【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第7分科会 すべての人が共に暮らす社会づくり

 近年、全世代を通して就労支援の必要性が取り上げられている。全ての人が安心して働ける仕組みを作ることは、増加し続ける社会保障費や減少している労働人口を抑制する一助となるばかりではなく、社会で活躍したいという人間の基本的な欲求を充足し、豊かな生活を創造することに繋がる。本研究では、高崎市に寄せられた働くことに困難を抱えた事例を通じ、どのような機能を持った支援機関があるとよいか提案する。



効果的な就労支援の提案
―― 働くことに困難を抱える人と
働き手を必要としている人をつなぐために ――

群馬県本部/高崎市職員労働組合・高崎支部・政策研究チーム「ショコラ」
新井  翔・小泉 雅裕・高井 順子・小幡 貴昭・
飯野 和男・田中 亜紀・中島 悠太・生方 慎也

1. はじめに

 近年、わが国の社会保障費の増大が懸念されているが、高崎市も同様に、扶助費は年々増え続けている。その中で着目したのは、①生活保護受給者の中で稼動年齢層と呼ばれる15歳~65歳までの割合が第2位で、ここ5年緩やかに上昇し続けている、②就労系障害福祉サービス費用が年々増加し続けている、③自立支援医療(精神通院)の受給者数および精神障害者保健福祉手帳取得者数が増加しており、特にうつ病に代表される気分障害の占める割合が多い点である。ここから予想されたのは、稼働能力もあり、就労を希望していても受け入れ先がなく、福祉制度に頼らざるを得ない人が多数いることだった。また、気分障害は、一般的にストレスとなる生活・社会のできごとや状況をきっかけとして発症し、再発を繰り返しやすい特徴がある。気分障害が原因で就労困難に陥っている場合、どんな状況でストレスを感じて調子を崩すのか自己理解を促すと同時に、環境面を含めた調整が必要なことも想像に難くない。
 ニートやひきこもりの対策も社会問題となっている。2017年度版子ども・若者白書(内閣府)によると、15~39歳の若年無業者の数は、2016年は約77万人で、15~39歳人口に占める2.3%が無業者である。厚生労働省が2012年に発表した「生活保護を受給し続けた場合の社会保障等に与える影響について」という資料の中で、若年者が25歳から65歳まで生活保護を受給し続けた場合と、就労を通じて納税主体に転じた場合の社会が負担するコストギャップを推計している。その資料によると、支援を行わなければ1人1億円の支出となるが、その人たちの就労支援が成功し、正規雇用となった場合は5,000万円のプラスとなることが見込まれている。
 一方、近年では少子高齢化などに伴う労働人口の減少が課題となっている。みずほ総合研究所によると、2016年の労働力人口は6,648万人であったが2065年には3,946万人となり、2016年と比較して4割ほど減少する見通しである。そのほか、障害者の法定雇用率の引き上げや事業主の範囲拡大、精神障害者への雇用義務の拡大など障害を持つ人の雇用環境も大きく変化している。
 上記の状況から、障害の有無に関わらず働くこと・働き続けることに困難を抱えている人を広く受け止め、就職から定着、雇用契約等の労務に関する相談に応じる雇用および人材定着に必要な企業支援が大切であることが窺える。
 本研究では、「相談の入口段階で専門職が適切にアセスメントし、状態像を見立て、うまく行かない理由を当事者と共有すること。そして、本人だけでなく、本人に関わる人たちとともに就労後も継続して取り組める環境を整えていくことが解決に導く」という持論のもと、事例検討と既存の仕組みを検証することにより、新しい仕組みを考えていく。

