【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第5分科会 人口減少社会をどう生き抜くか!?

 人口減少と少子高齢化が進むなかで、自治体と地域をどのように維持・発展させていくかが全国的な課題となっている。本論では、地域社会を維持していくために自らの創意工夫で取り組んでいる生活共同体としての集落の取り組みを事例とし、自治体や自治体職員の存在意義、自治体が守るべき住民について考察を加える。そして、今後の地域社会を創造するための自治体と地域のあり方について提言する。



少子高齢化と人口減少社会における
自治体・地域のあり方

福島県本部/自治研推進委員会・第一専門部会

1. はじめに

 国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(2012年1月推計)によれば、日本の総人口は2060年に8,674万人となり、65歳以上の高齢人口は3,464万人、高齢化率は約40パーセントに達することが見込まれている。人口減少と少子高齢化が急速に進むなかで、自治体・地域をどのように維持・発展させていくかが、日本全国で大きな課題となっている。第一専門部会では、人口減少と少子高齢化に歯止めをかける必要性は十分に認識しながら、現実的に解消することが難しい現実を見据えたうえで、地域社会を維持していく可能性について検証していく。この場合の地域社会とは、住民の実生活における地域社会を意味しており、市町村単位を想定したものではない。多くの自治体が地方創生として人口減少対策に向けた様々な施策を講じているが、結果として、その視点の先は市町村の中心部におかれ、周辺集落は蚊帳の外におかれている。自治体内の中央・地方関係である。本稿では、地域住民の生活に不可欠な生活共同体としての集落に目を向け、地域社会を維持していくための取り組みを検証することにより、自治体や自治体職員の存在意義、自治体が守るべき住民について考察を加えていく。

第1章 地方消滅論と実態

第1節 増田レポートの概要
 少子高齢化と人口減少社会への対策は、これまでも過疎対策など国や自治体において様々な施策が展開されてきたが、現実的に有効な対策が打ち出されることはなかった。そういったなか、2013年「中央公論」に掲載された論文をきっかけに、人口急減社会への警鐘として、いわゆる「増田レポート」が「地方消滅」を謳い、世間に衝撃を与えた。増田レポートは複数のレポートや著作を指しているが、その概要として、大きく2点に集約される。
 一点目としては、「消滅可能性都市」を示したことである。人口が減り続け、やがて人が住まなくなればその地域は消滅するとして、地域の消滅可能性を測る指標として「2010年から2040年までの間に20~39歳の女性人口が5割以上減少すること」とした。そして、896の自治体を「消滅可能性都市」とした。また、896の「消滅可能性都市」のうち、2040年時点で人口が10,000人を切る523自治体は「消滅可能性が高い」と断定した。
 二点目としては、東京一極集中に歯止めをかけるとして、地方において人口流出を食い止める「ダム機能」として、若者に魅力のある「地方中核都市」を軸とした新たな集積構造の構築である。山間部も含めたすべての地域に人口減抑制のエネルギーをつぎ込むのではなく、地方中核都市に資源を集中し、そこを最後の砦にして再生を図っていくとしている(増田2014:150)。

第2節 増田レポートを踏まえた国の対応
 増田レポートで示された内容は、「経済財政運営と改革の基本方針2014(骨太2014)」に取り入れられ、閣議決定した。その直後、安倍晋三内閣の内閣改造により、石破茂が地方創生担当大臣に任命され、「骨太2014」に掲げられた少子化対策や地方対策を担当する「まち・ひと・しごと創生本部」が安倍総理を本部長として立ち上がった。2014年11月に「まち・ひと・しごと創生法」を制定し、同年12月には人口の現状と将来の姿を示し、今後めざすべき将来の方向性を提示する「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」と併せ、今後の目標、基本的方向性及び具体的な施策をまとめた「まち・ひと・しごと創生総合戦略」を閣議決定した。そして、自治体の自主的・主体的な取り組みで先導的なものを支援するとし、国の長期ビジョンを踏まえた「地方人口ビジョン」と国の総合戦略を勘案した「地方版総合戦略」の策定を求め、KPI(重要業績評価指標)の設定とPDCAサイクルを組込み、客観的な効果検証を行ったうえで、交付金に反映させることとした。

