【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第7分科会 すべての人が共に暮らす社会づくり

 邑南町は、「日本一の子育て村を目指して」をスローガンに、子育て施策の充実を図っています。一方で、庁舎内には子どもが安心して過ごせる場所や、乳幼児を連れて来庁した保護者がゆっくりと書類を書くことができるスペースは確保されていません。邑南町役場だけでなく、多くの庁舎においてこうしたスペースは確保されていないのが現状ではないでしょうか。「場所が足りないから」「設置に向けた協議や設置後の管理に人員を充てる余裕が無いから」などの理由で見逃されがちなこうした課題を、邑南町職員連合組合青年部が拾い上げ、キッズスペースの設置に向けて活動を行っています。



日本一の子育て村をめざす
邑南町の庁舎にキッズスペースを
―― 組合青年部から発信する、誰もが安心して使える
新しい役場のかたち ――

島根県本部/邑南町職員連合労働組合・青年部

邑南町役場本庁前に設置された看板
「日本一の子育て村を目指して」

1. はじめに

 邑南町は、2004年10月1日に2町1村合併により誕生した、人口およそ11,000人の小さな町です。地理的には島根県のちょうど真ん中あたりに位置し、面積の86%は山林という、緑豊かな山々に囲まれた中山間地域です。邑南町は、2011年度に「日本一の子育て村構想」を打ち出して以来、「日本一の子育て村を目指して」をスローガンに、全課・町民一丸となって子育てに取り組むまちづくりを進めています。

2. 取り組みに向けた提案

 2017年2月13日(月)、邑南町役場本庁大会議室にて、2017年第一回青年部会が開催されました。青年部会では、2017年の軸となる取り組みの一つとして、青年部が日々感じる「こうしたらもっといいのでは」という発想を拾い上げ、具体的な形にして問題解決を行おうということが提案されました。
 住民が安心して暮らせる町づくりを目標に、日々業務に真剣に向き合っている若手職員ですが、自分から発信した思いを具体化する機会は少ないのが現状です。若手職員は、まだまだ知識も少なく、経験も浅い人がほとんどです。だからと言って、課題意識やそれを解決する新しいアイディアを持っていないわけではありません。新しい環境の中で、日々様々な気付きや思いを抱きながら、先入観の少ない目線で課題に向き合っています。しかし、日々気付いた課題について新しい提案をしたり改善に取り組んだりするほどの余裕は無いのが現状です。
 住民が安心して暮らせる町づくりに貢献することはもちろん、日々様々な思いを持ちながらも、それを具体化する機会の少ない若手職員のモチベーション向上に繋がることも期待できるとして、自治研活動に取り組むことが決定されました。

3. 問題提起と解決方法の提案~主語述語ゲーム~

 2017年3月6日(月)、自治研活動のテーマ会議が開催されました。
 短時間で、参加者全員が、少しでも多くの意見と提案を出せるよう、会議の流れを以下のように組み立てました。

(1) 《主語述語ゲーム》
① 4枚の白紙の紙を使って提案を簡潔に書き出す。1枚目:いつ(修飾語)、2枚目:誰が(主語)、3枚目:何を(目的語)、4枚目:どうする(述語)。ハッピーエンドで終わることを条件とする。
② 書き終えた紙を、それぞれ「いつ」「誰が」「何を」「どうする」の4つの袋に入れる。全員が紙を入れ終えたら、4つの袋から一枚ずつ紙を引いて新しい文章を作成する。
③ 新しくできた文章を読み上げ、全体で共有する。
 主語述語ゲームの形を取ることで、要点を押さえた簡潔な文章で、たくさんの提案を集めることができました。また、発想の元となる「時間(場面)」「人(対象者)」「もの(対象物)」「動作(取り組み)」を列挙し、ばらばらに組み合わせてみることで、思いもよらない組み合わせを発見したり、脈絡なく出現した「人(対象者)」や「動作(取り組み)」が元々はどんな文脈で使われていたのかを考えることで連想力を鍛えたりすることができました。
 主語述語ゲームで組み合わせられた文章の一例として、「(場面)なかなか休暇を取りづらい職場がありました」「(対象者)石見養護学校の生徒が」「(対象物)時間指定で利用ができる安いバス(タクシー)があることで」「(取り組み)保育士を目指す人が増える」などがありました。この短い文章だけでも、職場の休暇取得、養護学校の生徒との関わり、デマンド型公共交通の提案、保育士の増加など、様々な要素が見えます。その他にも、一見脈絡が無いようでちょっと考えさせられる文章が、13パターン提案されました。
 また、ゲーム方式にしたり、脈絡の無い文章を読み上げて笑いを取り入れたりすることで、会議の時間中、参加者全員が、集中力を切らすことなく議題に向き合うことができました。

