【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第3分科会 どうする? どうなる? これからの自治体

 大阪市では、地域政党大阪維新の会の台頭以降、労働組合への敵視政策が続いているが、そうした中でも大阪市従は、市民の生活と暮らしを守る政策を実現するため、労働組合だけではなく現場においてもさまざまな創意工夫を凝らしつつ業務を行っている。大阪市で議論されている「大阪市を廃止・分割する特別区制度」や、「大阪市を残し合区を伴う総合区制度」などを通じて、今後の大都市制度のあり方についてのレポートを行う。



地域・現場から見た大都市制度のあり方
―― 公務現業の新たな役割 ――

大阪府本部/大阪市従業員労働組合

1. はじめに

 2015年5月17日、大阪維新の会が、大阪府・市の二重行政を解消するとして進めてきた、大阪市を廃止・分割するいわゆる「大阪都構想」は、住民投票の結果を受け、廃案となり大阪市を存続することで決定した。しかし、その後に行われた大阪府知事・市長選挙で、大阪維新の会は再び「大阪都構想」をマニフェストに掲げ、勝利するやいなや民意を得たとして、改めて「大阪都構想」の実現に向け動き出した。
 また、大阪市においては「副首都・大阪にふさわしい大都市制度改革」として、「特別区制度(案)」と並行して合区を伴う「総合区制度(案)」を作成し、二者択一で再度の「住民投票」を実施しようとしている。大阪市従業員労働組合(以下、「大阪市従」)は、大阪維新の会が掲げる「大阪都構想」は不要であり、今こそ地方分権の推進を図るため、人口減少時代を迎えるにあたって、一定の人口を有し活力ある社会経済を維持すべく、本来は広域行政をめざすための議論を活発化させる必要があると考える。基礎自治体単独ではなく、地域圏域全体で連携を図り発展的な戦略を描くことが必要であり、再度の住民投票に反対し、大阪市存続を前提とした大阪の発展と住民自治の拡充をめざすため、取り組みを強めてきた。
 さらに、橋下前大阪市長が就任して以降、「強制アンケート事件」や「組合事務所退去通告」、「チェックオフ廃止」といった不当な攻撃によって労働組合の弱体化を図っているが、その全ての事案は大阪市の違法行為であるとの司法判断が下されている。にもかかわらず、大阪市は労使関係条例などを理由に、政策的な内容についてはすべて管理運営事項とし、小委員会交渉や事務折衝は言うまでもなく、意見交換すら条例に抵触する恐れがあるとして、政策要望などを受け入れない状況を打破するため、大阪市従は、新たに「政策要望書」を作成し、当局ではなく大阪市会の3会派(自民党、公明党、OSAKAいくの)に、政策要望の実現に向けた申し入れを行った。
 このような状況にあっても、大阪市従は市民の生活と暮らしを守るため、支部との意見交換や、さまざまな地域団体・大阪公共サービス政策センター(以下、「政策センター」)などと連携し、地域から大都市制度のあり方を検討してきた。
 以下に、その一部を紹介する。

2. 大阪市従政策のとりくみ

 政策センターは、2007年12月に発足して以来、セミナーやシンポジウムの開催、情報誌や研究報告誌の発行、調査研究の実施などを進めてきた。また、日本女子大学・堀越栄子教授を座長として「大阪における日常生活を支える公共サービス研究会」を設置するとともに、大阪市従・各支部からも研究員として参画してきた。とりわけ、2016年度からの2年間のテーマを、「生命(いのち)・生活(くらし)・地域(ささえあい)の自治」とし、具体には「地域防災」の観点から、現業公務労働と地域・住民との繋がりを探り、公共サービス現場の重要性を再確認することで、地域との連携による新たな公共サービスのあり方を議論してきた。
 また、鶴見区・榎本地区の防災訓練で、被災状況収集などによる地域連携に触れたことで、「地域の安全で安心なまちづくり」には、私たち技能職員と市民とのさらなる連携が必要であることを再認識した。
 さらに、大阪市従としても各支部との政策担当者会議において、各職場における災害発生直後から復旧・復興までの対応についての調査や、各局における防災計画の再検証を行うことで、現場実態の把握や局間連携を模索してきた。これらの総括として、この間、政策センターが進めてきた「地域防災を担っている地域活動協議会(大阪市の呼称。法的名称は地域協議会)への調査」や、各研究員の職場や所属の「大阪における公共サービスの現状と課題」など、「防災と公共サービス」の観点から、調査研究のとりまとめの報告と併せ、「"あんしん"のまちづくりシンポジウム」を開催し、研究報告を行ってきた。

