【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第7分科会 すべての人が共に暮らす社会づくり

 2016年4月、障害者法制が改正・施行される中で「社会的障壁の解消」という観点が示された。しかしながら、現実には社会の中には、多くのバリアが残っているし、再生産されている。とりわけ、自治体の庁舎等は、老朽化や改造費用の不足から大きく立ち遅れている現実がある。本報告では、福岡県本部障労連が20年以上行ってきた取り組みから見えてきたものを検証し、働きやすい職場づくりについて考える。



福岡県本部が取り組んできた
バリアフリーチェックの取り組み
―― 間接差別を見つけよう なくす意識を共有化しよう ――

福岡県本部/社会福祉評議会・障害労働者連絡部会(福岡県本部障労連)・事務局長 友添 吉成

1. 障労連がバリアフリーチェックを行う理由・意義

(1) 差別をなくすために
① 障壁の解消のための合理的配慮の提供を怠ることは?
 国連の障害者権利条約においては、移動、情報、医療、労働、等々、あらゆる生活上の局面に対し(アクセスする)機会が保障されていること(言い換えるならば。社会参加できること)は、障害の有無にかかわらず保障されなければならないと定義されている。
 そして、このことが重要であるのだが、障害者の参加を阻害する要因の一つである社会的障壁のための合理的配慮を怠ることも「差別である」と権利条約では定義している。
 バリアフリーチェックを行うことは、差別を見つけ出し解消していくことにつながる。
② 間接差別
 障害者差別の類型としての「間接差別」とは、一見平等のようでありながら、結果として障害のある人とない人の間で不均衡が生じる状態をいう。
 具体的に言えば、試験を実施する際に、点字受験を用意しなければ、視覚障害者は受験することができないし、試験に参加しても出題内容すら理解できない。また、別の例を挙げるならば、文字のガイダンスや手話通訳者の介助がないとしたら、聴覚障害者は、災害時の避難指示の情報を得ることができない。
 間接差別は、障害者の特性を社会の側が理解していないために、連鎖し再生産されていく。当事者の観点が得られないために、手の届かない位置にものが置かれたり、急勾配のスロープや握りにくい手すりが設置されたりする。
 具体的には、ホテルのバストイレを想像されたい。バスタオルが高い位置に置いてある。車椅子者やサリドマイド等の者は、バスタオルを取ることができない。
 バリアフリーチェックは、間接差別を見つけ出し、明らかにしていく取り組みである。
③ 当事者視点の共有化
 車椅子キャップハンディ体験やアイマスク体験、耳栓による音声遮断体験を通じて、障害のない人が、障害者の置かれている状況を理解できる。自治体の庁舎等が、障害者視点では、どのように見えるか、感じるか、当事者の視点が共有化でき、その庁舎等の問題点について共通認識が形成できる。

(2) 労働組合が取り組む意義
① 行政(組合)は簡単に「誰もが使いやすい」「共生型社会」と口にするが……
 公務職場は、率先垂範の立場にあるが、自分の身の周りが一番遅れている。自治体には、給付金制度など、障害者雇用のための補助金はない。また、住民向けに庁舎のバリアフリー工事を行うのも自費で行うことになる。優先度の問題として、庁舎改善が後回しにされる。このような現状を変えていく必要がある。
 労働組合として、「働きやすい職場づくり」を行うためには、自己検証としての庁舎のバリアフリーチェックは重要である。
② 県本部活動として各自治体を訪問すると
 行動を通じて各自治体にいる、障害を持った仲間を発見することができる。そのことにより、困っていると感じていることの相談、良い取り組みをしたことの情報交換などができる。こうしたネットワークづくりが可能になってくる。
③ 政策作成者の意識改革
 組合役員や当局を巻き込むことにより、障害者の立場への理解を向上させ、政策づくりに反映させていくことも期待出来る。
④ ユース部や組合員家族の参加を通じて
 若年世代への教育効果が期待出来る。

