【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第3分科会 どうする? どうなる? これからの自治体

 平成17年に1市3町が合併を行った竹田市の今後の課題について、これまでの普通会計決算状況を分析するとともに、人口動向・産業構造・公共施設の状況などを勘案し、自治体財政の視点から検証を行った。



竹田市の財政状況と今後について


大分県本部/竹田市職員労働組合 林  宏美

1. 竹田市の財政状況の変遷

(1) 合併後の状況(平成17年度から平成21年度の普通会計決算の状況)
 竹田市は、平成17年4月1日に竹田市、荻町、久住町、直入町の1市3町が合併し誕生しました。
 合併から5年間(平成17年度から平成21年度)の財政状況をみると、財政調整基金等を取り崩し、決算後に剰余金を積み戻すことを繰り返しており、また経常収支比率も常に90以上と厳しい状況にあったことが窺えます。平成16年度は平成17年4月1日に合併したことによる打ち切り決算となった関係で、平成17年度決算においては、平成16年度分がその額に含まれていることから、単純に比較対象とはなりません。しかし、平成19年度は普通交付税額も少なく、経常収支比率は100を超過しています。また、財政調整基金等の大幅な取り崩しや実質単年度収支が△1,126,237千円となっていることから、財政的には一番厳しい状況にあったことが窺えます。
 歳出に注目してみると、平成19年度までは歳出額を確実に縮小してきましたが、平成20年度以降は、国の経済対策やケーブルネットワーク整備事業等によりその額は増加しています。また社会福祉費や生活保護費等の増加により扶助費も拡大しています。一方で、人件費は定員管理計画のもと新規採用の抑制等により職員数の減を行うなど内部努力で減少しています。
 合併当時の財政状況の見通しでは、平成20年度に財政調整基金及び減債基金が枯渇するという見込でした。また平成21年度に作成した中期財政計画をみても、平成25年度末には財政調整基金が枯渇すると見込まれる等厳しい財政状況にありました。これは、国が「三位一体の改革」のもとに地方交付税及び臨時財政対策債の総額の抑制、国庫補助負担金改革などを行ってきたことが主な要因と考えられ、自主財源が乏しく地方交付税にその財源を依存する多くの自治体が厳しい財政状況にあったと推察できます。

○表1:普通会計決算額等(平成17年度~平成21年度)
(単位:千円)
  平成17年度 平成18年度 平成19年度 平成20年度 平成21年度
歳入総額 23,078,689 19,594,713 17,125,792 18,358,064 21,908,433
歳出総額 23,032,171 18,755,011 16,742,243 17,115,809 20,992,022
歳入歳出差引額 46,518 839,702 383,549 1,242,255 916,411
翌年度へ繰越すべき財源 46,447 114,157 12,825 248,445 160,505
実質収支 71 725,545 370,724 993,810 755,906
単年度収支 71 725,474 △ 354,821 623,086 △ 237,904
実質単年度収支 △ 49,364 726,984 △ 1,126,237 △ 148,004 △ 655,888

  平成17年度 平成18年度 平成19年度 平成20年度 平成21年度











人件費 4,860,776 4,709,058 4,619,171 4,451,986 4,520,717
うち職員給 3,261,143 3,099,028 3,011,220 2,822,607 2,640,242
扶助費 1,400,988 1,326,775 1,365,222 1,502,957 1,523,789
公債費 2,897,523 2,842,448 2,924,096 2,768,490 2,819,517
9,159,287 8,878,281 8,908,489 8,723,433 8,864,023
投資的経費 3,594,144 3,458,243 3,087,795 2,986,460 5,846,772
その他経費(物件費等) 10,278,740 6,418,487 4,745,959 5,405,916 6,281,227


調



財政調
整基金
積立額 682,476 11,510 502,745 393,625 996,547
取崩額 50,000 0 777,806 782,946 473,625
年度末現在高 2,160,654 2,172,164 1,897,103 1,507,782 2,030,704
減債
基金
積立額 60 291 240,587 1,477 1,243
取崩額 0 480,000 90,000 0 0
年度末現在高 696,861 217,152 367,739 369,216 370,459
地方債残高 23,203,665 23,795,648 22,690,452 21,543,820 22,567,685
普通交付税額 7,191,889 7,036,642 6,915,146 7,177,293 7,485,757
歳入に占める普通交付税額の割合 31.2% 35.9% 40.4% 39.1% 34.2%
経常収支比率 107.5% 99.9% 100.9% 97.7% 94.3%
財政力指数 0.245 0.263 0.276 0.276 0.268

