1. はじめに
自治労の仲間の皆様には、日頃から公私に渡りお支え頂いていることに対し、心から感謝と敬意を表します。
私は、1996年4月の福山市議会議員選挙で初当選させて頂きましたが、この間、様々な皆様からのご縁を頂く中で、2001年5月に、福山ろうあ協会の顧問に選任いただきました。
なお、2003年3月には福山市視覚障害者福祉協会の顧問に、2010年4月には福山市身体障害者福祉協会の顧問にも選任いただき、福山市議会の中にあっても、当事者の意見や要望などをふまえながら、障がい者施策に関する質問や意見を、多く述べさせて頂いております。
本日は、2017年12月議会で県内初となる手話言語条例、『福山市こころをつなぐ手話言語条例』の制定について、この間の経過や現状、今後の展望などについて、報告させて頂きます。
2. 障がい者福祉に関わる法令などについての若干の経過
2003年4月 支援費制度施行
2006年3月 福山市障がい者保健福祉総合計画策定(~2015年度)
2006年4月 障害者自立支援法一部施行(同年10月全面施行)
2006年10月 障害者自立支援法施行
2006年12月 第61回国連総会で障害者権利条約採択~2008年5月3日発効
※ 第2条~「言語とは、音声言語及び手話その他の形態の非音声言語等をいう」と定義
2007年9月 「障害者権利条約」日本政府署名
2009年度~ 第2期福山市障がい福祉計画
2011年3月 福山市障がい者保健福祉総合計画・後期実施プラン
2011年8月 改正障害者基本法施行
※ 第3条3項~「言語に手話を含む」と定義
2012年度~ 第3期福山市障がい福祉計画
2012年10月 障害者虐待防止法施行
2013年4月 障害者総合支援法施行
2013年10月 鳥取県議会で全国初となる「手話言語条例」可決
2014年1月 国連「障害者権利条約」を日本政府批准
2015年度~ 第4期福山市障がい福祉計画
2016年3月 福山市障がい者保健福祉総合計画(改訂版)策定(~2020年度)
2016年4月 障害者差別解消法施行
3. 全日本ろうあ連盟の取り組みについて
(手話でGo、手話でGo2他を参考に執筆、一部筆者の解釈や要約などあり)
(1) はじめに~ろう者の願い~
今から130年前に、日本ではじめて京都でろうの子どもたちの学校教育が始まりました。ろう者は障がいのない人たちの中に入っていくと、様々なバリアの壁が厚く、苦労を重ねてきました。
現在、情報通信技術の発展は目覚ましく、私たちの暮らしはとても便利になりました。しかし、ろう児・者には未だ聞くこと、話すことへのバリアが残り、人間の成長に必要不可欠なコミュニケーションが阻害されている現状があります。
障害者基本法には第三条の3に「言語(手話を含む。)」と規定され、その他の意思疎通手段を含めて、情報の取得や利用のための選択の機会の拡大が、図られることが明記されました。しかし、ろう者が手話を獲得・習得し、自由に手話を使って社会参加をしていく施策・法整備はまだありません。
そこで私たちは、障害者権利条約を作ろうという動きの中でアピールした、「私たち抜きに私たちのことを決めないで!」という障がい当事者のスローガンの精神にのっとり、手話言語法制定のための活動を始めました。
(2) 手話とは、ろう者とは、などについて
① 手話とは
ろう者がコミュニケーションをとったり物事を考えたりするときに使うことばで、手指の動きや表情などを使って概念や意思を視覚的に表現する視覚言語であり、ろう者の母語です。
② ろう者とは
耳が聞こえない人々のうち、手話という母語を持ち、手話でコミュニケーションをとって、日常生活を送る人々の事です。
③ 手話と日本語とどう違うのですか
手話は日本語を音声ではなく、手指や表情に変えて表現していると思われがちですが、手話は日本語とは異なる言語で、独自の語彙や文法体系を持っている言語です。日本語や英語等さまざまな言語があるように、世界各国でそれぞれ異なる語彙や文法体系をもっているさまざまな手話があります。
