【論文】

第37回土佐自治研集会
第4分科会 “土佐さんぽ”~若者と考える自治体の未来~

 八王子自治研センターでは、子どもの貧困問題から地域における様々な事例の研究活動を行っている。2018年度は、2020年に施行される子ども育成計画改定に向けた初年度でもあり、2015年策定の八王子市子ども育成計画が掲げた理念でもある「子どもにやさしいまち八王子」の検証、とりわけ子どものまちづくりへの参画に関しての検証を行った。「子どもの参画」が、次世代育成や地域社会の継続性などに必要であることを述べた。



子どもにやさしいまち八王子と子どもの参画
―― 次世代育成と選択され継続される
地域社会の創造に向けて ――

東京都本部/八王子市職員組合・一般社団法人八王子自治研究センター・
子どもの事例検討プロジェクトチーム

1. はじめに 研究の視点と方法

(1) 研究方法
 八王子自治研センターでは、佐藤千恵子氏(八王子自治研センター事務局長)をチームリーダーとして、学識経験者である井上仁氏(日本大学文理学部教授)を座長に、前田信一氏(元宝仙教育大学・元日大非常勤講師)、鶴田咲良氏(民間保育所保育士)の構成による研究チームをつくり、子どもの貧困問題を焦点化し事例検証を重ね研究を行ってきた。これらの研究活動では、子どもの権利の実現(子どもの権利条約)をその第一理念として、子どもの最善の利益がかなう(実現する)地域社会のあり方を研究目標として検証を重ね、それらの検証結果については、市民講座や八王子市職員組合員に向けたセミナーなどの開催を通じて啓発活動や政策提言につなぐ取り組みを行っている。
 具体的には、保育園・学童保育所などの現場職員を交えた事例検討会や先駆的自治体への視察、八王子市の児童館職員(子どもの意見発表会運営担当)や子どものしあわせ課職員など関係所管へのヒアリングなどを行いながら、子どもの視点に立った課題の検証を行ってきた。
 あわせて、2017年度八王子市が展開した「市制100周年記念事業」の中で、8分野のテーマを持つビジョンフォーラム(図1)が、「子どもの未来社会をどのように作るか」ということで焦点化(100年後の八王子市)され、子どもたちに用意をされていた「子どものミライ☆フォーラム」だけではなく各ビジョンフォーラムにも「子どもの未来社会の創造」がテーマとして「子どもの参画」を取り入れた事業となった経過や実践の検証も行った。そして、「八王子市子ども育成計画」の基本施策に掲げられている「子どもの権利を大切にするまちづくりの推進」(※1)の理念にある『夢と権利を守る』、『子どもにやさしいまちづくり』を進めるために、今回の研究主題である「子どもの参画」のあり方について、あり方の「基本的考え方の構築」と「八王子市子ども育成計画が掲げる理念が次の計画に生かすことができるか」などについて政策研究を行った。

(2) 研究の視点
 八王子自治研究センターでは、子どもの貧困問題や地域の子育て支援における課題などの事例研究を重ねている。2017年度は、八王子市においては市制100周年事業の催しが展開をされ、その中で開催されたビジョンフォーラム(8分野)全てにおいて「子どもの参加」が実現し、子どもの意見が表明をされた。そして、市政100周年記念行事の締めくくりとして開催された「子どもミライ☆フォーラム」では、日本ユニセフ協会専務理事の早水氏の基調講演なども行われ、今回の「子どもの参画」が、今後の八王子市の施政や地域社会の創造に向け、柱に据えられているように外見上は見ることができた。そして、「子どもにやさしいまち八王子」として「子どもの参画」が実現しているかのような様相であったことも事実である。
 市長は、ビジョンフォーラムのまとめとして「『市の取り組みにもっと若者たちに関わってほしい』という強い思いがありましたので、ビジョンフォーラムに多くの中学生が関わってもらえたことには、非常に大きな意義がありました。」「『子どもたちがまちづくりに関わっていく』ということはとても重要です。自分たちが主役になる時代の八王子について考えた子どもたちの意見を取り入れていくことで、より良いまちづくりができるでしょう」(※2)と評価している。
 しかし、評価し褒め称えることが「子どもの参画」を実現する事になるのか。子どもの権利条約や児童福祉法の理念に示された子どもの意見表明を自治体が実現するには、制度化し継続化することや表明された意見の具現化と検証をする仕組みが必要ではないかという視点から、改めて八王子市の「子どもの参画」についての検証を行った。

