【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第7分科会 すべての人が共に暮らす社会づくり

 2014年5月に日本創成会議で発表された増田レポートは、該当する全国の自治体に衝撃を与えました。同氏のレポートが全国の自治体の定住対策に与えた影響は多大であり、それは浜田市においても例外ではありません。
 本レポートでは、定住対策に女性の感性を活かそうとした取り組みを起源とし、全国的にも大きな注目を集めたひとり親の移住支援施策について報告します。



浜田市定住促進のための
シングルペアレント介護人材育成事業
―― 真にひとり親に優しいまちをめざして ――

島根県本部/浜田市職員労働組合

1. はじめに

 2014年5月に日本創成会議が発表したいわゆる「増田レポート」は、20歳から39歳までの女性の数が、2010年から2040年にかけて半分以下に減少する896自治体を「消滅可能性都市」とし、全国に波紋を巻き起こしました。
 「消滅可能性都市」のひとつとなった浜田市では女性の感性を定住対策やまちづくりに活かそうと、管理職級から非正規職員及び地域おこし協力隊員を含む女性職員有志(13人)によるプロジェクト「チームCoCoCaLa(ココカラ)」を同年8月に立ち上げました。
 「チームCoCoCaLa(ココカラ)」は、2か月弱の間にランチミーティングを活用するなど、延べ10回にわたる意見交換を行いました。その後、同年10月には「CoCoCaLaレポート」として、女性が定住するための女性に魅力あるまちづくりに必要な取り組み等について、市長をトップとする浜田市の「人口減少問題対策本部」へ提言し、その内容をもとに各部署が2015年度の当初予算要求に向け具体的な事業を構築していきました。
 提言は多岐に及びましたが、その中にはひとり親に対する支援を充実させるといった内容がありました。これは、全国をはじめ浜田市内においても増えつつあるひとり親、特に母子世帯においては経済的に相当苦労しておられると伝えられ、その支援を行うというものでした。
 一方で、浜田市では、合併前の各市町村に少なくとも1つは特別養護老人ホームがあるなど介護施設の整備は進んでいるものの、そこで働く介護職員の人材が不足し、家庭内のみならず介護施設においても「老老介護」により辛うじてサービスの提供を行っているという実態がありました。
 そこで、浜田市では、市外在住のひとり親(シングルペアレント)の方で、市が指定する市内の介護サービス事業所で働いていただける方に対して、充実した支援を行うことにより、浜田市に移住してもらうというスキームで事業を構築し、「浜田市定住促進のためのシングルペアレント介護人材育成事業」に、2015年度から取り組むこととなりました。
【提言(CoCoCaLaレポート)の一部】
【「チームCoCoCaLa(ココカラ)」活動風景】

2. 事業の概要

(1) 全体像
 事業の全体像は図のとおりです。
 高校生以下のお子さんと同居するひとり親(シングルペアレント)が県外から浜田市に移住し、市が指定する介護サービス事業所において1年間の就労研修を行う場合に、各種支援を行っています。
 また、これらの就労研修や支援を受けるひとり親を研修生と呼び、応募者の中から市及び受入事業所による選考を実施の上、研修生を決定しています。2015年度から現在までに延べ4回の募集を行い、その都度研修生を受け入れています。
【事業の全体像】

(2) 対象者
 この事業の対象者は次のとおりです。
① 島根県外在住のシングルペアレントで、高校生以下のお子さんと浜田市に移住される方
② 浜田市が指定する介護サービス事業所で就労が可能な方(経験及び資格は問わない)
③ 研修終了後も浜田市に定住する意思のある方
④ 研修開始時において年齢が65歳未満の方
 ひとり親には女性が多いですが、シングルマザーとせずシングルペアレントとして男性でも条件を満たせば対象者としています。
 また、当初、市が指定する介護サービス事業所は、人材不足が著しい特別養護老人ホーム等の入所型の施設のうち、ひとり親の受け入れと支援を了解していただいた施設のみでしたが、現在では研修生の募集を行うにあたって、事前に市内の全介護サービス事業所への案内や事業の説明を行うなどし、本事業を理解の上、ひとり親の受け入れと支援を了解していただいた施設となっています。