2. 福岡県本部の取り組み

(1) 活動の経過
 福岡県本部障労連は、結成して22年になる。結成当初から、バリアフリーチェック行動を活動の中心に据えこれまで取り組んできた。毎年、年に最低1回は実施するようにしている。
① 候補地選考
 障労連総会を12月から1月の間に開催するが、総会後すぐに企画づくりを行い、バリアフリーチェックを実施する自治体の選考を行う。
 候補地として、
・県本部執行委員の出身単組
・障労連幹事の出身自治体
・建て替えがあった庁舎
・合併した自治体
などを優先して考える。
 公共交通機関や商業施設の時は、ユース部と共催するなど、体験者の数を多くするように働きかける。
 自治体職場の場合、総支部と共催の形にして当該自治体以外の人にも呼びかけると、多くの参加者が集まることがある。
 組合事務所や自治労会館も有力候補である。
② 事前準備
 ア 訪問の前に事前調査
  ・できれば、庁舎の平面図や図面もあると良い。
  ・友添は、1週間前にお忍びで事前調査する。
 イ 当該自治体組合役員と当局も参加するように
  ・人事課や庁舎管理部門へ事前に話を持っていく。
  ・組合を通じて、障労連が訪問することを事前周知する。
  ・当該自治体にいる当事者へ参加の呼びかけ。
③ チェック行動
 ア 始める前には趣旨説明とオリエンテーション
 目的と、手法を説明する。車椅子の操作方法、アイマスク使用時の注意などのオリエンテーションを実施。

 イ 事前チェックした箇所を検証

 必ず、体験者と一緒に検証する。車椅子の位置でコピー操作できるか、ディスプレイが見えるか、など細かくチェックしていく。
 また、全体的なチェックシートを用意しておき、参加者にチェックのポイントをわかるようにしておくと課題が見つけやすい。参加者を2人一組または3人一組にして、体験者と介護者の役を交代していくと、両方の立場が理解出来る。
 玄関、トイレ、エレベータ、スロープ、駐車場などは、大きなポイントである。開催者側が、当事者視点を敢えて説明するようにして注意喚起を促す。


 図のように、後からごみ箱を置いたことにより、障壁ができてしまっているケースもある。簡単にバリアは出来てしまう。
④ フィードバック
 ア 総括と改善点の指摘を行う
 やりっぱなしで終わらない。参加者一人ひとりに必ず感想を言わせる。言葉にすることで。追体験、問題の再認識を行う。
 イ 突っ込みどころは、外さない
 当日の実施責任者が最後にコメント。ポイントを的確に指摘すること。頑張ったところは必ず褒める、評価する。褒めるところがなくても褒める。改善の意欲を失わせない。0点でも相手を貶めない。「○○のところは、こうなっていたら良かったですね」という言い方で指摘する。
 ウ 文書での結果報告
 県本部委員長名で発文。感謝は忘れずに述べる。良かったところと悪かったところ、両方にコメントする。危険箇所や人的支援に依る(左右されやすい)ところが大きい箇所などの問題点は、総括の中で特記する。
 エ フォロー
 定期大会や障労連総会でも、この取り組みを報告し、当該自治体(単組)の良い取り組みは紹介、PRする。活動を拡大し、他の組合・自治体の関心を惹起する。

※ 活動終了後は記念撮影。取り組みの記憶を残そう。

3. 最近の取り組みで感じた課題

 

 片麻痺の人に対しては、階段の両側に手すりが必要であるが、この階段の、向かって右側の手すりは高く造られていて握って力が入らなかった。8階であり、自分は災害時に逃げられない、と言うと、「エレベータで逃げてください」と当局の建築責任者が答えた。

 

 玄関から、総合案内までは点字ブロックがあるが、他はない。「総合案内まで来て貰えば人的対応をするので、全面にブロック敷設はしなかった。」との答え。総合案内には人が一人しかいないが、本当に大丈夫なのか。
 また、風防室のところで点字ブロックが一旦途切れる。自動ドアへの激突が懸念される。

 車椅子利用者のいる職場のプリンター。その当事者が異動するとき、このブリンターが付いていく。

 超急勾配のスロープ。車椅子で降ると危ない。車椅子では登れない。

 車椅子者などは、車のドアを全開にしないと、乗降が困難。駐車スペースの両側に一定のスペースが必要。これでは、身障者用駐車場の要をなさない。

4. まとめ

 障労連全国連絡会の相星勝利代表幹事は、「(障害者として)職場内での自分の居場所は自分で作って行かねばならぬ。」と述べている。
 これは、障害者が置かれている立場、居づらさを明らかにして、障壁を解消していくという意味の言葉である。
 職場の問題を見つけ、それを職場全体の課題として解決するには、まず自分が声をあげねばならぬ、という意味でもある。
 バリアフリーチェック行動は、表面化していない間接差別を明らかにし、誰でもが安心して働ける職場づくりをする取り組みである。このことは、相星が言う職場内での自己存在の確立と共通しているといえよう。
 今後も、福岡県本部障労連のメインの取り組みとして、バリアフリー活動に取り組んでいきたい。