2. 子どもの参画の実現基盤

(1) 子ども権利条約と児童福祉法
 子どもの権利条約第12条では「第12条 子どもは、自分に関係のあることについて自由に自分の意見を表す権利をもっています。その意見は、子どもの発達に応じて、じゅうぶん考慮されなければなりません」(※3)と記され意見表明権として重要な項目として列記されている。
 児童福祉法では、「第一条 すべて児童は、児童の権利に関する条約の精神にのっとり、適切に養育されること、その生活を保障されること、愛され、保護されること、その心身の健やかな成長及び発達並びにその自立が図られること、その他の福祉を等しく保障される権利を有する。」「第二条 全て国民は、児童が良好な環境において生まれ、かつ、社会のあらゆる分野において、児童の年齢及び発達の程度に応じて、その意見が尊重され、その最善の利益が優先して考慮され、心身ともに健やかに育成されるよう努めなければならない。」と明記されている。また、これらは、「第三条 前二条に規定するところは、児童の福祉を保障するための原理であり、この原理は、すべて児童に関する法令の施行にあたって、常に尊重されなければならない。」とあり、子どもの権利として意見表明権や参画についての規定が2016(平成28)年改正で明記をされている。
 法令の内容に従えば、子どもの権利条約第12条2項「児童は、特に、自己に影響を及ぼすあらゆる司法上及び行政上の手続において、国内法の手続規則に合致する方法により直接に又は代理人若しくは適当な団体を通じて聴取される機会を与えられる」とあるように、地域社会の暮らしの中で子どもの生活に影響することに関しては、子どもたちの意見を聴取することも義務付けられており、自治体としてその仕組みをつくることは国際法令だけでなく児童福祉法の規定からしても必要とされたと解すべきである。

(2) 八王子市の取り組み
 八王子市では、先に述べた市制100周年記念事業で開催された「子どもミライ☆フォーラム」だけではなく、市長・教育長への「子ども意見発表会」を毎年行ってきた。
 この事業は、2001(平成13)年9月に『八王子市子どもすこやか宣言』の普及啓発事業として「子ども会議」の開催に始まり、以後もその形式を変えながら継続的に取り組まれてきた。この事業の目的は、「『子どもの意見表明権』を具体化するために、子どもが『主体的に活動に参加できる機会を確保』することとしている。『子ども議会』『子どもミーティング』と形式を変更し、2013(平成25)年度から『子ども意見発表会』として児童館を中心に開催しています。」(※4)として実施している。
 この「子ども意見発表会」の活動は、八王子市の児童館職員が中心となって取り組まれ、2013年度は子どもたちの力で4千人を超えるアンケート調査の実施も行っている。具体的には、各児童館で子どもたちが身近な地域へ出向きアンケート調査を実施し、その調査結果を子どもたちが分析する作業を行うなど、子どもの力を内外に示す機会となった。また、「八王子市子ども育成計画」の策定では、児童福祉審議会委員とその子どもたちとの意見交流会が開催され、そこでの意見を審議会答申に反映をさせるなど、子どもに関わる計画づくりの実現化をめざすための施策に「子ども参画のしくみづくり」を盛り込むことができた。(※5)

