【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第6分科会 「ごめん」と「いーの」で支え合う みんなにやさしい公共交通

 2030年度末開業の北海道新幹線札幌延伸で函館~小樽間は並行在来線としての運営を検討しなければならない。全国の並行在来線では観光列車を運行し、外部利用者増加を旅客収入の柱としている鉄道事業者が多い中で、沿線住民に利用してもらうにはどうすべきか。並行在来線を運営する鉄道事業者の中で、特徴的な住民向けサービスに取り組んでいるIGRいわて銀河鉄道を例に考察する。



並行在来線における沿線住民向け
利用促進策の現状と課題
―― IGRいわて銀河鉄道「地域医療ライン」を例に ――

北海道本部/公益社団法人北海道地方自治研究所 髙野  譲


八戸発盛岡行「地域医療ライン」撮影日:2012.9.14 撮影:筆者

はじめに

 2016年3月26日、北海道新幹線新青森~新函館北斗間148.8kmが開業し、現在は2030年度末の開業に向け札幌延伸工事が進められている。その際、並行在来線となる函館~小樽間については、沿線15市町がJR北海道からの経営分離で合意しているが、本稿執筆段階で路線維持、廃止含めた議論はなされていない。
 同区間のうち、五稜郭~長万部間は北海道各地と本州各地を結ぶ貨物列車が多数往来し、道民生活に必要な物資輸送や北海道で生産及び加工された農産物や海産物などを全国に届ける上でも必要な路線であるため、えちごトキめき鉄道や肥薩おれんじ鉄道のように並行在来線として鉄路維持が想定される。
 一方、並行在来線における旅客利用促進事例を見てみると、観光振興の取り組み、いわゆる「観光列車」が多く見られる(1)。ところが、岩手県のIGRいわて銀河鉄道株式会社は、沿線住民を対象としたサービス「地域医療ライン」を運行し、利用促進に取り組んでいる。
 今回は「地域医療ライン」の取り組みを函館~小樽間の並行在来線議論の際に参考としてもらうべく、2018年2月、IGRいわて銀河鉄道株式会社へ調査協力を依頼し、得られた回答を元に本稿を執筆した。

1. IGRいわて銀河鉄道とは

 IGRいわて銀河鉄道株式会社(以下、「IGR」とする)は、2002年12月1日、東北新幹線盛岡~八戸間の開業に伴い、JR東日本から経営分離し、並行在来線となった東北本線盛岡~目時間の17駅、82kmを引き継いで開業した。筆頭株主である岩手県(発行済株式54.06%)(2)及び一戸町などの沿線自治体、岩手銀行など地元企業が出資している第三セクター方式の鉄道である。現在は2両1編成の車両を7本使用し、一部の列車はIGR線内のみならず青い森鉄道が運営している目時~八戸間まで乗り入れ運行している(3)
 経営状態は札幌~上野間を走行していた寝台特急「北斗星」及び「カシオペア」の運行が終了したことにより、旅客運輸収入が大幅に減少し、少子高齢化やモーターリゼーションの進展と合わせ、経営環境が厳しさを増している。こうした経営状態を反映し、2017年度当期純損失は19,763,000円の赤字となっている(4)
 その中で、利便性向上・増収対策として、2017年度には高速道路折爪SAにコンビニエンスストアの開業、青山駅及び滝沢駅構内に飲食店「びすとろ銀河」「串焼処 銀河」を開店している。これ以外の増収策としては、不動産事業や清掃事業も手掛け、鉄道事業収益以外の収益構造を確保するよう経営努力を続けている。


2. 地域医療ラインサービス

(1) 地域医療ラインとは
 2002年の開業後、地域社会の一員として企業であるIGRは何ができるのか、を考える中で、IGR沿線自治体の山間部出身の若手社員がIGR利用者へのアンケート調査を行ったところ、鉄道を利用し、盛岡市内の医療機関への受診者が一定数いることが明らかになった(5)。さらに、沿線自治体の二戸医療圏から盛岡医療圏への流入率は28.6%と、入院する方々の3人に1人は盛岡市内の総合病院へ入院していることがオープンデータで判明していたため、こうしたデータも積極的に利用・参考としたようである(6)
 また、アンケートでは「安心」を求める利用者が多かった。鉄道の利点は、運行時間の正確性、速達性であり、安心して盛岡まで行くことができる上、地域医療だけでは対応できなくなり、盛岡の総合病院を受診する人が増加したとしても、収容能力の高い鉄道であれば対応可能である。
 そうした鉄道の利点を生かし、高度医療を受診されるお客さまをサポートする総合通院サービスとして、2008年11月より「地域医療ライン」の提供を開始した(7)

