【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第3分科会 どうする? どうなる? これからの自治体

 ふるさと納税は、様々な農産物や海産物、また、家電製品を取り揃え、各自治体が返礼競争に陥る状況となっていました。
 しかし、2017年4月1日付総務省通知「ふるさと納税に係る返礼品の送付等について」(総税市第28号)が出され、過熱した返礼競争に冷や水を浴びせる結果となりました。その通知が出た前後で、どのような状況が生まれ、現在どのような状況であるか、また米沢市のふるさと納税の事例を踏まえ、ふるさと納税の問題点を考察して報告します。



ふるさと納税の課題について


山形県本部/米沢市職員労働組合 木村 匠吾

1. ふるさと納税の概要

 ふるさと納税は、自分が選んだ自治体(都道府県及び市区町村)に寄附を行った場合、寄附額のうち2,000円を超える部分について、所得税と住民税から原則として全額が控除されるという制度です。控除される寄附額には上限があり、寄附額から2,000円を除いた金額について、①所得税率を乗じた額、及び②住民税の基本控除分として10%を乗じた額を控除し、それで控除しきれなかった金額について、③特例控除分として住民税所得割額の2割を限度に住民税から全額控除する、という形になっています。
 例えば、年収や家族構成などにより全額が控除される寄附額は変わりますが、年収500万円の給与所得者(独身又は共働き、社会保険料控除額が給与の15%と仮定)がふるさと納税をする場合、全額が控除される寄附額の目安は61,000円となっています。
 なお、詳しい計算式は、以下のとおりです。
【ふるさと納税の限度額の目安を求める算式】
  限度額=調整控除後の所得割額×20%÷(90%-所得税の限界税率)+2,000円
      (※ 所得税の限界税率は、適用される最高税率になる。復興特別所得税を加味するため「適用される所得税の最高税率×1.021」となる。)


2. ふるさと納税の導入

 ふるさと納税の議論は、2007年5月に菅義偉総務大臣(当時)が表明した「地方のふるさとで生まれ、進学や就職を機に都会に出て都会で納税する人に、自分を育んでくれたふるさとに自分の意志でいくらか納税できる制度があってもよいのでは」という問題意識から始まりました。この新たな納税制度を実現するために2007年6月に総務省において「ふるさと納税研究会」が立ち上げられ、そこでふるさとの概念や控除方式のあり方などが話し合われました。そして、同研究会における議論の結果2007年10月に「ふるさと納税研究会報告書」としてまとめられ、これを基に2008年からふるさと納税制度が導入されました。

3. ふるさと納税の推移

 
ふるさと納税の受入額及び受入件数(全国計)
 

年 度

受入額(千円)

受入件数

2008

8,139,573

53,671

2009

7,697,723

56,332

2010

10,217,708

79,926

2011

12,162,570

100,861

2012

10,410,020

122,347

2013

14,563,683

427,069

2014

38,852,167

1,912,922

2015

165,291,021

7,260,093

2016

284,408,875

12,710,780

2017

365,316,666

17,301,584

 ふるさと納税の受入額は、2012年頃までは年間100億円前後の水準で推移していましたが、その後急増しました。その要因として、ふるさと納税という制度が広く周知されたこと、また制度そのものの拡充が図られてきたことが挙げられます。また、多くの自治体が寄附者に対して、豪華な返礼品を送付していることも挙げられます。
 例えば、寄附額によっても異なりますが、豪華な家電製品や農海産物、また金券が返礼品として取り揃えられています。寄附者は、2,000円という実質負担額よりも高価な返礼品をもらえる仕組みになっています。


4. 米沢市の推移

 
ふるさと応援寄附金の件数及び金額の推移(米沢市)
 

年 度

件 数

金額(円)

備 考

2008

30

3,495,000

 

2009

70

2,872,200

 

2010

45

1,727,500

 

2011

55

5,288,000

 

2012

49

3,160,000

 

2013

77

6,710,000

 

2014

3,984

44,720,200

 

2015

29,162

1,958,246,938

 

うちPC

5,591

1,400,898,441

※台数:5,591

2016

35,582

3,530,753,034

 

うちPC

12,041

2,869,930,113

※台数:12,046

2017

17,538

1,769,196,050

 

うちPC

5,226

1,353,685,432

※台数:5,157

合計

86,592

7,326,168,922

 

