1. はじめに(任期付職員制度について)
(1) 制度概要とレポートの狙いについて
任期付職員制度は、2000年代初頭の小泉構造改革に係る公営事業の民間委託の促進などの行財政改革の一環(民間完全委託までの間の職員配置等)として、2004年の「地方公共団体の一般職の任期付職員の採用に関する法律」の改正により創設された任用制度であり、任期付職員制度の趣旨として、総務省は、各地方公共団体の行政運営において、最適と考える任用・勤務形態の人員構成を実現するための手段の一つであるとし、「相当の期間任用される職員を就けるべき業務に従事する者」として位置づけられ、相応の給与や休暇等の勤務条件が適用されるほか、3年ないし5年以内という複数年の任期が保障されうる制度であるとした。さらに「任期付職員制度活用事例集」を公表して、各地方公共団体に関して同制度の活用を促している。
直近では、2020年4月施行の臨時・非常勤職員の任用の適正化と処遇改善を柱とする「会計年度任用職員」制度の発足と併せ、臨時・非常勤職員の任用根拠の見直しに伴い、職の中に、相当の期間任用される職員を就けるべき業務に従事する職であり、かつ、複数年にわたる任期設定が可能である職が存在することが明らかとなった場合には、任期付職員制度の積極的な活用を促している(2018年3月27日付け総行公第44号・総行給第18号総務省自治行政局公務員部長通知。以下「総務省通知」という。)。
特にも、総務省は、東日本大震災の復興業務の主要な担い手として、任期付職員制度の活用を促し、かつ任期付職員に係る給与等の所要額に関し、特別交付税措置を講じて財政的側面で担保をしており、岩手県・宮城県・福島県のほか、大半の被災自治体において任期付職員の採用を行っているほか、東京都をはじめ被災3県に応援職員を派遣する自治体においても、被災自治体への派遣者向けの任期付職員を採用し、派遣を行っている。その後、2015年4月発生の熊本地震など、大規模災害発生時における復旧・復興業務に向けた人材確保策として、国では任期付職員制度活用を基本とする仕組みを定着させつつあり、今後も同様の対応を行うばかりか、先に紹介した総務省通知から明らかなとおり、今後も会計年度任用職員の導入と併せて、各地方自治体への導入拡大を目論んでいるといえる。
岩手県では、東日本大震災発災当初での県職員の被災者へのきめ細かい対応ができなかったことが住民から多く指摘され、岩手県議会でも度重なる行財政合理化に伴う人員削減による人員不足の弊害が露呈したことが明らかであったこと、県職労としても慢性的な人員不足の解消のため任期の定めのない職員配置の拡充を基本とし、復興の見通しとその後の複数年度を見据えた前倒し採用を要望してきた。しかし、県当局は、総務省の財政支援策もあり、任期付職員の採用を進めることで対応を講じ、職員定数自体の増に踏み切らなかった(総務省でも一時的な復興需要への対応であり、復興事業が一定の目途が立った後には定数を元に戻す前提での対応としたため、各地方自治体でも任期の定めのない職員採用に踏み切れない状況であった)。こうしたことから、2012年度以降、被災3県(岩手県・宮城県・福島県)間での実態交流や対策会議を開催し、総務省に対して震災復興に当たり、特別交付税措置において任期の定めのない職員を交付対象とする権限を各地方自治体の裁量に委ねるよう国会対策などを強化した経緯があったが、具体的な前進がないままとなっていた。
こうしたなか、総務省における任期付職員の一層の活用という方針に警鐘を鳴らすべく、県職労として、東日本大震災における任期付職員の配置を巡る諸課題を踏まえながら、任期付職員制度の妥当性や今後の在り方を検討するに当たっての問題提起が必要と考え、これまでの運動を振り返りながら、任期付職員制度の諸課題と今後の展望に関してレポートとしてまとめたところである。
(2) 岩手県知事部局における任期付職員の配属状況について
① 2004年の法制度発足以降、東日本大震災発災前までは、岩手県産業技術短期大学校における職業指導員としての採用があったものの、任期が最大3年間と限定されていることなどの処遇面での課題があることから、任期付職員制度には反対の方針のもと、職業訓練職員協議会と連携しながら、採用された任期付職員の正規職員への転換などを求め要求交渉を強化した。その後、正規職員への転換が一部実現したことや、県当局側も応募しても募集者数が確保できなかったことから、任期付職員による募集は一旦終了した。
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区 分 |
2010 |
2011 |
2012 |
2013 |
2014 |
2015 |
2016 |
2017 |
2018 |
職員定数 |
3,918 |
3,859 |
4,090 |
4,115 |
4,278 |
4,354 |
4,377 |
4,371 |
4,442 |
うち任期付職員数 |
|
|
81 |
254 |
304 |
316 |
311 |
279 |
220 |
うち他県応援職員数 |
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|
156 |
163 |
172 |
172 |
164 |
129 |
96 |
任期付+応援職員合計 |
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237 |
417 |
476 |
488 |
475 |
408 |
316 |
任期付+応援職員割合 |
|
|
5.8% |
10.1% |
11.1% |
11.2% |
10.9% |
9.3% |
7.1% |
|
|
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【任期付職員の配置状況】 |
