1. はじめに
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図1 フラワー長井線路線図 |
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山形鉄道フラワー長井線は、山形県南部に位置する長井市、南陽市、川西町、白鷹町を結び、全線17駅・30.5キロを運行する第三セクター鉄道である(図1)。沿線2市2町には花々の名所があることから、フラワー長井線と呼称し、車両外装もこれにふさわしいデザインとなっている。
始発駅(赤湯駅)がある南陽市は、JR山形新幹線の停車駅として県内外の玄関口となり、開湯900年余の歴史ある赤湯温泉や、さくらんぼを始めとした観光客を魅了するフルーツ産品がある。
西に隣接する川西町は、明治初期に英国のイザベラ・バードが北日本を旅行して記した「日本奥地旅行」において、町内の平野をエデンの園、東洋のアルカディア(桃源郷)と賞賛したことや、10万本のダリアが咲き誇るダリア公園に多くの来園者が訪れるなど景観資源が豊かである。
長井市は南北に貫流する最上川と飯豊山系に源を発する置賜白川・野川などの合流地点に所在し、恵まれた水系により、江戸時代から舟運が発達し、現在も当時のたたずまいが伝わる建物や水路が市内各所に残っている。
終着駅(荒砥駅)がある白鷹町では、県花「紅花」の生産量が日本一を誇り"日本の紅(あか)をつくる町"として、紅(あか)に力を入れたまちづくりを進めている。
2. フラワー長井線の沿革
昭和55年、日本国有鉄道経営再建促進特別措置法の施行により、国鉄長井線は昭和61年に第三次特定地方交通線に選定され、バス輸送が適当な路線とされたが、通勤・通学等地域住民の生活路線として不可欠な交通手段であるとともに、地域経済の発展のため重要な役割を果たすとの沿線住民等の認識のもと、JRからの転換を受け、昭和63年4月20日、県や沿線2市2町等が出資する第三セクターとして山形鉄道(株)を設立し、昭和63年10月25日、「フラワー長井線」として赤湯~荒砥間の鉄道事業を開業した。
3. 経営状況
近年の年間延べ利用者数は、ピーク時の144万2千人(平成2年)の43%にあたる約61万5千人にまで減少し、このうち通学定期の利用者数は約42万3千人であり、通学定期収入が主力となっている(図2)。
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図2 利用者数の推移
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図3 収支状況の推移 |
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山形鉄道(株)では、運賃収入の増収を図ることが必要不可欠であるが、運賃収入の大半を占める通学定期収入は少子化等により減収は避けられないため、地元利用促進を強化するとともに、観光事業や商品販売事業の積極的な展開により減収を補っている。
また、支出の面では老朽化が進んでいる施設・車両について、必要最小限の修繕を計画的に実施することにより、現有施設を最大限に活用し、併せて人件費の抑制や諸経費の点検改善によりコスト縮減を図っている。
しかし、東日本大震災による風評被害や観光バス規制強化の影響により、観光事業が思うように伸びず、老朽化に伴う施設整備費用の負担などが相まって、経営状況は厳しいままである(図3)。
経営赤字を補填するために開業時に創設した県と沿線2市2町で造成した6億円の運営助成基金は、平成12年度から元本取崩しが始まり、その後の基金の枯渇が見込まれたため、平成17年度以降、毎年、県と沿線2市2町が追加で拠出している。
【参考】
◇ 拠出金額:8,400万円/年(H17~H19年度:5,000万円、H20~H27年度:6,000万円)
◇ 負担割合:県33.3%、長井市26.7%、南陽市19.3%、川西町4.7%、白鷹町16.0%
※ 割合は、各市町における運行キロ数で案分して算出している。
4. 課 題
(1) まちづくり・観光施策と公共交通が一体となった施策展開
沿線2市2町では、特に若年層の転出による人口減少が事業所数・従業者数の減少につながっており、また、交流人口(観光客数)も総じて減少傾向となっており、地域の活力が失われていくことが懸念されている。そのため、産業振興や観光振興による交流人口の増加、住みやすい住環境づくりなどの方針を掲げ、地域活性化に取り組んでいるところである。
こうした状況において、公共交通、特に鉄道は域外から人を呼び込む手段として、また、駅を中心とした中心市街地は地域の玄関口として観光の拠点となるほか、まちのにぎわい創出やコンパクトシティの拠点としての役割が期待される。
そのため、自治体のまちづくり・観光施策と公共交通が一体となった施策展開(総合計画等に掲げるまちづくり・観光施策を実施するうえで、公共交通の利活用を前提とした施策展開)が課題となる。
(2) 地域住民の利便性向上、地域住民のニーズにあったサービスの提供
沿線2市2町では、基本的には自動車利用を前提とした施設立地となっており、多数の高齢者の利用が想定される公立置賜総合病院や主要な買い物施設についても、鉄道沿線ではなく主要幹線道路沿いに立地している。一方、人口については今後も減少を続けるものの、高齢者人口は横ばいとなり、高齢化率は一層高まるものと想定されている。