(2) 《文章合わせゲーム》
① 袋から引いた紙を持ったまま、2グループに分かれる。
② スタートの合図で、各自持ち寄った紙を机の上に並べて、元の文章になるように4枚の紙を組み合わせる。相手チームが机に並べていて、まだ組み合わせられていない紙も使用できることとする。
③ 全ての紙が組み合わせられた段階で、より多くの文章を作ることのできているチームの勝利とする。
 ばらばらになった紙から元の文章を推定する過程で、多様な「時間(場面)」「人(対象者)」「もの(対象物)」「動作(取り組み)」について、何をどのように組み合わせれば課題解決に繋がるのかという視点を鍛えることができました。グループワークにすることで、紙をどのように机に並べれば見やすいのか、どう声をかけあえばより効率よく作業ができるのかというチームワークについても検討することができました。また、勝敗を競うことで、参加者全員が常に集中して課題に取り組むことができました。
 文章合わせゲームで組み合わせられた文章として、「子育て相談、キッズスペースなどの場所が役場内にないとき」「青年部、担当課の人(石見養護学校の生徒さん?)」「子育て相談、キッズスペースを作り」「気軽に相談できる場、子どもを遊ばせる場ができることで、子育て不安・負担を軽減させる。役場と保護者の壁を壊すきっかけになる。」や、「子どもの遊び場がない時」「石見養護学校の生徒が」「役場の空きスペースに」「木工でできた遊ぶスペースを作った(好評)」、また、「保育士が不足している邑南町で」「青年部と保育所で連携して」「高校生(中学生)の長期休みにボランティアの斡旋を行い」「保育士を目指す人が増える」、「待機児童が出た時」「手の空いている人が」「保育士的なことをして」「待機児童がいなくなる」など、子育てに関するものが多くありました。若手職員も、町として子育てに力を入れていることを意識して、日々課題に向き合っているということが分かりました。
アイディアを書き出した紙を元に
真剣に話し合う青年部員
 その他には、休暇の取りづらさとリフレッシュ不足による業務効率低下を改善するためにプレミアムフライデーを取り入れるという提案や、防犯灯設置補助金を活用した通学・交通・屋外での運動環境の改善、高齢者や子ども連れの来庁者も使いやすいカウンターの設置、農地保有者と土地を利用したい人のマッチングによる農地保有負担の軽減、パンフレットを用いた空き家の早期活用促進、デマンド型公共交通の整備による買い物負担の軽減など、様々な観点からの意見がありました。

(3) 《コンペ》
① チーム毎に作成した文章を読み上げる。組み合わせが間違っている場合はこの時点で指摘する。
② 読み上げられた提案について参加者が自由に発言する。
③ 全ての提案について協議が終了した時点で、参加者全員が、各自実現してみたい提案を紙に書いて投票する。
④ もっとも得票数の多かった提案を自治研活動のテーマとして採用する。
 提案を発表する時点で、誰の提案であるのかは分からないため、比較的自由な意見が出され活発な議論を行うことができました。事前にアイディアの4つの要素が共有されており、主語述語ゲームや文章合わせゲームに取り組む中でどのような要素があるのかについて目的意識を持ちながら集中して読みこんでいたため、全ての提案についてスムーズに議論を行うことができました。また、十分な議論を行った後に投票したため、参加者全体のテーマに対する理解度も高く、決定されたテーマについても納得することができました。
 投票の結果、キッズスペースの設置と木工スペースの設置が同率1位、農地活用が2位、街灯設置・カウンター改善が3位となりました。同率1位であったキッズスペースと木工スペースについて、キッズスペースに木のおもちゃを置く方向で採用することを決定しました。

