1. はじめに
東日本大震災とそれにともなう福島第一原子力発電所の過酷事故は、原子力発電は取り返しのつかない大惨事をもたらすことを白日のもとにさらしました。また、化石燃料は地球温暖化に深刻な影響を与え続けていることから、再生可能エネルギーの重要性、普及が世界的に高まりました。
私たちは、市民の力で実際に太陽光発電所を建設し、市民による太陽光発電事業が可能であることを実証しようと考え、今回のプロジェクトを開始しました。
プロジェクトのコンセプトとしては「市民による市民のための再生可能エネルギーによる発電事業の普及」及び「エネルギーの地産地消」をめざしています。
そして2017年11月、および2018年5月に太陽光発電所2基が完成したので、それまでの経緯を報告します。
2. これまでの経緯
(1) 新潟での取り組み
2016年10月1日に富山県地方自治研究センターの研究会が開催され、講師の新潟国際情報大学国際学部教授の佐々木寛先生が新潟での太陽光発電の取り組みについて講演されました。佐々木寛先生が、おらってにいがた市民エネルギー協議会及びおらって市民エネルギー株式会社を設立して、太陽光発電所を建設して市民によるエネルギー開発を実践しているとの現状を知り、富山でも同様の取り組みが可能ではないかと模索し始めました。
新潟、そして全国各地の取り組みを参考に、富山県地方自治研究センターに「富山県での市民発電を考えるプロジェクト委員会」を設置し、活動を開始しました。
(2) 会津での取り組み
新潟県の隣の福島県でも会津電力株式会社による市民参加の太陽光発電所が建設されていて、同様の取り組みがなされていることを知ったプロジェクト委員会は、会津電力ともコンタクトを取り、太陽光発電の実際について調査・研究を始めました。
(3) 再生可能エネルギー発電に対する固定価格買取制度について
太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギー発電に対しては、電力会社に売電する際に買取価格が10年間もしくは20年間固定される固定価格買取制度があります。
これにより計画的に太陽光発電所を建設し、20年間は安定した収益を得ることができることになりますが、この固定価格は年々低下してきていて、2016年度は太陽光発電で24円、2017年度は21円となっています。つまり太陽光発電所を建設するのであれば早い方が良いということから、太陽光発電所の建設を急ぐこととしました。
(4) 市民団体(協議会)と事業会社の設立に向けて
私たちは、独占大企業である電力会社から供給される電力を消費する側でした。また、私たちは原子力発電に反対するとともに、市民が自ら発電(生産)に参画し、再生可能エネルギーを供給すること、私たちが受け身から能動的に考え、行動することに意義があると考えています。
富山県は、他県と同様自然に恵まれ、再生可能エネルギーの宝庫ともいえます。再生可能エネルギーを幅広い市民の参加によって普及拡大するべく、市民団体「とやま市民エネルギー協議会」を設立し、当面は太陽光発電から取り組むこととしました。
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とやま市民エネルギー協議会設立総会 |
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記念講演会の会津電力 佐藤彌右衛門社長 |
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飯田哲也さんの講演会 |
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2016年10月26日、富山県での市民発電を考えるプロジェクト第1回委員会を開催し、その後、度重ねてプロジェクト委員会や勉強会を開催してきました。そして、2017年4月22日、会津電力社長の佐藤彌右衛門さんを招き「再生可能エネルギーが切り拓く地域の未来!」と題して講演会を開催するとともに、正式に「とやま市民エネルギー協議会」を設立しました。また、協議会の運動の一環として、自らが再生可能エネルギーによる発電を行うべく、事業会社である「とやま市民エネルギー株式会社」を設立しました。
その後、太陽光発電事業の準備に取り組むとともに、「マイクロ水力発電」や「太陽光発電の仕組み」などの研究会・勉強会を開催しています。また、2017年12月16日には、飯田哲也さん(環境エネルギー政策研究所所長)を招いて、再生可能エネルギー講演会「再生可能エネルギー、市民発電の現在とこれから」を一般市民にも参加を呼び掛けるなかで開催します。
