【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第6分科会 「ごめん」と「いーの」で支え合う みんなにやさしい公共交通

公営交通の存続と維持にむけて
―― バス公共交通ネットワークの再構築 ――

青森県本部/八戸交通労働組合

【青森県八戸市(2017年1月:中核市へ移行)】

 八戸市は、太平洋に臨む青森県の南東部に位置し、北はおいらせ町(旧百石町・旧下田町)及び五戸町、西は南部町(旧福地村・旧名川町・旧南部町)、南は階上町及び岩手県軽米町に接しています。
 地形は、なだらかな台地に囲まれた平野が太平洋に向かって広がり、その平野を三分する形で馬淵川、新井田川の2本の川が流れています。
 臨海部には大規模な工業港、漁港、商業港が整備され、その背後には工業地帯が形成されています。このため、優れた漁港施設や背後施設を有する全国屈指の水産都市であり、北東北随一の工業都市となっています。
 2005年3月31日に合併した南郷区(旧南郷村)は、「ジャズとそばのまち」として全国的な知名度を誇り、ブルーベリーなどの地場産品を生かした特産物の開発なども行われています。

1. はじめに

 八戸市における公共交通をとりまく環境は、「交通手段の多様化」「週休二日制の定着による休日の増加」「少子化の進展」などモータリゼーションの進展等にともない、特に路線バスの利用者が年々減少し、バス事業者の実に7割以上を占める系統が赤字となっています。事業者においては、人件費の削減や運行経路の見直しなど経営の合理化に努めているものの努力も極めて限界に近い現状が続いています。八戸市としても、国、県および沿線町村と協調して、広域的幹線的生活交通路線に対する補助を行うとともに、市営バスに対しても、一般会計からの補助金・負担金を繰り出すなど、可能な限りの補助が助成されてきましたが、行政の財政状況が厳しい中、路線維持のための事業費を賄う財源をこれまで以上に確保していくことは厳しい実情となっています。従来のままの施策の枠組みでは、その維持・存続さえままならないことは明白であり、このまま有効な手段を講じることができなければ、これまで以上の危機的な状況を招きかねないものと懸念されております。
 一方で、今後さらに進展する少子高齢化への対応や中心市街地活性化などのまちづくり政策の視点から、「市民の足」を担う公共交通の果たす役割を再認識しつつ、行政としていかにサービス水準の維持・向上に寄与すべきか、十分に議論を深めることが必要とされております。
 このような中、八戸市は公共交通政策の検討を進め、サービス内容を「良くする」ことは勿論のこと、魅力的で活力ある地域社会の実現に繋げるとともに公共交通という地域資源を育て、次世代へ引き継ぐことを目的とする「八戸市地域公共交通総合連携計画」を2009年3月に策定し、地域公共交通の活性化及び総合的かつ一体的な推進に関する方針が示されました。
 また、同市は「八戸圏域定住自立圏」の形成をめざし、都市機能の更なる充実を図るとともに、周辺町村を含めた圏域全体のマネジメントにおいて、中心的な役割を担う「八戸圏域定住自立圏中心市」が宣言され、2009年9月には、連携やネットワークの強化に係わる政策分野として「圏域内における通勤、通学、通院、買物等の日常生活を営む上で必要不可欠な住民の足としての公共交通の維持、確保を図るため、地域の実情に即した、多様で維持可能な公共交通体系のあり方と対応策をまとめた八戸圏域公共交通計画を策定し推進する」とした定住自立圏の形成に関する協定を周辺8市町村と締結しました。

2. 八戸市地域公共交通総合連携計画の取り組み

 八戸市において公共交通の再生に向けた取り組みが進められることとなりました。2008年に八戸市公共交通再生プランの提言に基づき、官民連携による市内路線の運行形態が大幅に見直されるなど、翌2009年には八戸市地域公共交通総合連携計画の策定により、地域・交通事業者・八戸市の三位一体による新たな地域交通の立て直しが図られることとなりました。
 また、同年には八戸市を中心とする周辺町村(8市町村)を含めた八戸圏域定住自立圏が締結され、医療・産業・雇用・教育・福祉、交通の分野で地域としてネットワークでの連携強化を図り、その中で公共交通体系のあり方と対応策がまとめられ必要不可欠な住民の足としての公共交通の確保が重要視されることとなりました。

《主な取り組み》
① 共同運行化によるダイヤの見直し
 市内地域路線を「幹線」「準幹線」に区分することによって、民間事業者との間に競合路線等、非効率的な運行体系の調整を行うとともに、適切な役割分担を図り、効率的なネットワークを維持しながら利用者の利便性を高める。
・各事業者の運行ダイヤ・系統を統一することにより、多重なダイヤをスリム化
・主要路線の等間隔運行(10分~20分~30分)
・民間他社との共通定期券、乗車券の実施

八戸市営バス

南部バス(岩手県北自動車)