○表2:職員数の推移(平成17年度~平成21年度)(基準日:4月1日)
(単位:人)
  平成17年度 平成18年度 平成19年度 平成20年度 平成21年度


職員定数 522 516 495 477 460
増 減 △ 6 △ 21 △ 18 △ 17
普通会計 487 482 459 440 424
増 減 △ 5 △ 23 △ 19 △ 16

(2) 近年の状況(平成22年度以降の普通会計決算の状況)
 平成22年度以降も歳入の約4割を普通交付税が占めています。また自主財源は20%前後で国や県への依存度が高く、その方針に財政状況が大きく左右される状況です。
 平成17年4月に合併した竹田市では、平成28年度から平成32年度の5年間で普通交付税が段階的に低減され、平成33年度には一本算定となります。平成28年度の普通交付税は合併算定替(1割減)に加え、平成27年度国勢調査による調査人口(速報値)を適用したことによる測定単位の大幅な減(24,423人→22,342人 △2,081人)、また保育所の民営化の影響等で、平成27年度と比較し、約4億円の減額となっています。
 一方歳出では、人件費は平成24年度以降減少していましたが、平成27年度は約1億5,700万円増加しています。定員管理計画による職員数の減等により職員給は減少したものの、地域おこし協力隊、退職者数の増加による報酬及び退職手当がそれぞれ増加したことがその要因です。
 公債費及び地方債残高ははここ数年減少傾向です。その要因として、平成19年度以降、額の増減はありますが、毎年度繰上償還を実施し、後年度負担の軽減を図ったためと考えられます。
 扶助費については、平成22年度から平成24年度までは毎年度約1億円程度増加しています。その主な要因としては、社会福祉費及び生活保護費の増が考えられます。
 平成26年度と平成27年度はほぼ横ばいです。しかしその内容をみると、平成26年度は臨時福祉給付金が増となっているものの生活保護費が減となり、また平成27年度臨時福祉給付金が減となったものの、生活保護費や保育所の施設型給付費等が増となり、結果横ばいとなっています。扶助費については、人口構造や国の制度による影響が大きく削減が困難な状況です。
 投資的経費は平成25年度に大幅に増加しています。これは、消防庁舎の建設や衛生センターの長寿命化など大型公共事業が増加したことに加え、平成24年度の九州北部豪雨災害等の災害復旧事業を実施したことによるものです。この災害に対応するため平成24年度は財政調整基金の大幅な取崩を行っています。
 竹田市では、今後大型公共工事が予定されており、また平成32年度からは国営事業の償還も開始予定です。普通交付税の減額が見込まれ、また歳入の80%前後が依存財源である竹田市においては、国の方針を注視しつつ、歳入に見合った財政運営が求められています。

○表3:普通会計決算額等(平成22年度~平成27年度)
(単位:千円)
  平成22年度 平成23年度 平成24年度 平成25年度 平成26年度 平成27年度
歳入総額 18,369,164 19,125,057 19,682,936 22,535,156 21,292,434 19,343,610
歳出総額 17,374,691 18,106,336 18,621,841 21,553,504 20,201,218 18,133,320
歳入歳出差引額 994,473 1,018,721 1,061,095 981,652 1,091,216 1,210,290
翌年度へ繰越すべき財源 203,588 122,134 243,556 94,326 204,330 352,235
実質収支 790,885 896,587 817,539 887,326 886,886 858,055
単年度収支 34,979 105,702 △ 79,048 69,787 △ 440 △ 28,831
実質単年度収支 632,581 611,774 92,504 474,802 149,949 274,090











人件費 3,826,683 4,011,015 4,112,159 3,868,565 3,686,605 3,844,008
うち職員給 2,441,631 2,430,251 2,469,239 2,224,499 2,224,297 2,201,388
扶助費 1,854,913 1,957,044 2,067,495 2,098,357 2,175,731 2,173,643
公債費 2,825,727 2,706,963 2,742,501 2,472,768 2,229,541 2,100,393
8,507,323 8,675,022 8,922,155 8,439,690 8,091,877 8,118,044
投資的経費 2,387,158 2,576,932 3,219,968 6,065,928 4,792,101 2,610,631
その他経費
(物件費等)
6,480,210 6,854,382 6,479,718 7,047,886 7,317,240 7,404,645