(3) 支援内容
 研修生への具体的な支援内容は次の表のとおりです。
支援項目1年目2年目以降
給与月額15万円以上の給与(事業所の規定に準じて支給)事業所からの給与支給
養育支援金1世帯につき月額3万円
家賃助成金1世帯につき家賃月額の1/2(上限2万円)
自動車の提供中古自動車を無償提供(保険料等の費用は本人負担)継続して所有できる
一時金(支度金)転入時の引越し代等の支度金として事業所から30万円を支給
継続就労一時金(奨励金)1年間の研修終了後に事業所から就労期間に応じて2年間で最大100万円を支給
資格取得支援事業所の負担により介護職員初任者研修等を受講

 これらの支援に加え、保育所の斡旋、夜勤時に子どもを世話していただく方の紹介(ファミリーサポートセンター事業)等も行っています。また、住まいについては、公営住宅に加え、市の空き家バンクに登録された空き家を紹介しています。
 また、研修生として浜田市に移住された方々の歓迎に加え、移住後の生活面や仕事面における感想や様子を窺うことを目的に交流会なども開催しています。
 その他にも、研修生の生活上の相談に対応して浜田市での暮らしの不明点や悩みに答えるとともに、地域社会との橋渡し役を務める生活相談員をすべての研修生に配置するなど、生活基盤を安定させるとともに移住後も安心して浜田市で暮らしていけるよう、様々な面からの支援を行っています。
【交流会の様子】

(4) 選考方法
 研修生については、応募者の方を選考の上で決定しています。具体的には、第1次審査として浜田市や受入事業所を知っていただくための見学会と、受入事業所及び浜田市による面談会を実施し、合格者を選考します。その後、第1次審査の合格者は最終審査として、就労を希望する事業所においての就労体験と浜田市及び事業所との最終面談により、研修生認定の可否を決定しています。
【第1次審査(見学会・面談会)の様子】

3. 成果と課題

(1) 募集等の状況と選考結果
 これまでに募集を行った状況等が次の表になります。

【募集及び選考結果の状況】
区分募集期間応募者参加者審査合格者数
見学会面談会一次最終
第1期2015.5.1~2015.5.2815人6人5人4人
第2期2015.11.16~2016.1.814人4人9人7人5人
第3期2016.5.16~2016.6.245人4人3人2人
第4期2016.11.1~2016.11.3011人7人6人2人
45人21人13人
 注) 第2期の募集についてのみ見学会と面談会を別日程で実施しました。

(2) 研修生の状況

【研修生の状況一覧(2017年5月末時点)】
転入前住所研修開始性別年代子ども就労状況定住状況
1期生愛知県2015.10月20代1人(未就学)就労在住
1期生大阪府2015.10月40代1人(高校生)就労在住
1期生大阪府2015.11月40代1人(未就学)退職在住
2期生岡山県2016.4月40代1人(小学生)就労在住
2期生広島県2016.4月40代1人(未就学)退職在住
3期生神奈川県2016.10月50代2人(小学生×2)研修在住
3期生宮城県2017.1月30代2人(高校生・小学生)研修在住
4期生兵庫県2017.4月30代1人(小学生)研修在住
4期生北海道2017.4月40代2人(未就学・小学生)研修在住
 注)研修生(終了含)在住者数 研修生9人、子ども12人 合計21人
   研修を途中で辞退された人数は含んでいません。