うちPC

22,858

5,624,513,986

※台数:22,794

※ パソコンは2015年4月から返礼品として取り扱われるようになった。
 米沢市では、右表のように2008年からふるさと納税の受入れを開始しましたが、2013年までは件数、金額とも伸び悩んでおり、2013年度の77件、6,710,000円が最高でした。しかし2014年度から、件数、金額とも大幅に増加しています。
 これは米沢市が、ふるさと納税に積極的に取り組むようになったことや、2015年4月からNEC(後に「レノボ」に社名変更。以下同じ)で生産されたパソコンが返礼品に採用されたことが要因として考えられます。
 この件数と金額の増加に伴って、一時的に寄附金を積み立てて置くための「ふるさと応援基金」の推移も2014年度から増加し、2017年度末残高は、1,197,008千円まで増加しました。

5. 過熱するふるさと納税

 
ふるさと応援基金の推移(米沢市)  単位:千円
 

年 度

積立額

取崩額

年度末現在高

2008

3,495

0

3,495

2009

1,969

3,385

2,079

2010

1,729

1,914

1,894

2011

3,874

1,805

3,963

2012

2,852

1,838

4,977

2013

6,719

3,597

8,099

2014

22,830

4,973

25,956

2015

669,984

7,994

687,946

2016

1,088,939

588,000

1,188,885

2017

608,123

600,000

1,197,008

合計

2,410,514

1,213,506

 

 地方創生の一環として創設されたふるさと納税制度は、寄附金額、件数ともに右肩上がりで増え続けていました。
 しかし、返礼品の中に、①高額なもの、②換金性の高いもの、③地元物産等とは関係のないものなどが含まれていることが問題視されるようになりました。そのため総務省は、寄附金が経済的利益の無償の供与であることを踏まえ、①返礼品(特産物)の送付が対価の提供との誤解を招きかねないような返礼品の価格・価格割合などの表示により寄附の募集をする行為を行わないこと、②換金性の高いプリペイドカードや高額又は寄附額に対し返礼割合の高い返礼品の送付を行わないこと、などを要請する通知(技術的な助言)を自治体に行いました。
 しかし、過熱する返礼品合戦は沈静化せず、さらにふるさと納税を"する住民"に比べて"してくれる住民"の数が少ない自治体では、住民税が減少して住民サービスにも影響が出始めていることから、国会でも取り上げられる事態へと発展していきました。


6. 2017年4月1日付総務省通知とその後の動き

 2017年4月1日付で総務省から出された「ふるさと納税に係る返礼品の送付等について」(総税市第28号)は、返礼品のガイドラインともいえる新たな通知となりました。これは、返礼品問題が国会で想定以上に取り上げられたことや、また東京都特別区などの地方交付税を受けていない自治体からも住民税の減少に早く歯止めをかけるようにとの要望が出されていたことが影響しました。
 今回の通知は、ふるさと納税の評価や今後の在り方、返礼品に対する考え方や返礼品競争についての問題と対応について、①大学教授を中心とした有識者、②全国10市(地方団体)の実務者、③全国知事会・全国市長会・全国町村会に対して調査を行い、これを踏まえて作成されました。
 通知では、「返礼品の価格や価格の割合(寄附額の何%相当)といった、返礼品の送付が対価の提供との誤解を招きかねないような表示の自粛」、「返礼品を受け取った納税者には一時所得が掛かる場合があることの周知」など、これまでと同様の事柄に加えて、要請レベルであったふるさと納税の趣旨に反する返礼品及び自治体の住民からの寄附への返礼品の送付を"中止"するようにと明記されました。ふるさと納税の趣旨に反する返礼品の具体例として、①プリペイドカード・商品券等の金銭類似性の高いもの、②電子機器・貴金属・宝飾品・カメラ等の資産性の高いもの、③価格が高額なもの、④寄附額に対する返礼品の価格の割合(返礼割合)の高いもの、が該当するとし、これらについては「換金性」・「地域への経済効果等」の如何にかかわらずふさわしくないとしました。
 また、寄附額に対する返礼品の価格の割合(返礼割合)に関しては、「社会通念に照らし良識の範囲内のものとし、少なくとも返礼品割合が3割を超える地方自治体は、速やかに3割以下とすること」を求めました。通知が「返礼割合は3割以下」、「電子機器等はふさわしくない」など踏み込んだ内容となりました。