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3. 太陽光発電所建設に向けた取り組み
(1) 土地の確保
前述するように事業会社が設立され、太陽光発電所の建設に向けた取り組みが始まりました。まず我々が最初に始めたのは、太陽光発電所を建設するための土地を募集することでした。
太陽光発電所を建設する条件としては下記のようなものがあります。
① 1,000平方メートル以上の面積
② 日当たりの良い場所
③ 電力線が近くにあること
④ 道路に接続していること
また、この土地が農地である場合、農地転用が可能かという問題があります。これが第1種農地であれば、まず農地転用は困難です。また農地転用はそれなりにコストがかかるので、最初から地目が雑種地あるいは宅地になっていれば、問題はありません。ただし、面積と場所的な問題から遊休農地以外ではなかなか確保が難しいというのも現実でした。
原則として土地を賃貸という形で確保するつもりでしたが、賃貸料は高くはないのですが、農地転用により固定資産税が上昇する分は別途支払うという形を取らざるを得ないので、農転により固定資産税が宅地並みとなるとして、それがあまり大きい金額だとコスト的に苦しいこととなります。実際にも他の問題はないのに固定資産税の問題で断念せざるを得ない土地がありました。
しかし、地権者のご協力により、富山県西部の小矢部市で太陽光発電所用地を確保することになりました。この土地は農地であったものが作付けを今後行わないということで、農地転用して地目を雑種地としてから太陽光発電所を建設することになります。
(2) 資金調達
土地の募集と並行して資金調達のための金融機関へのアプローチも実施しました。
当初は日本政策金融公庫へ借り入れを試みましたが、実際には金利が高く、これを断念して、民間金融機関への借り入れを決断しました。
民間金融機関との交渉の結果、融資を受けることとなり、これで資金調達のめどがついたので、太陽光発電所の建設にゴーサインが出たわけです。
(3) 太陽光発電所1号機の稼働
これまで建設用地の募集、資金調達と同時並行で太陽光発電設備を設置する事業者も選定していましたが、正式に契約することになりました。
2017年10月20日に小矢部市清水で太陽光発電所の建設が始まり、11月6日に完成し、7日から北陸電力に送電を開始しています。
午後1時からの送電開始時点での天候は晴れでしたが、パワーコンディショナ8台はいずれも最大出力で発電していて、11月上旬といっても天候さえよければフル送電が可能だということが早々に実証されたといえます。
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304枚の太陽光パネルは、最大で82.08kwの発電が可能です |
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発電月 | 発電量 | エネルギー削減換算 |
二酸化炭素 | 二酸化イオウ | 石炭 | 森林 |
2017年11月 | 3,563kwh | 3,731.64kg | 25.65kg | 1,275.55kg | 175.23本 |
2017年12月 | 3,939kwh | 4,125.44kg | 28.36kg | 1,410.16kg | 193.72本 |
2018年1月 | 2,744kwh | 2,873.88kg | 19.76kg | 982.35kg | 134.95本 |
2018年2月 | 5,105kwh | 5,346.63kg | 36.75kg | 1,827.59kg | 251.06本 |
2018年3月 | 8,478kwh | 8,879.28kg | 61.04kg | 3,035.12kg | 416.95本 |
2018年4月 | 8,987kwh | 9,412.37kg | 64.70kg | 3,217.34kg | 441.98本 |
2018年5月 | 9,183kwh | 9,617.65kg | 66.12kg | 3,287.51kg | 451.62本 |
2018年6月 | 9,464kwh | 9,911.95kg | 68.14kg | 3,388.11kg | 465.44本 |
合 計 | 41,999kwh | 43,986.89kg | 302.38kg | 15,035.62kg | 2,065.51本 |
2017年11月から2018年6月までの発電実績は41,999kwhとなっています。1号機の年間予測発電量は75,000kwhであり、一般家庭の年間電力使用量が3,000kwhとされているので、25世帯の年間使用量に相当します。