調



財政調
整基金
積立額 1,220,151 403,391 202,696 203,628 255,608 257,921
取崩額 0 0 379,472 0 175,000 0
年度末現在高 3,250,855 3,654,246 3,477,470 3,681,098 3,761,706 4,019,627
減債
基金
積立額 517 28,661 250,120 220,348 200,262 202,352
取崩額 0 0 308,329 185,362 57,101 129,872
年度末現在高 370,976 399,637 341,428 376,414 519,575 592,055
地方債残高 21,330,228 20,217,243 18,594,026 17,751,795 16,687,090 15,577,005
普通交付税額 8,237,437 8,191,132 8,183,597 8,157,708 7,995,419 7,968,502
歳入に占める普通交付税額の割合 44.8% 42.8% 41.6% 36.2% 37.6% 41.2%
経常収支比率 86.2% 89.8% 91.8% 87.4% 87.3% 88.8%
財政力指数 0.253 0.243 0.237 0.236 0.234 0.234

○表4:職員数の推移(平成22年度~平成27年度)(基準日:4月1日)
(単位:人)
  平成22年度 平成23年度 平成24年度 平成25年度 平成26年度 平成27年度


職員定数 435 429 421 410 390 378
増 減 △ 25 △ 6 △ 8 △ 11 △ 20 △ 12
普通会計 402 396 388 377 358 347
増 減 △ 22 △ 6 △ 8 △ 11 △ 19 △ 11

2. 竹田市の人口と産業構造

 竹田市の人口は、平成27年国勢調査では22,332人です。平成22年と比較すると5年間で約2,000人減少しており、平成2年調査から人口減少が続いています。また、平成27年の人口伸率は△8.6%となっており、その比率は上昇しています。さらに、国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、平成37年には、人口は2万人を割り込み、平成52年には13,524人となる見込みです。
 年齢階層別に人口をみると、高齢者(老年人口)の割合は平成27年調査で44.5%とここ20年間で16.3ポイント上昇し、高齢化が著しく進行しています。一方、同期間に15歳未満の年少人口は13.8%から9.2%へ、15歳から64歳の生産年齢人口は57.8%から46.3%へ減少しています。国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、高齢者割合はさらに上昇し、平成37年以降は市民の2人に1人が65歳以上の高齢者となり、平成52年には80歳以上の女性が市全体の約2割を占めることが予想されています。人口減少、高齢化に伴い貴重な自主財源である市民税への影響が危惧されます。
 一方、産業別就業者数の構成では、就業者の総数は減少傾向にあり、また第2次産業の割合が少ないことがみてとれます。さらに、竹田市の主要産業である第1次産業もその就業者数は調査を追うごとに減少し、平成22年と平成27年を比較すると約600人減少、伸率にして△14.1%となっています。年少及び生産年齢人口の減少と高齢化により第1次産業の就業者が減少していることが考えられます。この状況は、米を中心に特産品であるカボスや椎茸、トマトやスイートコーンといった野菜、サフランをはじめとする花き、肉用の豊後牛などを生産している竹田市の農林業や畜産業の衰退、農地の荒廃等の要因となります。
(資料:平成27年10月策定 竹田市地方創生TOP総合戦略)

○表5:人口の推移
  平成2年 平成7年 平成12年
人数 構成
割合
対前回比
人数伸率
人数 構成
割合
対前回比
人数伸率
人数 構成
割合
対前回比
人数伸率
15歳未満 5,170 16.0 4,200 13.8 △ 18.8 3,399 11.8 △ 19.1
15~64歳 19,856 61.3 17,564 57.8 △ 11.5 15,619 54.4 △ 11.1
65歳以上 7,372 22.8 8,559 28.2 16.1 9,663 33.7 12.9
総 数 32,398 30,368 △ 6.3 28,689 △ 5.5
  平成17年 平成22年 平成27年
人数 構成
割合
対前回比
人数伸率
人数 構成
割合
対前回比
人数伸率
人数 構成
割合
対前回比
人数伸率
15歳未満 2,767 10.4 △ 18.6 2,289 9.4 △ 17.3 2,051 9.2 △ 10.4
15~64歳 13,680 51.6 △ 12.4 12,135 49.7 △ 11.3 10,335 46.3 △ 14.8
65歳以上 10,080 38.0 4.3 9,954 40.8 △ 1.3 9,937 44.5 △ 0.2
総 数 26,534 △ 7.5 24,423 △ 8.0 22,332 △ 8.6
資料:総務省 国勢調査