第3節 増田レポートへの批判
 増田レポートに対しては、研究者をはじめとして様々な批判が行われている。
 今井照は、日本全体の自然増・自然減(=出生・死亡)の問題と地域における社会増・社会減(=転入・転出)の問題を混同して議論しているとし、日本全国の人口減少という問題を解決する方策と地域の人口減少問題への対応は別次元の話であることを指摘している(今井2017:237-238)。また、交付金とは名ばかりで、各自治体に地方版総合戦略を策定させ、それに基づく事業を自治体から申請させたうえで、国が認めたものに対して事業費を交付する仕組みになっており、実際には個別の事業につけられる(これまでの)補助金と何ら変わらないとしている(今井2017:256)。
 金井利之は、日本全体の人口減少を前提として「地方創生」の議論を組み立てる限り、まれに「勝ち組」になれる自治体もあるが、多くの地方は「負け組」になるとし、全体の人口が減る以上、どこかの地域・自治体は必ず人口が減る必負のたたかいになると指摘している(金井2015:35)。そして、地方版総合戦略において設定したKPIという数値目標が達成できなかった自治体を、(国が)後で批判することにならないか危惧している(金井2017:24-25)。
 小田切徳美は、増田レポートの問題点として、①なぜ30年後に若年女性人口が半減すると「消滅可能性」といえるのか、②なぜ人口10,000人以下になると「消滅可能性」が「消滅」にかわるのか、③都市から農山村への移住傾向に対する過小評価の3点を挙げている(小田切2014:44-45)。そして、増田レポートにより「市町村消滅」「地方消滅」が言われ、乱暴な「農村たたみ論」が強力に立ち上がり、他方で「諦め論」が農村の一部で生じており、それに乗ずるように狡猾な「制度リセット論」が紛れ込み、三者が入り乱れた状況が各所で進行していると指摘する(小田切2014:14)。
 農山村の実態を見つめ直すと、集落の空洞化や消滅は、直線的、不可避的に進むものではない。集落の強靭化の基礎には、地域を次世代へつなげようという農山村家族の強い意志があり、そのため、子ども世代には農作業やむら仕事に空間的に離れた場所からでも対応し、農地や景観や地域を守ろうとする強い意識もみられるとしている。その点で、限界集落論のように、現在も未来も、集落が次々と消滅していくような議論は正しい指摘とは言えない。他方で、自然災害等を引き金に、その強い意志が「諦め」に変わる現象も指摘している(小田切2014:41)。その結果、地域住民がそこに住み続ける意味や誇りを見失うことにつながる可能性がある。この現象は、東日本大震災と福島原発事故による避難住民においても見られたことである。
 以上、先行研究から導き出されるのは、①地方自治体間で人口の奪い合いをしても日本全体の人口増につながるものではなく、現実的に多くの自治体が「負け組」になること、②農山村は直線的・不可避的に消滅するものではなく、集落としての強靭性があり、地域を守ろうとする強い意識があるが、その強い意志が「諦め」に変わる可能性があること、③地域の実情を踏まえ、国の政策に踊らされない自治体としての取り組みが必要であること、となるであろう。この点を踏まえ、次章では会津地域の2つの集落における取り組み事例を報告する。一つは会津坂下町坂本分校の事例であり、地域以外の住民が主体となった取り組みである。二つ目は三島町間方集落の事例であり、地域住民が主体となった取り組みである。いずれの事例も、集落の維持に向けて、地域外の人々を如何に巻き込むかがキーワードである。

第2章 事例研究

第1節 概要
 会津坂下町は会津盆地の西部に位置し、東部を阿賀川、西部を只見川が流れ、東に広がる平野部は標高170m前後の豊かな農地で、西部は標高300~400mの山が連なる。気候は、夏は盆地特有の高温多湿、冬は積雪1mほどで季節感豊かな町である。2015年の国勢調査人口は16,303人となっている。坂本分校は、会津坂下町の西部、坂本地区にあり、磐越自動車道会津坂下ICから約200m、会津坂下町役場から約6.4kmの距離に位置している。
 三島町は、福島県の西南に位置し、海抜220~1,200mの峡谷型山村で、総面積90.81m2の86%が林野で占められている。また、尾瀬を源とする只見川が町の中心部を東西に貫流している。冬期間は日本海側気候のため、平均150cmの積雪となる。2015年の国勢調査人口は1,668人となっている。間方集落は、磐越自動車道会津坂下ICから約27.6km、三島町役場から約12.4kmの距離に位置している。

【図表1:位置図】
出所:三島町観光協会HP(一部加工)

