③ 給料・報酬(月額)など
給料・報酬の月額は、「20万円台」が23団体と最多だが、「16万円台」も22団体と多かった。以下、「17万円台」12、「18万円台」8などとなり、「21万円以上」と「16万円未満」も各3団体ずつあった。職種や任用形態によって複数の額を併用しているところもあった。
給料・報酬以外に支給しているものとしては、車両関係(現物支給、維持費、借上代、燃料費など)が37団体と最多で、以下、パソコン関係(現物支給、通信費)23、通勤手当14、時間外勤務手当・休日出勤手当14、期末勤勉手当8、寒冷地手当5、被服(作業着の支給など)5と続いた。このほか、少数回答として扶養手当、管理職手当、経験加算、研修補助費などが見られたほか、「一切なし」も12団体あった。
自治体が事業者負担をしている公的社会保険の種類については、健康保険が63と最多で、以下、雇用保険54、厚生年金47、労災保険10、公務災害補償負担金7、介護保険5、児童手当拠出金3と続いた。上記の組み合わせとして、健康保険、雇用保険、厚生年金の3つセットでの負担が41と最も多かった。「一切なし」も11団体あった。
④ 住宅の確保の方法、家賃補助の有無
隊員の住宅の確保の方法については、「自治体による公営住宅の斡旋」が22と最多、「自治体による民間賃貸住宅の斡旋」が21で次いだ。以下、「隊員自ら確保」15、「自治体による空き家の斡旋」11、「公営住宅の無料提供」8、「自治体による民間賃貸住宅の借り上げ、無料提供」8と続いた。調査者が想定していなかったのが自治体の職員住宅の利用で、貸与が6、斡旋が5、無料提供が1となった。
家賃補助の有無については、「あり」51、「なし」23となった。職種によって補助の有無に差を設けているとしたところも1団体あった。
⑤ 任期中の副業の可否
隊員に対し、主に将来的な起業に向けて、任期中からの副業の実践を認めているか否か尋ねたところ、「可能」47、「不可」23となったほか、「許可制」が3あった。このほか、職種によって差を設けているところが1団体あった。
なお、副業の可否には任用形態との関係性が一定程度見られる。特別職非常勤職員の場合、副業が可能となる率が高く、副業「可能」47のうち特別職非常勤以外の任用形態のところが16、「不可」23のうち特別職非常勤は4にとどまっている。
⑥ 定住・起業に向けたサポートの有無
任期終了後の定住や起業などに向けたサポートを行っているか、行っているとすれば、具体的にどのようなサポートを実施しているか尋ねたところ、サポートを「している」が46、「していない」が26、「不明(回答無し)」が7となった。
「している」と回答した46団体におけるサポートの具体的な内容は、「相談への対応」と「起業資金の補助」が各17団体と最多で、以下、「定住・起業に向けた支援(地域への仲介など)」9、「研修・資格取得での支援(経費負担など)」7、「起業資金補助に関する情報提供」4、「就農支援」3、「就職先の紹介」2、などと続いた。
上記のうち「起業資金の補助」は、任期終了の翌年度に起業する者を対象とする国の補助制度(推進要綱別添、特別交付税措置、上限100万円)もあるが、自治体独自の全住民対象の既存制度を適用するとしたところが多かった。
3. 何が居住継続と転出を分けるのか
上記の結果を踏まえて、居住継続者(140人)と転出者(149人)の特徴や傾向について分析した。
<表>のとおり、「自治体による起業や定住に向けたサポートの有無」と「在任中の副業の可否」については有意な差は認められなかった。とはいえ、自治体によるサポートや、副業の許容が不要と言う気はない。問題は、自治体がどれだけ有効なサポート策を打ち出せるか、各隊員が副業を任期終了後にどうつなげていくか、にかかっているということである。
一方、隊員の退任後の進路について調べたところ、就職・就労(起業、就農含む)の実現が居住継続者では85.7%(120/140)と、転出者の26.8%(40/149)と比べて大きな差が出た。転出者のほとんどが「不明」ではあり単純な比較は避けるべきだが、定住の要件としてやはり地元での就職等の実現は外せない。
