【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第5分科会 人口減少社会をどう生き抜くか!?

 2016年、大野市に木質バイオマス発電所が稼働した。当地域は県内最大級の森林面積を有しており、これまで山に放置されがちだった間伐材が、森林組合の運営する「山の市場」に持ち込まれるようになった。発電が山の整備を促して山をきれいにし、中山間地の収入につながる好循環ができつつある。



大野市のバイオマス発電所について
―― エネルギーの地産地消に向けて ――

福井県本部/大野市職員労働組合 野田 博幸

1. 福井県大野市の林業経営を取り巻く状況の考察

(1) 大野市を取り巻く状況
① 大野市の位置及び地理的特徴
 福井県大野市は、福井県の東部に位置し、北東は石川県、東と南は岐阜県、西は福井市・今立、北は勝山市と接し、市域の北西部に位置する大野盆地は、直径10kmほどの円形をしており、盆地の周囲は、霊峰白山の支流に囲まれ、東に赤兎山、願教寺山、南東に荒島岳、南に能郷白山、北東に経ヶ岳など標高1,000m級の山々がそびえています。岐阜県境に源を発する九頭竜川は、その山並みを水源とする真名川・清滝川・赤根川をあわせて、大野盆地を南から北へ貫流し、上流で九頭竜峡・真名峡の渓谷美を作り、流下して4,000haの沃野を潤し、肥沃な水田地帯を成しています。特に九頭竜川、真名川上流には多目的ダムがあり、水田涵養機能の高い森林が大部分を占めています。
 大野市の総面積は87,243haであり、森林面積は75,838haで、総面積の86.9%を占めています。民有林面積は、55,166haで、そのうちスギを主体とした人工林の面積は17,034haであり人工林率は30.8%で県平均(45.2%)より低くなっています。また、35年生以下の若い林分が8,721haで51.6%を占めており、今後、保育、間伐を適正に実施していくことが重要となります。(以上「大野市森林整備計画書」より抜粋)
② 大野市の人口、就業人口等
 国勢調査の資料をもとに、2005年調査時と2015年調査時のデータを次の表にまとめてみました。人口、就業者数の減少が顕著であり、65歳以上人口の増加が目立つことがうかがえます。そして、大野市は全国平均と比較すると高齢化が進行しています。
 また、表の数字だけ見ると林業従事者が増えているように見えますが、就業者数の減少に伴い、林業従事者は減少傾向であり、2000年の調査では就業者数は21,801人で、林業従事者は135人となっています。

【人口、高齢化率、就業者数、林業従事者数(国勢調査データより)】

調査年

大野市
人口

65歳以上
人口

65歳以上
割合

65歳以上割合
(全国)

就業者数

林業
従事者数

2005年

37,843人

10,415人

27.5%

20.1%

20,516人

45人

2015年

33,109人

11,253人

34.0%

26.7%

17,733人

93人

(2) 林業を取り巻く状況
 森林・林業統計要覧2016より一部データを次の表にまとめてみました。
 林業作業や間伐を行った経営体が著しく減少しています。また、林産物の販売についても、経営体自体が少なくなっており、家族経営の割合の高さが目に付きます。そして販売をしていない経営体数の多さが特徴と言えます。
 また、林業所得が減っており、投下労働時間が増えていることが読み取れます。そして、大規模経営体になればなるほど、雇用労働の割合が増えており、所得の増加も目立ちます。農業と同じように、林業についても集約と生産性の向上、所得のアップが課題と言えます。

【林業経営体数(森林・林業統計要覧2016より抜粋)】

調査年

林業作業を
行った実経営体数

間伐(切捨・利用)を
行った実経営体数

過去1年間に林産物の販売を
行った林業経営体数

経営体数
(うち家族経営)

販売なし
(うち家族経営)

販 売
(うち家族経営)

2010年

86,753

52,803

140,186
(125,592)

124,203
(112,285)

15,983
(13,307)

2015年

50,346

28,465

87,284
(78,080)

73,721
(67,132)

13,563
(10,948)

【林業所得と投下労働時間(森林・林業統計要覧2016より抜粋)】

調査年

林業所得
(一戸あたり平均)