十和田観光電鉄
② 路線別ナンバリングの実施
 中心街を起点に方面別にアルファベット記号と番号を付けLED行先表示機に表示するとともに、停留所や路線図には、記号と番号のほかにルートカラーで方面を表示することで利用者の利便性の向上を図る。
③ 共通バスマップの作成
 市内を運行している(市営バス・南部バス・十和田観光電鉄)と共同で、共通バスマップを発行し「分かりやすい」情報提供に努め利便性の向上を図る。
・停留所における共通時刻表・路線図・路線案内の掲出
④ 利用しやすい上限運賃制度の導入
・初乗り150円~200円~250円~300円上限
 これまで赤字路線に対し行政が補助金として事業者へ補填していました。利用する側とすれば間接的に自分たちの膨大な税金が支払われているという形であったものを、運賃の値下げをすることにより、利用者へ直接還元し、その分の減収を引き続き行政が各事業者へ助成し補填する。これにより「地域住民に還元される公共交通政策への転換」と位置付け、利用者の増加を図る。
⑤ 中心市街地及び八戸駅でのバス情報案内の実施
 2009年に運用を開始した「市バス運行情報サービス」における案内表示機(市内停留所12ヶ所設置)により、利用者への運行情報を提供することで利便性の向上を図る。また、2014年度には一部の市内コンビニにタブレット式の運行情報を開始。
 さらに、八戸駅を起点に、公共交通の乗継による情報バリアの解消と利用促進を図ることを目的として、公共交通アテンダント(愛称:はちこ)により、観光客及び不慣れなバス利用者のサポートを行う。

≪八戸圏域定住自立圏について≫
 八戸市を中心とした近隣市町村とともに共生して行くことを目的に、2010年に八戸圏域定住自立圏が策定されました。
 この基本方針は、都市は都市らしく、農山漁村は農山漁村らしい、地域振興を進めるために圏域ごとに生活機能等を確保し、地方圏における定住の受け皿を形成する定住自立圏構想を推進するとしています。また、このことにより圏域内の住民・企業・行政の協働・連携によって医療・福祉・地域移動の交流・インフラ整備・人材育成等の持続可能な地域社会の結びつきの強化をめざすものです。
 主な取り組みについては、①医療派遣事業、②ドクターカー運行事業、③安全・安心情報発信事業、④圏域公共交通計画推進事業の分類に分けられ、この位置づけにより八戸市地域公共交通計画推進会議が発足されて以降、これまで様々な計画が実施されてきました。
<定住自立圏における地域公共交通の特徴>
1. 圏域住民の日常生活には広域的な移動が欠かせない
2. 「送迎に頼らず通学・通勤できる」「安心して通院できる」移動手段の確保で、圏域住民の(生活の質)向上が求められている。
3. 圏域住民の生活と交流に欠かせない広域公共交通に必要な財政支援制度と継続的なモニタリングが必要である。
4. 公共交通サービスの「品質向上戦略」とともに事業者連携を推進する仕組みが求められている。

≪共同運行化に対する評価≫
【八戸市営バス】
・効率的な運行が可能になった。
・事業者間の運行本数・運行時間の調整が可能になったことにより、その他の競合路線の運行調整も随時実施しており、市内のバス路線としては、数年前よりは、効率的になってきている。
【南部バス】
・減便等による収入減を見込んでいたが思ったより収入の落ち込みが無かった。
・共同運行により利用者にとっては「利用しやすく便利」となり、事業者にとっては運行の効率化が図られたと思う。
【十和田観光電鉄】
・発車時刻が平準化されたので、お客様の利用しやすさは格段に向上したと思う。

~育てる公共交通~
 これまでのバス交通は、交通事業者がルートや時刻表を定め、運行に伴う「赤字」を八戸市などの行政が公的補助を投じて補ってきました。しかし、「赤字の」バスに公的補助を投入するだけでは「利用者の減少⇒バス路線の減便・廃止⇒さらなる利用者の減少」といった「悪循環」を断ち切れず、結果として「地域住民の生活に使えない・使いにくいバス」になっていました。今後においては「育てる公共交通(協働交通)」として地域や交通事業者、八戸市が三位一体となって「地域の生活に使える」公共交通サービスを考え、育てていくことが必要であり、そのための施策が課題とも言えます。
 八戸市の路線バスの市内幹線軸の持続性向上とさらなる品質向上、認知度向上を図るために……
① 高頻度・等間隔運行の継続実施
② ICカード導入による運賃支払時間の短縮と乗継利便性向上
③ 低床バス導入によるバリアフリー化
④ バス停の高度化による待合環境強化
⑤ 車両・バス停等へのトータルデザイン導入の検討
 これまでの路線バスや地方鉄道は、交通事業者が路線やダイヤを定め、自らの事業運営により運行サービスを提供してきましたが、利用者数、運送収入とも減少に歯止めがかからない状況が続き、行政が一定の公的補助を投入することで維持されてきました。
 このような中、当市では行政が路線バスの活性化に積極的に関与しながら、公営・民営交通の連携や一定期間の財政投入を行い運賃体系の再構築に取り組んできた結果、利用者数が増加傾向に転じるとともに、運送収入の減少にも下げ止まりの傾向が出てきております。しかしながら、将来的な人口減少と少子化のさらなる進展が予想される中で、日常の通勤・通学、通院、買物に不可欠な移動手段を持続的に維持・確保していくことは容易ではありません。鉄道やタクシーについても、これまでの枠組みで継続的に利用者を確保していくことが難しい状況にあります。
 これからの地域公共交通は、交通事業者・行政の努力だけで行うような従来の枠組みではなく、沿線の住民や企業、沿線施設との連携・協力により、地域に適した運営・運行形態で移動手段を確保し、教育現場とも連携しながら将来に引き継いでいく必要があります。また、複数交通モード間の連携や、まちづくり施策や観光振興策との連携により、新たな需要を創り出し、路線の維持と活性化を図っていく必要があります。
 地域公共交通を理想的な形で次世代に引き継ぐためにも、他分野の施策との連携や多様な主体と協働し、継続的に改善し、育てていく仕組みづくりをして行かなければなりません。