4. キッズスペースが必要な理由

 邑南町は日本一の子育て村をめざしていますが、庁舎には、乳児を寝かせたり子どもが遊んだりするスペースはありません。各種手続きを行うために子どもを連れて来庁した場合、常に子どもを気にかけながら手続きをしなければならないのが現状です。不慣れな方も多い役場での手続きについて、子どもを気にしながらの対応は負担が大きいと考えられます。
 また、本庁窓口のカウンターは立って手続きをすることを想定した高さになっているため、乳児を連れて来庁した場合も、子どもを抱きかかえたまま立って手続きを行わなければなりません。役場での手続きには時間がかかるものも多く、その間立って書類への記入等を行うことは大変な負担となります。前に乳児を抱えるタイプの器具を使用している場合は、カウンターと保護者の間に子どもが挟まれる形になり、保護者は子どもを抱えたまま横向きになって不便な体制で書類を記入することになります。座って手続きができるカウンターは1か所のみであり、高齢者が利用することも多いため、十分な環境とは言えません。
 若い保護者からは、子どもを連れて来庁することに抵抗を感じるとの意見も聞かれています。邑南町役場に限らず、実際に役場の中で子どもを見る機会は少なく、役場と子どものイメージが結びつかないのが現状ではないでしょうか。若い保護者は比較的役場になじみが無い傾向にあることに加え、子どもを連れての来庁に抵抗感があるという現状では、各種手続きや相談について潜在的なニーズがあるにもかかわらずその機会が失われているという可能性も否定できません。邑南町役場本庁では、2017年4月から「子どもまるごと相談室」が開設され、子どもに関する相談窓口の一本化が図られています。しかし、そもそも来庁すること自体に抵抗があるとすれば、開設された窓口の効果が十分に発揮されない可能性もあります。「子どもまるごと相談室」の利用を促進するためにも、キッズスペースの設置は急務であると考えられます。
 さらに、定期的な体重測定が必要な乳幼児について、本庁や各支所にて保健師が体重測定を行うという業務がありますが、現状では役場に体重測定をするスペースは無く、会議室等で簡易的に測定を行っています。寒々しい会議室での体重測定は望ましい環境とは言えず、改善が必要ですが、現在はそれに適したスペースが無く対応できていません。キッズスペースを設置し、体重計を置くことができれば、整った環境の中で体重測定や保健指導を行うことができます。
 また、邑南町では、子どもを連れてIターン・Uターンする人も増えており、転入等の手続きに子どもを連れて来庁されることもあります。その際、転入については町民課、住宅については建設課、定住相談については定住促進課など、様々な課をまわって手続きを行う必要があり、子どもは保護者に連れられて長時間役場に滞在することになります。子どもが飽きる前に帰らなければと、手続きを急ぐことで、十分な時間をかけて相談を行うことができないケースもあります。こういった場合にも、子どもが安心して過ごせる居場所があれば、子どもも保護者も落ち着いた環境でゆっくりと十分な時間をかけて相談ができると考えられます。
 このように、キッズスペースが必要な理由は明確であり、また2017年4月からの「子どもまるごと相談室」の開設に合わせて環境を整備するといった時期的な優先順位も高いため、青年部としてキッズスペースの設置に向けて取り組むことになりました。

