はじめに
少子高齢化・後継者不足・魅力なき役割・限界集落・非経済活動などと言われ、農村は衰退してきて何十年と経ち、その間、政府は大規模農業、企業農業者を中心にした農業を推進し「強い農業」政策をたてて、外国との自由貿易を国益として、TPPなど輸出入農業を進め、国内の農産物を国際・国内価格競争におとしめ、国内的には中小農家は疲弊し、意欲を無くし、限界集落が増えてきています。
地球規模的には、自然と人間の関係に大きな悪環境を与えています。農村集落は人との繋がりで村を形成して、そこにいろんな文化が生まれ、元気のある地域となってきたのです。人間が住むための必要な地球環境を維持してきたのです。
そこで改めて、私たちにとっての、農村とは、農業とは、をあらためて考えてみたいのです。
1. なぜ、農村は疲弊してきたのか
(1) 活性化への取り組み、その1
村の人口が減ってきている、空き家が多くなってきている、遊休農地が増えてきている、農業者の高齢化という現象が定着してきています。
私が活動してきた集落は、農家人口217人、65歳以上の高齢化率は37%、耕地面積は35ha、専業農家は2戸(後継者で)、稲作が中心で、野菜の販売をしているところは専業農家の2戸という小さな集落です。
この集落で最初にしたことは、機械の共同化の営農組合を設立したことです。動機はどうしたら「儲からない農業が損をしない農業」にならないのかでした。一集落一農場という考えもありましたが、集落人が一つにまとまるということは非常にむずかしく気が合う者が集まるグループでいこうと考えました。
なぜ機械の共同なのかと言えば、共同で機械を買えば、一人の負担が少なくて済みます。特に、稲作は普通のところでは、1年1作しか行っていません。田植え機、コンバイン、自走除草機などは高額で作業時期、所有面積や機械の能力によりますが、各作業が3~4日で終わり、あとは、倉庫で眠ることになります。これらの機械の総価格は700万円以上かかります。大蔵省令の耐用年数は5~6年となっており(管理よければ10年以上はもつ)、1年の機械購入負担は110万円になります。
一方、7人で分担すれば1人100万円で7年間利用できることになります。単純に考えても経費の負担が楽になり、損をしない農業に近づきます。また、グループを組むことによって期待することがまだまだあります。サラリーマン農業であっても作業や機械の共同化によって、田んぼのことや地域のことや友人のことが話し合える場を作ることによって情報の交換ができ、みんなの意識が深まります。
このように考えていけば、農業をそう負担なく続けていくことは可能であると考えられます。がしかし、サラリーマンをしながら農作業が無理なくできるのでしょうか。
稲作の時期は稲の種類を変えなければ、同一時期になるため、作業日(土・日曜日)が重なることが起きます。品種を変えて、事前に作業表をつくることと、中古の機械でいいから機械を複数化することにより、混乱ない作業日程を組むことができます。また、機械の長寿命化は日ごろの管理が大事で、一人でやれば大変な作業となりますが、みんなでやれば、短い時間で行き届いた手入れができます。
共同で、作業から機械管理からみんなですることを決めてやっていくことは、7人が仲良くなり、共同意識が高まり、村の活動に積極的になれるようになります。
多分、個々で農業をしていたら、機械が故障した時点で、作業委託をしたり、農地の放棄をしていたかも知れません。このような悪環境が他へと波及し、人口減や遊休農地増の現象が顕著になっていったと思います。村の存続問題につながっていたかも知れません。
(2) 新たなる取り組み
この機械共同化の営農組合が2年ほどすぎたころより、みんなに欲が生まれ、お米を農協に出すより自分たちで販売していったほうがおもしろいのではないかとの意見が出てきました。
どこへ売るのか、どのように売るのか、どのくらい売るのか、村との関係はどう考えていくのかと悩みが多くありますが、この営農組合の基本は「村のためになる」ということが第1であり、私たちがうまくいくことが、村にとってもいいことであることをいつも考えていく必要があります。
① まず、直売所をつくることにしました。
女性の所得を増やすことを前提に開設しました。
営農組合とは別の組織として、女性たちが運営し、地産地消で消費者とつながったものにしました。50~60歳代の女性21人が中心になり、県、市、JAの営農担当にも構成員に入ってもらい、毎月1回定例会議をし、意見の交換をして、みんなのための直売所をめざしました。
当初、1,500万円/年間以上の売上をして喜んでいましたが、近くにJAの大型直売所ができてから売上は1/3になりました。今は、馴染みさんだけの直売所になっていますが、その人たちとの話し合いが楽しくて、今もがんばっています。
② 環境にやさしい農法の導入によりお米のブランド化
これからの農業は特殊なことをするか、価格を安くするかで生き残っていくしかないのでしょうか。
私たちは、農場が環境にやさしい状況を維持し、それを消費者の方が好んでもらうことが重要と考え、春に田んぼに花を咲かせ、その花を田んぼの土の中にすきこみ、田植えをした後に、有機酸を発生させ、農薬に頼らないで、雑草を抑える方法を行っています。また、カメムシによる被害をできるだけ抑えるため、あぜの草刈りを多くしています。
この方法で、多くの生きものが復活し、その生きものとの共生が米づくりに多くの人の共感を生むことを願い、今日にいたっています。
③ 都市住民との交流
この活動は農業のことを正しく理解していただくために必要と考え、私たちの活動の中で重要視しています。
ア 都市部の自治会等との交流
神戸市灘区の大きな団地の住民組織であるふれまち協議会と都市農村交流をしています。この団地も少子高齢化により子どもの数が減り、高齢者の団地となっています。
