【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第5分科会 人口減少社会をどう生き抜くか!?

 少子高齢化等による都市機能の衰退が「近くにお店がない」「お店まで行く手段がない」といった問題を各地で引き起こしている。このような社会問題に自治体労組がどの様に関わり、解決していくのか。
 今回、「買い物弱者」対策を入口に現状分析や課題の整理を行い、住民が生涯安心して暮らせる街の未来を探った。



買い物弱者と官・民・公・私
―― 地域コミュニティのリデザインに向けて ――

北海道本部/石狩地方本部・自治労石狩市職員労働組合 吉田  学

1. 地域の現状

 石狩市は、北海道を代表する郷土料理「石狩鍋」発祥の地であり、古くから鮭やニシンに代表される漁業と多様な農業を基幹産業として発展し、高度経済成長期には石狩湾新港地域の開発や隣接する札幌市のベッドタウンとして花川北、花川南地区で大型住宅団地が造成され人口がめざましく増加した。花川北、花川南地区では短期間に同一世代が一斉に入居したことから、現在は高齢化、人口減少が急速に進んでいる。
図1 高齢化率の推移 図2 生産年齢人口
 
石狩市:「石狩市高齢者保健福祉計画・第7期介護保険事業計画」〔2018年3月〕(石狩市)
全 国:「日本の将来推計人口(平成29年推計)」(国立社会保障・人口問題研究所)
   国勢調査人口(石狩市分)
 
図3 世帯構成 図4 買い物時の移動手段
 
「介護予防・日常生活圏域ニーズ調査集計結果」〔2017年8月〕(石狩市)
 本市の高齢化率は2016年10月調査で初めて30%を超え、団塊の世代が75歳以上になる2025年には35.5%になることが予想されている〔図1〕。また、生産年齢人口(15~64歳)は2005年国勢調査の40,225人をピークに、その後、減少に転じており〔図2〕、過疎化の進む厚田区や浜益区などの農山漁村地域では顧客の減少や後継者不足から食料品を取り扱っている商店が次々と閉店するなど、高齢者の日常生活に影響が出始めている。
 石狩市保健福祉部が、2017年8月に65歳以上の市民1,500人を対象に行った基礎調査(1)では「ひとり暮らし」又は「夫婦のみ」の世帯が66%であること〔図3〕、買い物に行く際の移動手段が「自動車(自分で運転、人に乗せてもらう含む)」との回答が52%と高い割合であった〔図4〕。本市は、徒歩圏内に食料品を取り扱う店がない地区が多く、高齢者自身が自動車を使って買い物に出かけている状況が窺える。昨今、高齢ドライバーによる重大事故が社会問題となり、運転免許の自主返納の動きも見られるが、運転が不安でも日常生活が成り立たなければ返納することができないという現実もあり、食料品等の日常の買い物手段やそれを支える生活交通の確保が喫緊の課題となっている。
 今回、石狩市職員労働組合では自治研推進委員会〔石狩市職自治研〕を立ち上げ、買い物弱者対策に焦点をあて、地域課題の解決に向けた検討を行うことにした。また、石狩地方本部自治研推進委員会〔石狩地本自治研〕でも、高齢化や過疎化による買い物・交通・担い手などの諸課題を石狩管内(札幌圏)共通の課題としてとらえ、石狩市職自治研と共同で地域住民と連携した街づくりや街の活性化につなげる第一歩として取り組むことにした。


