1. 移住・定住にワンストップで対応
(1) 文化の香りあふれる美しいまち
南砺市は2004年11月1日、4つの町と4つの村(城端町、平村、上平村、利賀村、井波町、井口村、福野町、福光町)が合併して誕生した人口52,000人の市です。富山県の南西端に位置し、西は金沢市、南は当市の相倉集落、菅沼集落と共に世界遺産である岐阜県白川郷に続いています。金沢市へは車で30分余りという位置にあります。美しい散居村が広がる豊かな自然と文化の香り高いまちです。利賀芸術公園では「利賀国際演劇祭」、福野では異文化交流とワールドミュージックの祭典「スキヤキ・ミーツ・ザ・ワールド」、井波では南砺市いなみ国際木彫刻キャンプが開催されています。また、城端は越中の小京都と呼ばれており、城端曳山祭はユネスコ無形文化遺産に登録されています。また城端はアニメの聖地と言われ、全国から多くのアニメファンが訪れるなど伝統的文化と近代的文化が融合した魅力あふれるまちです。
(2) 「なんとで暮らしません課」を創設
2014年5月、日本創成会議の人口減少問題検討分科会が「消滅可能性」のある自治体名を公表し、富山県内では南砺市などの3市2町が示され、特に南砺市は2010年から2040年までの30年間における出産に適した20~39歳女性の人口動態予測が△61.0%で、県内市で最も高い減少率とされました。
そして、南砺市における近年の人口動態については、4町4村が合併した2004年11月時点の人口は58,801人でしたが、2018年6月末には51,308人となりました。この13年間で7,493人の人口減少を記録しました。したがって、南砺市では毎年、平均500人以上にのぼる人口減少、近年では600人を超える人口減少が続いています。
南砺市では、このような現実を直視し、2014年4月に「南砺で暮らしません課」を創設しました。すでに市民協働課がショッピングセンター内に「南砺市協働のまちづくり支援センター」を開設しており、2016年度からは市民協働課と合併し、各課が個別に取り組んできた事業等の一本化を図り、年間を通して集中的かつ継続的に取り組む体制をとっています。営業時間は、午前10時から午後7時まで(休館日:年末年始)としています。
2. 地域ぐるみの協力体制を追求
(1) 移住希望者の立場に立った総合的なサポート
南砺で暮らしません課では、「住まい・子育て・仕事サポート」などを一体化した、移住希望者の立場にたった、より充実した総合的な定住支援制度を行っています。(詳しくは南砺で暮らしません課のHP参照)
沖縄から移住してきた夫婦は、移住後4人目を出産、「すぐに溶け込める環境があり」「雪は苦になるどころか、テンションが上がるくらい」、地域の人からは「子どもの声がするだけで気分が明るくなる」と言われ、「行政の方の様々な協力には感謝」「とっても住み心地がいい」と好評です。
(2) テーマを明確にした移住体験ツアー
一般的な移住募集ではなく、事業毎に焦点を絞った取り組みを行っています。今年(2018年)2月の移住体験ツアーは「古き良き日本で暮らそう~なんと冬物語~」として、2泊3日で空き家見学、移住者体験談、餅つき体験、住民の皆さんとの交流を行いました。その他雪山あるき、除雪体験、農業の収穫体験や郷土料理、病院や学校などの生活環境の見学、具体的な子育ての環境や親子で一緒に体験できることの喜びなどに焦点をあて、多くの参加者の皆さんの好評を得ています。
(3) 「南砺の魅力」が全国的に広がる
自然や文化に直接触れて南砺の良さを、いつでも体験してもらうため、「なんとに住んでみられ体験ハウス」を3棟設置しています。街中、山間地、里山の空き家を活用した体験ハウスは、年間を通して希望者の受け入れを行っています。利用料金は1人1泊1,000円(子ども無料)、1泊から30泊までの体験が可能です。また、家具や寝具類、テレビ、冷蔵庫などが設置してあり、インターネットも利用可能です。この体験ハウスは、東京都を中心に関東方面の県外在住者を含め多くの方の利用があり、2016年度には32組、2017年は33組の利用があり、年々増加傾向にあります。