第2節 会津坂下町「坂本分校」~地域以外の住民が主体となった取り組み事例~
 芸術という共通のテーマをもつ人たちが、その創作活動の場として、廃校となった分校を活用するところから始まる。会津坂下町の坂本分校を借りるときに役場から出された条件が「地域振興につながる活動」であった。地域住民と如何にして協力体制を築き、継続していくか。分校を借りた当初はよそ者であった人たちが、目の前にある山の雷神様を再生させる取り組みをきっかけに、地元住民に「よそ者が集落のために頑張っているのに我々も何かしなければ」という想いを生じさせた。この取り組みは、森林環境交付金を活用し、植生調査の結果や散策マップを記載した「里山のある暮らし『めぇ(まえ)山物語』」としてガイドブックの作成につながった。地域以外の住民の関わりにより、地域住民自らが集落の良さを再発見するきっかけとなった。一方で、地域住民の生活の中に深く溶け込むことの難しさもある。地域内住民の絆が強ければ強いほど、地域外の人々の関わりを排除する、あるいは地域のルールを強制する傾向がある。地域住民と「ほどよい距離」を保ちながら関わっていくことが成功の秘訣である、と話す。
 坂本分校を活用している芸術家集団の一人である金澤氏は、小田原市と会津坂下町の二地域居住を実践してきた。一般的に二地域居住が成功しないのは、定年後、65歳を過ぎてからでは気力、体力の限界がみえるからである、と話す。いまは会津にいるのが3分の2。きっかけは「死ぬ前にはきちんとしたものを食べたい」ことと東日本大震災を契機としたエネルギー問題であった。
 会津は日本全体よりも人口減少のスピードが早い。地方が今後どうなっていくのか、日本全体が未知の世界である。しかし、会津には「食料」「水」そして「エネルギー」が十分にある。地方としてのビジョンが必要であり、これがないと地方は消える。地域社会を維持するためには「経済」が必要。そこから「雇用」が生まれる。行政の支援を受けながらも、自立していく必要がある。自分たちでやるしかない。木製サッシの特許を取得し、量産化していく。地方が主体となって、下請けから元請けに転換していくことが重要である、と語った。

【図表2:森林環境交付金を活用した「めぇ(まえ)山」散策マップ】

第3節 三島町「間方集落」~地域住民が主体となった取り組み事例~
 間方集落は、三島町の中心部から10キロ以上離れた山奥深い集落である。会津と新潟を結ぶ主要街道沿いにあり、かつては賑わいのある集落であったが、2015年4月1日現在の住民基本台帳によれば34世帯、総人口66人、うち14歳以下の年少人口は2人(3%)、65歳以上の老年人口は41人(62.1%)となっている。2018年2月に実施した現地調査での聞き取りでは、28世帯に減少しており、12軒の空き家は、そのほとんどが管理されていない。35歳以下の住民はゼロで、当然、子どももいないとのことであった。三島町まち・ひと・しごと創生総合戦略(三島町人口ビジョン)における推計人口では、2060年の集落人口は12人となっている。かつては分校もあったが、現在は三島町自体が一学年で10人を切っている。
 ヒアリングに協力していただいた菅家さんは、約1時間かけて会津若松市の職場に通勤している。冬場は通勤に2時間要する。奥さんは地元三島町の病院の看護師。菅家さんの子ども達はここに住んでバスで学校に通ったが、学校まで10キロを超える道のりを経て、子育てしながらこの集落で生活するのは現実的に難しい。三島町としても地方創生・人口減少対策に取り組んでいるが、視線の先は町の中心部のみ。中心部には人が住んでいるが、周辺の集落は次々と消えている。ガソリンスタンドも町から消え、給油のために隣町に行かなければならない。将来の買い物に対する不安もある、と話す。
 2月に訪問したときは、大量の雪に覆われていた。しかしながら、「冬は除雪で大変だが、夏は最高の場所」と話す。お盆とお正月は人口が何倍にもなる。今住んでいる人たちで楽しくやろうと、田舎暮らし体験ツアーやロードトレッキング大会などを企画し、よその人が集落に関わる取り組みを行っている。少しでもこの地域に住んでいたい。本音では諦めたくない。でも、10年後にはなくなってしまうだろう…と語った。

【図表3:間方地区の世帯数と人口及び人口推計】
地 区世帯数総人口年齢三区分人口
うち年少人口
(14歳以下)
うち生産年齢人口
(15歳~64歳)
うち老人人口
(65歳以上)
間 方34戸66人2人3.0%23人34.8%41人62.1%
2015年4月1日現在 住民基本台帳
出所:三島町まち・ひと・しごと創生総合戦略(三島町人口ビジョン)

