【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第6分科会 「ごめん」と「いーの」で支え合う みんなにやさしい公共交通

 浦河町の高齢化率は2018年6月1日現在、31.58%となっており、町民の約3人に1人が65歳以上の高齢者という状況である。また高齢者の一人暮らし世帯は全世帯の21%、1,441人いることがわかっている。
 地域内の人流・物流の要である公共交通の確保は、産業政策はもちろん、社会政策・地域政策の面からも重要な課題である。特に、過疎地域における生活交通の衰退、JR北海道による日高本線の運休、全道的な事業範囲の見直しなどは、人口減少が進む道内の公共交通に深くかかわる問題であり、行政・地方自治体・事業者・利用者等を交えた議論や取り組みが求められている。そのような中、浦河町がデマンドバスの実証運行の失敗から様々な施策を展開し、地域公共交通問題を正面からではなく側面からアプローチする取り組みについて検証する。



浦河町における地域公共交通の
課題解決に向けた取り組み
―― いつまでも運転し続けたい
高齢者の願いにデマンドの失敗を活かせ ――

北海道本部/日高地方本部・自治研推進委員長 愛下 延幸(浦河町職員労働組合)

1. はじめに

(1) 浦河町の公共交通
 町内の路線バスは、1986年まで国鉄バスによる2路線の路線バスが存在したものの、廃止後は、町内事業者により代替バスが運行されている。また、町の委託によってジェイ・アール北海道バス(株)が野深線を運行し、路線の維持を図っている。この他、地域間路線として、様似町と当町を結ぶジェイ・アール北海道バス(株)の日勝線、新ひだか町から当町を結ぶ道南バス(株)の日高沿岸線を運行しており、路線バスは、3事業者が5路線を運行(1)している。
 鉄道は、JR日高本線(町内5駅)が運行していたが、3年前の高波による土砂流出の影響で鵡川駅-様似駅間が不通となり、現在も復旧の目途が立っていない。当町を含め、沿線では、バスによる代行輸送が行われている。
 路線バスのうち、地域間路線は、通学や通院、買い物利用等により一定の利用者が存在しているが、一方で、町内路線は、軽種馬牧場が広がる人口密度の低い郊外部を定時定路線で運行しているため、運行ダイヤや停留所へのアクセスの面で課題があり、利用が少ない状況であった。特に、2つの国鉄バスの代替バス路線は、町内の基幹医療施設である浦河赤十字病院への通院や商業施設への買い物の際には、鉄道や地域間路線への乗り換えが必要となるほか、バスの運行が主として学生等の登下校に合わせたダイヤであったことから、一般の町民が日常生活の足として利用することは困難な状況であった。加えて、新興住宅地の造成による新たな交通空白地域の拡大や、少子高齢化・人口減少の影響による公共交通の利用者数の減少といった課題も存在しており、地域交通の維持・確保に向けた、町内における総合的な交通体系の在り方の検討が必要となっていた。

(2) 各種調査事業を実施し、課題や改善の方向性を明らかに……
 課題の解決に向けた基礎調査として、下記の3つの調査事業を実施し、公共交通の利用実態、町民の移動実態や公共交通の満足度、ニーズの把握、コミュニティバスやデマンド型交通を導入した際の課題等について、把握を行った。調査実施にあたっては、国の補助制度(地域公共交通確保維持改善事業)を活用し、行政、交通事業者、学識者等で構成される浦河町地域公共交通確保維持改善協議会(以下、地域協議会)が主体となり実施した。

① 現況交通実態調査 路線バス・鉄道の乗降調査(対象:平日1日の全路線全便の利用者)
② 交通に関するニーズ調査 町民アンケート調査(対象:15歳以上の全町民)
③ 町内事業所等へのヒアリング調査(対象:交通事業者及び民間送迎バス運行事業者)