【研究報告概要】

【榎本地域活動協議会の防災訓練の様子】
 一方で、市民の一番身近な現場で業務遂行している、技能職員の声を施策に反映していくことが、「市政改革」の第一歩であるにもかかわらず、コストカットのための市民病院の独立行政法人化や廃棄物処理行政にかかわる一部事務組合の設立、さらには上下分離方式による下水道事業における包括委託や、独立行政法人による大阪市立大学と府立大学の統合など、経営形態の変更や事務事業の見直しのみに収斂している。
 そうした中にあっても、私たち大阪市従組合員は、市民ニーズを的確に捉え、より迅速に対応するとともに、限られた予算の中で創意工夫し、市民の要望に応えられるよう業務を遂行しているものの、10年以上にわたる新規採用の凍結により、近年は技能職員の技術や技能、知識や経験の継承もできず、迅速な市民対応が行えない状況に陥っている。今、求められているのは、行政として柔軟かつ即対応ができる業務執行体制を確立することと、より一層「専門性」や「現場力」を維持・向上させることが重要であり、縦割り行政の払拭のため、公務として局や事業所、技能職員のさらなる横断的な連携が必要である。
 とくに、近年多発する大規模な自然災害に対する「防災・減災」を進めていくにあたり、ライフラインの確保はもとより二次災害を未然に防止する必要があることから、地域を熟知する私たち技能職員と地域との関係性の構築・連携は極めて重要である。新たな「大阪市地域防災計画」に基づき策定された「大阪市地域防災アクションプラン」の実効性を高めるためにも、地域・市民と緊密な連携ができる業務執行体制の確立が必要ともいえる。
 このように、大阪市として進められてきた新規採用凍結と、安易な民間委託に伴う委託費の圧縮における予算削減などによって、より質の高い公共サービスを安定的に提供できない状況にある。このような状況を打破するため、大阪市従は、「防災・減災」にむけた技能職員の役割の明確化などを裏付ける必要性から、現場レベルで市民が困っていることや、公共サービスを提供するためのスキルや現状などを各支部ヒアリングを通じて議論を重ねた結果、①大阪市としてのビジョン(総合計画の策定)、②区役所における「まちづくり予算」の創設、③災害時における即応体制の強化、④下水道事業の民間化に伴う包括委託費の確保、⑤技能職員の新規採用凍結の解除、⑥公契約条例の制定と入札制度の見直し、⑦労使関係の健全化に伴う条例改正、の7点にわたって政策要望書(資料1)を作成し、大阪市会の3会派に対して提出するとともに、各議員との意見交換を行ってきた。

3. 現場からのとりくみ

(1) 環境局
 環境局では、次世代を担う小学生に、ごみの減量やリサイクルをはじめとするごみの問題について、「小学校向け出前授業(体験学習)」を行っている。座学による説明だけではなく、ごみの分別や3R(リデュース・リユース・リサイクル)などを織り込んだ寸劇を実施することにより、一層の理解を深めていただいている。(資料2)

(2) 建設局
 建設局では、公園利用者に適切な公園遊具等の利用を理解していただく必要があり、特に公園遊具の利用は小学生が多数を占めることから、小学生向けの効果的な啓発が必要であった。安全点検の必要性について、子どもたちに理解してもらうことで、職員のモチベーションのアップにも繋がった。(資料3)

(3) 港湾局
 港湾局では、職員の高年齢化に対応した職場環境改善が必要となっており、職員全員でグループワークを行い、工場内のバリアフリー化や、業務を補助する機械を作成するなど、職場環境改善を実施してきた。また、職場環境改善を行うことで、作業効率がアップし、市民サービスの向上にも繋がった。(資料4)