④ ろう学校とは
聴覚に障がいのある子どもに対し、その障がいに応じた教育的対応や一人ひとりに応じた専門教育を行う場です。主に幼稚部、小学部、中学部、高等部、高等部専攻科が置かれています。
⑤ ろう学校では手話が使われていますか
いいえ、今まで長い間、ろう学校では手話は禁止されていました。授業だけでなく、ろう児同士が手話で話すことも禁じられていたのです。日本語をろう児に獲得させるため、発音し口の形を読み取ることで話をする口話教育が行われてきました。
(3) 手話言語法の5つの権利
① 手話を獲得する
5つの権利の根幹。手話を必要とする人たちが、手話を身につけられる環境(教育の場)が保障されること。また、本人・家族や身近な人たちに手話に関する十分な情報を提供し、ともに手話を学び、手話でコミュニケーションできるようになること。
② 手話で学ぶ
ろう学校や大学などを含む一般の学校で、ろう者が授業や講義を受けるとき、手話に熟達した教員が直接手話で授業をすることと、必要な場合に手話通訳が用意され、聞こえる生徒・学生と同様に学習権を保障すること。
③ 手話を学ぶ
「国語」の学習を通じて日本語を学ぶことと同様に、「手話」を教科として学べることが、特にろう学校では必要。自らの言語の体系を学ぶことを通して、ろう者が誇りを持って生きていく力を育てる事ができる。また、地域の小中学校の聞こえる子どもたちに、ろう者への理解や手話を学んでもらう事も大切。
④ 手話を使う
手話で自由に会話ができること、手話を通して社会参加ができることにより、ろう者の生活はより豊かになる。地域の集まりなどで話が分からず孤立したり、職場での会議や研修で孤立したりする現状を解決するためには、手話が音声言語と平等に使える制度と環境づくりが大切。
⑤ 手話を守る
手話を言語として普及・保存・研究すること。日本語と同様公的に収集・保存・研究され、手話研究機関を設立する等の体制確立も大切。
4. 福山市における「手話言語条例」制定に向けた取り組み
(1) 私のつたない体験から
まず、「私」が感じた手話の必要性~お恥ずかしい話ですが、反省も込めて。
2001年に、私が福山ろうあ協会の顧問に選任いただいた後、それまでほとんど手話に触れる機会がなかった私にとって、手話で会話を進める場は、まさに「わからないことだらけ」の場でした。
ろうあ協会の総会など様々な会合で、電灯のスイッチをつけたり消したりする事が、どういう意味を持っているのかなども、はじめて気づかされる事でした。
そうした中にあって、
◎ある時、ろうあ者の老人が私の家に訪れて、「相談事があるので近所の手話通訳者の家を教えてほしい」という事があったのですが……
家のインターホンは鳴ったのですが、その応答が……
やっとわかって、その後の会話が「筆談」……
近所の手話通訳者の家が分からず、ひと苦労も……
◎保護司の職も頂いているのですが、
あるとき対象となる若者の保護者がろう者で、意思疎通をどうしたものかと……
保護者との情報交換は、私の配偶者に同行してもらい、筆談での会話に……私の字の汚さにも困ったもので……
※ 手話が理解できれば、との思いを持ち……
私たち夫婦自身、手話の必要性や大切さに気付かされる経験を重ねる中で、夫婦の話し合いにより、私の配偶者(私ではなく?)が2005年から手話講習会に参加するようになり、今でもサークルなどでの活動に参加させて頂いています。
また、ろう者とのお付き合いをさせていただく中、いくつか感じたことを報告させて頂きたいと思います。
・テレビの中の情報はすべて伝わっていますか?
・JR駅のプラットホームで ~ 警報ベルを鳴らしても……
・落し物をして、後から声をかけても……
・病院の受付で「……さん」と呼ばれても?
