分科会 どうする? どうなる? これからの自治体

 域外から購入しているエネルギーを自前調達するとともに、エネルギー生産・販売事業を兼業とすることで農家所得を向上させる方策を模索している。そこで総務省「分散型エネルギーインフラプロジェクト」、環境省「経済循環分析」プログラム、農水省「農山漁村再生可能エネルギー法」について、「地方創生」策との関連を市議会一般質問の場で問題提起している。実効性のある議論となるように努力しており、本稿はその経過報告である。



エネルギー循環確立へ向けて
―― 農家所得向上へ向けた追求 ――

青森県本部/五所川原市議会議員 井上  浩

1. はじめに

 私たち地方議員は、地方自治の土台である地域の経済・社会を活性化させるために日々精進している。ところが今進められている「地方創生」では、明治大学の小田切徳美教授が批判する「農村たたみ」が見え隠れする。よって私は、食料とエネルギーの視点なしに農村問題を語る現政権による「地方創生」には疑問を持つ。ただし具体的に施策が進んでいるので、その土俵に上がりながら抵抗する術について模索せざるを得ない。
 そこで総務省が提起している「分散型エネルギーインフラプロジェクト」、環境省による「経済循環分析」プログラムと農水省による「農山漁村再生可能エネルギー法」について、「地方創生」策との関連でどう整理できるのかというのが私の問題意識である。
 具体的には、①分散型再生可能エネルギーの普及、②環境省のプログラムによる現状分析、③営農型発電による農家所得向上、以上の3課題に関する議会での私の問題提起について、市側の答弁と併せて整理した。

2. 分散型再生可能エネルギーの普及

(1) 再生可能エネルギーとは
 再生可能エネルギーとは地域での自然資源を活用したエネルギーのことであり、自然エネルギーとも呼ばれる。定義としては、「エネルギー供給事業者による非化石エネルギー源の利用及び化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関する法律」で「エネルギー源として永続的に利用することかできると認められるもの」と定められ、太陽光、風力、水力、地熱、太陽熱、大気中の熱その他の自然界に存る熱、バイオマスが規定されている。
 地域や家庭で必要とされるエネルギーの中心は熱の需要である。しかし、熱エネルギーは距離の移動による減衰が大きい。そこで総務省は資源エネルギー庁、林野庁、環境省等関係省庁と連携して「自治体を核として、需要家、地域エネルギー会社及び金融機関等、地域の総力を挙げて、①バイオマス、廃棄物等の地域資源を活用した地域エネルギー事業を立ち上げる、②マスタープランの策定を支援」する「分散型エネルギーインフラプロジェクト」をすすめている。熱需要の地域集約化を進めて自治体が"エネルギーの地産地消"をするためのマスタープラン作成を支援するもので、弘前市をはじめとして全国43自治体(2017年12月20日段階)で取り組まれている。

(2) 地域エネルギービジョンとエネルギーの地域循環
  (2017年6月6日一般質問)

○2番 井上 浩議員 弘前市では、木質バイオマスと天然ガスを主要エネルギー源とした雪国型コンパクトシティ創造事業のマスタープランについて、2017年2月までに事業化検討を行い、2018年度より事業化着手ということで、2018年の3月には弘前市地域エネルギービジョン弘前型スマートシティ構想における再生可能エネルギー導入編兼弘前市地域温暖化対策実行計画が出されております。
○櫛引和雄財政部長 当市のエネルギー消費量を地域新エネルギービジョンで比較しました場合、年間使用熱量で換算した場合は、1年当たり6,160テラジュールとなっておりまして、これを青森県のデータと比較いたしますと、青森県全体の4%を占めることになります。部門別に見ますと、産業部門が市全体の27.26%、民生家庭部門が50.63%、民生業務民間部門が2.35%、民生業務公共部門が3.48%、運輸部門が16.29%となっておりまして、傾向といたしましては民生家庭部門、つまり各家庭でのエネルギー消費の割合が高くなってございます。また、各家庭の化石燃料の占める割合も59.1%と高い割合になってございます。このことから、各家庭での新エネルギー設備導入が地域の省エネルギー対策としての効果があるのではないかと考えてございます。
○2番 井上 浩議員 青森県は風力発電、太陽光発電、バイオマス発電など再生可能エネルギーに大変恵まれているんですけども、地域循環ということを考えた場合には、多くは中央資本により設置をされている悲しい現状があります。現在の試算では、青森県でつくられた再生可能エネルギーを初めとする電気は、県内で消費されるべきところですが、2013年度でおよそ728億円に上る電気が東京などの大都市圏に流出をし、その利益は中央の資本に還元をされております。こうしたエネルギーの地域循環へ向けての五所川原市の取り組みは。
○櫛引和雄財政部長 市のエネルギー消費の特徴を見ますと、各家庭での省エネルギー対策、新エネルギー設備導入が効果的であると考えてございます。今後も一般家庭における電力自給率を高めることを目的とした新エネルギー設備導入促進事業によりまして、太陽光発電システム、蓄電池、木質ペレットストーブ及び地中熱利用設備への助成を続けてまいりたいと考えてございます。市のエネルギー消費状況の特徴を踏まえまして事業展開をしていくとともに、議員御指摘のとおり、青森県の恵まれた再生可能エネルギーの多くが中央資本により設備が整備され、そのほとんどが大都市に消費されて、利益も中央資本に還元されているという件につきましては、当地域の豊かな再生可能エネルギー資源によりもたらされる利益をできるだけ地域に還元できるようめざしてまいりたいと考えてございます。