 調査の結果、下記に示す公共交通の利用実態及び課題が把握された。

・地域間路線は、通院、通学、買い物の利用者が多く、利用者の4割以上が高齢者。
郊外部の町内路線は、極めて利用が少なく、利用者のほとんどは児童、生徒。(利用者0人の路線も存在)
・回答者の運転免許保有率は、郊外部で8割以上。市街地で7割以上と非常に高い。9割以上が自家用車を日常的に利用できる環境。
郊外部におけるデマンド型交通の利用意向は、約2割。通院や買い物での利用を想定。
・デマンド型交通を利用しないとの回答が約6割。理由は、「自家用車があるから」。
スクールバスを混乗した場合の利用意向は、約1割。児童の安全確保の面から否定的な意見が多い。

 郊外部の町内路線バスの利用実態から、運行方法の抜本的な見直しの必要性が把握されたが、対応策として想定していたデマンド型交通やスクールバス混乗に対する利用意向は、低い結果となった。しかしながら、利用者数が極端に少なく、人口密度の低い郊外部を効率的に運行する手法としては、利便性・効率性の面から優位性が高いと考えられるデマンド型交通について、地域協議会での協議のもと、実証運行を実施することとした。

2. 地域公共交通の改善策

(1) デマンド型交通(浦河町予約制乗合バス)の実証運行
 前項の調査結果は、地域の実情に合わせて町内をエリア分けし、分析を行った。その結果、特に見直しの必要性が高いと考えられる、町内で公共交通が不便な山間部の地域及び幹線から離れた地区や高台の地区などを対象に、2014年10月1日から12月31日までの3カ月間に渡るデマンド型交通(浦河町予約制乗合バス)の実証運行を実施した。運行事業者は、町内の交通事業者を対象とした簡易プロポーザルにより選定した。

① 浦河町予約制乗合バスの特徴
 ・事前予約制と乗合運行による運行の効率化。
 ・高齢者や身体障がい者の方が利用しやすいドアツードアサービスを提供。
 ・郊外部から市街地まで乗り継ぎのないシームレスな移動を確保。
② 運行区域:公共交通の利用が不便と考えられる町内の指定地区と町内市街地(市街地間の利用は不可)
③ 対象の方:制限なし
④ 利用料金:片道一律500円(現金のみ)
⑤ 運行時間:概ね午前8時~午後5時
⑥ 利用方法:前日午後7時までの予約制
⑦ 運行便数:往路復路合わせて1日16便(予約がない場合は運休)
⑧ その他 :重複する既存の路線バスは運休せず
広報周知:町の広報紙に大々的に掲載、毎月特集記事を掲載折り込みチラシは全戸に配布。ポスターは町内の公共施設、商業施設、医療機関など各所に掲示

(2) 浦河町予約制乗合バスの運行実績
 3か月間の実証運行の結果、延べ利用者数は62人であった。利用の多くは町内の基幹医療施設である浦河赤十字病院への通院であった。また、便平均利用者数は1.1人/便であった。期待された利用者数とは大きな乖離があり、また、相乗りによる効率化も厳しい結果となった。

3. デマンド型交通(浦河町予約制乗合バス)の失敗とニーズ調査から

(1) 地域住民のニーズを再確認
 デマンド型交通の実証運行の事実上の失敗を受け、地域協議会では、実証運行対象区域の地域住民に対し、アンケート調査を実施した。約1,400世帯の対象に対し、500世帯を無作為抽出し、1世帯あたり、調査票を2部配布した。調査は、郵送配布・郵送回収により実施し、回収率は20%であった。地域住民への事後アンケート調査結果から、下記の示唆が得られた。

・実証運行を利用しなかった理由は、「自分で運転できるから」。
・実証運行は、広く認知されている一方、約半数の方は利用方法まで理解していなかった。
・回答者の運転免許保有率は約9割。その約3割が、80歳まで運転したいとの意向を示した。
・具体的なサービスとして、予約の改善に対する意見が多く挙げられた。