(3) 子どもの参画の実現とは
 子どもの参画の実現の段階は、ロジャー・ハート(Roger,A.Hart)(※6)が示している参画の梯子がわかりやすい。(※7)
 上図は、ロジャー・ハートの示した参加の梯子である。ロジャーは、参画の形を「非参画」と「参画の段階」として示している。
 参画の段階についての論評は、ここでする目的ではないが、この参画の梯子は目標とすべき事柄ではないことも明確にする必要がある。参画の梯子は、子どもたちの参画をサポートする大人社会が子どもの参画状態を評価するために用いるべきもので、実際の参画の段階はその時の子どもたちの状態や地域社会の環境などにより左右されるものである。従って、「子どもが主体的に取りかかり、大人と一緒に決定をする」が一番良い段階と簡単に評価すべきことではない。
 子どもの参画は、大人の行政への参画とは異なり、子どもの育ちの権利を保障する一環でもあり、教育の一環でもある。発達や子どもの状況によりその段階もまた異なることから、すべて子どもの参画がこのようでなければならないということはいえない。このことは、子どもたちに要求し、期待をするべきことではない。
 自治体が、子どもの参画を制度化するということは、イベントなどの一過性のものにならないように留意し、主体的に参加をした子どもたちが、主体的に意見を表明することが大切である。そして、自治体や地域社会は、子どもたちの意見に耳を傾けることと並行して、制度政策への反映に役立たせるということが目的となる。
 子どもの意見表明のしくみづくりで問題視されるのは、このような機会を与えられるのは一部の子どもであり、子どもたち全体の意見を代表するものではないから意見を聞くに値しないというような意見・見識が示されることである。このような意見に対して反論するには、ロジャー・ハートの参加の梯子は有益である。

(4) 八王子市の子ども参画の検証
 先に述べた八王子市の「子どもミライ☆フォーラム」の取り組みは、市政100周年記念事業の位置づけであると同時に、これまでの「子ども意見発表会」の取り組みや「八王子市子ども育成計画」が示した施策の報告などが複合的に反映されたものであると捉えることができる。
 市政100周年記念事業の8分野にわたるビジョンフォーラムにおける中学生の意見聴取と意見表明は、課題別に中学校の生徒会に割り振られ、いくつかの中学校が参加をする形で行われた。そのことは、参加の梯子で言えば5段階「子どもが大人からの意見を求められて体験を与えられる」と言え、全市的な取り組みで実現できたことは評価できる。
 また、「子どもミライ☆フォーラム(右写真=子ども大使【子ども企画委員】ニュース④から子どもミライ☆フォーラムの様子(八王子市ホームページより)」の取り組みでは、参加者は公募によって小学生から高校生までの様々な子どもたちが自主的に集まって形成をされていた。表題は、市政100周年記念事業ということもあり自由に選択できるものではなかったが、それぞれの課題を子どもたちの意見から整理をして、論点の集約や意見表明などを子どもたちの力で行った。あわせて、各児童館の子どもたちがアンケート調査を実施し、その結果分析や自らの地域の子どもの問題について意見を出し合い、パネル展示などで意見表明を行った。これらの活動は、参加の梯子では、6段階「大人がしかけ子どもといっしょに決定する」にあるのではないかと評価できる。八王子自治研究センターでは、このような形で行われた市政100周年記念事業やこれまでの子ども意見発表会について再評価をした。
 市政100周年記念事業では、各ビジョンフォーラムで子どもの意見が表明されたことは評価に値し、意味があることは先に述べた市長のコメントの通りだと思う。しかし問題は、この取り組みが継続され八王子の施策への反映を約束したものではない点だ。市政100周年事業における未来社会への取り組みとして、先に述べたような宣言や計画などのあり方がイベントとして反映されたにすぎず、示された子どもたちの意見が施策や制度に反映されるかについては、今後の課題となっている。