投下労働時間
(一戸あたり平均)

家 族

雇 用

2007年

291千円

422時間

149時間

571時間

2013年

113千円

447時間

198時間

645時間

20ha~50ha

760千円

645時間

175時間

820時間

50ha~100ha

90千円

373時間

107時間

480時間

100ha~500ha

111千円

424時間

278時間

702時間

500ha以上

4,505千円

195時間

1,744時間

1,939時間

 ※保有山林20ha以上の数値です。

(3) 大野市の林業の置かれている状況を分析
 林業全体として、家族経営の多さや経営体の減少が顕著であり、投下労働時間が所得に結びついていません。農業と同じく、業務の集約と効率化が課題です。
 大野市はその所在及び市域の8割以上を森林が占めるという状況から、森林に囲まれ森林と共に生きることが当然の市です。そして、我々の生活の場と森林を繋ぐのが、里山や人工林であり、そこを管理する林業従事者であることを考えると、林業の持つ役割はより重要になってきます。しかし、人口減少や全国平均以上の高齢化が進んでいることを考えると、後継者を育成・確保し、持続可能な林業を確立することが大きな目標になります。
 また、林業の衰退は、森林の持つ、水源涵養機能、山地災害防止機能/土壌保全機能、快適環境形成機能、保健・レクレーション機能、文化機能、生物多様性保全機能及び木材生産機能など様々な機能の衰退に結びつくため、林業だけの問題ではありません。

2. 木質バイオマス発電所について

(1) 大野市に木質バイオマス発電所稼動
 2016年4月に県内初となる木質バイオマス発電所「福井グリーンパワー大野発電所」が稼動しました。まずは、工場の外観写真を見てください。

(2) バイオマス発電とは
 バイオマスとは、生物資源(バイオ)と量(マス)に由来し、「再生可能な、化石資源を除いた生物由来の有機性資源」のことです。特に、木材からなるバイオマスのことを木質バイオマスと呼びます。
 その木質バイオマスを燃焼したり、あるいは一度ガス化して燃焼したりして発電するしくみを「バイオマス発電」といい、バイオマス燃料を燃焼することでタービンを回し、発電機を動かすことで発電を行います。
 バイオマス発電は、カーボンニュートラル(排出される二酸化炭素と吸収される二酸化炭素が同じ量であること。)という考え方で、二酸化炭素を増加させずにエネルギーを作り出すことができるクリーンな発電方法です。

(3) 大野市の木質バイオマス発電所の特徴
 大野市にある木質バイオマス発電所は、木材(間伐材、製材所廃材など)などを燃やして発生した蒸気でタービンを回し発電します。発電規模は7,000kwで一般家庭1万5,000世帯分に相当します。施設においては、地域の間伐材などの集約からチップの加工、発電まで一貫体制で実施しています。
 バイオマス発電所を運営する株式会社福祉グリーンパワーは、株式会社神鋼環境ソリューション、九頭竜森林組合、有限会社ニューチップ運送、出光興産株式会社が出資し、2014年3月に設立されました。主に福井県内で発生する未利用間伐材や一般材木などを燃料として発電を行い、再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT制度)に基づき売電を行う事業をしています。

(4) 発電の流れ
 発電所では次の流れで発電が行われます。
① 丸太の木材が搬入されてきます。
② 丸太をチップ化します。
③ チップをチップヤードから受入ホッパへ運び、投入します。
④ ボイラーでチップを燃焼させて高温高圧の蒸気を発生させます。
⑤ ボイラーで発生した蒸気で蒸気タービンを回転させて、発電機で電気を発生させます。(排ガスから熱を回収し発電効率を向上させます。)
⑥ 発電された電気は6.6キロボルトから77キロボルトに変電して送電線へ送り出します。
⑦ 蒸気タービンを回転させた後の蒸気を水(復水)に戻すために冷却水で冷却します。復水は再びボイラー給水として循環使用します。
⑧ 排ガス中の煤塵(ばいじん)を特殊な布で除去し、クリーンなガスにします。