(3) 新エネルギー導入の方向性(2016年6月14日一般質問)
○2番 井上 浩議員 当市の策定した新エネルギービジョンの導入可能性総合評価で可能性が高いとされた新エネルギーは何か。
○佐藤 明財政部長 五所川原市地域新エネルギービジョンでは、当地域における新エネルギー導入の方向性に関し、5つの視点で評価しております。その結果によれば、合計ポイントが高いのは、順に地熱エネルギー、木質系バイオマス、クリーンエネルギー自動車、太陽光発電、太陽熱利用、風力エネルギー、農業系バイオマスとなっております。地中熱エネルギーは場所や天候に左右されず、普及に向けては、初期コストや地中熱エネルギーの有効性に対する認知度不足の課題があると考えております。五所川原地区消防事務組合では、五所川原消防庁舎に地中熱利用設備を設置し、事務室、廊下、食堂の冷暖房に利用しており、また市の新庁舎の冷暖房及び駐車場の融雪への導入も計画しているところです。こうした公共施設への導入を積極的に進めながら、地中熱エネルギーの普及促進に努めてまいりたいと考えております。

2. 環境省のプログラムによる現状分析

 環境省のホームページにはエネルギー消費量等を加味した地域経済循環分析を作成するためのプログラムが掲載されており、具体的には、地域の所得循環構造を生産、分配、支出、エネルギーの4方面で分析することや、産業別のエネルギー消費量や第1次、2次、3次産業別のエネルギー生産性を把握することが可能である。このようなエネルギー消費を勘案した分析は従前ないものである。以下は環境省の同プログラムによる五所川原圏域定住自立圏(五所川原市を中心市として、つがる市と中泊町、鰺ヶ沢町、深浦町、鶴田町の2市4町)での分析を筆者が加工したものである。

