【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第5分科会 人口減少社会をどう生き抜くか!?

 3月31日各種メディアで衝撃的な人口推計データが公表された。頭では理解しているものの、自治体職員の立場から具体としてどう行動していけば良いのか混乱している自治体職員が多いのではないだろうか。人口減少、少子・高齢化、勤労世代の減少など、課題は山積しているが、その様な中、「住民の福祉の向上」を使命とする自治体職員が、ミライにむかってどう行動していくかを提言する。



自治体職員のミライ
―― 人口減少社会における自治体職員の役割 ――

北海道本部/清水町役場職員組合 前田  真

1. はじめに

 日本が人口減少、少子高齢化社会であることは、自治体職員、誰もが知る事実である。しかし、それを自治体職員の立場から、どうやって具体として行動につなげていけば良いか混乱している職員が多いのではないだろうか。人口減少、少子高齢化という言葉には、常に暗いイメージがつきまとう。しかし、「住民の福祉の向上」を使命とする、私たち自治体職員は、悲観してばかりはいられない。
 人口は減少しているが、役所の仕事は全く減らないどころか、むしろ増加傾向にあるとの声が聞こえてくる。一方では事実であるが、一方では未だに右肩上がり経済を前提とした、従来の仕事の枠組みから脱却できていないことが想定される。逆境の中でこそ、知恵と勇気を持って、自治体職員の立場をいかした行動が求められる。ミライに向けて自治体職員が、今後どういった役割を担っていくのか、具体としてどう行動をおこしていくのか、十勝の事例をもって提言する。

2. 道内の人口推計

 厚生労働省の国立社会保障・人口問題研究所は、3月30日、2045年までの全国の地域別将来推計人口を発表した。道内は、国勢調査が行われた2015年と比べ、25.6%減の400万人で、全道179市町村すべてで減少し、約半数の85市町村で人口が半分以下になる。全国的にも、東京都を除く46道府県で2015年度を下回り、全国人口は、16.3%減の1億642万人に落ち込む。
 北海道においても、全体では25.6%と公表されているものの、札幌市を除く減少率は35.9%、更に、市を除く町村の減少率は43.6%との推計が出ている。道内で、減少率が最も高い歌志内市は77.3%、2015年に3,585人だった人口は、30年後に813人になることが推計されている。
 十勝管内に目をむけると、全体では20.3%減少と、他地域よりは減少幅が小さいものの、最も減少率の高い本別町では、57.5%、2015年に、7,358人だった人口は、30年後に3,130人になる。浦幌町、池田町、広尾町でも50%以上の減少となる見込みである。
 高齢化率が40%を超えるのは、2015年時点で池田町のみであったが、2045年には14町村と大きく増加する。池田町の60.9%を皮切りに本別町、広尾町でも50%を超える。

長期的な人口の推移と将来推計
(備考)国土交通省「国土の長期展望」(2011年)をもとに作成。
2010年以前の人口:総務省「国勢調査」、国土庁「日本列島における人口分布の長期時系列分析」(1974年)
それ以降の人口:国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成24年1月推計)」

出典:総務省「国勢調査」(H2~H17)、国立社会保障・人口問題研究所「日本の都道府県別将来推計人口」(平成19年5月推計)(H22~H42)

3. 自治体職員の推移

 一方、北海道の市町村職員数は、2017年4月1日現在の総職員数は、55,101人で前年(54,761人)に比べ340人の増加となった。1996年の71,010人をピークにして、1997年から2013年まで17年連続で減少していたが、2014年は増加、2015年は減少し、2016年、2017年は再び増加している。
 2015年は、「地方教育行政の組織及び運営に関する法律」の一部改正に伴い一般職と特別職両方の身分を有していた教育長177人が特別職の身分のみ有することとなり調査対象から除かれたため減少しているが、その影響を除くと107人の増加となっており、実質、4年連続の増加となっている。(定員管理調査より)

道内市町村等の総職員数の推移
(札幌市を除く。各年4月1日現在)

4. ミライに求められる自治体職員の役割

 こうした中、「住民の福祉の向上」を使命とする職員は、どういった役割が求められているのだろうか。人口減少社会の中で、自治体職員に求められる役割、課題等を大きく5つにわけて考えてみる。