こうした状況において、公共交通には地域住民、特に交通弱者となる高齢者の移動手段の確保という役割が求められる。
そのため、複数の交通事業者でサービス区間の一部重複、競合している現状に鑑み、乗継時間の短縮や、公共交通の総合的な情報発信など、交通事業者間(鉄道、バス、デマンド)で連携し、地域住民の利便性向上、地域住民のニーズにあったサービスの提供が課題となる。
(3) 沿線地域との連携による地域公共交通の利用拡大
公共交通の利用者は少子化や自家用車による送迎の増加により減少を続けているものの、今後とも交通弱者は存在し、また、都市の「装置」として、今後も公共交通の必要性は普遍的である。
公共自らがサービスを実施している市営バスやデマンド交通については、今後とも自治体が主体となり運営されていくものと思われるが、もう一つの公共交通であるフラワー長井線にあっては、第3セクター方式の株式会社の運営であるため、従来より「フラワー長井線利用拡大協議会」を組織し、沿線住民が中心となり利用拡大に努めてきている。しかしながら、このたび実施した住民アンケート等において、フラワー長井線に対しての住民意識が相当程度希薄化していることも窺えるところである(図4)。
フラワー長井線をはじめとする公共交通の重要性について、再度、沿線住民、企業からその必要性についての認識を深めてもらい、沿線地域が一体となった支援体制を再構築し、住民の利用拡大を促進することが課題となる。
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図4 フラワー長井線に関する住民の意識調査結果 |
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(4) 公共交通軸(フラワー長井線)の経営改善等
沿線2市2町を縦貫する幹線であるフラワー長井線は、沿線に立地する高校生の約5割が通学時に利用しており、フラワー長井線の存続はこれら高等学校の将来にも大きく関わっている。また、進展する高齢化と生産年齢人口の減少は、高齢者の日常生活において自らが自立的な行動を求めることにもなり、このことはフラワー長井線をはじめとする公共交通機関への依存度が今後高まっていくことを意味する。
こうしたことからフラワー長井線の存続は地域の運営のためにも必要不可欠であり、そのため、経営体である山形鉄道(株)の体制を強化しつつ、域内はもとより、域外をも含めた収益確保を積極的・多角的に展開し、存続可能な経営状態にしていくことが求められる。
しかしながら、こうした事業展開が可能となるためには、鉄道の運行部分における経営の独立性を持つことが前提となるため、従来の自治体支援のあり方も含めてフラワー長井線の鉄道事業そのものを再構築する必要がある。
更には、フラワー長井線を地域の重要な交通軸として位置づけ、2次交通と円滑に連携することにより、地域住民の多様なニーズの受け皿となることが求められる。
そのうえで、施設の老朽化にも対応し、今後も高校生をはじめ地域の足として安全な運行を継続していくことが求められる。
5. 存続に向けた新たな取り組み
これらの課題を踏まえ平成28年度、県、沿線2市2町及び山形鉄道(株)では、経営に上下分離方式を導入した。これは、従来の赤字補てん方式ではなく、同社が所有する鉄道用地を沿線自治体に無償譲渡した上で同社に無償で貸付するとともに、鉄道施設の維持、修繕に係る経費を県及び沿線2市2町が負担するというもので、これにより同社は列車の運行業務、ツアー列車の企画運営等、経営に専念できる環境が整備された。
また同年には、上下分離方式の導入を前提とした国の「鉄道事業再構築事業」にも採択され、鉄道施設に対する国の補助事業の補助率が、これまでの1/3から1/2にかさ上げされることになった。言うなれば、地域住民の貴重な足であるフラワー長井線を、地域で支える基盤ができたといえる。この上下分離方式の導入が奏功し、導入初年度は平成8年度以来20年ぶりに1,500万円の黒字決算となった。
同じく平成28年度、県及び沿線2市2町ではフラワー長井線を中心に「稼ぐ力」を創出するために、内閣府の地方創生加速化交付金を活用し、地域の観光資源を磨き直しするとともに、これらを組み合わせた旅行商品造成等の取り組みを官民協働により行った。取り組みの中では、4つの車両に沿線2市2町の花をあしらったラッピングを施すとともに、1両を飲食が可能な観光列車に改造し順次披露された。まさにフラワー長井線が沿線地域の地方創生のシンボルに変貌を遂げた(図5)。
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図5 山形鉄道が所有する6車両 |
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うち4車両については地方創生加速化交付金を活用し、沿線2市2町の花をあしらったラッピングを施した
左 上:南陽市(桜号) 中段上:川西町(ダリア号) 右 上:従来の車両
左 下:長井市(あやめ号) 中段下:白鷹町(紅花号) 右 下:シンボル車両 |