 「子どもの意見表明」のあり方については、議会と異なり子どもたちの意見の表明される内容は、その都度子どもたちが属する社会の問題に対する表明である。このことは、継続的に聴取を行う必要があり、継続性がなければ子ども社会の全体像を明らかにしていくことはできない。
 八王子自治研究センターでは、「子どもの参画」に関する研究について先駆的自治体の視察も行ってきた。2017年7月には、「子どもの権利条例(札幌市子どもの最善の利益を実現するための権利条例)」を持つ札幌市を視察している。所管である子ども未来局子ども育成部子どもの権利推進課へのヒアリングでは、「札幌市の子ども参画の中心的なものが、『札幌市子ども議会』で、子ども自身が札幌市のまちづくりについて考え、市政に参加し、まちづくりへの理解を進めることで『子どもの権利条約』や『札幌市子どもの権利条例』(※8)が示している子どもの意見を表明する権利を実践できる場としている」とのことであった。子ども議会は、小学5年生から高校生の子どもたちが「子ども議員」として専門委員会などに分かれて議論をして、その結果を札幌市に対し提案を行っている。札幌市の子ども参画では、子ども未来局以外には条例による子ども参画の義務づけはないが、近年では環境局などで積極的に子どもを未来の人材ととらえ、育成だけを目的とするのではなく子どもの参加の機会を企画化し、子どもが主体的に市民として考えられる機会を設けるなど施政に子どもの意見を活かすような事例があり、条例の効果が出てきていることなどを知ることができた。
 八王子市と札幌市の比較では、子ども参画の活動のやり方ではそれほど差異があるとは言えないが、大きな相違点は制度化にある。条例に基づく制度の持つ意味を考えなくてはならない。八王子市の取り組みは、宣言や計画の示した理念などによるものだが、施策の実施にあっては、制度化されていないために児童館職員のマンパワーによる実施と言える。これは、現場力が八王子市の子どもの意見表明の機会を支えているとも言え、そのことについては評価できるが一方で限界も指摘できる。意欲と意味を理解した職員が不在となったとき、子どもたちの活動の継続性をどのように保障し、表明された意見をどこにどのように伝えるのかなどの問題が生じることになる。
 あわせて、八王子市の子どもたちへの啓発や教育的効果、市民への波及効果などを考えると、その年度ごとに異なるやり方や取り組みでは、安心して継続的に取り組む中での子どもの成長や人材の育成が必ずしも担保されたものとならない。大人や行政側から見える子ども社会の実態や理解などは、視察時での札幌市担当者が言う「子どもを未来の人材ととらえ、育成だけを目的とするのではなく、子どもの参加の機会を企画化し、子どもが主体的に市民として考えられる機会を設けるなどの条例の効果が出てきている」との指摘からも課題が見えてくる。
 「子どもの参画」の意味は、「子どもは地域社会で教育され育っていく。地域社会の継続性を図るためには、地域社会の文化を継承し、育った地域社会に残ることを選択する若者が必要となる。少子化の中で地域社会の関係性の希薄化や子どもの育成目的が教育に矮小化されている現代社会では、若者に地域社会に住むことを選択させることは難しい課題となる。それを選択するには、主体的な参画に基づく自治体への愛着が必要となる。」と考えられる。これは、地域社会の存続をどのように図るかは、子どもの参画から都市への愛着形成(アイデンティティの形成)が求められ、継続的に選択される地域社会となるためには、まさに都市戦略(施策)として地域社会の存亡をかけたものとなる。その意味でも、子ども期から子どもの参画を条例に制定する中で、「地域人材の育成」を進めるための理念と仕組みを持つ札幌市は先見性を持っていると言える。

