【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第5分科会 人口減少社会をどう生き抜くか!?

 近年、人口減少・少子高齢化や住宅に対する社会的ニーズの変化に伴い空き家が増加しています。空き家対策特別措置法の施行により各自治体でも空き家対策が進められていますが、放置空き家・特定空き家とならないための予防策に焦点を当て、相談窓口に求められる役割と利活用のための問題提起を行うとともに、自治研活動や労働組合として私たちができること・すべきことを考えます。



北海道内における空き家対策について
―― 予防策の重要性とまちづくりの観点 ――

北海道本部/自治研推進委員会

1. 道内における空き家対策の現状と課題

(1) 空き家の現状
 道内における空き家の現状は、5年毎に行われる「住宅・土地統計調査(総務省)」で把握されており、2013年(H25)の調査では空き家戸数は38万8,200戸、住宅総数に占める割合は14.1%となっています。

<北海道の空き家等対策に関する取組方針より>
道内における住宅総数・世帯総数・空き家戸数の推移
【資料:住宅・土地統計調査(総務省)】

(2) 空き家となる要因(課題)
 人口減少や高齢化により空き家の発生が増加しており、要因としては次のことが考えられます。
① 高齢単身世帯や高齢夫婦世帯が増え、介護施設への入所や医療機関への長期入院、子どもとの同居、市街地への転居などをきっかけに空き家となるケースが増えています。
② 親が亡くなり実家が空き家となり、相続人が遠方で適正な管理が不十分、相続人が不明で手続きができないといった事例も見受けられます。
③ 自治体が実施した調査のなかには「相談先や対処方法がわからない」との意見も出されています。
④ 他にも、売却したくても買い手が見つからない、解体や修繕をしたくても費用負担の問題で困難といった要因が挙げられています。
⑤ 人が居住するための家屋の敷地として利用されている土地(住宅用地)には固定資産税の特例措置があり、家屋を解体してしまうと税金が4.2倍となってしまうため、家屋を解体せずにそのまま放置してしまうことが要因となっていました。

<居住用家屋のある住宅用地における固定資産税の特例>
住宅用地固定資産税評価額の70%が
課税標準額
→6倍×70%=4.2倍
200m2までの部分1/6に軽減
200m2を超える部分(床面積の10倍が上限)1/3に軽減

(3) 空き家を放置することで発生する問題点
 建物の劣化により、防災面のリスクが高まったり、景観への悪影響、治安悪化や地域力の低下にもつながることが考えられます。
 防災面のリスクとしては、強風等による屋根や外壁材などが落下・飛散、雪による倒壊、放火による火災、不審者による侵入や不法滞在、動物が住みつく、ごみの投棄や放置といったことが挙げられます。
 火災・倒壊による隣接家屋への全焼・死亡事故や外壁材落下による負傷・死亡事故で損害賠償の支払いに発展する場合もあります。

(4) 北海道の取り組み状況
① 北海道では、道内の空き家や空き地の有効活用を通して、移住・定住の促進や住宅ストックの循環利用を図ることを目的として「北海道空き家情報バンク」を運営しています。
「北海道空き家情報バンク」https://www.hokkaido-akiya.com
② 後志管内では、市町村、建築・不動産の専門家団体、北海道後志総合振興局が「しりべし空き家BANK協議会」として官民で連携しながら空き家バンクの運営を行い、広域的な取り組みを実施しています。

(5) 道内市町村の取り組み状況
 道内では「空き家等の適正管理に関する条例」を制定している自治体は2015年5月末時点で41市町村ありましたが、2015年5月26日付けで「空き家対策特別措置法」が施行されたことに伴い、法の条項に基づいた対応が可能となったことから条例を廃止した自治体もあります。
 また、126市町村で「空き家バンク」を設け、自治体独自や不動産会社等と連携した形など様々な方法で空き家や空き地の情報提供に取り組んでいます。
 さらに上記の「北海道空き家情報バンク」を有効活用したり、現在空き家調査を行いながら準備を進めている自治体もあります。

2. 「空家等対策の推進に関する特別措置法(略称:空き家対策特別措置法)」の施行

 適切な管理が行われていない空き家の増加に伴い、地域の防災・衛生・景観などに深刻な影響を及ぼしていることから、地域住民の生活環境を保全するとともに、空き家の活用を促進するために「空き家対策特別措置法」が2015年5月26日に施行されました。
 これにより、空き家の実態調査、空き家所有者への適切な管理指導、空き家跡地の活用促進、適切に管理されていない空き家を「特定空き家」に指定できる、特定空き家に対する助言・指導・勧告・命令ができる、特定空き家に対する罰金や行政代執行を行うことができるようになりました。
 そのため、1.(2)⑤のように家屋を残しておいた方が住宅用地の固定資産税が安く済むため解体せずに放置されていた空き家は、法施行により自治体から「特定空き家」に指定され勧告を受けた場合は住宅用地における固定資産税の特例措置の対象から除外されることとなりました。