2. 事例研究

 働き続けることが難しい人がどんな困難を抱えているかを把握するため、チーム内のメンバーが担当した就労支援が必要なケースの事例検討を行った。対人支援は、支援する側と相談する側の閉じた関係の中でケースが動いていくことが多いため、現場の生きたケースの動きを知る必要があった。
 検討事項を、①相談内容の評価、②課題の評価、③関わった関係機関カテゴリー数、④支援経過の評価、⑤検討した事例に必要と考えられる就労支援のあり方、とした。
 事例検討の結果として、表1のとおり高崎市に寄せられる就労支援が必要なケースは、メンタルヘルスの問題や精神障害に関連するものが多いことが示された。能力的なことやコミュニケーションの苦手さから社会適応が難しく、精神疾患やメンタルヘルスの問題を自覚し医療機関に受診しているようである。そのため、就労に向けては障害サービスとの関連が深く、相談窓口は所属や障害の有無に関わらず幅広く受け止める必要があると考えられた。また、職業適性を慎重に見極める必要があるため、長期雇用に向けて試しに働ける機会の確保および適性について企業側と話し合える環境を整えることが大切である。就職後も、家族関係や対人トラブルを抱えやすく離職リスクが高いことが予想されるため、入口から出口、定着まで一貫して支援できる支援体制が必要であると考えた。企業側も労働人口の減少に伴い人材不足を抱えることが予想されるため、相談者と企業をつなぐことはもちろん、労働者の離職やメンタルヘルスの問題等、企業側の困りごとにも対応できる仕組みをつくることが、安定した就労環境の構築に必要であると考えた。   

表1 検討事例と担当課および評価項目
タイトル 担当課 ①相談内容の数 ②課題の数 ③連携関係機関数
80代認知症疑いの母と50代統合失調症の息子2人世帯の事例 社会福祉課
40代うつ病・広汎性発達障害(疑い)の男性の事例 障害福祉課
30代後半軽度知的障害および発達障害疑いのある女性の事例 こども
家庭課
12 13
うつ病(?)が長期化した40代夫婦の事例 社会福祉課
60代パーキンソン病を患う母親と20代発達障害が疑われるひきこもりの息子世帯の事例 社会福祉課

 また、表2~4に①~③の項目で3事例以上該当したものを示す。
表2 ⑤機関ごとの相談数 表3 ④課題の評価 表4 ③相談内容の評価
相談内容 件数
病気や健康、障害のこと
収入・生活費のこと
仕事探し・就職について
家族との関係について
仕事上の不安やトラブル
件数
コミュニケーションが苦手
本人の能力の課題(言語・理解等)
家計管理の課題
家族関係・家族の課題
障害(疑い)
メンタルヘルスの課題
生活習慣の乱れ
機関カテゴリー 件数
社会福祉課
障害福祉課
医療機関
保険年金課
ハローワーク
その他支援機関・施設

3. 関連事業の調査

 私たちが提案する仕組みの核となるのは、専門職チームによる入口から出口、定着まで一貫して当事者と企業をつなぐ支援体制の構築であり、対象は一般就労を希望する就職・就労困難者である。入口支援や出口支援、定着支援とは具体的には以下のとおりである。

(1) 入口支援
 元々は司法領域で使用されることばである。入口支援の役割は、「罪を犯した背景となった障害特性や成育歴等を精査し、福祉による更生支援の可能性はもとより、地域で生活していくために望まれる矯正施設または退所後の処遇プログラムのあり方を検討し、必要に応じて福祉施設等への受け入れ調整を行う」ことである。これを就労支援にあてはめると、「就職活動を行う前段階で就労困難に陥った背景や要因、成育歴等を精査し、職業適性を探るとともに、必要に応じて福祉制度の利用調整を行う」と置き換えられる。島根県の南高愛隣会で2010年からモデル事業を開始し、長崎、宮城、和歌山、滋賀、島根、東京で取り組みが始まっている。

(2) 出口支援
 出口支援とは「社会復帰」であり、就労支援に置き換えると目標は「一般就労」となる。先進事例には、青少年就労支援ネットワーク静岡が行う保護司制度を原型にした「静岡方式」がある。就労意欲はあるが働けない人々に対し、「仕事に就くことを支援するのでなく、働き続けることができる人生に寄り添う」ことを目的に活動しており、伴走型の就労支援を提供している。伴走型支援とは、支援者がマンツーマンで対象者を担当し、社会適応のプロセスを支援するという支援モデルである。就労支援の目的は職場適応能力を身につけてもらうことにあり、その最善の場は職場であることから、まず、職場に入れてもらい、仕事を通じて職場適応能力を伸ばすという就労体験を中核としている。就労支援を受けた人の8割に変化が見られることが報告され、非常に有益な手法と考えられている。
 その他、国の主な施策として、生活困窮者自立支援法の「認定就労訓練事業」、ハローワークが実施している「トライアル雇用」がある。