7. 通知の補足説明的内容

 総務省は、同日付で都道府県知事に対する通知の補足説明的内容が明記された、都道府県総務部長等宛の通知「ふるさと納税に係る返礼品の送付等に関する留意事項について」(総税市第29号)を行いました。「返礼品割合を速やかに3割以下とすること」については、自治体間の返礼品競争の過熱が指摘される中心となっている、とくに返礼割合の高い自治体に対して速やかな見直しを求めるために行ったものとした上で、「返礼割合の妥当な水準を3割とする趣旨ではない」と説明しています。これは、ふるさと納税の趣旨を踏まえて謝礼状のみ送って謝意を表してきた自治体もあることから、実質3割という数字にこだわる必要はなく、返礼品の調達コストを考えて良識ある対応を促すための通知であることを示したものです。
 総務省は、過熱するふるさと納税の返礼品競争を抑制するため、総務大臣名で寄附額に対する返礼品の価格割合を「3割以下」とするなどを具体的に示したガイドラインとも言える通知を全国の都道府県知事宛てに出しました。これを受けて、早々に通知に従い見直す自治体や、独自の方針を打ち出し継続することを表明する自治体もあり、それぞれの自治体は対応に苦慮することとなりました。


8. 通知後の自治体の反応

 自治体の反応は、通知前に該当する返礼品の中止を決めた自治体のほか、自治体で返礼品が同省の基準に該当するのかの検証等を行い、見直すことを表明する自治体も多く出ました。
 また、すでに2018年度の返礼品と提供事業者の選定を終えてパンフレットの作成やホームページのリニューアルが済んでいること等の理由から、見直さないとする自治体もありました。具体的な対応では、2015年度のふるさと納税寄附額全国トップだった都城市では、牛肉や豚肉、焼酎などの返礼割合を5~6割としていましたが、6月以降は返礼品の量を減らすことで返礼割合の引下げを行いました。また、返礼品数が1,400品を超える静岡県焼津市では、事業所の負担などを踏まえ、速やかに通知に準じた品ぞろえに改めるとともに、時計やカメラなどの申込みを中止することを明らかにしました。
 これに対して、継続するとした自治体は、地元産業・農業等の振興に役立っていることを前面に押し出して反論しました。例えば、返礼品として人気の高い米を贈っている長野県阿南町は、「農家や作付面積の増加につながっている」として2019年度も約5割となる返礼割合を変えない方針を示していました。


9. 米沢市の対応

 米沢市では、NECで生産されたパソコンを返礼品として取り扱っていました。市では、情報関連産業を中心とした東北有数の産業集積地で県内でも屈指の製造品出荷額を誇ることを挙げ、「ものづくりのまちとしての本市の特徴を踏まえ、市内において製造されたノートパソコンについても特産品として返礼品に採用してきており、地域経済の活性化と雇用の確保にも大きく影響していることから、当面はこの考え方を継続する」としていました。


10. さらなる総務省の指導

 こうした自治体の対応を横目に、総務省は通知への対応が不十分として長野県伊那市に再検討の要請を行いました。伊那市では、3月末で一度寄附の受け付けを停止して、「お掃除ロボット」や「液晶テレビ」、「カラーレーザープリンタ」などの家電製品を含めた返礼品について、返戻割合を3割となるように見直しを行いました。そして、家電製品のうち調達額10万円以上の製品は取りやめたものの、10万円未満の製品については法人税法施行令第133条(少額の減価償却資産の取得価額の損金算入)の規定を根拠に取り扱いを続けるとする「市ふるさと納税運用方針」をまとめ、ふるさと納税の受付を4月18日に再開しました。
 しかし、高市早苗総務大臣(当時)は同月21日定例記者会見で、家電製品は資産性が高いものであることから返礼品としてはふさわしくないとして「価格に関わらず送付しないよう理解を求めたい」と発言するとともに、寄附の多くが個人であるにも拘らず税法(法人税法)を根拠としたことに「大変違和感がある」として再検討を求めました。これに対して同市は当初難色を示しましたが、最終的に再検討することを明らかにし、その後返礼品からの家電製品の除外へと追い込まれました。
 また、2018年4月1日には新たな通知となる「ふるさと納税に係る返礼品の送付等について(納税市第37号)」を発出しました。これは、「依然として、一部の団体において、返礼割合が高い返礼品をはじめとして、ふるさと納税の趣旨に反するような返礼品が送付されている状況が見受けられ」るとして、「責任と良識のある対応を徹底するようお願い」するとしています。さらには、7月6日に通知に従わない12の自治体名の公表に踏み切りました。


11. ふるさと納税の問題点

 ふるさと納税が開始されて以来、これまで様々な制度改正が行われ、受入額は順調に増加していました。しかし、ふるさと納税には制度開始時からいくつかの問題も指摘されていました。