などなど、どう考えられますか。
(2) ろう者の思いについて
福山市では、少なくとも私が福山ろうあ協会の顧問に選任いただいた2001年(10月9日)以降、ほぼ毎年、福山ろうあ協会と手話サークルなど団体名で、福山市に対して「要望書」を提出(それ以前も要望書は提出されていましたが)し、その後福山市と要望に対する意見交換の場も設定(要望書提出に関わる団体と福山市との窓口は、私が務めさせて頂いています。)し、地域活動支援センターの設立や、災害時の対応、福山市への手話のできる職員の配置など、一定の成果もあげてきています。
ちなみに、2001年の要望書は①情報保障及び支援システムの充実(市などの窓口へのファックス設置、ホームヘルパー養成研修会への手話通訳者の派遣など)、②手話奉仕員養成事業への助成、③参政権の保障(政見周知のための手話通訳派遣を公費で、政見放送ビデオに手話通訳をつけて見るための措置をなど)でした。
10年後の2011年の要望では、要望項目は7項目となり、公共施設への手話通訳者の配置、「ろうあ老人ホーム」の建設、災害時に必要な情報提供などの取り組み、コミュニケーション支援事業の無料化の継続、手話講習会の拡充、公共施設利用にあたっての障壁の除去、などでした。
その後、様々な社会情勢の変化等に対応しながら、要望項目も変わっていくことになります。
いくつかの項目は達成されるなどの要因により削除される一方、NPOびんご聴覚障がい者福祉協会の設立(2013年11月1日)やその後の運営への支援、障害者差別解消法施行に伴う課題への対応、福山市の広報番組"ハッケンふくやま"(当時=現在は"びんご姫のふくやま福さがし")へ手話の挿入、2017年に開催された「第50回全国手話通訳問題研究集会」への支援なども、新たな項目として取り上げられています。
手話言語条例の制定を求めた要望は、2016年の要望書からとなっています。これは、全日本ろうあ連盟が進める手話言語法制定の動きと相前後しながら、2013年10月に、鳥取県議会で全国初となる「鳥取県手話言語条例」が可決された事などを受け、国への手話言語法制定を求めた運動の盛り上がりなどを背景に、2013年12月に、NPO福山ろうあ協会が福山市議会に対し、「手話言語法の制定を求める要望書」を提出したことを受け、2013年12月の福山市議会において、手話言語法の制定を求める意見書を広島県内で初めて採択し、その後、各地方自治体における手話言語条例制定を求めた、全日本ろうあ連盟の活動にも呼応したものでした。なお、2016年の要望に対する福山市の回答は、「国において言語として位置づけがなされ、国と地方の役割が法制化された後に、制定することが望ましい」というものでした。
(3) 福山市での条例制定までの若干の経過
1997年3月 希望があれば本会議での手話通訳配置
2009年11月 特定非営利活動法人「福山ろうあ協会」設立
2013年11月1日 NPOびんご聴覚障害者福祉協会"すまいる・びんご"設立
2013年12月 「手話言語法の制定を求める意見書」市議会で採択(県内初)
2016年度から 市広報番組"びんご姫のふくやま福さがし"に字幕に加えて手話の挿入
2016年11月 手話言語市区長会に加入
2017年9月議会から 傍聴席に手話通訳者を常時配置、インターネット中継でも手話通訳を挿入
2017年8月 第50回全国手話通訳問題研究集会~福山市で開催
2017年12月20日 「福山市こころをつなぐ手話言語条例」可決・施行
※ 11月28日までに108自治体で制定
5. 福山市こころをつなぐ手話言語条例の内容
(1) 福山市こころをつなぐ手話言語条例(2017年12月20日可決、施行)
言語は、お互いに気持ちを理解し合い、知恵を蓄え、文化を創造する上で不可欠なものであり、人類の発展に大きく寄与してきた。手話は、音声言語である日本語とは異なる言語であり、手や指、体の動き、顔の表情を使って視覚的に表現する言語である。ろう者は、物事を考え、意思疎通を図り、お互いの気持ちを理解し合うために、また、知識を蓄え、文化を創造するために必要な言語として、手話を大切に育んできた。
しかしながら、過去には手話が言語として認められてこなかったことや、手話を使用しやすい環境が整えられてこなかったことから、ろう者は、必要な知識や情報を得られず、意思疎通を図ることが困難であることに、多くの不便や不安を感じながら生活してきた。
このような中、「障害者の権利に関する条約」や「障害者基本法」において手話が言語であることが明記され、手話を必要とする全ての人が手話を通じて容易に必要な知識や情報を取得し、意思疎通を図ることのできる環境を整えることがより一層求められている。
私たちは、戦後復興からのばらのまちづくりを通じて引き継がれてきたローズマインド(思いやり・優しさ・助け合いの心)をもって、手話への理解を広め、地域で支え合うことにより、手話を使って安心して暮らすことができる、共生する地域社会の実現を目指し、この条例を制定する。
(目的)