<表>居住継続者と転出者の比較
| 今次調査での 把握数 | 退任後の進路 | 自治体による定住・
起業支援の有無 | 自治体による副業の扱い |
| 人数 | 自治体数 | 起業者数 | 就職・
就労者数 | 不明 | その他 | 支援ありの団体数 | 支援なしの団体数 | 不明 | 副業可の団体数 | 副業不可の団体数 | 不明 |
居住
継続者 | 140人 | 43団体 | 27 | 93 | 11 | 8 | 29 | 9 | 5 | 31 | 11 | 1 |
19.2% | 66.4% | 7.9% | 5.7% | 67.4% | 20.9% | 11.6% | 72.1% | 25.6% | 2.3% |
転出者 | 149人 | 49団体 | 6 | 34 | 98 | 11 | 28 | 14 | 7 | 31 | 16 | 2 |
4.0% | 22.8% | 65.8% | 7.4% | 57.1% | 28.6% | 14.3% | 63.3% | 32.7% | 4.1% |
起業や定住に向けたサポートに自治体が果たすべき役割で最も重要だと思われるのは、隊員の人柄や職業適性などを見極めながら、地域の住民や地元企業など各種団体へ任期中の段階から橋渡しをすることであろう。異邦人である隊員たちが地域に溶け込み、新たな仕事と生活の場を構築していくためには、自治体の信用度に基づく地域への後押しとコーディネート力が欠かせないと考える。
以上から、自治体には、起業や就職・就労あるいは就農を実現させる効果的なサポートを行いつつ、それとは別に定住を実現させる有効な方策を隊員の立場から構想することが求められると考える。サポート方法としては、今次調査では「相談対応」、「起業資金の補助」、「情報提供」が多くで回答されたが、いずれにしても受け身の対応に終始することなく、積極的に「隊員と地域をつなぐ役割」が期待される。
4. まとめに代えて―今後の展望
自治体から見た協力隊事業の課題や悩みについて自由記述欄での記述を求めた結果、27団体から回答があった。その内容は概ね以下のように類型化される。
○ 募集をかけても、希望する人材がなかなか来ない。
○ 就職先の確保など、任期終了後の出口対策が確立されていない。
○ 隊員側の希望と、自治体側の採用目的が一致しない。
○ 任用形態を同じくする他の臨時・非常勤職員の処遇との間に矛盾が生じている。
○ 業務過多により、担当職員としての隊員のサポートが不十分。
○ プライベートと職務の境界が曖昧で、隊員の業務管理が難しい。
○ 本事業に対する理解が自治体側で必ずしも共有化されていない。 |
すでに道内自治体の多くでは、隊員の人材確保に一定の苦労が生じている。しかし、苦労して確保した人材であるにもかかわらず、退任者の約半数が赴任先自治体から転出している。これは上欄にもあるとおり、就労支援など、定住の前提となる出口対策の不十分さが大きく影響していると見られる。また、任用形態における矛盾の発生や、業務管理の難しさ、担当課の業務過多や他課の理解・連携の不足など、運用上の課題も生じており、その部分の解決も求められる。
本事業の目的が、過疎地域の若年層の定住者数を増加させ、地域の活性化をめざすことにあるならば、受け入れ自治体で重視されるべきは、制度の趣旨に対する正しい理解、明確なビジョンに基づく募集、任期終了後の起業・就労や定住を実現させるためのサポートの充実化などである。これらを各自治体が実践するか否かで、本事業の姿は、移住・定住施策として飛躍するか、一時的な人材確保策に収まるか、大きく様変わりしうる。
協力隊の取り組みは2018年度で10年目に入っている。ここに至って移住者や起業者の増加など一定の成果があがる一方で、本稿でも見たとおり、現場では様々な問題も生じている。今や、起業者・定住者の成功の秘訣、中途退任者・転出者の挫折の理由などを検証するデータも一定の蓄積に達しており、過去の経験を次に活かし、本事業の健全な推進を図る自治体が拡大していくことを期待したい。
|