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民間レベルでも「フラワー長井線利用拡大協議会(※)」の活動から派生し、徐々にではあるが住民が主体となった取り組みが生まれてきている。主なものを挙げると、平成26年度に開通100周年を迎えた長井線に向かって祝福と感謝の意を込めて沿線住民が手を振る「スマイルプロジェクト」(図6)の取り組みや平成27年度には車両をプロレスのリングに見立てた「ローカル線プロレス」(図7)が行われ、全国初の試みとしてマスメディアを通じた全国報道により、フラワー長井線に対する注目度が増している。
また、沿線住民による長年にわたる駅周辺の環境整備が実り、平成27年度に、羽前成田駅(図8-長井市)及び西大塚駅(図9-川西町)が国の登録有形文化財に登録されている。他にも沿線の高校生による車両や駅舎の美化活動など枚挙に暇がない(図10)(図11)。
これらは全て、沿線住民のフラワー長井線に対する想いにより生まれたものであり、こうした動きはゆるやかにではあるが確実に広がっていると感じている。
※ 「フラワー長井線利用拡大協議会」
山形県及び沿線市町である長井市、南陽市、川西町、白鷹町が中心となり、商工会や観光協会などの関係団体と連携して平成元年7月に設立。協議会では沿線一体となったフラワー長井線の利用拡大と活性化及びその運営の安定化を促進することを目的に、「地域住民等に対する効果的な利用拡大策の企画、実施」「地域住民の共通理解醸成」「運営の安定化を図るための支援」の3つを柱に活動を行っている。
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図6 スマイルプロジェクト
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図7 ローカル線プロレス
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図8 羽前成田駅と地域住民
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図9 西大塚駅と地域住民
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図10 荒砥高生による車両美化活動
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図11 長井工高生による駅舎美化活動
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6. 今後の展望
フラワー長井線の利用客数は、平成2年度の144万人をピークに年々減少し、平成27年度には半分以下の60万人にまで減少している。その要因として、主な利用客である高校生の減少が挙げられるが、今後もこの傾向は続いていくと予測されることから、高校生以外の地域住民、沿線企業等による利用拡大が最優先の課題となっている。
そのため、平成28年度より先導的に県及び沿線自治体の職員が、自家用車を使わず通勤するノーマイカーデーを月に数回設けるとともに、会議、出張時にもフラワー長井線の利用を促進する等の取り組みを実施し利用拡大をめざしている。今後、沿線企業、団体にも実施を呼びかけ横展開していくことはもとより、山形鉄道(株)と連携して法人向け定期等の商品化を検討し、一般客の利用拡大をめざしていくことが強く求められている。
また、観光面での利用拡大については、東日本大震災による風評被害により、一時は観光による利用拡大に苦戦した時期もあったが、フラワー長井線は観光ツールとしても大きな魅力を持っていることから、先に述べた地方創生の取り組みに加え、平成28年度に長井市が立ち上げた観光DMO「やまがた長井観光局」とも連携し、利用拡大を図っていくこととしている。
いずれにせよ、フラワー長井線の存続には地域住民の利用拡大が不可欠なわけであるが、長井線が国鉄から民営化された昭和60年代の住民の存続運動の盛り上がりと比較すると、一般論ではフラワー長井線は残さなければならないとわかってはいても、昨今の住民の危機意識はかなり薄いと感じている。もちろん、前述のようにフラワー長井線の存続を願い熱心に活動する住民もいるがまだまだ数は少なく、住民間にも沿線自治体間にも温度差はある。18歳人口が今後減少に転じる2018年問題を来年に控えた今、主要な利用客である高校生が減少することは明らかなため、待ったなしの対応が求められている。
そして最大の課題は山形鉄道が保有する6両の車両の老朽化である。いずれも運用開始から30年近くが経過し故障が頻発しており、修繕しながら何とか凌いでいる状況である。新車両の購入には1両あたり1億3,000~4,000万円かかるといわれており、購入の目途はたっていないが、中古車両の購入なども含め、速やかに結論を出す必要がある。
結びとして、これまでの活動をPDCAサイクルにより見直しながら積み上げていくことはもちろんだが、昨今の国の地域創生を追い風とし、フラワー長井線を地域で支える構造や仕組みづくりについて、官民連携を推進しながら、フラワー長井線がいつまでも地域に愛される存在としてあり続けるための道を絶えず模索していきたい。
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