神戸市の古い団地では、居住面積が狭く、エレベーターがついていないため、若い人たちはもっと広いマンションへと引っ越しています。当然、空き家が増えているそうです。団地の活性化の一助のためいろんなイベントを開催し交流をしています。
イ オーナー制で農業体験
・一般市民を対象にお米オーナー(田植え、雑草抜き、生きもの調査、収穫、新米試食)
・幼稚園児等の野菜農業作業体験(植えつけ、収穫)
ウ 村のイメージアップ事業の導入
・多面的機能支払交付金事業による環境支払いの推進
村の田んぼを花田んぼにします。春には赤いポピー、黄色のからしな、紫のアンジェリア、ヘアリーベッチレンゲ、菜の花等を咲かせています。この面積は12haです。
この花の種代はこの事業で出しています。また、秋には、秋の代表的な花である彼岸花が10aの田んぼの畦に50本以上花が咲いておれば3,000円の現金を畦の所有者に渡しています。これは畦の管理において除草剤を撒くことを減らす効果をもっています。
私たちの村にはこのシーズンになると、市民カメラマンが多く来ています。
エ 花摘み会で都市住民を呼び込み
花田んぼに咲く花は5種類で一斉に咲くと盛大なものです。この花摘み会を行って10年が経ちます。
最初の頃は面積が少なく2haからはじまり、年々、栽培面積が増えていきましたが、これは村の人たちの協力があったためです。花を咲かすためには多くの作業が余分にかかります。花が必ず発芽し、成長し、開花するとも限らず、そして5月の第2日曜日に一斉に咲くとも限りません。田んぼは環境にやさしい農法でと決めているため、化成肥料は使うことはできないなか、立派な花を咲かせるために有機肥料で花を咲かせなければなりません。経費が余分にかかっています。
2月の雨により発芽した苗が腐り易いし、低温の時は成長が遅くなり、難しい面が多くあります。毎年、苦労をして花摘み会が無事開催されたときは嬉しさが溢れます。来年は農政事務所の協力でこの花田んぼのなかで、結婚式を計画しています。
この事業で感じることは、しんどいことが多いですが、村の人たちが一緒になってやってくれることと都市の方が私たちの村を楽しんでくれていることです。
オ 私たちの活動の評価
2018年3月私たちの取り組みを評価してもらうため「平成29年度未来につながる持続可能な農業推進コンクール」に兵庫県から推薦していただきましたが、農林水産省大臣賞は残念ながら落選しました。入賞者の内容をみてみますと、入賞者は特化した農業技術や機械・装置を駆使して、近代化農業の最先端をいく個人、団体でした。考えるに、私たちの活動は、村が元気になってもらうために、村全体が環境にやさしい農法の意識を持ってもらい、イメージチェンジを図る仕掛けでしたが残念です。
④ 「米の架け橋プロジェクト事業」
この事業は、地域内にある企業や大学との交流としてものづくりの原点である農業を体験してもらうものです。参加していただいた方は企業の新入社員、県立大学の経済学部ゼミの学生でした。
農を知らない若者たちが、農が持つ魅力を体験し理解度を深めていると思っています。また、学生からの提案により、花の舞米の米粉によるういろう、赤飯づくりを地元のあんこ屋さんとコラボし、6次産業化しているということで近畿農政局長賞を受けました。
(3) 財源問題
これらの事業を実施している財源は自主財源だけではありません。神戸市や国のお金を活用しています。
私たちは、これまで機械等の購入は自主財源で買ってきました。助成金をもらって買うこともできたんですが、助成を受けて機械を買うことによって、私たちの行動が規制されてはおもしろくありませんので、やめて、ソフト的な助成金を申請してきました。これは、これからの農業の取り組み方をわたくし達が考え、役所側に知ってもらうことによって、これからの農業の在り方を理解されることを願って、また、私たちの農業仲間間での意識の向上につながらないか、との思いからです。
① さて、ありがたい助成金の一つである多面的機能支払交付金の活用について
昨年、10月28日・29日に自治体農ネットワークの総会が徳島市で開催されました。テーマは「農業・地域にとっての近代化・産業化を問う」でした。農水省農業環境対策課課長の及川氏による2018年度農水省予算(案)の話がありました。特に「環境保全型農業直接支払制度の方向性と予算」でくわしく話をしてくださいました。私は興味がありましたので参加させていただきました。
国の予算はいつものことですが、この環境支払いでもハード面の額が非常に多いと思いました。そして、地域農業を守っている中小農家や中山間地でがんばっている高齢者農家に対する思いやり、そこで生活をしている人への基礎的な思いやりがないと思いました。
金額的には多面的機能支払交付金47,600百万円、中山間地域等直接支払交付金26,200百万円、環境保全型農業直接支払交付金2,528百万円の説明がありました。この3種類の中で、多面的機能支払交付金を有効に環境支払いに利用して、農家の日ごろの活動などの非経済活動の重要性・存在していることをはっきりと明確にしていくべきと思い、私たちは自然に咲く彼岸花の数、花田んぼの維持のための費用、その他の農の恵みに対して、この交付金で環境支払いをして農の土台部分として生かしていかねばと思っています。
補助金等を活用する時は、自治体のチェック、会検のチェック等がありますが、理念をしっかりともって対応していけば道が開けてくると思います。
(4) 空き家対策で農村定住促進コーディネーターが活躍
神戸市内の農村部の人口減の割合は都市部の減の割合よりも多くなっています。そのことにより、空き家も増え、遊休農地も増えてきました。神戸市では2年前より市街化調整区域の人口減対策として、農政部門に農村定住促進コーディネーター制度が設立され、私が所属している営農組合に委託されました。
神戸市西区内に農村集落が114あり、新規就農者対応、空き家斡旋業務を行っており、次のような状況になっています。 |