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区 分 |
2012 |
2013 |
2014 |
2015 |
2016 |
2017 |
県配置 |
一般事務 |
43 |
90 |
103 |
92 |
105 |
95 |
総合土木 |
38 |
94 |
88 |
90 |
82 |
74 |
建築 |
|
4 |
4 |
5 |
4 |
3 |
電気 |
|
1 |
1 |
1 |
|
|
機械 |
|
3 |
3 |
3 |
1 |
|
計 |
81 |
192 |
199 |
191 |
192 |
172 |
市町村 配置 |
一般事務 |
|
31 |
58 |
67 |
64 |
57 |
総合土木 |
|
27 |
43 |
54 |
50 |
46 |
建築 |
|
4 |
4 |
4 |
5 |
2 |
保健師 |
|
|
|
|
|
2 |
計 |
|
62 |
105 |
125 |
119 |
107 |
合 計 |
一般事務 |
43 |
121 |
161 |
159 |
169 |
152 |
総合土木 |
38 |
121 |
131 |
144 |
132 |
120 |
建築 |
|
8 |
8 |
9 |
9 |
5 |
電気 |
|
1 |
1 |
1 |
0 |
0 |
機械 |
|
3 |
3 |
3 |
1 |
0 |
保健師 |
|
|
|
|
|
2 |
計 |
81 |
254 |
304 |
316 |
311 |
279 |
※ 各年度4月1日現在の状況。2018年度の内訳は未提供
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② その後、東日本大震災における復旧・復興業務対策として、県職労としても人員確保などの諸課題を県当局に追及し、当初は「行財政構造改革プログラム」における職員定数の縮減からの転換と正規職員の採用で対応する方向となったものの、一転して県人事当局が任期付職員制度の導入へと転換し、導入が強行された。
2018年度までの配置状況は、初年度の2012年度81人、2013年度は県で採用のうえ被災市町村に派遣する制度も設け、254人(内訳:県配置192人、市町村配置62人)が配属され、その後も300人弱の配属規模となっている。採用職種は一般事務と総合土木を中心としながらも、2013年度からは建築、電気、機械などの専門職種の採用も行っている。2017年4月1日時点での県知事部局の組織定数は4,371人であり、そのうち、任期付職員279人、他県応援職員144人(要請数。応諾数は129人)からしても、これらの職員数合計で408人を占め、組織定数の1割弱(任期付職員では7%)を占めるに至っている。さらに、東日本大震災時の2011年4月1日時点の組織定数が3,859人であり、県の組織定数上は増加に転じているものの、実質的には県の一般職員は震災前と同規模となっている(詳細は表掲載)。
県当局は、2018年4月に49人を採用したほか、2019年度も42人(内訳:一般事務22人、総合土木20人)を募集予定としているが、東日本大震災の復旧復興状況を踏まえた今後の採用見通しについては明らかとしていない。
③ 次に、任期付職員の年齢構成や前職の詳細なデータは持ち合わせていないが、任期付職員として採用された職員の傾向を踏まえれば、概ね次に大別される。
ア 正規の県職員や民間事業者での採用を希望するが、希望する職種の採用試験等で合格できず、当面、任期付職員としての経験を積み、希望する職種の採用試験の受験に備える者。
イ 民間事業所での勤務経験があり、その経験を踏まえて任期付職員として採用された者(出身は、岩手県内に限らず、首都圏をはじめ全国から応募。前職は郵便局勤務、建設会社、地方公共団体や国出先機関の非常勤職員経験者など多岐にわたる)。年齢の幅も20代から50代と幅広い。東日本大震災の復旧業務に従事したいとの熱意等をもって希望する者もいるが、一定期間の任期であると割り切って応募する者もいる。全体の多数を占める。
ウ 定年退職等をし、これまでの業務経験を生かして、当面の間(年金支給開始年齢時又は満65歳となる年度まで等)任期付職員として業務に従事する考えで応募する者。
ア又はウに分類される任期付職員に関しては、一定の従事期間が満了又は他の適する仕事に従事する機会が得られた場合には、中途での退職や任期の更新を希望しない場合がある。主にイに分類される任期付職員にあっては、任期後の処遇などが不安定であることなど、臨時・非常勤職員と同様の課題を抱えることとなる。同様に、アの場合にあっても任期途中に成就できない場合も同様の課題を抱える。特にも、任期付職員制度では、在職期間に応じた退職手当の支給対象となるものの、民間事業者のような失業保険制度は適用されておらず、任期満了後の生活保障の観点から極めて不十分な制度となっている。
(3) 岩手県職労の組織化の状況について
県職労では、任期付職員の組織化を進めており、新採用職員と同様に各支部での加入説明会、当局主催の研修会での説明などを行っている。任期付職員の加入促進に当たっては、新規採用職員とは異なり、上記(2)③に記載のとおり、年齢層が幅広であるほか、ほとんどが民間事業者への従事経験者であること、3年又は5年の任期満了で退職する考えの方もいることから、個別のニーズに応じた加入促進を行っているところであるが、2018年6月1日時点での任期付職員の加入状況は、48人(組織率:21.8%)となっており、一般職の組織率より低迷している現状にある。
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