認定就労訓練事業 トライアル雇用
〈特徴〉
・支援付きで働く。
・非雇用型・雇用型から選択。非雇用型から雇用型にステップアップできる。
・働く人の事情に合わせて、勤務内容や時間を決める。
・事業者は自治体の長から認定を受ける。
〈特徴〉
・常用雇用への移行を前提として、原則3ヶ月間その企業で施行雇用として働いてみる。
・障害者のトライアル雇用制度もある。
・要件を満たすと企業に助成金が支払われる。

(3) 定着支援
 定着支援とは、本人が長く働けるようにするための支援であり、障害者の制度として職場適応援助者(ジョブコーチ)支援事業がある。職場にジョブコーチが出向いて、障害特性を踏まえた直接的で専門的な支援を行い、障害者の職場適応、定着を図ることを目的としている。
 また、近年、短期での離職・就職を繰り返す人が多いことから定着支援の必要性が取り上げられており、2016年5月25日に成立した「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律及び児童福祉法の一部を改正する法律」に基づき、就労定着支援という新たなサービスが創設されることになった。これは、就労移行支援等を利用し一般就労に移行する障害者が増加する中で、今後、在職障害者の就労に伴う生活上の支援ニーズはより一層多様化かつ増大するものと考えられるため、就労に伴う生活面の課題に対応できるよう事業所・家族との連絡調整等の支援を一定の期間(就職した半年後から3年間)にわたり行うサービスとして創設された。支援内容は、企業・自宅等への訪問や障害者の来所により生活リズム、家計や体調の管理等に関する課題解決に向けて必要な連絡調整や指導・助言などを実施することとなっている。就労に伴い生じている生活面の課題に対し、本人や家族だけでなく企業とも協力しながら取り組んでいくものであると考えられる。

4. 仕組みをつくる

 私たちが提案する仕組みは静岡方式を参考に国の施策を活用し、支援付きで就労経験が積めるよう考えた。就労体験の場で相談者・企業側同席のもとで支援プログラムを作成し、立てた目標を達成できるよう継続的な関わりを行っていく。
 しかし、これらの問題は障害のある人に限られたものではない。就労に困難さを抱える人が共通して抱えるものであると言える。特にここ数年、過労死等防止対策推進法やストレスチェック制度の開始など労働者のメンタルヘルス対策は喫緊の課題とされているため、対象は障害者と限定せずに不安やメンタルヘルスの問題にも対応できるような形で実施する。
 どのような仕組みをつくるべきか、グループのメンバーだけではなく有識者や市民の方とともに、相談機関や事業のイメージをより具体的なものにするため、2018年3月10日にグループの研究発表会および意見交換会を開催した。


 当日の参加者からは多くの意見が出たが、「各機関の連携の大切さ」と「本人に関わる各機関を取りまとめるコーディネーターの必要さ」が多く聞かれた。一方で、人材育成の大切さや難しさや対象者の範囲をどこまでにすべきか等、課題も挙げられた。当日の意見等を踏まえ、私たちは以下のとおり「お試しワークネットワーク(仮)」のイメージをまとめた。

図1 お試しワークネットワーク(仮)のイメージ図


図2 お試しワークネットワーク利用の流れ

5. まとめ

 私たちが提案する仕組みは既存の機関や制度の枠を超えて、それぞれの領域で取り組みが始まった専門職によるチーム支援をワンストップで実施する点に特徴がある。これまでの支援では就労や就労継続が困難だった人たちに継続相談が可能な場を提供し、相談者、企業、関係機関とともに「誰もが安心して働く」という共通の目標に向かって協働できるよう、コーディネート機能を発揮することが目標である。
 就労に困難さを抱える者に対する支援は、多くの機関が関わることが多く専門性も必要となる。しかし、適切な支援を行えば就労できる環境を整えていくことが重要であり、同時に就労後に継続・定着していくためには、本人だけでなく受け入れる企業側の支援も必要である。そのためには、新しい制度を作るのではなく、就労に困難を抱えている人に寄り添いながら既存の制度、機関をうまく繋げていくことが必要であると考えている。