【発電の流れ】

3. バイオマス発電の目的と稼動当初の課題

(1) 大野市の目的
 大野市がバイオマス発電に取り組む目的は次のとおりです。
① 「県内から発生する木質バイオマス資源の『地産地消』による発電」-間伐材を中心に、製材端材、チップを含めた木質バイオマス資源を燃料として活用します。
② 「林業の再生、山の整備・保全」-これまで利用されず山地に残されてきた残材(低質未利用間伐材)をバイオマス燃料として有効活用し、今まで以上に間伐が促進されることにより、災害防止、治山治水、生態系保全に貢献します。
③ 「地域振興」-従業員の地元雇用、森林間伐促進による林業関係者の雇用増大等、地域経済の活性化に貢献します。
④ 「環境負荷低減」-再生可能エネルギーによる発電により二酸化炭素を低減します。
 大野市を含む奥越地方は県内最大級の森林面積を有しており、林業は重要な地場産業でした。しかし近年、木材価格の低迷と外国からの輸入の影響により林業経営が難しくなり、森林所有者の関心が薄れ、管理がおろそかになった山林も増えていました。木質バイオマス発電事業をきっかけとして林業再生につなげ、林業に関心を持ってもらうことで、間伐材の供給量を増やす。その好循環により、林業の活性化をめざしています。

(2) 稼動当初の課題
 木質バイオマス発電には、燃料となる木材の確保という課題があります。稼動当初の供給量では、将来的に燃料不足に陥る可能性もありました。
 林業の活性化により、間伐材の供給量を増やし、発電所の稼働率を高いレベルで確保することが課題となります。

4. 稼動から2年目を迎えて

(1) この間の取り組み
① 大野市の取り組み
 2017年5月22日、大野市は、株式会社福井グリーンパワーの運営する「木質バイオマス発電所」の事業を農山漁村再生可能エネルギー法に基づき、地域に貢献する事業であるとして認定をしました。
 この認定により、「地域資源バイオマス発電設備」の要件を満たすことになり、固定価格買取制度における出力制限ルール上の優遇措置(供給過剰時の稼動制限が緩和されること。)を受けることができ、安定供給が実現します。
② その他の取り組み
 燃料である間伐材の調達や管理は、福井県森林組合連合会、福井県木材組合連合会、各森林組合、(株)福井グリーンパワーで構成する福井県木質バイオマス燃料安定協議会が担っており、福井県や大野市、国有林管理機関がオブザーバーとして参加しています。
 また、燃焼による燃焼灰を、地元の育成農業団体と協同で、肥料としての活用試験を行っており、作物の生育が良いと報告されています。

(2) 初年度の稼動状況
 稼動開始からの1年間で約8万トンの間伐材や一般材木を使用し、施設の稼動率も約98%という高いレベルでの操業を実現しました。発電効率は冬場で29%を達成しており、この間、課題とされた間伐材の供給にも問題がなく、安定稼動を実現しました。

(3) 効 果
 間伐材の取引を活性化させ、山に放置されがちだった間伐材が森林組合などが運営する市場に持ち込まれるようになりました。県の支援を受け森林組合が中心となって開設された「山の市場」(嶺北地方に6箇所あり)には、(株)福井グリーンパワーが買い取りを行うことの効果もあり、多くの間伐材が持ち込まれ、地域の山林所有者の収入に繋がりつつあります。
 発電が山の整備を促し、中山間地の収入につながる好循環が出来つつあります。

5. 今後の課題

 大野市にある木質バイオマス発電所は、これまでのところ順調に稼動ができていますし、燃料となる間伐材などの供給も順調です。しかし、これからの課題としても、安定稼動のための間伐材などの確保が重要となります。
 また、大野市の発電所は、地域の未利用材を燃料に有効利用しながら山もきれいにするというのがコンセプトです。コンセプトの違う、輸入材を中心にした大規模発電所が、輸入材不足等で地域の未利用材に手を伸ばしてきた場合、原料の取り合いが発生することが懸念されます。地域に密着したバイオマス発電所を、原料の取り合いから守るルール作りが今後の新たな課題となります。