第1条 この条例は、手話が言語であるとの認識に基づき、手話への理解及び手話の普及に関し、基本理念を定め、市の責務並びに市民及び事業者の役割を明らかにするとともに、総合的かつ計画的に施策を推進することにより、全ての市民が共生する地域社会を実現することを目的とする。
(基本理念)
第2条 手話への理解及び手話の普及は、ろう者が手話による意思疎通を円滑に図る権利を有することを前提に、誰もが人格と個性を尊重し合い、心豊かに共生する地域社会を実現することを基本として行われなければならない。
(市の責務)
第3条 市は、前条に規定する基本理念(以下「基本理念」という)にのっとり、手話への理解を広め、手話を使用しやすい環境の整備を推進するとともに、ろう者の自立した日常生活及び地域における社会参加を進めるために必要な施策を講ずるものとする。
(市民の役割)
第4条 市民は、基本理念に対する理解を深め、手話を使用しやすい環境づくりに努めるとともに、手話に関する市の施策に協力するよう努めるものとする。
2.ろう者は、前条に定めるもののほか、基本理念に対する理解の促進及び手話の普及に努めるものとする。
(事業者の役割)
第5条 事業者は、基本理念に対する理解を深め、手話に関する市の施策に協力するよう努めるとともに、ろう者が利用しやすいサービスを提供するよう努めるものとする。
(施策の推進)
第6条 市は、次に掲げる施策を推進するものとする。
(1) 手話への理解の促進及び手話の普及のための施策
(2) 手話により情報を取得する機会の拡大のための施策
(3) 意思疎通の手段として手話を選択しやすい環境の整備のための施策
(4) 学校教育における手話に親しむ教育活動など、手話への理解の促進のための施策
(5) 手話通訳者の確保及び養成のための施策
(6) 災害時における情報の提供及び意思疎通の支援のための施策
(7) 前各号に掲げるもののほか、この条例の目的を達成するために必要な施策
2 市は、前項に規定する施策の推進に当たっては、ろう者、手話通訳者その他関係者の意見を聴き、その意見を尊重するよう努めなければならない。
3 第1項に規定する施策の推進は、市が別に定める障がい者に関する計画との調和が保たれたものでなければならない。
(財政措置)
第7条 市は、手話に関する施策を推進するために必要な財政上の措置を講ずるものとする。
(委任)
第8条 この条例の施行に必要な事項は、市長が別に定める。
附 則
この条例は公布の日から施行する。
2017年12月1日提出
福山市長 枝 廣 直 樹 |
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(2) 福山市こころをつなぐ手話言語条例についての説明
~所管常任委員会における制定理由(2017年11月11日)
障害者の権利に関する条約(2014年条例第1号)及び障害者基本法(1970年法律第84号)において、手話が言語であることが明記され、ろう者や手話への理解を深め、手話を必要とする全ての人が手話を通じて容易に必要な知識や情報を取得し、意思疎通を図ることのできる環境を整えることが求められている。このような中、本市において、手話の理解を深め、手話を使って安心して暮らすことができる、共生する地域社会の実現をめざし、福山市こころをつなぐ手話言語条例を制定するもの。
(3) 2017年12月議会における手話言語条例に関する市民連合の質疑について
【質問~要旨】
条例に込めた思い、特徴、実効性、検討すべき課題などは。
【市長答弁】
過去には手話は「手まね」と言われたり、「ろう学校」でも手話を使うことが禁止されていた時代があった。ろう者が歩んでこられた過去に思いを致し、手話が心と心を繋げ、共生社会を実現したいという思いを込めた。
特徴は、思いやり、優しさ、助け合いの心「ローズマインド」をもって、手話への理解を深め、共生する地域社会の実現をめざすことを前文にうたっていること。
市が推進する施策として、ろう者の方々の強い願いである学校教育における手話の取り組みと、災害時における情報提供などの対応を掲げており、まずは本年度内の手話動画の配信や広報ふくやまへの手話コーナーの掲載などを通じ、職員を始め市民、事業者などへの周知、啓発に努める。
今後の推進にあたっては、ろう者や手話通訳者の方の協力が不可欠で、専門性の高い手話通訳を行う人材の確保が課題であり、その養成に向け市民の関心を高める普及啓発や、受講機会の拡大、技術の向上等に取り組む。
6. 条例の評価
① 条例案文の作成にあたって福山市は、福山ろうあ協会や手話サークルなど関係者との協議の場を設定し、関係者の意見が反映される努力を重ねてきたことについては、大きく評価されるべきだと考えるものです。
またその背景として、長年にわたり、ろうあ協会や手話サークルなど関係団体と福山市との意見交換の場があり、お互いの理解が深まってきたことも見逃すことは出来ません。
さらに、2017年8月に、第50回全国手話通訳問題研究集会が福山市で開催されたことも、条例制定の機運を盛り上げることにつながったのではないでしょうか。