二酸化炭素の削減量は43,986.89kgとなっていて、40年生前後のスギ人工林1ヘクタールが1年間に吸収する二酸化炭素の量は約8.8トンなので、その5倍となります。
(4) 太陽光発電所2号機の建設
1号機の完成後、さらに2号機を小矢部市臼谷で建設する運びとなりました。
土地の確保も地権者の好意により、目途が立ったので、業者とも契約を交わし、2018年4月より、発電所を建設し、2018年5月11日より送電を開始しています。
この時点では、清水太陽光市民発電所も順調に稼働していて、シミュレーションの想定値を超える実績を上げています。
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268枚の太陽光パネルを持ち、最大73.7kwの発電が可能です |
4. 小矢部太陽光市民発電所の概要
(1) 発電所のスペック
| 発電設備の主な構成 |
発電所名称 | 小矢部清水太陽光市民発電所 | 小矢部臼谷太陽光市民発電所 |
工法 | 野立架台設置工法 | 野立架台設置工法 |
設置総出力 | 低圧連系82.08kw | 低圧連系73.7kw |
出力 | 270w | 275w |
モジュール枚数 | 304枚 | 268枚 |
パワーコンディショナ | 5.9kw/8台 | 5.9kw/8台 |
私たちが建設した2基の太陽光発電所は、低圧連系ですが、82.08kw、73.7kwという規模でいわゆる過積載と呼ばれている大出力の発電所です。
太陽電池モジュールは、1号機はシリコン系多結晶270wを304枚、2号機は275wを268枚搭載しています。
パワーコンディショナは、いずれも5.9kw×8台を搭載し、最大47.2kwとなります。
(2) 太陽電池モジュールの配置図面
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小矢部清水太陽光市民発電所 | | 小矢部臼谷太陽光発電所 |
5. 太陽光発電所敷地の農地利用
小矢部臼谷太陽光市民発電所の敷地は、もともとはシイタケ栽培に利用されていた土地でしたが、太陽光発電所に利用されることで、そのままでは土地の一部は有効利用できないことにもなります。
そこで、臼谷太陽光発電所敷地内の隙間を利用して畑地として再利用することが計画されています。
太陽光パネルが光を遮るので、栽培に支障が出るという可能性も指摘されるでしょうが、実は太陽光発電と栽培を両立するソーラーシェアリングと呼ばれる手法を取り入れるケースが増えています。
つまり栽培に必要な光量は必ずしも太陽光の全量を必要としないという考え方から、ある程度光がさえぎられても栽培が可能であるということが実証されているわけです。
そこで、地元の農家の方が敷地内の土地への作付けができるように、試験的に開放することとしました。
この周辺でも獣害の発生が頻繁にあり、農作物の被害が出ているという事情があり、当発電所敷地内がフェンスに囲まれていて、害獣の侵入が難しいと考えられるので、この方法での作付けが有効と認められれば、来年度はさらに本格的に作付けすることを考えています。
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太陽光発電所敷地内でメロンの栽培を実施しています
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6. まとめ
私たちとやま市民エネルギー協議会では、2016年10月から、当プロジェクトを推進してきましたが、2基の太陽光発電所を建設することができて、さらに大規模な高圧連系太陽光発電所の建設も検討中です。
さらに2018年度からは、「再生可能エネルギープロジェクト」が立ち上がり、小水力発電所の建設もめざしています。
これらはいずれも再生可能エネルギーによる発電で、二酸化炭素を排出せず、環境への影響も最小限にとどめることができ、継続的なエネルギー供給が可能となる事業と言えます。
もはや国際的には、再生可能エネルギーによる発電が主流となりつつあり、風力発電、太陽光発電が原子力発電を上回っています。今後は、化石燃料の枯渇も懸念される中、ますます再生可能エネルギーが主流とならざるを得ないと思われるのに、日本ではまだまだ再生可能エネルギー発電の割合が小さく、再生可能エネルギー発電を普及させていかなければならないと決意を新たにしています。
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