【自主レポート】 |
第37回土佐自治研集会 第7分科会 すべての人が共に暮らす社会づくり |
2013年に全国に先駆けて「LGBT支援宣言」をした大阪市淀川区が、全国のLGBT支援事業に影響を与えて5年余りになります。その5年間の淀川区の取り組みから見えてきた成果と現状の課題は何かをレポートします。 |
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1. はじめに 本稿ではLGBTという言葉を使っていますが、この4つの頭文字のセクシュアリティにとらわれたものではなく、SOGI(Sexual Orientation Gender Identity/性的指向と性自認)におけるマイノリティ(少数者)の総称として用いていることを予めご了承ください。 2. 全国行政機関初のLGBT支援宣言に至った経過 そもそも、LGBT支援宣言に至る経過についてお伝えします。2013年3月に前淀川区長が駐大阪・神戸米国総領事であるパトリック・J・リネハン氏(当時)と会談する機会がありました。自身がゲイであることを公表しているリネハン氏から、LGBTに対する差別や偏見があり、当事者が悩み苦しみ、自殺に追い込まれることがあることを聴きました。この状況は自分らしく生きることを脅かされる人権問題であり、行政として取り組むべき課題であると認識しました。同年6月には大阪府立北野高校の六稜会館にてLGBTへの理解を深めるためのトークセッションイベント『What is LGBT? それぞれの愛』を開催しました。職員をはじめ、区民やLGBT当事者の方々、約120人のご参加をいただきました。このイベントを通じて得たことは、①LGBTは見た目だけでは分からない(気づかない)ことが多い、②LGBTの存在を行政に認めてほしい、というものでした。行政機関として何ができるのかを考えた結果、LGBTの存在を認めること、そして、支援する姿勢の見える化として、LGBT支援宣言となったわけです。現在も区役所庁舎入口横には、レインボーフラッグと宣言文を掲示しています。また、当時は毎月発行している広報誌の2013年12月号の一面でも宣言したことを掲載し、区民向けに情報発信を行いました。全国行政機関初ということで、マスコミにも大体的に取り上げられ大きな反響がありました。当事者の方々からは当区に対する称賛やお礼のメッセージが多数寄せられました。 3. LGBT支援事業の取り組み 宣言後は、冒頭で記載している4つの柱に基づいて施策を進めていくことになります。市区町村の役所は、日々、住民票の発行や国民健康保険の手続き等により、不特定多数の方々が来庁されます。見た目では分からないだけで、当事者の方々も来庁されています。「うちの役所には来庁されたことがない」と思った自治体職員の方々がいるのであれば、まずその意識から変えていく必要があります。当時は、淀川区役所の職員もLGBTという言葉自体、知っていたのはごくわずかだったのではないでしょうか。そのため、はじめに職員に対して行ったことは、LGBTへの理解不足を補い、身近な存在であることを意識するため、いかなる来庁者であっても見た目だけで判断せず適切な接遇をするための職員への研修です。LGBTに関する基礎的な知識を学び、職員として明日からできることは何かを考えるといった内容です。研修をすることで職員の意識が変わるため効果的でした。「知る」と「知らない」それだけで大きな違いということです。さらに研修後は、職員の名札に多様性を尊重するといった意味がある6色のレインボーマークを掲示し、職員側からLGBTに対する理解ある姿勢の見える化を行っています。この取り組みの成果としては、安心して窓口に来庁できますといったお声がいただけたこと、職員にカミングアウトして相談に来てくださる来庁者の方がいらっしゃることです。 4. LGBT専門電話相談 LGBT専門電話相談は2017年度末まで実施していた取り組みです。実績を図るためにナビダイヤル回線を使用しました。2014年度から4年間の実績ですが、総呼出数が4,890件、相談対応件数が641件でした。対応接続率が低い原因としては、総呼出数が時間外に架電されたものや話中時に何度も架電されたものも含まれているためです。 5. コミュニティスペース コミュニティスペースは、月2回の開催でスタートしました。居場所づくり、つながりづくりの場所をコンセプトにしました。きっかけは、当時いただいたご意見に、LGBT当事者の方々はSNS上ではとてもつながっているが、顔と顔が分かるつながりは少ないため、孤立しがちであることや、民間団体が実施している場には未成年は参加しづらいということがあったからです。区役所という公の正体が分かっている行政機関が実施すれば、みんなが安心して参加できるということでした。学生から社会人、また、未成年から高齢者まで幅広く参加しやすいよう開催曜日や時間帯も様々です。LGBT当事者だけでなく、誰でも参加できます。関心の高い学生や自治体職員の参加もあります。淀川区内にある民間施設の貸会議室を利用しています。約60m2の広さで30人程度の参加があってもスペースに余裕を持てるようにしています。また、初めて参加したいと思っている方ができるだけ参加しやすいよう、スタッフを4人配置するとともに、「LGBT作品を観よう」や「おススメ本を紹介しよう」など、毎回テーマを設定しています。 6. 理解促進・普及啓発素材 LGBTへの理解促進や普及啓発として、様々な成果物を作成しました。教育現場での理解促進のための教職員向けハンドブック「性はグラデーション」(2015年12月発行・A4サイズ・12ページ・フルカラー)は、冒頭で卒業生の声を掲載し、お読みいただく方々が、児童・生徒(学校現場)のなかに存在することを認識していただけるようにしています。LGBTそれぞれの困りごとをテーマにした啓発展示パネルは2016年度に作成しました。A1サイズ・10枚ですが単体でも活用できます。 7. これまでの取り組みによる成果 継続した取り組みを実施してきたことで、自治体や議会、企業等100件を超える視察がありました。(2018年3月末時点)各自治体で展開されているLGBT施策は、淀川区の取り組みが参考になっている部分もあるのではないでしょうか。そして、政令指定都市における行政区である淀川区から自治体である大阪市として施策が展開されることになったことが何よりも大きな成果です。淀川区役所は、東京23特別区の区役所とはことなる行政区ですので、自治体レベルで行われているパートナーシップ制度の導入はできませんでした。しかし、2018年3月、吉村洋文大阪市長は同年度上半期を目標にパートナーシップ証明制度を導入する考えを明らかにしました。また、身近な成果では、「区内に引っ越してきました」や「同性パートナーと暮らしています」といったお声をいただきます。LGBTと就労は大きな課題の1つであり、就労施策をしていない区役所では解決できない課題でしたが、大阪府の総合就業支援施設である「OSAKAしごとフィールド」で「大阪LGBT100人会議」の開催を契機に、2018年度は仕事版コミュニティスペースを月に1度開催する、ホームページ上でのLGBT専用ページを立ち上げるなど、LGBTへの就業支援が始まりました。 8. 現状の課題と今後の取り組み 自治体職員がLGBTについて知る機会が少ないことが大きな課題です。LGBT施策は各所属にまたがる横軸の施策です。福祉、医療、教育、住宅、貧困、防災等、LGBTをとりまく課題は多岐にわたります。それぞれの部署の職員がLGBTのことを知っておかなければ、課題があることに気がつけません。そして、見た目だけでは分からないため、周囲には「いない」と決めつけ、いないことが前提となった言動は当事者の生きづらさにつながっています。 |