2. 買い物弱者問題への対応

 北海道内では、街で唯一の食料品店が採算の悪化によって閉鎖し、自治体がやむを得ず公設スーパーとして再開させる動きもあるが、民間企業においても人口構成の変化に応じた新たな事業展開により売上げを伸ばそうとする取り組みが見られる。
 今回、買い物弱者対策の検討にあたり、実態把握のため市内のスーパー5店舗とタクシー事業者1社への聞き取り調査を行った。
 聞き取り調査の結果、スーパー全店で有料配送サービスを実施し、高齢者の利用が年々増加していること。また、高齢者が買い物や通院等でタクシーを利用する機会が増えており、特に年金支給日にはスーパー、銀行、病院が集中している地区への送迎が多いとのことであった。なお、コープさっぽろいしかり店では、実店舗から20km以上離れた厚田区、浜益区などで移動販売車による食料品の販売を行っており、こちらの売上げも年々増加しているとの回答であった。
 こうした調査に加えて、石狩地本自治研からは、コンビニエンスストアによるお弁当、お惣菜の宅配サービスやネットスーパーの現状、また、恵庭市や当別町が自治体主体で実施している乗合タクシーや買い物代行サービスについての情報提供があった。
 調査の結果からは、急速な高齢化や家族構成の変化により各地域で買い物弱者の問題が顕在化しており、その解決に向けて民間企業や自治体がそれぞれの立場で多種多様な取り組みを行っていることがわかった。

【調査実施企業】
 ・コープさっぽろ いしかり店〔花川北地区〕
 ・ビックハウス 花川店〔樽川地区〕
 ・ラルズマート 花川南店〔花川南地区〕
 ・イオン 石狩緑苑台店〔緑苑台地区〕
 ・ラッキー 花川南店〔花川南地区〕
 ・ダイコク交通株式会社〔新港地区〕

【スーパーへの聞き取り内容(一部抜粋)】
 ・自宅への配送サービス(店内で購入した商品を配送するサービス)を全ての店舗で実施
 ・4店舗が2,500円以上の商品購入を利用条件としている。コープさっぽろは購入金額の条件を設けていない
 ・1回の配送料は1箱200円。一定条件で高齢者に対する無料制度がある
 ・月間の利用者数は20~2,200件と大きな差がある
 ・配送先が店舗近隣の場合が多い
 ・高齢者が利用している割合が高い
 ・利用者数は、前年と比較して増加傾向にある

【タクシー会社への聞き取り内容(一部抜粋)】
 ・買い物にタクシーを利用する高齢者が増加している
 ・スーパーや銀行、病院が集積している場所への送迎が多い
 ・年金支給日の利用が多い

【恵庭市コミュニティタクシーのサービス概要】
 ・平日のみ運行。予約は運行時間の1時間前まで
 ・どの便も自宅と指定施設の間で利用できる
 ・主な指定施設=JR駅、病院、食料品店、公共施設、公衆浴場、金融機関
 ・利用料金(1人1回の乗車料金)大人200円、こども100円

【当別町買い物支援事業の概要】
 ・実施主体は社会福祉協議会
 ・有償ボランティアが御用聞きを行い、協力店に商品配達を依頼
 ・介護保険(地域支援事業)として一部を負担

3. 我々に出来ることは?

 各店舗への調査から、石狩市職自治研として、今後どのような分野に、どのような方法で関わっていくことが必要なのか議論を行った。
 まず、買い物弱者問題に対する取り組みを「①家まで商品を届ける」「②近くにお店を作る」「③家から出かけやすくする」「④コミュニティの形成」「⑤物流を改善・効率化する」という5つの形態に分類(2)し、さらに、実施主体別に「ア.自治体が公共政策として行うもの」「イ.民間企業が営利目的で行うもの」「ウ.地域住民の関わりによって解決するもの」の3つに分類し、取り組むべき課題について検討を行った。
 本市では、NPO法人等が一部の地域で有償運送サービスや買い物支援を行っているほかは、民間企業が宅配や移動販売などのサービスを提供する取り組みが主であり、自治体や地域住民が担うべき「③家から出かけやすくする」「④コミュニティの形成」に関する取り組みが他の取り組みと比べて不足しているのではないかとの意見が出された。
 買い物弱者に関する問題は、商店街や生活交通、介護・福祉など、要因が多岐にわたることから地域住民が主体的に取り組むことはもとより、民間企業や自治体、NPO法人、ボランティア団体など様々な関係者がしっかりと連携していかなければ課題の解決には至らない。現在、民間企業が行っている取り組みは社会貢献としての側面があるものの採算がとれなければ継続していくことが難しいため、地域住民がサービスの必要性をしっかりと自覚し、利用し続けることが重要である。しかし、次々と提供される新たなサービスに高齢者が対応できず不便さを感じている状況も見受けられることから、高齢者個々のニーズとそれにあったサービスとを結びつけ、サポートするコンシェルジュ的な活動によって各種サービスの利便性を高めることが必要ではないかとの考えが出された。
 こうした考えをもとに、さらに議論を深め「まずは高齢者の生の声を聞く機会を作るため町内会や高齢者クラブと連携してはどうか」「スマホの使い方を手ほどきすることくらいなら、取り組みやすいのではないか」「地元の青年会議所などと連携してお困り相談会を開催してはどうか」などのアイデアが出され、次年度以降の実施をめざし引き続き検討することにした。