(1) 急激な人口減少に対応したミライ型社会の構築
 ミライにむかっての社会には大きな課題が4つある。ひとつは、出生数の減少。2つ目は、高齢者の激増。3つ目は勤労世代の激減に伴う社会の支え手の不足。そして4つ目は、その3つが複雑にからみあいながら進行する人口減少である。子育て支援、教育の充実という若い世代の課題、介護、福祉サービスの充実という高齢者世代の課題、更に二つの世代を支える生産者世代の課題の全てに同時に応えていかなければならない。しかも、それは、昨日と今日と目に見えて変化を実感できることではなく、ゆっくりと、しかし確実に社会が変化していく中、長い時間軸で考える必要がある。

(2) 財政破綻と地域の特性に即した地域課題の解決
 国からの財政措置をあてにした市町村の運営は将来的に不安定になると予想する。このまま人口減少、少子高齢化が進めば、2040年には東京都の財政が赤字に転じる可能性もあり、従来型の東京都民の税金の再配分をメインとした交付金、交付税頼みの自治体運営モデルが破綻する可能性がある。将来的に、国費に依存しない持続可能な財政と、持続可能な地域経営を確立していく必要がある。
 今後、財政措置を主軸にした合併議論が再度、巻き起こるかもしれないが、スケールメリットのみを追求した平成の大合併が成功していないことは周知の事実である。自分たちの地域の課題は、自分たちで解決するという自治の原則を守るとともに、歴史、風土、人々の営みからうまれた地域の魅力を次世代につないでいく必要がある。

(3) AIやITによる予測不能な時代への対応
 子どもたちの65%は大学卒業時には今は存在していない職業に就くといわれている(米デューク大学キャンシー・デビットソン2011年)。都市部では既にかなりの業務がAI化されており、日本の労働人口の49%が技術的には人口知能等で代替可能とされている(2015年野村総研)。人口減少するスピードとのバランスにもよるが、省力化された労働力は、次の仕事を求めることになる。この流れは様々な職種でみられると予想されるため、将来的に効率化、省力化されない業種、職種は何なのかということを適切に見極める必要がある。

(4) 従来想定できなかったような複合的な課題への対応
 人口が右肩上がり時代は、課題分野毎の専門職をつくって対応していくことが効率的であった。近年の医療、福祉、介護分野などは、その流れが顕著であったと思われる。前述した、自治体職員の増加の要因のひとつに、専門性をもった職員の採用がある。
 しかし、少子高齢人口減少、担い手不足社会は、様々な課題が複合し、専門性よりも、社会性が求められる場面が増えてきている。例えば、税の徴収へいくと、ごみ屋敷の中で、年老いた妻が、夫を介護し、更に、そこには精神障害をもった息子と知的障害を持った妻が引きこもっており、更にその子どもが登校拒否で、食べるものもないくらいに生活困窮していたという場面に遭遇することがある。
 税を徴収する仕事、介護認定しサービスを決定する仕事、ケアマネジメント、健康状態を管理し病院と連携する仕事、息子の障害を認定する仕事、息子の社会復帰をめざして就労につなげる仕事、子どもの教育に関すること、更に生活保護を認定する仕事、家のごみを片付ける仕事、町内会と連携する仕事、従来型の職員は、課題解決するために、これだけでも10人が必要になるのである。
 今後、少ない職員数で課題解決していくためには、専門性の高い職員だけに頼るのではなく、複合的な課題に対応できる職員の育成が必要となっている。

(5) 公務労働の担い手の適正化
 近年、職員数は増加傾向にあるが、将来的には、人口減少にあわせて、限られた職員数で住民サービスを確保するのが自然の流れである。
 さらに、国家公務員においては、副業・兼業がいよいよ本格化され、この流れは地方にも及ぶであろう。
 公共の担い手として、行政、民間どちらが適正なのかを、今のうちに検証し、本当に必要な公務労働とは何かを自治体職員の現場から提言していくことが必要である。

 以上、5点、ミライにむけての自治体職員の役割を掲げたが、これからの自治体は、小さくても質の高いサービスを提供することが肝になってくる。そのためには、行政改革の名のもとに乱暴に事業を廃止するのではなく、住民との対話を繰り返しながら、戦略的に縮み、ソフトランディングする能力が求められている。

