【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第5分科会 人口減少社会をどう生き抜くか!?

松江市における公営ガス事業の可能性


島根県本部/松江市職員ユニオン・ガス支部

1. ガス事業を取り巻く全国の情勢

 2017年4月1日から「都市ガス小売全面自由化」がスタートを切りました。
 国では、この「都市ガス小売全面自由化」の目的を
① 「新たなサービスやビジネスの創出」
 国民のニーズにたくさんの選択肢で応え、ガス業界以外の他業者などからの新規参入や新技術を通じて、新しいサービスや産業構造を変えるビジネスを生み出す効果を狙う。
② 「競争の活性化による料金抑制」
 ガス事業者間の競争のみならず、電力事業者など他業種などからの新規参入を促し、ガス料金の抑制効果を狙う。
③ 「ガス供給インフラの整備による安定供給を確保」
 震災時の経験等を踏まえ、都市ガス導管網の整備・都市ガス供給地域間の相互接続を促進し、国土インフラの強靭化と安定供給を狙う。
④ 「消費者利益の保護と安全確保」
 なによりガス事業者が大切に考え、実践を図ってきた保安について、その水準を維持し、消費者の利益をさらに確保していくことを狙う。
とし、都市ガス事業の構造改革を実施しました。
 この結果、すでに自由化となっていた工場やホテル、大規模病院等の大口産業用部門2.6兆円に加えて、一般家庭や商店などを含む家庭用2.4兆円が新たに自由化され、完全小売自由化となり総額5兆円規模の自由化市場が誕生しました。
 しかしながら、経済産業省が自由化直前の3月下旬にガス利用者を対象に行ったアンケート調査では、ガス小売全面自由化の内容を半数近く「知らない」と回答するなど全国的には2016年4月から開始された電力小売全面自由化時と比較して、自由化に対する関心は高くありません。
 その理由としては、
① 電力の送電線網がほぼ全国に張り巡らされているのに対して、都市ガスを供給している区域内世帯数は、全国の世帯数の67%をカバーしている反面、供給区域は国土面積全体の6%弱となっている。
 ⇒都市圏域では、都市ガスの普及率が高く、地方圏域で低い傾向にある。
② 太陽光や水力、風力など多種多様な発電が行える電力とは異なり、都市ガスの原料となる天然ガスの輸入者はLNG基地を持つ大手電力会社などに限定される。
 ⇒都市ガスの原料となる天然ガスは、そのほとんどを輸入しており、調達先が限られる。
③ LNG基地を持つ大手電力会社等が都市ガス事業に参入しようとした場合、電力会社直営での保安部門を持っていないため、委託等の対応が必要となる。
 ⇒保安水準が電力事業より高い水準が求められ、新規参入を行おうとした場合、従前都市ガス事業を行ってきた事業者と同水準が求められる。
などが挙げられ、大手都市ガス事業者と大手電力事業者が激しい料金値下げ競争を行っている近畿地方以外では国のめざした「都市ガス小売全面自由化」による目に見える成果はまだ上がってきていない状況にあります。

2. 公営ガス事業の情勢

 昭和30年代中頃から国産天然ガスの開発が進むにつれ、公営ガス事業所数は急速に増加し、昭和50年から52年のピーク時は75事業所ありました。しかし、天然ガス等による高カロリー化に伴う将来必要となる設備投資等が多額であること等を理由とする民間譲渡や、市町村合併に伴う公営ガス事業者の統合、また2017年4月からスタートした「都市ガス小売全面自由化」への対応等を理由によりその数は全国で25事業所にまで減少しています。

3. 松江市のガス事業について

(1) 歴 史
 松江市における都市ガス事業は、1912年(大正元年)に民間のガス事業者が創業したことが始まりとされています。その後原料高騰で民間のガス事業者は廃業しましたが、「市民生活に直結するエネルギーを衰退させてはいけない」との思いから、1930年(昭和5年)に公営ガス事業として復活しました。その後、上下水道などの都市基盤整備事業に併せてガス管の敷設が進んだことで、急速に都市ガスは普及しました。
 1960年には附帯事業として液化石油ガス(LPガス)事業も開始されました。
 2000年に橋南地区、2004年には橋北地区の都市ガス原料の転換作業が完了したことで、それまでの石油系の原料から、化石燃料で最も地球環境にやさしい天然ガスが供給されています。