【図表4:間方集落の様子】

第3章 考察

第1節 自治体における「地方創生の取り組み」
 今般の地方創生は、自治体レベルでの地方版総合戦略の策定を義務付け、KPIを設定し、数値化により成果を検証することを必須としている。数値目標の達成ばかりに目を向けると、地域における現実が見えなくなる。そして、結果として多くの自治体において数値目標が達成できなかった結果になるであろう。少子高齢化や人口減少に歯止めをかける施策も重要ではあるが、自治体に求められるのは、住民の幸せのため、その生活実態を踏まえ、生活共同体としての集落を起点とした地域のあり方を創生することである。
 地方自治法第5条第1項においては、「普通地方公共団体の区域は、従来の区域による」として、自治体の区域を規定したうえで、同法第10条において「市町村の区域内に住所を有する者は、当該市町村及びこれを包括する都道府県の住民とする」としている。市町村の区域に住所を有している住民は、中心市街地で生活している住民も周辺集落で生活している住民も、等しく住民に変わりない。中心部を中央、周辺部を地方と仮定すれば、地方があるから中央がある。国レベルでみれば首都圏と地方、県レベルでみれば県庁所在地あるいは地方中核都市と地方、自治体レベルでみれば中心市街地と周辺集落。仮に市町村合併によってみせかけの人口が増加しても、生活共同体としての集落の実態は変わらない。そして、周辺集落が消滅すれば、いずれ中心集落も消滅する。
 自治の原点は住民にある。自治体が集落の存続を決める権利はない。住民生活のために集落が存在し、自治体が存在している。地域住民が望む暮らしを実現(維持)していくことが自治体の使命であることを再認識する必要がある。
 一方で、日本全体の人口減少を見据えれば、定住人口を増加させる自治体の施策の限界も明らかである。かつての企業誘致に見られる人口増は、多くの自治体にとって夢物語に過ぎない。そして、地域住民が望む暮らしを実現(維持)していくための手段として、地域外の多様な主体が地域に関わる地域社会の実現が考えられる。

第2節 「関係人口」の活用
 昨今、注目されているキーワードとして「関係人口」という言葉がある。これは、日本全体が人口減少するとともに低出生率が続くなかで、「定住人口」の維持は、「移住者」の無用な奪い合いを招くことに外ならず、必ずしも定住することが絶対条件でなく、多様なスタイルが存在することを前提に、定住人口と交流人口のどちらにも当てはまらない「地域に関わってくれる人口」と定義している(作野2018:18、田中2017:57)。さらに、関係人口の「関係」とは「関心」という意識と「関与」という行動の両者に及ぶものであり、地方部に関心を持ち、関与する都市部の人たちが想定されること、関係人口の「人口」とは必ずしも数量的概念でなく、個々人を対象とした言葉であり、人を数で語ることから脱却する必要性を説いている(小田切2018:14)。
 事例研究における坂本分校と間方集落の取り組みは、正に「関係人口」を活用して地域社会を維持しようとする取り組みである。一方で、地域にとって、単なる「関係」だけでは地域の担い手にはならないとの指摘もある。そして、地域は定住人口や関係人口だけで維持するものではなく、地域への参画や関与が求められており、地域の内外に地域参画総量を創出し、維持し、増大させることによって、地域は活き活きとした人々の自己実現の場となる(河井2018:27-29)。