 実証運行を利用しなかった理由は、利用方法の理解にかかわらず、自家用車の利用が大きな要因となっており、高齢者の多くは免許返納ではなく、「可能な限り運転したい」と考え、自家用車での外出などにこだわりを持っていることが把握された。

(2) 交通弱者の生活を支える支援事業
 直接お店に行って買い物がしたいという高齢者のニーズに対し、町内では、逆の発想で買い物を身近にしてくれる取り組みをはじめた事業者が現れた。また、町としても、高齢者や郊外部住民の移動ニーズに応えるべく、新たな支援事業に取り組むこととなった。
① 買い物弱者支援事業
【購入商品の宅配サービス】
 町と地元商店など地域が主体となった取り組みとして、交通弱者、買い物難民と言われている高齢者や公共交通の行き届いていない市街地に近い地域のお客さんの要望などからできたのが『おなじみ屋』である。登録店舗(精肉とお惣菜のお店、飲料等の酒屋さん、鮮魚店、雑貨などの一般商品をあつかう商店)の取扱商品のほしいものを電話一本で当日中に届けてくれるサービスを提供している。配達料は『無料』。年々登録店舗も増え、利用者も増加している。

【移動販売事業】
 郊外部のサービスとしては、生活協同組合コープさっぽろが「おまかせ便」を運営している。拠点となるコープさっぽろパセオ堺町店から商品を積み鮮魚・精肉から野菜・果物・惣菜・食品・飲料や日用品まで約1,000品目の商品を直接自分の目で見て確かめながら買い物ができるため、地域住民から大変好評となっている。
② 医療機関の患者送迎サービス事業
【勤医協浦河診療所における外来通院送迎サービス】
 高齢で通院の際に交通手段がない方を中心に、送迎サービスを実施している。利用対象地域は、浦河町内、隣町の新ひだか町三石、様似町を含む、片道約30分程度の範囲。
表 勤医協浦河診療所における外来通院送迎サービスの実績
送迎期間運行日数利用者数日平均利用者数
2017.4.1~2018.3.31(1年間)247日976人4人
【高齢者に対する軽度生活支援事業】〔町が社会福祉協議会へ事業委託〕
 介護保険認定を受けていないものの、身体的・精神的に不自由があるため日常生活を営むのに支障がある65歳以上のひとり暮らし等の方に対し、家事援助(通院介助を含む)等の支援を実施している。
表 高齢者に対する軽度生活支援事業の実績(2017年度)
被派遣対象者数訪問延回数訪問延時間数
10人88回153.0時間
③ 児童生徒の遠距離通学費助成事業
 公共交通機関を利用して通学する児童、生徒の保護者の負担軽減を図るとともに、公共交通の利用促進及び浦河高校への就学を支援することを目的として、遠距離通学費助成事業を実施している。
対象は、小・中学校の児童・生徒及び高校生であり、両事業ともに通学定期代金のうち、月に1万円を超える費用について助成を行っている。
表 浦河高等学校生徒遠距離通学費助成事業の実績(2017年度)
申請件数世帯数助成金額
10件3世帯397,388円
 ※ 小・中学校の遠距離通学費助成事業は、スクールバスの運行のほか1万円未満の定期代であったため、実績なし。
④ 高齢者の外出支援『うらかわシニアパスポート』事業
 町内の70歳以上の高齢者を対象に、生きがいづくりと健康増進のために町内の公衆浴場やバス乗車に利用できるパスポートを交付している。路線バスは、町内運行区間に限り乗車運賃がすべて無料となる。公衆浴場等を利用する場合には、北海道が定める公衆浴場の入浴料金の統制額(現在は440円)を助成することにより一部施設を除き無料で何度でも入浴することができる。
 うらかわシニアパスポート累計交付枚数 2,235人
 (うち2017年度交付枚数 183人 2017年度新規対象者 155人)
表 バスの無料優待乗車事業の実績(2017年度)
バス事業所助成区間協定額
ジェイ・アール北海道バス町内停留所区間7,234,000円
道南バス1,179,000円
日交バス200,000円
合 計8,613,000円
表 公衆浴場等の入浴料助成(2017年度)
浴場名延入浴者数負担額
まさご湯23,031人10,133,640円
柏陽館6,528人2,611,200円
あえるの湯28,104人12,365,760円
合 計57,663人25,110,600円