月刊誌『田舎暮らしの本』(宝島社)の2017年版『住みたい田舎ベストランキング』で、南砺市が総合部門で全国第3位に選ばれました。評価項目の中でも、「移住者支援制度の充実」「日常生活」「交通の便」「医療介護体制」「災害リスク」では満点、「移住者歓迎度」「定住促進の広報活動」「自然の豊かさ、伝統的な景観」でも高得点の評価を受けました。このように、直に「なんとを体験」をしてもらうことで 大都市圏や県外の皆さんなどに、南砺市の良さと魅力が徐々に広がってきているように感じています。
(4) 受け入れ地域との協力関係
この事業で留意しなければならないことは、移住希望者の募集業務ばかりではなく、移住者を受け入れる地域の協力体制がないと事業自体が成り立たず、成果につながりにくいという点です。したがって、移住者を受け入れてくれる地域を探すことにも尽力しなければなりません。
南砺市の場合は、自治振興会や各地区の皆さんへ受け入れをお願いし、了解がとれたらその地域の皆さんが一体となって、受け入れの協力をいただけるように説明会や相談会を何度も丁寧に行っています。また、新規受け入れだけでなく、継続の場合も同じことを行っています。
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(5) 地域協力と市民参画がカギ
これについては、少々時間がかかっても大切な過程だと思います。なぜなら、移住者「受け入れ」について、みんなで考えて議論することは、その地域の皆さん自身が「地域の将来を真剣に考える」ということだからです。それと同時に、みんなで受け入れのために力を合わせてできる協力や諸取り組みを行うということは、新しい未来へ向けた「地域づくりをみんなで実践」することに他なりません。
未来に向けたまちづくりが市民レベルで広がっていくことにつながりますので、これは極めて大切な取り組みだと思います。「雇用・住まい・子育て環境」などの総合的な施策と市民協力が一体となった定住対策は、地道な努力が功を奏して、今、どの取り組みも前進を示しています。
3. 市民との協働で婚活
(1) 婚活は市の重要施策
今日の少子高齢化や人口減少問題で、もうひとつ忘れてはならない重要な課題が、未婚化・晩婚化対策です。富山県における2004年の平均初婚年齢は「男性29.7歳、女性27.6歳」でしたが、10年後の2014年には「男性31歳、女性29.2歳」となっているなど、近年では少子高齢化が進展しつつ、同時に未婚化・晩婚化が進行している状況にあるからです。
そして、2015年人口動態統計における南砺市の年間婚姻届の件数は145組で、1年間の出生届けの件数は326人で、依然として低い状況です。また、同年の県内自治体の人口1,000人あたりの婚姻件数は、県平均は4.3で全国の5.1を下回っています。婚活は市の重要施策です。
(2) 「市の事業」だから市民は安心
このような実態の中で、南砺市の婚活支援活動は、2011年に県内初の「婚活支援係」をつくり、婚活支援を直接行っており、市としての取り組みは通算8年目となります。
行政(市町村)が婚活支援を直接行うのは、富山県内では初めてのことでした。民間業者の斡旋事業ではないので、無論、利益目的ではありません。したがって、加入登録費用や年会費などは無料です。また、市が直接運営する組織なので極めて「信頼性が高く」、市民は安心して参加・相談することができるようになりました。
(3) 課題を真正面から受け止める
かつては南砺市内でも、各種民間団体による婚活イベントやお見合いパーティなどが開催されてきましたが、その時々でカップリングが完結する形となっており、成婚に至るケースは極めて少ない状況でした。
従来の方式では、個別イベント以後のフォローアップや継続性などに課題があると考えられます。また、今日の結婚適齢期の男女は、恋愛や結婚に対する積極性が少なく、結婚を前向きに捉えられるような「意識改革を促す」ことも必要でした。さらに、地域を挙げて結婚しやすい環境を醸成していくことなども必要であると思われます。このように課題山積の中、従来までの問題点を真正面から受け止めて、行政としての婚活支援の取り組みを進めてきました。