3. 八王子市の取り組みの検証

 八王子自治研究センターでは、この間の八王子市の取り組みについて検証を進め評価といくつかの課題について検討を加えた。

(1) 児童館のマンパワーと子ども参画の評価
 児童館は、児童福祉法第40条〔児童厚生施設〕として位置づけられ「児童館等児童に健全な遊びを与えて、その健康を増進し、又は情操をゆたかにすることを目的とする施設とする。」とされている。(※9)八王子市の児童館は公設公営型で運営をされており、地域の子どもたちの安心に寄与し、遊びの提供だけでなく子どもの育成に「子どもの参加」を基盤に大きく貢献していると言え、児童福祉法の理念(第二条)(※10)及び厚生労働省のガイドライン(※11)に沿った運営がしっかり行われていることになる。
 先に述べた「八王子市子ども育成計画」での「子どもの参画の促進」は、市長・教育長への意見発表会(右写真)という形で児童館職員を中心とした活動が施策として位置づけられている。また、子どもの募集や意見集約などでは、各児童館にいるユースリーダー(高校生・大学生等)が子どもたちのサポート役として活動に参加している。さらに子どもたちのアンケート活動などでは、児童館での集計作業なども担うなど、そのマンパワーには敬意を表すに値する活動を展開している。これらの活動は、「遊びの交流」からさらに踏み込んだ「交流の場の創造」となり、子どもの個々の問題発見にもその効果を及ぼしていることが、子どもたちの様子などを観察した結果からも観ることができ子どものエンパワーメント性を高めている取り組みだと認められる。
 また、八王子市の児童館の取り組みは、検証の論拠としたロジャー・ハートの参加の梯子から見ても、地域に根差し地域の子どもたちが主体となる子どもの参画を、イベントに終わらせていない点でも評価に値する。そして、形態の変化はあっても十数年にわたる継続的な取り組みということでは、地域の子どもの問題を市民への伝達や行政(子ども育成計画等)に反映をさせ、さらに「市制百周年記念事業」に子どもの参画を反映させるなどその効果は大きいと言える。
 一方で、これらの運営がマンパワーへの依存が高く、現在形も職員が支えているにすぎず、マンパワー依存の弊害(現実に実施され効果を上げていると評価され)によって、制度化や条例化への道筋(政策化)をされていないことが課題である。八王子市社会福祉審議会児童福祉分科会では、意見書(※12)等も提出され、制度化への論理的な基盤は整えられているが、政策化への道筋が明らかにされていない現状がある。

(2) 次世代育成のシステムについて
 「子どもの参画」のあり方については、次世代の育成に関わり、地域社会の存続・継承の人材育成に関わるということが八王子自治研究センタープロジェクトチームの基本的な考え方である。子育ての環境のあり方が、地域の選択につながる。そして、そのことが地域社会の存続や文化等の継承にもつながることを、職員や市民に向けて発信してきた。
 制度政策化の必要性については先に述べたが、次世代育成では八王子市の児童館の取り組みでも課題が見えてくる。子どもの参画を支えるユースリーダー育成がシステム化されていない点である。札幌市は、子ども議会運営の中でユースリーダーを位置付けているが、八王子市では職員の裁量のなかで児童館を巣立つ子どもに声をかけサポートに回ってもらっている現状がある。子どもの参画を若者世代が引き継ぐことで、次世代育成のシステムが完成することになる。そのためには、ユースリーダー育成のシステム化も八王子市の課題であると言える。
 児童館型「子どもの参画」のあり方は、専門職の関与がなされ先に述べたように子どもの権利条約や児童福祉法の理念などの実現への深まりが期待できることから、児童館や児童福祉分科会の提言にあるような児童会や生徒会の活用は効果的であると思う(条例化して制度化されれば)。そのためには、新たな提案として地域の子ども・若者育成支援の拠点として児童館を明確に位置付け、地域社会の子ども・若者の育成の環境への影響力を持つようにすべきであると考える。児童福祉法や児童館ガイドラインの枠を超えて、子ども若者ビジョン(子ども・若者育成支援推進法)(※13)の理念に沿った「子ども・若者相談支援センター(※14)」としての性格を有するチャイルド・ユースセンター(仮称)に転換をしていく必要がある。俗人的な運営システムではなく、継続性を保証するとともに行政は担当する人材の育成を図ることも求められることになる。これまでの八王子市の取り組みを評価するとともに、この活動を次世代にしっかり継承をしてもらうには、子どもから若者支援への連続した次世代育成支援システムの構築が必要である。

4. 子ども参画と八王子市児童館(まとめ)