(2) サービス内容
 前述の利用者アンケートからは、利用希望者から様々な疑問点や不安点が挙げられたため、IGRでは以下の5つを地域医療ラインサービスの柱とし、対応することにした。
① アテンダントによるサポート
 IGR沿線自治体の一戸町及び二戸市内の駅から盛岡駅までの乗車時間は、約1時間前後を要する。この乗車時間に対し、不安があるとの声が多く挙げられた(8)。そこで、往路は八戸7時13分発:盛岡9時00分着と二戸8時49分発:盛岡9時58分着の2本、復路では盛岡14時06発:金田一温泉15時24分着の列車内にボランティアによるアテンダントを乗務させ、安心して利用してもらうこととした。車内ではきっぷの販売や乗降者の介助、一人の乗車で心細い高齢者の話し相手になっているほか、後述する二次交通の手配についてもアテンダントが利用者一人ひとりに確認、とりまとめをした上で盛岡駅にて二次交通事業者に引き継ぎし、利用者に安心して通院させるという重要な役割を担っている。
② 確実な座席提供
 前述のように約1時間前後の乗車時間となるため、高齢者にとって着席利用できなければ精神的・身体的にも負担となる。元々、車両には優先席を数席設けているが、席数に限りがあり、利用が制限されるという問題もあった。そこで、2両編成のうち1両すべてを地域医療ライン利用者用の優先席とし、確実に着席利用できるようにしている。
③ 専用駐車場設置
 IGR線は都市部の鉄道と異なり、駅間隔が広い。したがって、最寄り駅まで徒歩で行くことが難しい上、二次交通も整備されていないことが多いため、最寄り駅までは車を利用することが容易に想定された。また、駅周辺の住民だけではなく、沿線から離れた住民の方も地域医療ラインの利用者として想定し、そうした沿線外の利用者も安心して利用していただけるように「パーク&ライド」の仕組みを取り入れた。専用駐車場はIGRの所有する土地や自治体から土地を提供の上で整備したため、初期コストも抑制しつつ利用促進につなげている(9)
④ 割引きっぷの発売
 IGR開業時に運賃改定が行われたが、JR時代と比較して普通運賃、通学定期運賃、通勤定期運賃の平均額は1.71倍に上昇した(10)。そこで、地域医療ラインの利用者負担軽減のため、『あんしん通院きっぷ』と名付けた企画乗車券の販売を開始した。平日の限定発売で、往路の利用駅窓口で盛岡市内の医療機関診察券や予約券、保険証を提出し購入するか、前述のアテンダントから車内で購入する。高齢者の通院交通手段として考えられた地域医療ラインであるが、あんしん通院きっぷに関しては対象者の制限も年齢制限もない。したがって、妊婦や親子連れの通院などでも利用可能となっている。一人用は通常往復運賃の約15%引き、二人用は往復運賃の約35%引きと割引率を高く設定し、介助者の復路分は無料になるような割引設定とすることで、介助者が一緒に乗車しての通院も可能となっている。
⑤ 二次交通の確保
 盛岡駅到着後、通院先まではバスないしタクシーを利用することになるが、通院先までの交通手段に対し不安を感じるとの声も多かったため、二次交通の確保が地域医療ラインの成功の鍵となった。様々な二次交通事業者に要請したところ、盛岡市内のタクシー事業者である岩手中央タクシー株式会社が趣旨に賛同し、協力してくれることになった。
 岩手中央タクシー株式会社では、地域医療ライン利用者のうち往路のみであるが、盛岡駅から岩手医科大学附属病院及び岩手県立中央病院を定額200円で結んでいる。上記以外の医療機関の通院には1割引の優待券を発行している。こちらについては往復で適用となり、利用者の費用負担軽減にもつなげている。


