1. 公共交通の情勢
全国的に、乗合バス事業を取り巻く環境は少子高齢化に伴う都市構造、社会構造の変化や、交通手段の多様化に伴い、輸送人員は年々減少傾向にあります。また、地方都市における乗合バス事業は、マイカー中心のモータリゼーションの進展に伴い、バスの利用者は今後も減少し続ける傾向にあります。
このような状況の中、乗合バス事業は経常収支の悪化や不良債権の発生・増加など厳しい経営状況にある一方、市民の生活に重要な移動手段であることから、国や自治体等は事業者への財政支援を行いバス路線の維持・存続を図っていますが、公営交通事業者が民間事業者への路線移譲・運行委託する事例や、民間事業者が赤字経営となり民事再生や破たんに追い込まれる事例も増えつつあります。
しかしながら、地域公共交通の必要性が低下しているわけではなく、通勤・通学・買物等の日常生活の移動手段として、また私的交通手段を自ら利用することのできない高齢者等の交通弱者の移動手段としての存在、今後、急激な高齢化社会の到来への対応、大気汚染防止対策、交通渋滞緩和・交通事故対策など、誰もが気軽に公共交通を利用して外出できるまちづくり、環境にやさしい移動手段が確保されたまちづくりの重要性はこれまで以上に増しています。
地域公共交通を維持・活性化するためには、行政や交通事業者単独による取り組みだけでは限界があり、地域公共交通を地域のニーズに合致したものにしていくことが求められていることから、利用者をはじめとした地域主体に、これまで以上に大きな役割が期待されています。
乗合バスの輸送人員の推移
2. 松江市における公共交通の現状
松江市におけるバス交通は、松江市交通局、一畑バス、日ノ丸自動車、コミュニティバスで構成され、JR松江駅を中心とした交通ネットワークが形成されています。
利用者数は平成21年度438万人で底を打ち、平成22年度442万人、平成27年度には504万人となっており、近年では利用者減に歯止めをかけ、微増傾向に転じていますが、バス事業者の経営改善にまでは至っておらず、運行補助金に頼らざるを得ないバス事業においては、地方財政のひっ迫により行政支援が厳しさを増す中、現状の運行すら困難になる可能性も抱えています。特に、少子高齢化の進む郊外部では、利用者の減少によってコミュニティバスの存続にも深刻な影響が出ています。
また、松江城の国宝化、パワースポットブーム等により松江を訪れる観光客は増加しましたが、その移動手段は自家用車が多いことから、二次交通機関として利用しやすい環境整備を行い、いかに公共交通を使った移動手段へと転換させていくかという課題もあります。
松江市のバス利用者数の推移
3. 松江市の取り組み
松江市では「公共交通利用促進市民会議」が中心となって、モビリティ・マネジメントを行いながら、運行の効率化、サービスの向上、利用促進の取り組みを進めてきました。
これまで、平成18年度に「松江市公共交通体系整備計画」、平成22年度には「松江市地域公共交通総合連携計画」を、そして今年3月には「地域公共交通網形成計画」が策定されました。
策定された計画を基に、市民・企業・交通事業者・行政が協働してそれぞれの役割を果たし、将来にわたり持続可能な公共交通ネットワークの構築を図っていきます。
市民・企業・交通事業者・行政の協働による取り組み体制図
松江市地域公共交通網形成計画の基本的な方針
【将来への継承】
持続可能な公共交通網の形成と利便性の維持・向上
【意識・行動の変革】
公共交通利用促進の更なる推進と過度な自動車利用の抑制
【質の向上】
公共交通の利用環境の改善・整備の促進
【共に育む】
市民会議を中心とした市民・企業・交通事業者・行政等の協働による計画の推進 |
4. 労働組合としての取り組み
(1) 「くらしをささえる地域公共交通確立キャンペーン」
自治労都市公共交通評議会では4月から5月の間、「安全・安心・快適で、信頼され、必要とされる公営交通の確立」をスローガンに、「くらしをささえる地域公共交通確立キャンペーン」という行動を推進しています。
この行動は、自治体職員はもとより、地域公共交通の確立に必要な住民・利用者などのステークホルダーを対象に役所などの施設周辺や駅・バス停などの交通施設周辺で街頭行動に取り組むものであります。
我々、松江市職員ユニオン交通支部においても、今年4月にJR松江駅構内にて通勤ラッシュの時間帯に合わせ、作成したオリジナルマスク・ポケットティッシュの配布を行いながら、あいさつ運動を行い、住民・利用者に利用促進に向けた行動を行いました。
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JR松江駅街頭行動の様子 | 配布したオリジナルグッズ |
(2) 独自アンケートの実施
松江市職員ユニオン交通支部では労働組合として松江市民1,000人を対象にバス利用に関する独自アンケートを行いました。
これまで、松江市と松江市公共交通利用促進会議が共同で、松江市地域公共交通網形成計画の策定に向けた、公共交通についての10,000人アンケート等が行われてきましたが、地域公共交通の現場で働く者の視点から、街頭へ出かけニーズ調査を行いました。この調査の中でバスの行き先表示や乗り継ぎなどの利便性やバス停の待合環境、新たなサービスなど幅広く調査しました。(アンケートは別添資料参照)
このことから、バス路線の新規路線、ICカードの導入や現存するバスの便や深夜バスの拡充といった声が多く寄せられました。
こうしたアンケート結果を集約し、まちづくり部交通政策課、交通当局と協議を重ね今後策定される実施計画への労働組合としての施策を反映できるよう取り組んでいきます。
5. まとめ
人口減少や少子高齢化社会を考えたとき、利益のみを追求することのない公営交通の存在は、これまで以上に重要となってきます。交通の問題をたんに「モビリティ」として捉えるのではなく「まちづくり」の観点から、一般行政と一体となった都市計画、福祉対策、環境対策などの施策と積極的に連携を図ることで、公共交通のコーディネーターとして主導的役割を果たす必要があると考えます。こうした状況のなか、松江市当局では6月、まちづくり部に交通政策課という地域公共交通の専管的な部署が新設されました。このことで庁舎内の「福祉と地域公共交通」、「地域コミュニティの維持と地域公共交通」といった一体的な推進体制を整備し、持続可能な地域公共交通ネットワークの形成を図る取り組みを進めていかなければなりません。松江市では「松江市地域公共交通網形成計画」に基づいて、計画を達成するための「松江市地域公共交通網再編実施計画」が策定します。この計画の中では、様々な施策を展開するためのマスタープランが盛り込まれます。労働組合として、また地域公共交通の最前線で働く者として、この計画の事務局である交通政策課と連携を図り、積極的な意見交換や情報交換を行っていく必要があります。
また、労働組合が自ら街頭に出かけニーズ調査を行うこと、公営交通の存在意義をお客様へ積極的にアピールする運動を展開することで、将来にわたり、松江の街の公共交通の担い手が私たちの交通局でありつづけ、その責務と役割を果たすべく努力を積み重ねていくことが重要です。公営交通は、利益のみを追求するのではなく、市民の皆様の多様なニーズをくみ取り、参画も得ながら、日常生活に密着した運営を行わなければなりません。また、お客様を「安全・安心・快適」にお運びするためには、きめ細かな高付加価値を付けた「質の高いサービス」を提供しなければなりませんし、「職員のスキルアップ」が必要となります。
今後も、引き続き、これらの課題解決にむけ、全力で取り組みを進めます。
【別添資料】バス利用促進に向けたアンケート
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