(3) 浦河町セーフティ・サポートカーS購入費補助金
 浦河町は、可能な限り運転し続けたいと願う高齢者の交通事故を防止するため、高齢ドライバーの方に対して、サポカーS(2)の購入に要する費用の一部として5万円を補助することとした。(2018年度から)
表 浦河町セーフティ・サポートカーS購入費補助金の対象自動車
対象となる自動車搭載安全運転装置
サポカーS
(ワイド)
・自動ブレーキ(対歩行者)
・ペダル踏み間違い時加速抑制装置(マニュアル車は除く)
・車線逸脱警報装置又は車線維持支援装置
・先進ライト(自動切替型前照灯、自動防眩型前照灯又は配光可変型前照灯)
サポカーS
(ベーシック+)
・自動ブレーキ(対車両)
・ペダル踏み間違い時加速抑制装置(マニュアル車は除く)
サポカーS
(ベーシック)
・低速自動ブレーキ(対車両)
・ペダル踏み間違い時加速抑制装置(マニュアル車は除く)
【補助の対象者】①から⑥をすべて満たす個人の方
 ① 新規登録日前3か月以上町内に住所があり、新規登録日及び申請日において町内に住所を有する者
 ② 新規登録年度に65歳に達する者又は満65歳以上の者
 ③ 自動車運転免許証を保有している者
 ④ 非営利で自ら使用する目的で新車を購入した者
 ⑤ 町税等の滞納がない者
 ⑥ 暴力団員ではない者

4. おわりに

(1) 地域公共交通はまちづくり
 私たちが日常的に利用する交通の目的は、仕事のための通勤、買物や医療機関の受診など、生活に不可欠な活動をするためである。そのため、目的地となる施設が公共交通の沿線にどの程度存在しているかが公共交通の利用に大きく影響する。このことが地域公共交通がまちづくりをするうえで密接な関係をもたらしている。
 例えば、公共施設・商業施設・金融機関・医療機関等といった機能が市街地に集積している場合には、市街地と郊外の地域を結ぶバス路線を設定することで、公共交通を利用して多くの活動目的を達成することが可能になる。加えて、公共交通の需要が高まることで、利用者を集約して輸送することができるため、デマンド型交通(予約制乗合バス事業)の実証運行も効率よく運行できる。はずであった……。
 しかし、郊外の地域と市街地とを結ぶバス路線のみを設定しても、達成可能な活動目的は限られるため、いちいち電話等で予約しなければならないので面倒だ。という方はこれまでどおり自家用車利用で目的が達成できるため、利用していただけない結果となってしまった。
 しかし、現在のバス路線を維持したとしても、補助金等で町の負担は変わらない。
 今後、地域公共交通の衰退に少しでも歯止めをかけられるように、利用者のニーズに合わせた路線の見直しや、スクールバスへの混乗で減便を検討するなど、エリアごとの改善策を実施、検証するとともに、いまある資源を最大限活用し、買い物弱者支援、医療機関への送迎支援、児童生徒や子育て世代への支援、高齢者の外出支援、交通事故を未然に防ぐ自動車の購入費補助などさまざまな施策を展開し、まちのあるべき姿を追求し、公共交通の改善とともにまちづくりをすすめ、衰退という負の連鎖を断ち切らなければならないのです。




(1) 予約制都市間バスを除く。
(2) サポカーS(セーフティ・サポートカーS)とは、政府が高齢者に推奨する、自動ブレーキやペダル踏み間違い時加速抑制装置等を搭載した自動車を指す。