(3) 事業の反響
 この事業に取り組んで以降、さまざまな反響がありました。
 ひとつは、マスコミの報道です。2015年4月17日付け毎日新聞のコラム「視点」では、「浜田市の定住策 これこそ地方創生では」として高い評価をいただきました。これ以外にも、地方創生に絡めて全国紙・地方紙を問わず多くの紙面で紹介されました。
 また、テレビでは、テレビ東京の日経スペシャル「ガイアの夜明け」で特集をしていただき、2015年12月22日、2017年1月24日の2回にわたり浜田市の取り組みが映像で全国に紹介されました。その他にも、ニュースやワイドショー等で何度も取り上げられました。新聞やテレビで報道されるたびに、全国各地からこの事業への応募や浜田市への転入についての問い合わせが寄せられ、浜田市は「ひとり親にやさしいまち」、「住みやすいまち」との印象が広まったのではないかと思われます。
 一方、国においても浜田市のこの事業に注目し、2015年5月には市長が首相官邸に招かれて内閣官房副長官以下幹部職員にこの取り組みについて説明する機会を得ました。また、同年12月には当時の石破地方創生担当大臣が視察で浜田市にも立ち寄られ、転入して来られた研修生と市長も交えた意見交換会を行いました。なお、この事業は内閣府により地方創生先行型交付金の「先駆的事業分(タイプⅠ)で特徴的な取組事例」としても紹介されました。
 こうしたこともあり、全国各地の地方公共団体や地方議会の方々が浜田市に視察に来られ、その数は2017年3月末時点で約50件、200人以上に上り、ひとつの事業の視察としては異例の数となりました。

(4) 事業の課題
 この事業を実施していく中で、いくつかの課題も見えてきました。
 一つ目は、夜勤の際に子どもの世話をする制度の拡充です。
 浜田市内には夜間保育所がなく、夜勤の際に子どもの世話をする態勢が不十分なため、実際に研修生の方が夜勤に入られる際に、苦労するケースが見受けられました。2016年4月からは、ひとり親のファミリーサポートセンター使用料の半額補助を、従前の昼間の月10時間までに加え、夜間月48時間に拡大したものの、まだ不十分だとの声が上がりました。
 二つ目は、様々な事情を抱えた応募者への対応です。
 応募者の中には、経済的困難やDV等様々な事情を抱えている方もいらっしゃいました。郵便物等の送付には細心の注意を払うとともに、本人の現状を正確に聞き出すために非常に苦慮しました。募集当初は手探りで面談を行っていた状態でしたが、福祉や保育、人権問題等の部署にも相談や協力をいただき、回を重ねるごとに、その手法が蓄積されつつあると認識しています。
 三つ目は、研修期間(1年間)の支援が終了した後も、引き続き浜田市に住み続けてもらえるかという点です。研修生として浜田市に移住された方々には、この地でやりがいを持ち仕事を続け、幸せに生活していただきたいというのが我々の願いです。研修生の中には市外へ転出してしまわれた方もおられますが、ひとりでも多くの研修生に「浜田市に移住して良かった」と思っていただけるよう、直接的な支援に限らず、きめ細かなフォローや転出の原因をしっかりと分析し、この事業に反映できる仕組みを一層構築し続ける必要があると考えています。

4. 今後の取り組み

 今後はひとり親の移住支援の広域連携に向けてさらなる事業展開を図っていきたいと考えています。
 実際に、2017年10月には、ひとり親の移住支援に取り組む10自治体が東京・大阪の2会場で合同の移住相談会を開催しました。
 浜田市単独での情報発信等では限界がありますが、こうした支援に取り組む自治体同士で連携を図り、支援の輪を広げることで、情報発信力を高めるとともにひとり親の支援内容の充実や移住等の選択肢が増え、生活環境の向上を図りたいと考えています。
 また、現在の浜田市の事業では受入先の施設は拡がったものの、職種が介護職に限られています。今後は、地域の実情等を踏まえて、さらなる受入先の拡充や職種の幅を拡げ、地域課題の一層の解決とひとり親の支援を結び付けていきたいと考えています。

5. まとめ

 この事業に取り組んでいく中で、研修生と市内在住のひとり親との支援の格差が話題となり、市内在住のひとり親に対する支援をもう少し手厚くしていくべきではないかとの意見が議会などから寄せられました。
 そして、先述したとおりですが、2016年度にはひとり親のファミリーサポートセンター使用料の半額補助時間の拡大や、2017年度からはひとり親の放課後児童クラブ使用料の半額減免が始まるなど、この事業を通じて、市内のひとり親の環境にもスポットライトが当たるとともにその問題提示が図られ、徐々にではありますがその改善に繋がっています。
 浜田市が真に「ひとり親にやさしいまち」と評価され、もともと市内に住んでおられた方も移住された方もこの地で生き生きと健やかに暮らしていけるよう、浜田市職労としても自治研活動を通じて何ができるのかを検討したいと考えています。