 八王子市の児童館は、教育行政との連携や市長部局との連携を深めて「子どもの参画」システムを支えてきていることが評価できる点である。八王子市児童館が公設公営であることから行政の一体化を図る中で市長や教育長へのアプローチが可能にしたとも言える。さらに、これからのあり方では、児童福祉分科会意見書に示された小中学校児童会・生徒会における論議などのまとめ役として、さらには「子どもの参画」制度を支える役割・運営(子どもの活動だけでなくユースリーダー育成や市民啓発活動を含む総合的な子ども若者支援活動として)を担う機関として期待に応えられる存在と言える。もちろんセーフティーネットとしての子ども若者の総合支援機関となれば、子ども家庭支援センターや生活保護部局や児童相談所との連携など情報の共有化などの面でも公設公営であることが求められよう(今回はこの課題の論じる場でないのでこの程度の記述にとどめる)。
 児童館職員を中心としてきたマンパワーの継承やユース世代の育成及び市民啓発の担当部署としての役割を担うことは、現在の児童館のあり方では限界がある。児童福祉法の児童厚生施設の規定では18歳未満が対象であり、現在の取り組みでは高校生世代までしか対象とならない。大学生や青年世代の育成までと社会教育や市民啓発までの視野にしていくには、行政機関としての限界性もある。だからこそ公設公営であるメリットを生かして(指定管理や委託になじまない施設に転換)八王子市独自のチャイルドユースセンター(前述)のような多機能専門型施設への転換も今後の子ども参加を支える大きな課題であると思う。
 そのうえで先に述べたように札幌市の事例をひくまでもなく、これらの課題に含めて「子どもの参画」を制度化していくとの必要性を改めて示した。ロジャー・ハートのいう参加論にとどまらずユニセフが示す「子どもにやさしいまち(※15)」を実現するために、ユニセフの示す「1.子どもの参画:子どもの意見を聞きながら、意思決定過程に加わるように積極的参加を促すこと。」「2.子どもにやさしい法的枠組み:子どもの権利を遵守するように法制度的な枠組みと手続きを保障すること」の実現をめざすべきである。前述した市制100周年記念事業でも示された子どもたちのパワーを生かすまちづくりのために、これまでの「子どもの意見発表会」の子どもたちや職員たちの取り組みがその基盤を形成している今こそ、子ども育成計画が示している「子どものやさしいまち八王子」(※16)の実現をすべき時である。
 八王子自治研究センターの今後の取り組みとしては、市民啓発活動を積極的に行うことで、市民や八王子市職員、議員など関係する人々に、八王子市の未来社会づくりに子どものパワーを入れ込み、地域の人材の育成、各世代の活力回復(活発なセッションの実現)のために貢献すべきであると考える。八王子自治研究センターが、研究活動から市民啓発及び交流の促進を図るためにさらに自治研パワーを発揮し、八王子市内に大きな波紋を形成できるように頑張る八王子市職員とともにもう一歩先を進みたい。

(文責・日本大学文理学部 井上  仁)