3. 地域医療ラインの現状と課題

(1) 現 状
① 利用者数
 IGRからは2016年度の地域医療ライン対象列車の平均利用者数とあんしん通院きっぷの購入者数の公表をしていただいた。
 地域医療ラインの対象列車の平均利用者数は、往路の八戸7時13分発:盛岡着9時00分着(4520M)は295人、二戸8時49分発:盛岡9時58分着(4522M)は97人で、この人数には通常運賃利用者や定期利用者も含んでいる。
 次に、あんしん通院きっぷの購入者数は5,360人であった。あんしん通院きっぷは平日限定発売のため、1年間の販売日数では240日程度である。一日平均に換算すると約22人程度の利用者数であることが明らかになった。筆者が2014年9月、八戸発盛岡行の地域医療ラインに乗車した際、優先車両には10人程度の利用者が乗車している状況であったことから、あんしん通院きっぷ購入者の7割ほどが八戸発の列車を利用しているものと思われる。
 ちなみに、2016年度のIGR線の年間輸送人員は約517万人で(11)、年間輸送人員から見たあんしん通院きっぷの利用者割合はわずか0.1%程度にすぎない。当然、地域医療ライン対象列車に乗車し、あんしん通院きっぷを購入していない利用者もいるため、実際の利用者数とは差があると考えられるものの、今回の調査から利用者は多いとは言えない実態が明らかになった。
② 利用者の声
 利用者からは「通院の際に娘の仕事を休ませなくても済むようになった」、「盛岡は不慣れだが、アテンダントがいて心強い」、「『あんしん通院きっぷ』が2日間有効なため、通院後は息子夫婦宅(盛岡市内と推測)に一泊でき便利」、「これまで新幹線で通院していたが、金銭的にも楽になった」とおおむね好評の声が出ている。
 列車内にアテンダントを乗務させ、成功した嚆矢が福井県のえちぜん鉄道である(12)。この事例を参考に、全国の地方私鉄や第三セクター鉄道の多くでアテンダント制度を採り入れているが(13)、アテンダントの業務は大きく2種類に分類される。IGRのある東北地方で言えば、青い森鉄道や由利高原鉄道のアテンダントは車内でのきっぷの販売や乗換案内業務を中心に活動している。
 一方、津軽鉄道や秋田内陸縦貫鉄道のアテンダントは観光案内や車内での物品販売を中心に活動している。IGRのアテンダントは前者の形態であるが、地域医療ラインの時間帯でのみの乗車、かつ介護や介助サービス提供を主目的とし、ボランティアで乗務していることから、アテンダント導入の交通事業者としては極めて異例と言えよう。

