【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第5分科会 人口減少社会をどう生き抜くか!?

 2017年度食料・農業・農業白書から、担い手・経営戦略等に係る釧路管内農業(主に酪農ではあるが)の現実を検証し、将来へ向けての釧路農業を考察する。



今後の釧路の農業を考える
―― 2017年度食料・農業・農業白書から ――

北海道本部/全北海道庁労働組合連合会・釧路総支部 沖田 和樹

 2018年5月に農林水産省から出された約300ページにおよぶ白書の中から日本の中の釧路農業について考察し提言したいと思います。

1. 次世代を担う若手農業者の姿

 
 

(1) 若手農業者がいる販売農家の経営構造分析より
 釧路管内の専業農家戸数は、887戸と全道の3%ですが、耕地面積は全道の8%と土地の所有面積が広いことが特徴です。全国では、49歳以下の若手農業者がいる販売農家を「若手農家」と位置づけており、若手農家は2015年農業センサスにおいて約14万戸、非若手農家が約118万戸となっており、若手農家の割合は国内に約1割程度となっている現状にあります。釧路管内は、酪農を中心とした畜産や畑作、園芸などの作目を経営しています。
 北海道及び釧路管内は、49歳以下の若手農業者が約30%と全国より割合は多い現状ですが、今後は農家戸数の減少で後継者不足が懸念されます(表1)。

(2) 若手農業者向けアンケート結果の分析より
 2017年webアンケート結果から、「我が国の農業のあり方」から、「国産シェアを回復させる事をめざすべき」との回答が約半数に達したものの、約40%が「海外にも目を向けるべき」との回答をしています。若手の農業者には海外を意識した意見が多いことが分かりました。これは、所得確保のため海外を意識した販売に結びつけたいと考える若手農業者が多いことを示しているのではないでしょうか。また、釧路管内の新規就農者数は近年20人前後と安定していますが、それ以上に離農戸数が多く、理由は後継者問題、労働力不足が12戸と最も多く、担い手の問題が大きな比率を占めています。
 

(3) 効率的かつ安定的な農業経営に向けた施策の展開方向
 経営構造分析において若手農家は規模拡大とともに、常雇いの拡大、単位面積・頭数当たり労働時間短縮を図る投資が行われていることが確認されました。管内では、1戸当たりの乳牛飼養頭数が約130頭になり、哺育ロボットや、各種大型化した作業機械の導入が増えてきています。

(4) 雇用に関する動向等
 2015年において、44歳以下の常雇い人数は、法人経営体に4.9万人、販売農家に3.8万人となっており、法人経営体では、10人以上の経営体が約70%、販売農家では4人以下の経営体が約60%となっています。
 この傾向は釧路管内でも同様で、協業法人においては10人程度の雇用や、個人経営においても、労働力不足の場合、数人の雇用をしています。雇用ではないが、外国人研修生を受け入れている経営も増えてきています。
 実態としては、雇用をしたいが、「なかなか人が見つからない。」という声も現場では聞かれています。


2. 生産額が2年連続増加(トピックス1)

(1) 16年ぶりに9兆円台を回復
 将来の食料需要では、米の消費の減退により産出額が減少していましたが、近年の2年間は増加が続き、2000年以来16年ぶりに9兆円台に回復しています。
 釧路管内の生産額は、2016年農協取扱高で687億円となっています。また近年、乳価の上昇や、乳牛個体価格の高騰により取扱高は増加傾向にあります。


3. 日EU・EPA交渉の妥結と対策(トピックス2)

① 日EU経済連携協定交渉は、4年以上の期間を経て、2017年12月8日の首脳電話会談で交渉妥結。
② 合意内容は、乳製品のうち、ソフト系チーズは関税割当として、枠数量は国産の生産拡大と両立できる範囲にとどめ、脱脂粉乳・バター等は国家貿易を維持し、限定的な民間貿易枠を設定。釧路管内には、釧路市によつば乳業、標茶町に雪印メグミルク、浜中町にタカナシ乳業の3工場を有し高品質な乳製品を製造しており、今後は長期的に交渉の影響が出ないような対策が急務となっています。


4. 動き出した農泊

① 農泊をビジネスとして実施できる体制を持った地域を2020年までに500地域創出することにより農山漁村の所得向上と活性化の実現をめざすとしています。
② 訪日外国人旅行者については、2020年までに、人数4千万人、旅行消費額8兆円等の目標が設定されています。
 釧路管内は2つの国立公園を有しており海外からの観光客も多く訪れることから今後は農泊等で農村の魅力を発信する取り組みも必要ではないでしょうか。


5. 食料の安定供給の確保

(1) 食料自給率と食糧自給指標
 直近20年の食糧自給率をみるとカロリーベースは40%前後で、生産額ベースは60%台後半を中心に推移しています。
 食料の潜在生産能力を表す食料自給力指標は農地面積の減少や反収の伸び悩み等により低下傾向で推移しています。

(2) 農林水産物・食品の輸出促進
 輸出額は5年連続で過去最高を更新し農産物では、牛肉、植木等、緑茶、米、イチゴ等が過去最高を記録し2017年は、8,000億円となっています。

(3) 鳥獣被害の現状と対策
鹿害被害調査風景
 全国の鳥獣被害額は2016年度で172億円となっており深刻なものとなっています。
 対策には狩猟者の減少が問題になっていますが、近年は49歳以下の若手、女性が増加傾向です。
 また新名物となるジビエ加工品の開発が全国的に始まっていますが、レストラン等で提供される料金はまだ高く、若者を含めた一般に普及するには更なる検討が必要と思います。釧路管内ではエゾシカにより牧草等の食害が2016年度は12億円を超えており、2017年度は取りまとめ中ですが、2016年度より増加が見込まれます。有害駆除やその方法、シカ柵整備を含めて、釧路農業改良普及センターや釧路総合振興局、また、環境科学研究センターが連携し対策を行っているものの、依然として被害は大きく、今後は食肉の活用を商品開発も含め検討する余地があります。


6. 今後の対応

 釧路管内は酪農を中心とした畜産、畑作、園芸と幅広い農業が展開しており、今後も広い耕地資源を活かし、更に高い付加価値をつけて安心安全な食品の供給基地として市町村がより連携して取り組んでいくことが必要ではないでしょうか。特に情報発信等は管内が連携し、例えば「冷涼な夏」を全面に押しだし観光と食を結びつけて行くなど提案します。