4. 結びに

 こうしたことから、「大阪市を廃止・分割する特別区制度(大阪都構想)」とは、大阪市を解体し、都市計画などを大阪府に移すことだけが目的となっており、大阪府・一部事務組合・特別区の三重行政に他ならず、政策決定権限と自由な財源を基礎自治体に移すという地方分権論とは、逆行するものと言える。また、大阪市を存続しての合区を伴う「総合区」では、24行政区を8総合区に変更するため、住民合意が非常に難しく、「地域活動協議会」の機能と役割が確立されないまま進めても、市民意見・地域要望にはつながらない。
 「総合区制度」の枠組みを使わなくても、より身近なところへ権限委譲するには、現在の24行政区を残したまま、複数の「ブロック」に分割し、市長はそれぞれの「ブロック」に担当副市長を選任すれば、制度的には実現できる。
 まずは、「地域活動協議会」を目的どおり元気にさせる仕組みと取り組みが必要であり、そのコーディネーター役が行政側に必要となる。
 現在の都道府県制度を廃止し、国の権限を、関西圏をはじめとした各地域の広域連合に委譲するとともに、都道府県並みの権限を現在の政令指定都市に委譲する、すなわち「特別市」制度設計も求められるのではないか。

【資料1】政策要望書
【資料2】環境局
【資料3】建設局
【資料4】港湾局

【資料1】政策要望書
2018年5月 
 各大阪市会会派 様
大阪市従業員労働組合 
執行委員長 吉田 隆一 

2019年度市政運営にかかわる政策要望書

 政府は、3月28日、経済再生と財政健全化を両立する予算として、一般会計総額97兆7,128億円とする予算案を、与党などの賛成多数で成立させました。しかし、診療報酬のマイナス改定や生活扶助基準の5%以内削減など、社会保障費が抑制された内容となっていることから、社会的な較差の是正と底上げ・底支えに逆行するものであり、生活者・働く者の声に十分応えたものとは言えません。
 誰もが働きがいのある社会をめざすためには、労働者の賃金・労働条件の格差を是正するとともに、「官製ワーキングプア」の問題が取りざたされる中、労働者の賃金の底上げを図り、雇用を安定させる公契約条例の必要性が増しています。
 内閣府が3月に発表した2017年10-12月期のGDPは、実質で前期比年率1.6%増となり、8四半期連続で伸びたものの、景気実感を示す2月の現状判断指数においては、前月を下回る結果が示されていることからも、多くの国民にとって実感が伴わない景気回復となっています。
 大阪市においては、3月27日、総額1兆7,771億円の2018年度一般会計予算が可決されました。「平成30年度市政運営の方針」の実現をめざすため、福祉費やこども青少年費、さらに、幼児教育の無償化をはじめとした子育て・教育環境の充実や、暮らしを守る福祉等の向上にかかわる予算を優先したうえで、各区の特色ある施策の充実に向けた予算配分となっています。
 この間、大阪府・市による様々な施策の展開が行われ、事業連携が一定の成果を見せているにもかかわらず、二重行政を名目に大阪市を廃止し分割するとした、いわゆる「大阪都構想」についての賛否を問う住民投票が、3年前に否決されたにもかかわらず繰り返されようとしています。自治分権の流れの中で、政令指定都市のもつ豊かな財源と権限を生かし、24行政区を通じて身近な住民サービスが提供できうる制度を持っているにもかかわらず、大阪市を分割・廃止すれば、固定資産税や法人市民税などの自主財源が激減するだけでなく、都市計画決定をはじめとする権限まで失うことになります。
 このようなことからも、2018年度予算で示された様々な施策を展開し、将来にわたってより良いまちづくりを進めていくためには、大阪市が政令指定都市として持つ財源や権限が必要なことは言うまでもなく、「大阪都構想」の考え方そのものが、市民サービスの低下に直結するということを、改めて住民に訴えかけなければなりません。
 一方で、大阪市の施策を住民の一番身近な現場で遂行している私たち技能職員を取り巻く状況は、この間「市政改革」の一環として、市民病院の法人化や廃棄物処理行政にかかわる一部事務組合の設立、さらには上下分離方式による下水道事業における包括委託化や大阪市立大学と府立大学の統合など、経営形態の変更や事務事業の見直しが多岐にわたって進められています。
 そうした中にあっても、私たち技能職員は、市民ニーズを的確に捉え、より迅速に対応するとともに、限られた予算の中で創意工夫し、市民の要望に応えられるよう業務を遂行しているものの、採用凍結により近年は技能職員の技術や技能、知識や経験の継承もできず、迅速な市民対応が行えない状況に陥っています。行政として柔軟かつ即対応ができる業務執行体制を確立するとともに、より一層「専門性」や「現場力」を維持・向上させることが重要であり、縦割り行政の払拭のため、公務として局や事業所、私たち技能職員のさらなる横断的な連携が求められます。
 とくに、近年多発する大規模な自然災害に対する「防災・減災」を進めていくにあたり、ライフラインの確保はもとより二次災害を未然に防止する必要があることから、地域を熟知する私たち技能職員の連携は極めて重要です。新たな「大阪市地域防災計画」に基づき策定された「大阪市地域防災アクションプラン」の実効性を高めるためにも、地域・市民と緊密な連携を取ることができる業務執行体制の確立も強く求めます。
 この間、大阪市として進められてきた安易な民間委託や、それにかかる予算の軽減、さらに採用凍結によって、苦情・要望への即対応を図ることができない現状にあります。より質の高い公共サービスを安定的に提供するには、私たち技能職員の新規採用凍結の解除を行うとともに、大阪市の現場で公共サービスを担う労働者の視点をもって、今後の大阪市の政策について、下記の諸項目について要望を行います。