(4) 結婚応援団「なんとおせっ会」
南砺市の婚活支援の活動で一番の特徴は、なんといっても田中市長が会長を務める婚活応援団「なんとおせっ会」の存在です。この会は、一般公募及び自治振興会や婦人会等の各種団体から推薦された会員(おせっ会さん)によって構成されています。おせっ会さんは、各地域の婚活サポーターとして、独身男女の婚活指導相談や市が運営する「婚活倶楽部なんと」への加入促進を行います。
さらに、おせっ会さんが中心となって、具体的な各種婚活イベントや写真お見合い会、出会いの広場などを実施するなど、地域を挙げた婚活支援の雰囲気の醸成にもつながっています。
また、「なんとおせっ会」の会員数については、当初、少数からスタートしましたが、市民の皆さんの協力により、今日では百人を超えています。おせっ会さんは、南砺で暮らしません課と共に、市内各地域の婚活支援活動に大きな役割を果たしており、文字通り「官民一体となった協働活動」にて婚活を推進しています。
(5) コミュニケーションのスキルアップも
2番目の特徴は、男女出会いの場のプロジェクトだけではなく、結婚&恋愛心理学ワークショップ、おもてなしコミュニケーション講座、先輩カップルから学ぶ集い、結婚力スキルアップセミナーなどの取り組みを通して、いわゆる独身男女の「結婚力の向上」に大きな力を注いでいる点です。
近年、「田舎で暮らしたい」「自然が好き」「農村で子育てをしたい」といった価値観が広がり、田舎で結婚したい若者が増加傾向にあります。基本的な結婚観や心構えなどに加えて、特に他県や都会の方を迎えて婚活交流を実施する際に、迎える側の人間力としての「コミュニケーションスキル」が確実に問われます。
現在、全会員を対象に通年的にスキルアップセミナーや講座などを開催しています。各イベントなどで、積極的に話し合う男女参加者の姿が圧倒的に多くなってきており、効果は上がっていると思います。
(6) 「結婚がゴール」ではない
また、3番目の特徴としては、めでたく「結婚にいたった」としても、南砺市の婚活支援は、それで「ゴール・終了」とはしていない点です。
現在の日本は3組に1組が離婚しているという実態があります。南砺市の婚活支援は単に成婚させることを最終目標とせず、その後の出産や子育て支援、地域問題に関する相談・支援、各種心配事相談などを、おせっ会さんを中心に「継続的に地域で支えていく」ことを基本としています。それが、結婚後の継続的なサポートや離婚率の低下にもつながると考えているからです。さらに、継続的な地域ぐるみの支援活動は、そのまま南砺市の「すみよい地域づくり」に大きく貢献していくと思われます。
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「成婚50組」達成時の掲示ポスターなど |
(7) 地道な努力で104組の成婚
一般的に婚活支援事業は、その事業効果が現れるまでに一定の時間がかかります。しかし、南砺市の場合は、市の婚活支援活動にて成婚に至ったカップルは2011年1組、2012年9組、2013年20組など、年を追うごとに右肩上がりで増え、今日までに104組(2018年6月末現在)が成婚に至りました。
4. 市民協働で未来を拓く
南砺で暮らしません課には、「定住・空き家対策係」「婚活支援係」を中心として、「協働のまちづくり係」、「広報係」の4つの係が、市民参加による地域ぐるみの協力体制を追求し、今、文字通りの市民協働の推進で「少子高齢化・地域活性化」対策を、着実に前へ進めようとしています。
そして、南砺市と他県・他団体との取り組み方の大きな違いは、目先にあるイベント自体の成功や定住そのもの・成婚自体を最終的なゴールとしていない点ではないでしょうか。
それは、南砺市民自らの未来に向けた地域づくりへの議論参加や、市民自らの手による地域づくりへの協力関係の構築など、単発的ではなく、あくまで継続的で、未来を見据えた南砺市の人づくり・土台づくりが、すべての取り組みの基本にあります。
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