(1) 税の公平性について
 1つ目は、ふるさと納税が高所得者に有利な制度であるという点です。ふるさと納税は、所得が多い人ほど高額な寄附をすることができるということです。これは、高額な返礼品や数多くの返礼品を得られる一方、税金の支払いが実質免除される、ということです。
 例えば、米沢市では、返礼品としてパソコンを取り扱っていた期間中(2015年4月13日~2017年7月31日)、20機種を返礼品の対象としていましたが、寄附額は13万円から43万円となっていました。この寄附額がすべて特別控除の対象となるには、相当の所得額であることが必要となります。
 税は本来、高額所得者であればあるほど負担額が多い、所得に応じた負担が求められるものです。しかし、このふるさと納税制度では、その大原則が崩れています。

(2) 地方交付税との関わり
 2つ目は、ふるさと納税により税収が大都市圏から地方へ流出しているという点です。
 総務省のホームページでは、「ふるさと納税に関する現況調査結果(平成30年度)」が公表されており、ふるさと納税額と住民税控除額の都道府県ごとの一覧が示されています。それを見ると、ふるさと納税の受入額は大都市圏よりも地方が多い一方、個人住民税の控除額は地方よりも大都市圏の方が多いのが明らかになっています。つまり、人口が多い大都市圏の人が地方に対してふるさと納税を行っており、その分大都市圏の税収が減少しています。
 この減収分は、基準財政需要額の減少となり、その75%分が普通地方交付税で交付されることになります。地方交付税の財源が所得税などであることを考えると、「一部の高額所得者の特別控除分を、他の人の税金で補っている」ということが言えるのではないでしょうか。

(3) 本来の「寄附」という観点から
 3つ目は、現在のふるさと納税の制度が本来の趣旨から逸脱したものになっている点です。ふるさと納税を行っている寄附者の多くは、寄附によってもらえる特典や返礼品を目当てにふるさと納税を行っており、寄附の使われ方については関心が薄いです。このことは、2016年3月に行われた民間の調査結果を見ても、「自分のふるさとに貢献したいから」、「寄附金の使い道に賛同または共感したから」の割合よりも「寄附の特典が魅力的だったから」、「税金が軽減されるから」と回答する割合が高くなっています。


12. まとめ

 ふるさと納税は、果たして地域活性化に繋がっているのでしょうか。
 2017年4月1日の総務省通知が出される前は、どこの自治体も豪華な返礼品を取り揃え、寄附を集めるためにわれ先にとその魅力をアピールし、寄附金集めにしのぎを削っていました。確かに、米沢市でもパソコンや米沢牛などの返礼品を取り揃え、寄附金を集めるため積極的にアピールを行ってきました。それによって、寄附の件数も金額も増加し、返礼品としてパソコンや米沢牛が寄附者へ送付されました。しかし、それらの返礼品が増加した分のうち、はたして何%が地元の経済活性化に寄与したのでしょうか。
 例えば、本市がこれまで返礼品として取り扱ってきたパソコンは、年間の総出荷量・出荷額に対してわずか1%にも満たないと推測され、それが地域経済に多大に貢献したかと言えば疑問に思わざるを得ません。
 また、ふるさと納税によって返礼品を手にするということが、その品物を欲しいという潜在的な将来の需要を先食いしているだけにしか思えません。確かに今現在を見れば、ふるさと納税により寄附額も増え、また返礼品として物は売れています。しかし将来的に見て、どうなのでしょうか。寄附をした人たちが、「よし、また返礼品を購入しよう」と考えるでしょうか。私は、「決してそうは思わない」と考えます。きっと「2,000円で選んだ返礼品がもらえてよかった」と思い、返礼品の価値を2,000円であると考えてしまうはずです。そのため、寄附の対象としてではなく、改めて購入しようとしてその正規の値段を知った時、「うわ 高い」と思ってしまい、よほどそのものを気に入った場合を除いては決して買うことはないのではないでしょうか。
 はたして、いつまでふるさと納税という制度は続くのでしょうか。私は、そう長くは続かないのはないかと考えています。この制度が終わった時、本当の意味での地域活性化に地方自治体は向き合わなければならないのではないかと思っています。




参考資料
・総務省ホームページ(ふるさと納税ポータルサイト、ふるさと納税研究会)
・内閣府地方創生推進事務局ホームページ
・加藤 慶一(2010)「ふるさと納税の現状と課題-九州における現地調査を踏まえ-」
(国立国会図書館及び立法考査局「レファレンス」(2010.2号))
・川口 亮(2016)「ふるさと納税の現状と課題-望まれる体験型返礼品の拡充や魅力ある政策の発信-」(みずほ総合研究所「みずほインサイト」(2016.11.29号))
・片山 善博(2017)「愚かなり、ふるさと納税」(時事通信社『税務経理』第9644号)
・株式会社 インテージリサーチ(2016)「全国ふるさと納税3万人実態調査」(「ニュースリリース」(2016.7.28))