3. 市営バス事業の健全化にむけて

 八戸市営バス事業の経過と現状は、1932年の事業開始以降、市民生活を支える主要交通機関として都市基盤の一躍を担ってきました。しかし、交通手段の多様化や少子化の進展などによる利用者の減少に歯止めが掛からない状況が続き、利用者数においては1969年度の2,837万人をピークに2015年度700万人にまで減少し、このため累積赤字は2004年度の最大10億あまりにまで大きく膨らみ厳しい赤字経営を余儀なくされてきました。
 このような経営状況を踏まえ、これまでバス事業の存廃について厳しい検討がされ、現在までに至る健全化に向けた本格的な事業経営改革が行われてきました。

《健全計画の実績》
・2005年度~2017年度 ⇒ 単年度黒字を計上 
 ※ 2014年度については会計制度改正の影響のため赤字計上
・2012年度 ⇒ 資金不足比率の基準値20%を下回り、計画1年前倒しで完了
・2013年度 ⇒ 21年ぶりに不良債務の解消と資金不足比率0%を達成
・2015年度 ⇒ 26年ぶりに累積赤字が解消され、累積利益へ転換
・2016年度 ⇒ 引き続き黒字計上となり累積利益は1億2千万円へ
《経営健全化計画》
① 市営バス事業の在り方に関する市の方針[2005~2009年度] 
 ・営業規模を段階的に25%程度縮小(南部バスへ移譲)
 ・正職乗務員を段階的に100人程度削減(退職者不補充を含む)
 ・一般会計からの補助金を8億から4億に段階的に削減
② 市営バス事業経営健全化計画[2009~2013年度]
 ・正職乗務員の追加出向(補充は臨時・嘱託職員)
 ・2営業所の統廃合
 ・増資(1億円)
 ・資金不足比率の解消計画(最大66.9%)
③ 不良債務等解消計画[2013~2014年度]
 ・正職乗務員の追加出向(補充は臨時・嘱託職員)
 ・増資(8,500万円)

2008年度2009年度2010年度2011年度2012年度2013年度2014年度2015年度2016年度
累積欠損金 (千円)430,945410,477255,609232,153100,28724,95442,096
不良債務 (千円)884,600697,766609,434501,411205,230
資金不足比率 (%)66.955.150.541.817.2

4. 労働組合としてするべきこと

 これまで八戸交通労働組合は、市営バスとともに歴史を歩んで来ました。
 現在までに事業健全化が進められ、ある程度の成果として結果が出されてきた一方で、労組としても公営交通の維持・存続のため断腸な思いで合理化の申し入れを受けることとなり課題も多く残されてきました。
 独自の給与削減、臨時・非常勤の待遇改善、車両を含め設備投資への遅れなど……今後、労組として働く条件・環境を改善して行くことが必要とされております。古き良き時代と比べればきりがありませんが、当時よりだいぶスリムな事業形態となると同時に労組としても組織的に縮小せざるを得ない結果となりましたが、それでも組合員の生活を守ることを優先に考え職場の維持・存続の交渉をして行かなければなりません。
 経営改善をするうえでサービスの向上も必要であり、労組としても出来る限り取り組んで来ました。これまで都市交時代には「安心・安全・信頼の一声運動」を実施し、組合員の意識改革を進めてきましたが、現在は都市公共交通評議会として「くらしをささえる地域公共交通確立キャンペーン」として取り組んでいます。これは自治体が提供する公共サービスを有効に機能させるために、「移動」の確保や維持、進化させるための仕組みの必要性と課題を共有するために、自治労運動として取り組むことが基本とされております。「公共交通を地域社会で支える」をテーマに統一行動として、今後も労働組合の立場で自治体公共サービスの向上をめざして行くことが必要だと考えます。