(2) 課 題
 筆者はIGRに対し「地域医療ラインの課題」を問い合わせしたところ、次の①~③を課題点として捉えている、と回答があった。なお、④は本調査によって浮かび上がった課題である。       
① 岩手医科大学付属病院の移転
 現在、地域医療ライン利用者の多くが通院している岩手医科大学付属病院は(14)、盛岡市内中心部の内丸地区に置かれているが、最先端医療に対応した教育診療を行うには狭隘で拡張困難であるという理由で、盛岡市の隣になる矢巾町に移転計画が進み、2019年6月には新附属病院完成、同年9月新附属病院開院のスケジュールが決定している(15)
 なお、現在の病院も「内丸メディカルセンター」として、外来機能を充実させる形で存続させる予定ではあるが、病院機能としては大幅に縮小することになる。新病院への通院には矢巾駅が最寄り駅となるが、矢巾駅はJR東北本線に所属する駅のため、IGR線からJR東北本線に乗り換えが必要となり、なおかつ盛岡駅から3駅乗車しなければならないため、別運賃も必要となる。現在、IGR線からJR東北本線に直通する列車も運行されているが、いわて沼宮内駅及び滝沢駅からの2本、かつ朝の通勤時間帯に限られるため(16)、地域医療ラインの対象となっていない。
 したがって、現在、地域医療ラインの対象としている列車をIGR線からJR東北本線へ直通運行させて対応させるか、盛岡駅から新病院までの二次交通手段を確保して地域医療ラインを維持させるか、IGRとしても早急な対応が求められている。
② 地域医療ラインの運行本数
 地域医療ラインとしての運行は上り(盛岡方面)2本、下り(目時方面)1本しかないため、事実上、盛岡行しか機能を有していないこと、災害や事故による運休の場合を課題点と捉えていると回答があった。
 筆者がIGR線の2018年3月改正の時刻表を確認したところ、途中の好摩駅からJR花輪線に直通及びJR東北本線から直通運転している上下あわせて19本除くと(17)、八戸~盛岡間は上下あわせて19本運行している。一戸駅や滝沢駅などの途中駅までの区間列車は35本程度運行しているため、それを踏まえると2本は少ないと見ることもできる(18)。ただ、前述の乗車経験から言えば、2両中1両が優先席となることで一般客が非優先席車両に集中し、盛岡駅に近づくほど立つ場所もないほどの混雑状態であった。したがって、地域医療ラインの対象本数を増やすと、一般客の利用が難しくなる可能性もある。
 また、アテンダントはボランティアで乗務しているが、同業他社では契約社員やアルバイトなど雇用の上で乗務している。地域医療ラインを増便するには、アテンダント確保も必要となるが、ボランティア人材が確保できるのかという問題や交通事業者全体で人材確保が難しくなっている問題もある。もし雇用とするならば人件費の問題も生じる(19)
 そもそも、あんしん通院きっぷの一日当たりの販売数が非常に少ない上、IGR側も利益の出るサービスではないものの、地域公共交通機関としての使命から運行していると回答しているところからすれば、前述の課題を含めて経営的な視点から安易に増便できないのが本音であろう。
 運休時の代替交通機関についても、筆者の調査ではIGR沿線自治体のうち、岩手町から盛岡駅まで直通する都市間バスはあるものの(20)、一戸町や二戸市から盛岡駅を結ぶ都市間バスはなかった。つまり、バスによる振替輸送はほぼ不可能である。
 地域医療ラインは沿線自治体住民の生命にかかわる取り組みでもあり、代替交通機関対応をIGRだけに担わせるのは荷が重い。自治体は自然災害によるIGR線の長期間運休も想定し、自治体の課題と捉え早急に考える必要があるのではないだろうか。
③ 医療発達による利用者のパターン変化
 現在のあんしん通院きっぷでは有効期間が2日間のため、定期通院や検査通院などには対応できるが、医療発達により短期入院や日帰り手術が増え、こうした環境に地域医療ラインが対応できていないという課題があるとの回答を受けた。これについては、現行2日間の有効期限を例えば一週間程度延長する、短期入院者に対しては、入院時に病院へ提出する承諾書写しを提出することで復路のきっぷの有効期限を無期限とさせるなど、IGR側の柔軟な対応で解決できる課題ではないか、と筆者は考えている。
 むしろ、最近は高齢者夫婦のどちらかが入院する、施設入所する例も増加している。そうした高齢者が家族の介護や見舞いに盛岡市内の病院や介護施設に行く場合、あんしん通院きっぷは対象外であり、利用はできない。こうした利用者に対してもあんしん通院きっぷの対象とすることを検討してもよいのではないだろうか(21)
④ 自治体との協力・連携
 今回の調査で、地域医療ライン自体はIGRがアンケートのデータ収集、オープンデータを活用し発案した営業施策の一つであり、沿線自治体から要請されて始めたサービスではないことが明らかになっている。IGRによれば、運行開始前に沿線自治体に対して広報掲載依頼やパーク&ライド駐車場の場所提供として一戸町の所有する土地の提供は受けているとのことだが、IGRと自治体とが協力・一体となって利用促進策を打ち出すことはしていない、とIGRから回答があった。
 盛岡市を含むIGR沿線自治体の3市2町の人口は、2015年国勢調査の速報値を見る限り、滝沢市が10年前の国勢調査と比較して3.0%増となっているものの、それ以外の2市2町の平均では6.2%減となっており、人口減少が続いている(22)
 人口減少は利用者減少にも直結する問題であり、沿線自治体の一戸町では高齢利用者に対しての利用補助、高校生の通学定期券購入費助成を行っているが、IGRに対する支援の意味に加え、後者に至っては自治体における子育て政策の意味合いも考えられる(23)
 ただ、自治体から運行補助支出がなされたとしても、交通事業者の経営が支えることに繋がっていない現状を考えると、やはり、地域公共交通の必要性を住民に持ってもらう意識改革が必要となる。そのために鉄道事業者と自治体が一体となって住民に対するモビリティ・マネジメント教育の実施はもちろん(24)、沿線自治体が医師会などと連携して、盛岡市内への医療機関への検査や通院の際に利便性・安全性の高い地域医療ラインサービスをPRし利用促進するなど、改めてIGRと自治体が一体となって需要の掘り起こしに着手する必要があると感じられた。