【主な意見】
・石狩市内のスーパー全店で高齢者向けのサービスを行っていることがわかった。また、コープさっぽろいしかり店が配送サービス圏外となる厚田区、浜益区等で移動販売を実施したりコンビニエンスストアが生鮮食料品の品揃えを増やしたりお弁当などの宅配サービスを始める動きもあるなど、民間事業者が高齢者のニーズをしっかりと捉えて事業展開していることがわかった。
・北海道内では食料品店を公設で開設しなければならない自治体もあるなか、石狩市では民間事業者が様々なサービスを提供しているため住民にとっては、とてもありがたいこと。
・一方、石狩市が行った基礎調査で、「移動販売の利用のしづらさ」や「公共交通の不便さ」に関する意見が出されていたので、様々なサービスと高齢者(利用者)をうまく繋ぐために、我々に出来ることがないだろうか。
・食料品のインターネット通販や公共交通におけるIoTデバイスの活用などを考えれば、高齢者がスマートフォンなどのICT機器を活用することで利便性が増すことになるだろうし、自治体や民間企業が新たなサービスを安価に提供できる可能性が出てくる。こうした分野の手助けをすることが出来ないだろうか。(例:スマホ教室など)
・石狩市が行った基礎調査で、現在は地域での活動に参加していないが、今後有志によるグループ活動に参加してみたいという人が過半数にのぼった。NPO法人やボランティア組織等と連携して、新たなコミュニティを創り出すことも買い物弱者対策として効果があるのではないか。

4. まとめ

 総務省は「コミュニティ」を特定の地域や特定の目標、特定の趣味など何らかの共通の属性及び仲間意識を持ち、相互にコミュニケーションを行っているような人々や団体と定義(3)し、「地域コミュニティ」を共通の生活地域(通学地域、勤務地域を含む)の集団としている。現在、地域コミュニティは過疎化や高齢化、核家族化や個人の価値観の多様化などによって人材が不足し、住民同士の関係が希薄になってきていると言われており、本市の地域コミュニティの主体である町内会においても、役員の多くが65歳以上という現状であり、活動の中心を担うマンパワーが不足するなど組織の衰退が進んでいる。
 一方で、急速な高齢化等を起因とする新たな課題に対し、地域コミュニティによる互助・共助の機能が注目されており、既存の地域コミュニティの垣根を超えた相互連携・協働による新たなコミュニティの必要性が今回の自治研活動から浮かび上がってきた。
 自助・互助・共助……待ち受ける諸課題の解決にむけて自治体職員が主体となって、地域・住民の関係性をリデザインすることが今求められているのではないか。




(1) 「介護予防・日常生活圏域ニーズ調査」……石狩市高齢者保健福祉計画及び第7期介護保険事業計画策定のため2017年8月に実施。調査は石狩市内に住所を有する要介護1~5の認定を受けていない65歳以上の高齢者のうちランダムに抽出した1,500人を対象に実施
(2) 「買物弱者応援マニュアルVer3.0」〔2015年3月〕(経済産業省)を参考に分類
(3) 「新しいコミュニティのあり方に関する研究会報告書」〔2009年8月〕(総務省)