3. 放置空き家、特定空き家とならないための「予防策」の重要性

 市町村では、「空き家等対策計画」などを作成し、それぞれ具体的な取り組みを推進しています。そのなかで重要と考えるのは放置空き家とならないための「予防策」です。
① 所有者への説明について、当事者意識の醸成、維持管理責任の啓発、起こりうる問題点の周知に早いうちから取り組むことが大切だと言えます。啓発チラシの配布やホームページなどでの周知をはじめ、老人クラブなど高齢者が集まる場や町内会への出張講座、そして高齢者や介護担当、税務担当、まちづくり担当など「庁内での部署を超えた連携」による協議・対応も必要になってきます。また、介護保険サービスの利用に係るケア会議などにおいて所有者や家族も入ったなかで今後住宅をどうしていくのか意向確認を行い、当事者に認識してもらうことも必要だと思います。
② 空き家を有効活用した事例について、移住・定住対策や住み替え支援としての空き家情報バンクでの賃貸・売却や住宅リフォームの促進、古民家カフェや雑貨店などの店舗経営、地域のコミュニティスペース(サロン)や福祉・子育て等の関連施設(グループホーム・こども食堂など)への活用、ゲストハウスなどの民泊事業、解体後跡地での家庭菜園・雪捨て場・駐車場などに利用といった内容で活用方法を紹介することも効果的だと考えます。
③ 空き家を処分する際に、行政からの補助制度や法律上の注意点などについてわかりやすくアドバイスしたり、事前に広く周知をはかることで特定空き家になることを未然に防ぐことにもつながってくると思われます。
④ もちろん空き家であっても適切に維持管理がされていれば、そのまま残していても問題はありません。

4. 相談窓口としての役割

 道内の市町村には不動産会社が一軒もない地域が多数存在しています。そうした状況においては行政やNPO法人などが窓口となり、空き家を処分したい人と住宅を必要とする人の仲介役として、実態を把握し、市街地への住み替えや移住などで物件を探している人への紹介をはじめ、危険家屋(特定空き家)とならないための助言・指導を行うこともこれからは必要になってきます。
 そのためには様々な情報を集約し相談窓口を一本化することで、1.(2)③のように「相談先や対処方法がわからない」といった声にも適切に対応できるのではないでしょうか。
 また、土地や建物の所有者が亡くなり、所有権の移転手続きについて住民が市町村へ相談に来た際に、税務担当が安易に「所有権の移転手続きをしなくても大丈夫ですよ」と返答してしまうことが起きています。
 空き家が生じる要因の1つでもある「相続手続きが行われない」ことに関して、税務担当と空き家やまちづくりの担当が連携をはかることで、相続人と直接関わりを持つ税務担当が税務のことだけでなく、「空き家を生じさせない」という問題意識を持って対応することも重要だと言えます。

5. 問題提起

(1) 「空き家の活用」と「生活困窮者などへの居住支援」との架け橋
 制度的、法的な制限を考慮せずに考えると、例えば下記のようなことが挙げられます。
◎貧困世帯、生活保護世帯への廉価な賃貸住宅として供給します。
◎ライフステージに応じた住宅情報の提供と橋渡し、高齢世帯には広すぎる住宅を子育て世代への賃貸または売買情報の収集と提供を行います。
◎病院から遠方に住む高齢者の冬期間の社会的入院を避けるため、病院に近い空き家を提供します。

(2) 利活用するための税制改革も必要
◎資金がないため、解体したくてもできない空き家、特定空き家を解消するため、将来の住宅解体費用を上乗せして販売し、住宅取得減税にも反映します。
◎一定期間固定資産税に解体費用分を上乗せし、基金・解体準備金とします。運用については要検討ですが、解体のための財源を確保しておくことが必要です。
◎こうした資金を活用しない場合でも、古い家屋の解体に対する減税措置を講じ、解体を促します(住宅取得減税や省エネリフォーム減税とは反対の住宅除去減税)。
◎建物を解体すると土地の固定資産税率が引き上げられるため、売買を希望している土地については、売買できたときに納税する特例を設けます。

(3) 他人事ではなく、いずれは自分の問題に
 空き家の問題は高齢者だけでなく、親や実家の問題としていずれ自分にも降りかかってくるかもしれません。そのため、空き家対策の担当者だけでなく、多くの人が知っておくべき内容だと思います。
 経験者による「事前に知っておけば良かった」と感じることを多くの人で情報共有することはいざという時の大きなヒントになるかもしれません。

<経験者からのアドバイス>
◎空き家に関する無料の相談場所や相談会を行政として行うことが必要です。最近では行政と金融機関、行政書士会、司法書士会などによる「空き家に関する連携協定」を結ぶことが増え、相談・対策の助言などをしていますが、こうした公的な窓口が求められます。
◎自治体によっては、建て替えや改修、解体費用などへの補助や助成制度が設けられているため、まずは活用できる制度がないか事前に確認(情報収集)することが必要です。
◎親から相続した家を売って現金にと思い描き、不動産業者に売買を一任しても、地域や場所によっては何年経っても買い手が付かず老朽化するばかりです。販売価格の減額を回避するため、冬に屋根の雪下ろしや除雪、また草刈りや点検など、定期的に訪れ見回るにも限界があり、時間の経過とともに放置状態になりがちです。手遅れになる前に早い段階での処分が求められます。

(4) 自治研活動・労働組合としてできること・すべきこと
 空き家対策(住まいの問題)だけではありませんが、「庁内での部署を超えた連携」が重要となります。人口減少、少子超高齢化社会にむけて、医療・介護・福祉・子育て支援などの連携(地域共生社会)や地域公共交通の確保などでも「まちづくり」がキーワードになっています。住み続けたい地域にするために、まちづくりの観点から「統合的な政策」への転換が求められています。
 縦割り行政から部署を超えた連携、部署を横断した包括的な関わりが求められるなか、自治研活動や労働組合として、職場の組織機構のあり方、地域や住民サービスのあり方を考えることも必要です。
 「空き家対策」という住まいの問題をきっかけに部署を超えた連携の方法や「まちづくり」について、まずは組合員同士で話し合うことからはじめてみましょう。