おわりに

 今回の調査で明らかになったことは、IGRが実施したデータの収集・分析の結果、並行在来線維持には医療と地域公共交通の連携が必要と判明し、サービス提供を始めたということである。データ収集・分析による公共交通維持の成功例は、北海道帯広市にある十勝バスでの取り組みでも明らかなように、地域公共交通の現状把握、今後の方針や戦略を考える上で、非常に重要な作業であり、改めてその重要性を確認できた。ところが、筆者が別件で十勝バスの担当者にヒアリングした際、「収集したデータが膨大となり、分析をする職員が足りず苦慮している」と吐露していた。つまり、地方の交通事業者単独でデータを収集・分析するのは費用面、人材面でも容易ではないということである。
 一方で、自治体は医療や福祉分野で様々なデータを有し、分析した上で政策に展開しているにもかかわらず、縦割り行政が弊害となり、公共交通にも生かせるようなデータがあったとしても、実際は生かせていない。今回の調査からも地域医療ラインの取り組みに対し、IGRと沿線自治体間での情報共有や連携・協力体制はほとんどみられなかった(25)。もし、IGR開業前に沿線自治体が持つ様々な情報をIGRに提供した上で、IGRと沿線自治体一体となって地域課題の共有や住民へのニーズ調査などを行っていれば、地域医療ラインについても2002年の開業当時からサービス提供できた可能性が高い。
 また、これまでも医療と地域公共交通の連携は利用促進策として有効視されていたが、今までは乗合路線バスや都市間バスが地域の拠点病院へ乗り入れするなどの事例がほとんどで(26)、機動力の劣る鉄道での事例は皆無であった。IGRは鉄道の短所を埋めるために二次交通機関を手配した上で、鉄道の長所である運行ダイヤの正確性を組み合わせた。これは医療と地域公共交通の連携事例として新しい試みであり、純粋に評価できる。こうした努力の結果、利用者数は少ないものの、利用者の声を聞く限りは好評であることから、地域公共交通の施策としては一定の成功を収めたと言えよう。
 函館~小樽間においても、長万部町や八雲町内から函館市内に通院する住民がいることから(27)、IGRの取り組みは参考となりうる。しかしながら、同区間は複数の自治体にまたがるため、データ収集・分析の難しさや交通事業者と自治体双方が持つデータをどう利用・分析するのか。また、急激に進む沿線自治体の人口減少とそれに伴う新たな課題の浮上、鉄道事業者の人材不足など課題が山積している。もっとも、前述のように函館~小樽間並行在来線の取り扱いについて議論がなされていないため、現段階でこのような課題に対応できるのは、沿線自治体及び北海道庁に限られる。
 それゆえに、関係自治体は札幌延伸まで10年以上の猶予があると楽観視せず、地域住民の生活に不可欠な足の確保と医療をどのように連携させるのか。現段階から危機感を持った対応が望まれる(28)