キッズスペースのイメージ図

5. 実際の状況を確認する~アンケート調査実施~

 青年部内で出た意見が実際の状況と合致しているか確かめるために、乳幼児の子どもを持つ保護者にアンケートを実施しました。以下はそのアンケートの集計結果です。

『子育て支援サービス向上のためのアンケート 集計結果』
実施期間:2017年5月
対象者:乳幼児健診を受診した保護者
1. 子どもを連れて役場に来たことがありますか
 はい  18人(うち、本庁10人・瑞穂支所8人・羽須美支所0人)
 いいえ 15人
2. 子どもを連れて役場に来たことがない理由はなんですか?(複数回答)
 子どもを預ける人がいるから(3人)
 子どもが保育所にいる間に役場を利用するから(7人)
 子どもがいると時間がかかるから(2人)
 役場で騒ぐと迷惑だから(3人)
 入りにくい雰囲気があるから(0人)
 その他:役場に行く用事が無かったため、等(4人)
3. 子どもを連れて役場に来る場合、どんな要望がありますか?(複数回答)
 座ってゆっくり書類を書くスペースがあると良い(14人)
 安心して相談するスペースがあると良い(5人)
 子どもを見てくれる人がいると良い(8人)
 子どもが遊ぶおもちゃがあると良い(15人)
 職員の対応サービスを向上させてほしい(1人)
 その他:オムツを変える場所やベビーベッドがあると良い、
     貸出用のチャイルドシートの数が増えると良い、
     職員の笑顔がもっとあると良い、等(4人)

 アンケートに回答した33人の保護者のうち、約半数である15人の保護者が子どもを連れて役場に来たことが無いと答えました。うち半数である7人については、子どもが保育所にいる間に役場を利用することを理由として挙げています。役場の受付時間と保育所の開所時間が重なっているため、子どもが保育所に通っている家庭については子どもを連れて来庁する機会が少ないということが新たに分かりました。また、青年部内で一部意見として挙げられていた、役場に入りづらい雰囲気があるのではという点については、子どもを連れて来庁しない理由としては挙げられないことが分かりました。
 子どもを連れて来庁する際の要望として、62%の保護者が、座ってゆっくり書類を書くスペースと、子どもが遊ぶおもちゃがあると良いと回答しています。青年部内で検討した、キッズスペースの設置、座って書類を書くスペースの確保、ベビーベッドの設置等、保護者のニーズを把握することができました。

6. 庁舎管理部局への提案と実現

検討中のキッズスペース模型

 2017年6月12日(月)、庁舎管理を管轄する総務課に対し、キッズスペースの設置についての提案を行いました。総務課長・課長補佐に対し、組合役員1人、青年部員7人、キッズスペースのイメージ図を作成した一級建築士1人の合計9人でキッズスペース設置の必要性を訴え、庁舎に必要な設備として総務課と福祉課が主体となり設置をめざすということが確認されました。
 更に、2018年1月24日(水)に青年部から町長に対し、模型等を用いてプレゼンを行いました。町長からもキッズスペースの設置に前向きな意見をいただき、2018年度の当初予算にはキッズスペースの設置について総務課付で949,000円の予算が計上されました。現在、キッズスペースは詳細な仕様や名称などを関係課、青年部で詰めており、2018年10月のオープンを予定しています。


7. 終わりに~若手職員のアイディア実現の場としての自治研~

 若手職員は、人員が豊富であるとは言えない厳しい労働環境の中で、公務員としての責任と自覚を求められながら、日々与えられた業務を正確に処理することに追われがちです。先輩や上司からたくさんのことを学びつつ、現状への疑問や様々な改善策を新鮮な目線で検討しながらも、それを業務の中で実際に形にする機会はほとんどありません。
 自治研活動を通し、日々の気付きを具体的な形として実現することで、①実現されたサービスを利用する人々の満足度向上、②アイディアを実現できた若手職員のモチベーション向上、③若手職員でもアイディアが実現できるのだということを目にしたその他の職員のモチベーション向上という、3つの効果が期待されます。
 忙しい業務の中では、日々の思いや発想は形にされることなく消えていくことが恒常化しがちです。しかし、そのような日常の些細な思いを拾い上げて、形にすることを習慣づけることで、様々な環境改善を図ることができるのではないでしょうか。また、そうやって発想を形にできるという自信は、職員のやりがいやモチベーションに繋がり、職員の満足度や意識の向上、離職率を下げる効果も期待できます。
 邑南町職員連合労働組合青年部は、今後も町内の課題に向き合い真摯に解決していく気概を持ちながら、町民が安心して暮らせる町づくりに取り組むともに、組合員の意欲が最大限に生かされ、やりがいを持って働ける環境を作っていくために尽力していきます。