3. 公共施設の状況

 平成26年度末現在で竹田市には311に及ぶ建築物系(ハコモノ)施設があり、総延床面積は261,798m2です。市民一人当たりの延床面積は10.9m2で、全国平均の3.22m2と比較すると約3.4倍となっています。また、合併前の市町で保有していた施設を継続して使用しており、同時期に建設した類似施設が多数ある状況です。
 施設の主な内訳は、文化教育系施設(市民文化系・社会教育系・スポーツ等)が56.8%を占め、その中でも学校教育系施設が約31.1%、スポーツ・レクリエーション系施設が14.6%を占めています。また、平成元年から平成17年度にかけて整備した施設が中心となっており、保有施設の30.4%が旧耐震基準の施設となっています。
 現在保有するすべての施設を維持すると仮定した場合、今後40年間で約1,040.0億円(年平均26.1億円)の改修、更新費用が必要であると推計されています。また市民生活に欠くことのできない都市基盤施設(インフラ)を含めるとその額は2,108.5億円(年平均52.7億年)かかる試算となっています。竹田市の歳出決算額は約200億円前後ですので、この額はその4分の1にあたる額となります。
 普通交付税の減額、今後の人口の動向とその構造を考慮すると、公共施設の大規模修繕や更新等は竹田市の財政を圧迫することが見込まれます。そのため施設の集約や除却等の検討が必要となりますが、単に財政負担の軽減を目的とした検討ではなく、施設として十分な機能を保持しているか、利活用の状況、行政サービスの質の維持等の観点などを検証したうえで、効果的な配置を検討していかなければなりません。また、民間企業や市民との協働などその維持管理費の削減に取り組む必要もあります。
(資料:平成28年2月策定 公共施設等総合管理計画)

○表6:産業別就業者数等
  平成2年 平成7年 平成17年
就業者数 構成
割合
対前回比
人数伸率
就業者数 構成
割合
対前回比
人数伸率
就業者数 構成
割合
対前回比
人数伸率
第1次
産業
7,071 40.6 5,924 34.9 △ 16.2 4,661 33.2 △ 21.3
第2次
産業
2,808 16.1 3,284 19.3 17.0 2,161 15.4 △ 34.2
第3次
産業
7,534 43.3 7,781 45.8 3.3 7,212 51.3 △ 7.3
総 数 17,418 16,990 △ 2.5 14,046 △ 17.3
  平成22年 平成27年
就業者数 構成
割合
対前回比
人数伸率
就業者数 構成
割合
対前回比
人数伸率
第1次
産業
4,179 33.6 △ 10.3 3,588 31.4 △ 14.1
第2次
産業
1,558 12.5 △ 27.9 1,401 12.3 △ 10.1
第3次
産業
6,615 53.3 △ 8.3 6,366 55.7 △ 3.8
総 数 12,420 △ 11.6 11,424 △ 8.0
資料:総務省 国勢調査

4. 今後について

 普通交付税の減額や人口の減少、公共施設の維持管理に関する検討の必要性等、竹田市の抱える課題は多数あります。また産業や農地等の荒廃など人口減少から波及する影響は計り知れません。このような状況は竹田市のみが抱える問題ではなく、全国的な問題であると推測できます。
 日本全体で「人口減少・超高齢社会」を迎えている中、国では平成26年9月3日に、まち・ひと・しごと創生本部を設置し、地方への新たな人の流れを生み出し、「まち」に活力を取り戻す地方創生の実現に向け取り組みを行っています。その取り組みとして、地方公共団体は「人口ビジョン」及び「地方版総合戦略」を策定しています。さらに地方版総合戦略に基づき地方公共団体が実施する施策について、地方創生関係交付金が交付されています。
 竹田市においても、この交付金の交付を受け、貴重な地域資源である温泉を活用した事業や農産物のブランド化等の事業を展開しています。また、人口減少や高齢化対策として、地域おこし協力隊の積極的な受け入れ、子育て定住促進住宅の建設、利用していなかった民間施設を改修した若者定住促進住宅など移住定住施策を実施しています。
 高齢化等により自主財源や普通交付税の減額が見込まれる状況で、地域の行政需要に応えながらも安定した財政運営が求められます。今後も国や県の制度を活用し、竹田市の主要な産業である第1次産業の活性化に資する施策や移住定住施策等を展開していく必要があります。その一方で、老朽化した施設の除却や集約化を行い大規模修繕や維持補修費等の支出を削減していく努力も必要です。
 地方創生交付金等の国や県の制度を活用し、その地域ならではの施策を展開しながら、市町村のみでは解決が困難な課題や地域活性化施策については、国、県、市町村の枠を超え広域的な視点での施策展開が必要であるとともに、民間や地域住民の協力が不可欠ではないかと考えます。