第3節 自治体・地域のあり方
 日本全体の人口減少と少子高齢化は、大きな課題であることは間違いない。しかしながら、これは国策として展開すべき課題であり、地方の取り組みにより解決できるものではない。地方にとっては人口減少そのものが問題ではなく、人口減少によって地域社会が維持できなくなる現実が問題なのである。そして、地域はすぐに消滅するのではなく、地域をあきらめ、関わろうとする人が減り、いなくなったときこそが、本当の意味で地域の衰退であり、消滅である(田中2017:246)。
 人口減少社会における自治体のあり方としては、まずは自治体自らが、地域住民の幸せのために地域を維持していこうとする強い意志を、住民や議会の合意を経て、明確にする必要がある。具体的には、既存の住民概念である住民基本台帳による「住基人口」や国勢調査による「現住人口」からの決別である。人口が多い、あるいは増加している自治体が優れているとは限らない。人口減少自治体であっても、住民満足度が高い自治体は数多く存在する。原発事故からの避難にあっては、住民の納得度が高かったのは小規模自治体であった。数人の定住人口を得るために多額の費用をかけるのはやめ、既存の住民概念を転換し、地域内外の様々な主体を住民として捉え、改めて住民起点の行政運営を行うことが必要である。
 また、自治体職員は、集落維持の方向性を住民とともに考え、既存の人口にこだわるのではなく、多様な主体による地域の仕組みづくり構築に積極的に関わることが必要である。まずは、地域出身者のネットワーク形成が効果的であろう。共通項としての「故郷への思い」は重要な観点と考えられる。その際には、近隣市町村に居住する地域出身者と遠距離市町村に居住する地域出身者とでは、それぞれが担える役割は変わってくる。あわせて、坂本分校の事例のように「ほどよい距離感の確保」も重要と考えられる。自治体職員には、これまで以上にバランス感覚に優れたマネージャーとしての役割が求められる。
 めざすのは「人口流動」を政策的に促し、様々な主体が地域社会に関わる姿である。旧来の秩序や価値基準から解放された人々が、自分自身の「居場所」を求めて、最も自分らしく過ごせる場所を求めて、毎日、毎週、毎月、毎年、さらにはライフステージごとに、自分がそのときに所属する社会や組織のエリアを離れて、他のエリアを訪ね、他のコミュニティーに溶け込んで時間を過ごし、あるいは移住を重ねる、そうした人々の動きである。それによって社会が実質的に拡大すれば、個々の集落社会で考えるより、はるかに人口の維持可能性を高めることができる(松谷2009:4-5)。
 少子高齢化と人口減少社会は日本全体の課題であり、これまでの国策の失敗が原因であることは明らかである。国には、地方に責任転嫁するのではなく、地域の現状を踏まえた政策展開が求められる。その手法の一つとして、既存の住民概念に捉われず、多様な主体が地域と関わるなかで、定住住民も関係住民もメリットを享受できる制度化(法制化)が有効ではないだろうか。

2. おわりに

 本部会では、人口減少と少子高齢化に歯止めをかける必要性は十分に認識しながら、現実的に解消することが難しいことを前提として、そのなかでどうやって地域社会を維持していくかが出発点になっている。議論の過程では、集落構成員が高齢者のみとなっているような山間部集落等は、行政サービスを維持していくために多額の経費がかかり、切り捨てざるを得ないのではないか、との意見もあった。また、自治体の財源不足の現実を踏まえ、行政ニーズの整理や再編を進め、行政でしか担えない業務の選別の必要性も議論になった。しかしながら、間方集落における実態調査から、住んでいる住民の本音として「少しでもこの地域に住んでいたいし、本音では諦めたくない」という言葉は衝撃的であった。自治体職員である我々自身が、「山間部集落の住民は将来をあきらめている」を断定し、膨大な雪を眺めて、上から目線で憐みの感情を抱いていなかったか。
 自治体の使命は、地域住民の生活を守ることにある。東日本大震災と原発事故による住民の避難の過程では、自治体職員自らの判断で、住民の生命を守るために行動した。まさに自治体及び自治体職員として究極の使命を全うした。
 少子高齢化と人口減少対策において抜本的な解決策はない。自治体に求められるのは、人口減少社会という現実を踏まえたうえで、地域住民の「生活」と「生命」を守るため、地域住民とともに一つひとつ課題を解決していくことである。人口減少社会は、自治体と自治体職員の存在意義が問われているのである。




参考文献
今井照(2017)『地方自治講義』ちくま新書
小田切徳美(2014)『農山村は消滅しない』岩波新書
小田切徳美(2018)「関係人口という未来-背景・意義・政策」『月刊ガバナンス』2018年2月号、ぎょうせい
河井孝仁(2018)「地域参画総量が地域を生き残らせる-「関係人口」を超えて」『月刊ガバナンス』2018年2月号、ぎょうせい
作野広和(2018)「『関係人口』の捉え方と自治体の役割-自治体の真価が問われる時代に向けて」『月刊ガバナンス』2018年2月号、ぎょうせい
指出一正(2016)『ぼくらは地方で幸せを見つける-ソトコト流ローカル再生論』ポプラ社
田中輝美(2017)『関係人口をつくる-定住でも交流でもないローカルイノベーション』木楽舎
増田寛也編著(2014)『地方消滅』中公新書
松谷明彦(2009)『人口流動の地方再生学』日本経済新聞出版社
山下祐介/金井利之(2015)『地方創生の正体-なぜ地域政策は失敗するのか』ちくま新書