5. 十勝のミライを考える自治体職員の会

 上記の5つの課題を解決するためには、従来の枠組み(単独の自治体)で、物事を進めることが難しくなっている。十勝では、上記の5つの課題を中心に、管内の自治体職員有志約50人が集まって、20年後のミライに自分たちはどういった地域が残せるか定期的に会合を重ねることとした。
 2月の準備委員会を経て、4月に会が設立された当日は、(株)ノースプロダクションの近江正隆代表と、大正大学地域構想研究所の浦崎太郎教授から、人口減や学校と地域の連携などについて情報提供があった。
 近江社長からは、「問題解決に向け、知識、思考力、判断力、表現力を駆使して課題を設定し、実行する人材がミライにむけて必要となっている。十勝には、一次産業など機械化で解決できない困難な課題が山積みするからこそ、都会の人間にとって、人材育成の絶好のフィールドになりうる」との話があった他、高校、大学、地域が連携する人材育成モデルの構築に取り組む、大正大学の浦崎教授からは、岐阜県飛騨市や山形県最上地域ではじまった「ジモト大学」などの事例紹介があり、「分野を超えた『チームの再生』が最重要課題であり、生徒が成長する共通点は、教諭と地域との対話にある」との話があった。
 その後、代表の前田から20年後の十勝の人口減少、自治体職員の役割について話をした後、参加者は8つのグループにわかれ、「十勝全体に提案できるツールづくり」「十勝の価値の発見」「公と私をつなげる役割」「市町村の枠をこえたサービス」など自分たちの立場で何ができるかを発表した。
 いずれもひとつの自治体、ひとつの専門分野では解決できないことばかりであり、今後はこの会で定期的にこうした話し合いを続け、いずれは、生産者や商工業者とも対話集会を開催し、垣根をこえた連携につなげたいと考えている。

 

 

6. まとめ

 私たちがイメージする「優秀な職員」とはともすると国から流れてきたことを、処理する能力が長けている職員をさしてはいないだろうか。しかし、国の考えたことをアレンジして、実行するだけなら、それは国の職員が、支所でもつくってやればいいのである。自治体職員、特に市町村職員の醍醐味は、住民との距離が近く、住民の想いに直接触れ、対話により課題を解決していくことにある。
 例えば、地方創生に係る総合戦略ひとつとってみても、本当は不本意な中、交付金を得るために国から言われるがまま、資料作りに終始してはいないだろうか。
 少子化、高齢化、人口減少は、東京などの都心部以外、もはや全国的にさけられない現象である。わが町の人口減を小さくしようと思えば他のまちの人口減を大きくしなければならない。国は、努力した自治体に様々な形で財政的にインセンティブを与え自治体間競争をあおっているが、自治体同士の人口の奪い合い合戦は、とても健全とは思えない。その原資は、どんなにきれいごとをいっても住民の税金なのだから。
 そして、それは、国の政策に一喜一憂する、自治体側の責任もある。
 現場をもっている市町村は、右肩あがりの社会を維持するための政策づくりから、人口減になってもみんなが幸せになる持続可能な政策づくりに転換していく必要がある。
 さらに、地域の歴史、風土、文化、人々の営みをこわさないのであれば、従来の市町村というエリアにこだわることなく、十勝、北海道という単位で課題を解決していくことが求められているのではないだろうか。
 しかし、首長は、4年間という限られた任期の中で、他の町を出し抜いてでも、自分の町を経済的に豊かにするために動かざるを得ない政治的な立場があることも理解できなくはない。
 こういう時代だからこそ、長い時間軸でまちづくりを考えることができる自治体職員同士が垣根を越えて自主的に連携し、市長会、町村会等、政治家の連携では、どうしても解決できないことを、ミライにむけて話し合える組織をつくっていくべきではないだろうか。
 現場に近い組合員は、自治研活動の延長として、現在、管理職になった組合員OBも、現場で働いていた時の気持ちを忘れることなく、それぞれの立場で、十勝のミライを考える会のような組織をつくり、持続可能な社会づくりを自分ごととして考え、実行していくことが、ミライ型の自治体職員には求められている。