(1) 圏域の現状
 「コメとシジミ(産地・十三湖)で稼いできたものがコンビニや全国チェーンのスーパーでの食料品購入として吐き出され、土建屋で稼いだ2.5倍が油屋や電力会社に吸い取られている」というものである。2013年の圏域総生産(/総所得/総支出)は3,233億円で、生産・分配・支出・エネルギーの4方面での分析では以下となった。
① 生産面では、圏域全体の生産額は5,214億円であるのに対して圏域内の事業所が1年間で域内でどれだけ付加価値を稼いだか。特徴として、第1次産業のうち農業と、第2次産業のうち電気機械製造業が地域外から所得を獲得しているものの、地域産業全体で見た場合は第2次産業の建設業や第3次産業の小売業、宿泊・飲食サービス業、医療福祉など、産業における所得が生産面の中心となっており、全国と比較すると相対的に労働生産性が低い産業が多いことが挙げられる。
 ア 五所川原圏域定住自立圏では、公務(約50億円)が最も付加価値を稼いでいる産業である。産業別生産額構成比は13.9%で、全国の3倍強となっている。
 イ 製造では、電気機械が最も付加価値を稼いでおり、次いで衣服・身回品、石油・石炭製品が付加価値を稼いでいる産業である。
 ウ 第3次産業では、公務が最も付加価値を稼いでおり、次いで公共サービス、住宅賃貸業が付加価値を稼いでいる産業である。
② 生産面で稼いだ付加価値について、1,810億円が雇用者所得となり、1,424億円がその他所得(財産所得や企業所得、税金等財政移転)となった。分配面の特徴として五所川原市は五所川原圏域における中心都市で、昼間人口が夜間人口を上回る拠点性の高い地域であるため、雇用者所得が地域外に流出していることが挙げられる。
 ア 五所川原圏域定住自立圏では、第3次産業の雇用者所得への分配が最も大きい。
③ 地域内で稼いだ所得が消費、投資にどれだけ支出されているか、また域外にどれだけ支出しているか。圏域の消費は4,487億円、投資は798億円である。消費の約677億円(15.1%)は圏域外からの流入であり、投資の約276億円(34.6%)が圏域外に流出している。圏域からの移輸出は1,334億円、移輸入は3,387億円で、域際収支は-2,052億円となった。支出面の特徴は市内の大型商業施設や観光による民間消費が流入していることが挙げられる。
 ア 五所川原圏域定住自立圏では、農業、建設業、水産業が域外から所得を稼いでいる。とりわけ農業の純移輸出額は324億円であり、2位の建設業84億円、3位の水産業57億円と比して突出している。逆に域外に所得が流出しているのは食料品(-314億円)と、エネルギー関係の流出(石油・石炭製品-170億円及び電気-46億円)が高い。
 イ 消費は域内に流入しており、その規模は地域住民の消費額の2割程度である。
 ウ 投資は域外に流出しており、その規模は地域住民・事業所の投資額の3割程度である。
④ エネルギー代金の支払いにより、住民の所得がどれだけ流出しているか。
 ア 五所川原圏域定住自立圏では、エネルギー代金が234億円域外に流出しており、その規模はGRPの約7.2%である。農業、建設業、水産業が域外から所得を稼いでいる。
 イ エネルギー代金の流出では石油・石炭製品の流出額(約170億円)が最も多く、次いで電気(約46億円)の流出額が多い。
 ウ 五所川原圏域定住自立圏の再生可能エネルギーのポテンシャルは、地域で使用しているエネルギーの約54.15倍である。また農林水産業でも167TJ/年と、全国に比して高いエネルギー消費量となっている。

(2) 圏域の現状が指し示すこと
 具体的な経済対策の方向性として、観光資源や農林水産業を生かし、地域外からの所得の流入を図ること、そして消費の流入を波及させ、地域内の産業間取引を活発化させることにより第2次産業を底上げし、地域産業全体の労働生産性の向上を図ることである。平たく言えば地熱や風力、太陽光といった自前のエネルギー資源で域内の熱と電気の消費を賄い、コメで稼いだ金を使って域内外で売れる食料品を創り、その取り組みを基幹とした観光産業を定着させることで、圏域は豊かになり、若者の雇用が定着・安定するものと考えられる。

3. 営農型発電による農家所得向上

 地域にある再生可能エネルギーを地域が主体となって有用なエネルギー源として活用することが、日本の農山村再生につながると考えている。
 地方自治体は国による再エネ導入促進への政策を自らの自治体の状況に合わせて自治体独自に効果の高い個別政策として実施する。そこで、ひとつの取り組みとして営農継続型発電の導入時初期費用の無利子融資制度創設を提起している。この政策効果として、①太陽光発電による電力利用による農家の生産コスト低減がある、②農家の自立的経営確立に加えて売電収入を用いた各種の振興策が可能となる、③同時に農村でのエネルギーの自給自足と多極分散化は地球温暖化対策での要請に対する答えともなる。

(1) 再生エネルギー発電の売電収入を兼業とする農家経営
  (2015年12月7日一般質問)