(2) 経営状況
 経営状況については、2000年から始まった原料の天然ガス導入に伴うプラント施設新設など設備投資を企業債により対応したことから、その残高も2004年におよそ75億円に達しました。そのため、企業債返済額も増加し、2009年までは経常収支も赤字で推移しましたが、一定程度設備投資が終了したことから企業債の借入抑制を行ったこと、事業規模が維持できる規模までの人員構成の再編を行ったことなどから、2010年からは経常収支も黒字に転換を図ることができました。
 今後の経営見通しについても、安全確保のための老朽管の計画的な取替など維持管理を目的とした一定規模の企業債借入はありますが、企業債返済額も年々低減するのと反比例し、経常収支は黒字幅を増加していく見通しが明らかとなっています。

(3) 民営化検討状況
 「今後民営化の方向で検討すべきである」との提言がなされた2002年の「松江市ガス事業経営検討委員会」を受け、2006年に開催された「松江市ガス事業経営検討委員会」から10年以上が経過しました。
 しかし、未だ民営化について具体的な時期は示されず、答申が示された当時とは、社会情勢や経済情勢も大きく変化しています。特に、原料となる天然ガスはアメリカのシェール革命等により2014年後半より急激に輸入価格が下がったことや都市ガス小売全面自由化が開始されたことなど当時想定もしえなかった状況が発生しており、そのためにも現在、改めて公営ガスの設立理念に基づき、公共の福祉・都市基盤の整備及び環境自治体の推進を念頭に、お客様に安全にガスを提供し続けていくことが強く求められています。

4. 全国でも貴重な公営ガス事業の活用について

 松江市において公営ガス事業が継続されることにより、

(1) 市民にとっては。。。。
① 道路へのガス管の埋設による道路占用料や施設に係る固定資産税が免除されていることによる低廉なガス料金を実現できる。
 ⇒低廉なガス料金により、地方公営企業法の理念である公共の福祉を増進させることができる。
② 公共性の高い公営事業者のガス料金が、プロパンガスを含めて、地域の適正なエネルギー料金の市場環境を保つことができる。
 ⇒ガス局を利用している顧客のみならず、すべての市民に対して、適正な市場価格を形成することに貢献している。

(2) 地域経済にとっては。。。
① ガス工事の発注など承認工事業者制度による地域中小企業の育成や原料プロパンガスの地元LPガス会社への優先的な発注など地域経済への貢献も期待できる。
 ⇒地域の雇用や消費を促し、地域で得られた「富」を、地域内で循環させていくことが可能であること。
 ガス局のガスを利用する市民はもちろんのこと、地域全体をリードする存在となっている。

(3) 松江市行政にとっては。。。

 松江市の地域特性である
  高齢者割合が年々高くなってきている。
  中心市街地の高齢化と人口流出
  核家族化の進行による世帯数の増加と一世帯当たり人数の減少
などの支援に活用することができる。

① 子育て世帯へのガス料金の割引
 ⇒子育て支援施策の後押し
② 中心市街地での新築時のガス利用への補助や空家への入居によるガス料金の割引
 ⇒中心市街地空洞化対策への後押し
③ GHPの設置推進や天然ガス供給ステーション設置による二酸化炭素排出抑制
 ⇒環境施策への後押し
④ 24時間保安体制や検針業務などを通じた高齢者、子どもへの見守り活動、職員が公務員であることからの利用者の強い信頼感
 ⇒安全・安心なまちづくりへの後押し

★公営事業でなく、民間企業に運営されることになった場合に。。。
① 電気とのセット割引など多様なサービスが提供される。
② 経営効率の向上がしやすい。
など、メリットが発揮されやすい反面、
① 採算の良い事業に特化することが民間企業の経営の本質であること。
 ⇒公営事業で行っている議会によるチェック機能もなく、安易な料金値上げの可能性や事業撤退も考えられること。
② 多様なサービスを提供できる反面、ガス事業で得られた収益が必ずしもガス事業で還元されるとは限らないこと。
 ⇒セット割引などにより顧客の注目を集め新規顧客獲得が図られるため、ガス事業で得られた利益を不採算サービスの補てんに使用されることは本来の目的ではないこと。
③ 広域的な地域で事業活動を行っている民間企業である場合、得られた収益がその地域で還元されるとは限らないこと。
 ⇒都市ガス事業の競合企業がいない松江市で得られた利益を競争が激しい他の都市部の値引き競争に使用されたり、ガス工事等を他の地域の工事業者により実施することにより、松江市民の富が永続的に流出していく可能性があること。
 全国でも貴重な存在である4つの企業局を有する松江市。
 その補助機関として十分にガス局の有する機能を活用することにより、地産地消的な循環型の地域経済が実現し、オンリーワンのまちづくりに大きく貢献できる。