そしてなにより、福山市が全国に先駆けて難聴児教育を実践してきた歴史的経過も、見逃せない要因の一つではないかと考えるものです。
これら背景の中で、福山市議会にあっても、ろう者や社会的弱者に対する諸施策の推進に対する一定の理解もあったものと考えています。
当然、NPO福山ろうあ協会や手話サークルなど関係団体の皆さんの主体的取り組みがあったことも、見逃せない事実です。
② しかし、条例ができたから安心とは、当然言えません。
条例に基づいて、これから何をしていくことができるのか、実効性ある条例とするために、何をしていかなければならないのかが、今後問われることになります。
私はこの間、「社会的弱者に優しい市政」の確立を活動の柱の一つとしてきましたが、あらためて「福山市こころをつなぐ手話言語条例」の制定を受けて、社会的弱者に優しい市政の推進へ、邁進しなければと考えています。
7. 今後に引き継ぐべき課題などは
① 「福山市こころをつなぐ手話言語条例」制定に相前後して、福山市は、
◎2018年1月から、手話マーク、筆談マークを全庁的に窓口に配置
◎2018年2月から 「広報ふくやま」に「手話コーナー」の挿入~手話コーナーのQRコードから、「手話動画」紹介コーナーへ移動も
◎副読本へ手話の紹介(心に咲く花)を挿入
など実践してきています。
② 2017年11月2日に、NPO福山ろうあ協会及び手話サークル3団体の連名で提出した要望書に対し、福山市からは2018年1月29日に回答書が示され、その後約2時間にわたり意見交換の時間も持たれました。
その中で、NPO福山ろうあ協会の理事長から、条例制定に至った福山市の姿勢に対し、感謝の意を述べられるとともに、参加された関係者の方々から、今後に向けていくつかの問題提起もされています。
条例制定に至る経過の中で、福山市と当事者などからなる検討の場が設置され、条例案文などの議論も重ねられましたが、検討の場を継続して頂きたいこと。
条例の実効性について、どのようなことが検討されるのか、そして、先の検討の場で当事者も含めた議論が続けられること。
教育現場における「副読本」の取り組みなどにさらに広がりを持たせることなどです。また、具体的な要望項目8項目の中でも、手話通訳がつく市の諸行事の案内に「手話マーク」をつけて頂くことや、公共施設への手話通訳者の配置、民間医療機関への手話に対する理解の促進、手話通訳者の身分保障、ろう者が公共施設を利用しやすくするための様々な配慮、手話通訳者の育成への支援などが、課題として提起されています。
③ 福山市において、2016年度末現在、聴覚・平衡機能障がいとして障がい者手帳の交付を受けている人は1,592人(18歳未満・43人、18歳以上・1,592人)です。
一方、2017年4月1日現在、福山市登録手話通訳者派遣事業に係る手話通訳登録者数は49人です。
福山市こころをつなぐ手話言語条例が、実効あるものとして機能するためには、福山市も認めている通り、手話通訳者の育成支援は欠かせません。
また、現在の福山市において、地域や学校教育の中で手話が広く認知されているかと言えば、必ずしもそう言い切れませんし、手話やろう者に対する理解度も、未だ課題があるものと考えられます。
加えて、地域の様々な会合や集まりで、手話が使われ、ろう者が安心して参加できる体制であるかどうかも、問い直さなければなりません。
昨今、様々な地域で人命に関わる重大な災害が発生していますが、災害に対する備えや避難所の体制などは、いわゆる社会的弱者にとって優しいものとなっているのかも、検証する必要があるのではないでしょうか。
④ ろう者の皆さんが求めているのは、手話は言語であること、手話で学び、生活のあらゆる場面で手話を使って暮らせる社会であり、手話が自由に使われ、コミュニケーションのバリアを取り払い、ろう者が積極的に社会参加し、自分らしく力を発揮できる社会の構築です。
私自身も含め、まだまだ努力する必要があることは当然ですが、皆様の一層のご理解とご支援も必要だと考えるものです。
⑤ 今一つ、我が国は世界に例をみないほどのスピードで、少子高齢化、人口減少社会に移行しているといわれています。
人口減少は、当然のこととして地域の活力や産業基盤の強化などに、大きな影響を与えますが、働く人口の減少は、税収の減を始め地方自治体の運営基盤にも大きな影響を与えるものです。
一方で福山市にあっても、社会保障費を含む扶助費の額が、2005年には247億円程度であったものが、2017年度予算では464億円とほぼ倍増するなど、財政需要の多様化や増大という課題にも直面しているのが現実です。
そうした中にあって、障がい者福祉施策を含む社会保障関係費を、今後どう維持していくのかは、地方自治体に関係する私たちの大きな課題でもあるのではないでしょうか。
福山市で策定した「福山市こころをつなぐ手話言語条例」を生かすためにも、自治研活動の一つとして、福祉施策の在り方を様々な観点から議論し、検討することも大切な取り組みだと考えるものです。
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