○2番 井上 浩議員 農業は植物が行う光合成、すなわち地球外の太陽エネルギーを生物が使える化学的エネルギーに変換する作用に依拠をしています。太陽光を初めといたします再生可能エネルギーを電気エネルギーに変換する発電と産業的には類似をしております。この点に着目して、私はこれからの農業は再生可能エネルギー発電の売電収入を兼業とすることにより、将来的にも農業経営を何とかやっていけるのではないかと考えています。
 そこで、再生可能エネルギー発電の売電収入を兼業とする農家経営の育成についてです。農山漁村再生可能エネルギー法で求められています市が作成する市みずからの五所川原市における発電促進基本計画について考え方をお知らせください。
○佐藤 明財政部長 同法に関した動きとして、現在当市においては発電事業者による十三湖沿岸への風力発電設備の整備計画が進められており、隣接する中泊町域と合わせて総数で15基、うち当市には2基、中泊町には13基の整備が計画されており、発電出力は当市2基分で4,600キロワット、全15基で3万4,500キロワットが想定されております。整備予定区域が農地であるため、当市では農業振興地域整備計画の見直しについて県と協議を進めるために、農山漁村再生可能エネルギー法に基づく基本計画について、地域の関係農林漁業者及びその組織する団体、関係住民、学識経験者等から成る協議会及び当市と中泊町の関係者等で構成される十三湖沿岸地区検討分科会において策定に向けた協議を行っており、また10月から11月にかけて1カ月間、電気事業者による環境影響評価書の縦覧が行われたところであります。
 今後の取り組みですが、同法が発電事業者に売電収益の地域還元を結びつける仕組みとしているのは、発電事業者の売電収益が一定の期間、固定価格で買い取ることを義務づける固定価格買取制度で支えられているからです。また農家がみずから活用する再生エネルギーについての支援策については検討はできても、五所川原市みずからが発電促進計画を作成し、その中で農家を再生エネルギー発電の売電収入を兼業とする農家経営を育成する仕組みについてこの圏域全体の住民の理解が伴うことから、現時点では予定してございません。

(2) くろしお風力発電株式会社の提案による計画つくりにとどまる
  (2016年6月14日一般質問)

○2番 井上 浩議員 現在取り組み中の再生可能エネルギー促進による農山漁村活性化協議会による基本計画の進捗状況はどうなっているのか。
○佐藤 明財政部長 整備予定区域が農地であるため、農山漁村活性化協議会により農業振興地域整備計画の見直しについての手続を進めるなど、基本計画策定に向けた取り組みを進めております。また農山漁村再生可能エネルギー法における市町村の基本計画の作成の契機としては、市町村のイニシアチブで基本計画を作成するケース、設備整備事業者が市町村に基本計画の作成を提案するケース、その他再生可能エネルギー発電を考えている地域の方などが市町村に働きかけるケースの3つのケースが想定されております。現在当市においては、くろしお風力発電株式会社の提案による当市と中泊町にまたがる十三湖沿岸地区への風力発電設備の整備計画をもとに、発電事業により得た売電収益の一部を地域に還元する取り組みなどにつなげることをめざした基本計画の策定を予定しているものです。
○2番 井上 浩議員 農水省が評価を今始めています営農型発電のソーラーシェアリング、太陽光で農作物をつくりながら売電も行っていくというシステムですけども、その太陽光発電システムの設備導入を何らかの形で、今行っている住宅への太陽光発電の支援のように支援していく道を検討してもいいんではないか。
○小山内秀峰経済部長 農業と太陽光発電の共存を目的としたソーラーシェアリングについては、農地を利用した売電事業により収入を得るものでありますが、農家が導入するためには導入費用や売電価格などを踏まえて慎重に判断する必要があると思われます。また、農地での太陽光発電は住宅用に比べて大規模になることが想定され、その売電価格は一般家庭等への電気料金に反映されることから、売電事業に関しては補助することは難しいと考えております。市としては、再生可能エネルギーを農業用施設に採用する取り組みの支援について野菜等産地強化総合対策事業や複合経営・六次産業化支援事業の中で検討してまいりたいと思います。

4. おわりに

 紹介してきた市議会一般質問では、個別課題を羅列することにとどまってしまい、市当局との議論が深まらない。そこで勢い、担当職員との個別協議で終わってしまう。人口5万人台の小さな市ではこれが限界とも感じるが、まだまだ工夫の余地はあると思うし、切り開いていかねばと気を引き締めている。




主な参考文献類
・政府(総務省、農水省、環境省、経産省他)及び県・市、「(株)価値総合研究所」のホームページ
・小田切徳美『農山村は消滅しない』2014年12月 岩波新書
・時子山ひろみ『フードシステムの経済学第2版』2000年12月 医歯薬出版(株)