(1)九州新幹線並行在来線の肥薩おれんじ鉄道「おれんじ食堂」や北陸新幹線並行在来線のえちごトキめき鉄道「雪月花」及びしなの鉄道「ろくもん」などが該当する。
(2)IGRいわて銀河鉄道株式会社、「事業報告 第16期」、2018年、IGR公式ホームページより。
(3)青い森鉄道もIGRと同じく東北新幹線八戸開業により並行在来線となったJR東北本線を引き継いで運行する第三セクター鉄道。
(4)同上、IGR公式ホームページより。
(5)筆者の「IGR地域医療ラインに対する質問」の回答より。
(6)「沿線の『命』を守る鉄道会社として~総合通院サービス『IGR地域医療ライン』」、国土交通省ホームページより。
(7)IGRいわて銀河鉄道株式会社作成「地域医療ラインチラシ」及び筆者の「IGR地域医療ラインに対する質問」の回答より。
(8)国土交通省、同上。列車内での体調変化が怖い、乗り過ごすのでは、話し相手が居なくて寂しいなどの声があった。筆者の調査でも同様の回答であった。
(9)「IGR地域医療ラインに対する質問」に基づく回答より。
(10)石川県企画振興部新幹線・交通対策室「並行在来線対策について」より抜粋。
(11)2016年の年間輸送人員は、IGRいわて銀河鉄道ニュースリリース、「第69回取締役会の内容について」、2017年より抜粋。
(12)嶋田郁美、『ローカル線ガールズ』、メディアファクトリー、2008年。
(13)地方鉄道の場合、アテンダント導入が地域雇用につながるという意味合いもあり、急速に普及したものと考えられる。アテンダントのほとんどが鉄道事業者所属であるが、NPO法人や観光協会に所属し、乗務する場合もある。
(14)具体的に通院している人数は不明だが、盛岡駅からの二次交通を担う岩手中央タクシーが岩手医科大学附属病院と岩手県立中央病院向けに安価な輸送サービスを提供しているところからすれば、一定数の利用があるものと考えられる。
(15)岩手医科大学総合移転整備計画「移転計画スケジュール」より。
(16)IGRいわて銀河鉄道監修、「IGRいわて銀河鉄道・青い森鉄道(盛岡・八戸間)時刻表」、2018年3月より筆者が抜粋。
(17)なお、JR花輪線乗り入れ列車についても、分岐駅の好摩駅までは各駅に停車するため、利用可能である。
(18)IGRいわて銀河鉄道監修、同上。
(19)道南いさりび鉄道、「道南いさりび鉄道株式会社 営業方針」、2017年。アテンダント制度を検討した際の課題として人件費が指摘されている。
(20)JR東北バス及び岩手県北バスが盛岡駅といわて沼宮内駅を結んでいるが、本数は多くはない。
(21)航空会社では既に導入されており、JALでは「介護帰省割引」として、満12歳以上で要介護または要支援認定された方の「二親等以内の親族の方」と「配偶者の兄弟姉妹の配偶者」ならびに「子の配偶者の父母」に限り利用可能となっている。
(22)岩手県政策地域部調査統計課、「平成27年国勢調査による人口・世帯数(要計表の県集計による速報)」、2015年。
(23)「IGR地域医療ラインに対する質問」に基づく回答より。IGR沿線自治体では盛岡市旧玉山村地域、一戸町、岩手町で通学定期券に対して購入費助成を行っている。
(24)帯広市地域公共交通網形成計画では、自治体と交通事業者が一緒になって学生や高齢者向けのモビリティ・マネジメント教育がなされている。なお、本計画策定時から参画している十勝バスでも独自にモビリティ・マネジメント教育を実施し、一定の成果を上げている。
(25)沿線自治体のうち、例えば、一戸町では一戸町並行在来線利用促進協議会を立ち上げ、自治体として利用促進策を実施している。筆者は一戸町より本協議会に関する資料を取り寄せたが、今回調査対象とした地域医療ラインの話は一切出ていなかった。
(26)例えば、旭川市にある旭川医科大学には、市内を走る乗合バス路線のほか、帯広と旭川を結ぶ都市間バス路線も乗り入れしている。
(27)北海道渡島総合振興局、「南渡島圏域地域医療推進方針(別冊)」、2016年。2014年度の長万部町を含む北渡島檜山医療圏から函館市内など南渡島医療圏へ入院自給率の流出状況は17.2%となっており、ここからも一定数が函館市内の医療機関を利用していることが分かる。
(28)本稿調査では、IGRいわて銀河鉄道総務部渡辺有咲氏にご協力いただいた。ここで厚くお礼申し上げる。なお、本稿の記述内容に関する責任はすべて筆者にある。