引用文献

(※1) 『第3次八王子市子ども育成計画「ビジョン すくすく☆はちおうじ」』2015(平成27)年3月発行 八王子市 P25
(※2) 『八王子市市制100周年記念事業ビジョンフォーラム 次の100年へ「八王子の未来」への提言』 
 2018年3月 八王子市 p5-6 市町インタビューから
(※3) 子どもの権利条約 日本ユニセフ協会抄訳
 日本政府訳では、「第12条 締約国は、自己の意見を形成する能力のある児童がその児童に影響を及ぼすすべての事項について自由に自己の意見を表明する権利を確保する。この場合において、児童の意見は、その児童の年齢及び成熟度に従って相応に考慮されるものとする。
 このため、児童は、特に、自己に影響を及ぼすあらゆる司法上及び行政上の手続において、国内法の手続規則に合致する方法により直接に又は代理人若しくは適当な団体を通じて聴取される機会を与えられる。」
(※4) 八王子市ホームページ 子ども意見発表会から引用
(※5) 『第3次八王子市子ども育成計画「ビジョン すくすく☆はちおうじ」』2015(平成27)年3月発行 八王子市 P33
(※6) ロジャー・ハート  ニューヨーク州立大学教授(発達心理学、環境心理学)
 子どもに関する発達理論の環境デザインへの適用と子どもの環境教育を専門とし環境教育の必要性を持続可能なコミュニティづくりから「子どもの参画」の重要性を提唱
(※7) ロジャー・ハート著、木下勇・田中治彦・南博文 監修、IPA日本支部 訳 「子どもの参画―コミュ ニティ作りと身近な環境ケアへの参画のための理論と実際」  2000年 萌文社
(※8) 札幌市子どもの権利条例 子ども参加の理念「子どもの視点に立ったまちづくり  行政や学校・施設、地域などあらゆる場面で、子どもが参加する機会を充実させ、子どもに住み良いまちづくりを実践していきます。子どもは、こうした参加の経験を積み重ねることで、まちづくりの担い手として成長していきます。」札幌市ホームページより
(※9) 児童福祉法 第40条〔児童厚生施設〕児童厚生施設は、児童遊園、児童館等児童に健全な遊びを与えて、その健康を増進し、又は情操をゆたかにすることを目的とする施設とする。
(※10) 児童福祉法 第二条 全て国民は、児童が良好な環境において生まれ、かつ、社会のあらゆる分野において、児童の年齢及び発達の程度に応じて、その意見が尊重され、その最善の利益が優先して考慮され、心身ともに健やかに育成されるよう努めなければならない。(アンダーラインは著者)
(※11) 児童館ガイドラインについて 厚生労働省雇用均等・児童家庭局長 2011(平成23)年3月31日通知
 <参照した主な内容> 3児童館の活動内容(4)子どもが意見を述べる場の提供 (5)地域の健全育成の環境作り (6)ボランティアの育成と活動 4児童館と家庭・学校・地域との連携 等
(※12) 子どもにやさしいまち実現に向けての中間報告(案)八王子市子どもにやさしいまち条例(仮称)検討についての意見書 平成30年1月31日八王子市社会福祉審議会児童福祉分科会第4回会議資料八王子市ホームページ
 http://www.city.hachioji.tokyo.jp/kurashi/kosodate/011/002/001/p001124_d/fil/h29_bunkakai_4shiryo.pdf
(※13) 子ども・若者育成支援推進法(平成二十一年七月八日) 第二条(基本理念)抜粋
 二 子ども・若者について、個人としての尊厳が重んぜられ、不当な差別的取扱いを受けることがないようにするとともに、その意見を十分に尊重しつつ、その最善の利益を考慮すること。
 四 子ども・若者育成支援において、家庭、学校、職域、地域その他の社会のあらゆる分野におけるすべての構成員が、各々の役割を果たすとともに、相互に協力しながら一体的に取り組むこと。
 五 子ども・若者の発達段階、生活環境、特性その他の状況に応じてその健やかな成長が図られるよう、良好な社会環境(教育、医療及び雇用に係る環境を含む。以下同じ。)の整備その他必要な配慮を行うこと。
 七 修学及び就業のいずれもしていない子ども・若者その他の子ども・若者であって、社会生活を円滑に営む上での困難を有するものに対しては、その困難の内容及び程度に応じ、当該子ども・若者の意思を十分に尊重しつつ、必要な支援を行うこと。
(※14) 同法 第十三条 地方公共団体は、子ども・若者育成支援に関する相談に応じ、関係機関の紹介その他の必要な情報の提供及び助言を行う拠点(第二十条第三項において「子ども・若者総合相談センター」という。)としての機能を担う体制を、単独で又は共同して、確保するよう努めるものとする。
(※15) ユニセフ子どもにやさしいまち 子どもにやさしいまちを作る9つの基本構造より(一部抜粋)
 1.子どもの参画:子どもの意見を聞きながら、意思決定過程に加わるように積極的参加を促すこと。
 2.子どもにやさしい法的枠組み:子どもの権利を遵守するように法制度的な枠組みと手続きを保障すること。
 3.都市全体に子どもの権利を保障する施策:子どもの権利条例に基づき、子どもにやさしいまちの詳細な総合計画と行動計画を定めて実施すること。
 https://www.unicef.or.jp/cfc/about/about05.html
(※16) 八王子市第三次子ども育成計画 すくすく☆はちおうじ 施策1 子ども参画のしくみづくり P33~P35

参考文献

喜多 明人 ほか編著 子どもにやさしいまちづくり 第二集 2013年 日本評論社
阿部 芳絵 子ども支援学研究の視座 2010年 学文社
萩原 元昭 子どもの参画―参画型地域活動支援の方法 2010 学文社
ロジャー・ハート、 木下  勇 子どもの参画 - コミュニティづくりと身近な環境ケアへの参画のための理論と実際 2000 萌文社