1. 市民ニーズが多様化している中、「質の高い公共サービス」をより効果的・効率的に提供し、市民の満足度を高めるためにも、「市民との関係」「人にやさしいまちづくり」について再構築を図るとともに、その予算や人財の確保など、大阪市としての将来ビジョンを描く「新たな総合計画」を策定すること。

2. 大阪市の厳しい財政状況を踏まえ、予算の確保が困難な中にあっても、市民生活の安全・安心を最優先にした予算執行を図ること。また、公共サービスのワンストップ化を図るため、区役所における「まちづくり予算」を創設し、各局が持つ情報の共有化や局間連携による要望・苦情対応システムを構築することで、よりきめ細やかなサービスが提供できる体制の整備を図ること。

3. 大規模地震やそれに伴う津波、さらには大雨による河川の氾濫など、自然災害発生時における早期の復旧・復興をめざすためにも、地域を熟知しさまざまな技術・技能を有する技能職員が、災害時に被災現場や避難所等における最前線で判断できるよう、緊急時の即応体制の強化を図ること。

4. 近年多発する局地的豪雨などに迅速に対処することは、市民が安心して暮らしていく上できわめて重要であり、下水道管理者である大阪市として、安定した下水道サービスを絶え間なく継続し、将来にわたり維持していくためにも、下水道事業の民間化に伴う包括委託費を十分に確保すること。

5. 大阪市は、昼間流入人口が非常に多いことから、その人口を基本に都市基盤や生活環境、さらには防災機能などの充実を進める必要があり、安全・安心で「より質の高い公共サービス」を安定的に提供するためにも、技能職員が培った「技術・技能・知識や経験」を次世代に継承すべく、技能職員の新規採用の凍結を解除すること。

6. 事務事業の民間委託化などが進む中、公共サービスの質の確保を図る観点から、入札における総合評価方式を拡充すること。また、競争入札によって委託料や入札価格が大幅に下がる結果、労働者の賃金労働条件の低下や、雇用不安を引き起こす恐れがあることからも、地域経済活性化における適正な賃金水準の確保に向け、住民福祉の増進に寄与することを目的とした大阪市における公契約条例を制定すること。

7. この間の大阪市による労働組合への不当労働行為については、大阪府労働委員会・中央労働委員会判断や、大阪地裁・高裁、東京地裁による判決を見ても明らかであり、税金による多額の訴訟費用の負担は、市民理解を得ることができないことから、住民サービスの拡充に向けた予算へ転換を図ること。合わせて大阪市は、これまで出された命令や判決を速やかに履行し、チェックオフの再開を含め、労使関係の健全化を図ること。

以  上  

【資料2】環境局

【資料3】建設局

【資料4】港湾局