【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第7分科会 すべての人が共に暮らす社会づくり

 「障害者差別解消法」では、すべての国民が、障がいの有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現につなげることを目的としています。
 本レポートにおいては、「共生社会」実現のために竹田市の取り組んでいる事例を紹介することにより、私たちにできることは何かについて考察を深めていきます。



障がい者の就労と雇用促進について
―― 「共生社会」実現のためにできること ――

大分県本部/竹田市職員労働組合・行財政部 渡邉 一義

1. はじめに

 障害者雇用促進法は、事業主に一定割合以上の障がい者を雇用することを義務づけています。2018年(平成30年)4月1日から障害者雇用率制度が見直されました。障害者雇用率制度とは障がい者がごく普通に地域で暮らし、地域の一員として共に生活できる「共生社会」の実現の理念の下、すべての事業主には、法定雇用率以上の割合で障がい者を雇用する義務があります。今回は法定雇用率が引き上げられ、発達障害者を含む精神障害者も雇用義務の対象に追加されました。これまでの法定雇用率は、従業員50人以上の事業主に対して民間企業は2.0%、国・地方公共団体は2.3%、都道府県等の教育委員会は2.2%でした。今回の改正で、従業員が45.5人以上の事業所まで範囲が拡大され、法定雇用率はそれぞれ0.2%引き上げられました。2021年(平成33年)4月までに更に0.1%引き上げとなります。

2. 障害者雇用の現状

 厚生労働省の2017年(平成29年)集計情報では、障害者雇用の現状は障がいごとに雇用者数は増加していることが窺えます。しかしながら、雇用の状況をみると、従前から身体障害者が最も多く、知的障害者や精神障害者の雇用者数は低調に推移しており、今後の課題とされています。
 民間企業における全体的な実雇用率は1.97%で法定雇用率を達成している企業の割合は50.0%でした。公的機関や独立行政法人等においては、全体的な実雇用率は法定雇用率を上回る高い水準で推移しているものの、すべての機関で法定雇用率を達成しているわけではありません。
 竹田市役所では、2017年(平成29年)4月1日現在の法定雇用率は約2.7%であり、2.3%以上の雇用を確保しています。また、2018年度(平成30年度)は、法定雇用率の引き上げに伴い臨時職員として1人を新たに雇用しています。今後、すべての機関で法定雇用率を達成するためにはどうしたらよいか、様々な取り組みが求められています。

3. 竹田市の取り組み ~障がい者差別の解消に向けて~

 2016年(平成28年)4月1日に施行された「障害者差別解消法」は、障がいを理由とする差別の解消の推進に関する基本的な事項や、国の行政機関、地方公共団体等及び民間事業者における障がいを理由とする差別を解消するための措置などについて定めることによってすべての国民が障がいの有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現につながることを目的としています。
 竹田市では、「竹田市障がいを理由とする差別の解消の推進に関する対応要領」及び「竹田市障がい者差別解消の推進に関する職員対応要領」を策定し、法の趣旨を庁内に浸透させ、障がいを理由とする差別の解消にむけた取り組みを積極的に推進するため、2016年(平成28年)4月に全職員へ周知を行いました。さらに、「竹田市窓口における障がいのある方に対する配慮マニュアル」を策定し、合理的配慮の推進に取り組んでいます。このマニュアルには基本的な考えとして、相手の人権を尊重し相手の立場に立って応対すること、困っている方がいたら進んで声をかけることなどが記載されています。さらに、障がいごとに対応例を細かく記載しており、職員全員が窓口応対時に参考にしています。また、この窓口応対マニュアルは、来庁した市民が対象となっていますが、障害者雇用で一緒に働く仲間が職場の中にいる場合にも大変参考になります。ただし、同じ障がいでも一人ひとりの悩みや困り、支援の仕方が違ってくるため、その方の性格等に配慮した注意が必要になります。

4. 竹田市自立支援協議会の取り組み

 私は、2013年度(平成25年度)から5年間、福祉事務所社会福祉課に配属されていました。担当業務は障害福祉でした。各種障害者手帳や福祉用具、手当の担当を経て、2016年度(平成28年度)からは障害福祉サービス業務を担当し、竹田市自立支援協議会の専門部会の一つである就労支援部会の事務局を務めさせていただきました。
 就労支援部会は、各障害者就労支援事業所の担当者や支援学校の先生、ハローワークの障害者雇用担当者、豊肥地区障がい者就業・生活支援センターつばさの支援員、豊肥保健所、相談支援事業所の15人程度で構成されています。部会では、障がいをお持ちの方の就労に関わることで抱える課題を協議・検討したり、障害者の方を対象にした研修会等を開催しています。その中で私が担当した2年間の取り組みについて紹介します。

(1) 障がい者就労の課題解消にむけた取り組み
 まず、障がい者就労の課題の一つである通勤についての取り組みについてです。現在の障害者就労支援事業所に通所されているほとんどの方は、事業所からの送迎を利用しています。そのため、家の近くまで送迎車が毎日来てくれる仕組みです。しかし、一般の民間企業等に雇用された場合は送迎がありません。竹田市では公共交通機関が万遍なく張り巡らされていないため、バス停までの手段さえも考えなくてはならず、例をあげると、高齢者の移動手段確保と近いのではないかとの意見が多く寄せられました。
 竹田市では、高齢者の移動に対して以前から積極的な取り組みを進めていました。その具体的な取り組みの一つに公共交通戦略会議が位置付けられており、その会議の中に、障がい者が抱える問題も盛り込み議論をすることとしました。会議の構成メンバーの中には社会福祉課職員もおり、その職員から情報提供をしてもらいながら、並行して就労支援部会でも独自に障がいを抱える方の移動手段について、問題の解決に結びつける取り組みを行うこととしました。
 具体的な取り組みとして、まず竹田市内にある8つの障害者就労支援事業所に協力を要請し、障がい者の通所の際に必要なルートの洗い出しを行いました。利用者の自宅や送迎の集合場所を地図上にポイントを打って、公共交通機関で通勤が可能か調査を行いました。市内中心部については、ルート上に自宅があったとしても、障がいのためにバス停までの移動が困難という方もいます。また、周辺部となるとバス停まで数キロ離れているため利用が困難だという気づきが生まれました。そこで、部会として障がい者の移動に係る不足分のフォローが可能かどうか検討しました。通常の事業所の送迎についてはそれぞれが行うため、他の事業所を利用される方を車に乗せるということは想定していません。そこで、市内の8事業所で車両を1台確保し、複数の事業所利用者が同乗することで公共交通を利用した時と同様、面識のない人同士が同乗し、同じ空間を共有する状況を作り利用者の訓練を行ってはどうかとの意見が出されました。そうすることにより、送迎に追われる事業所も負担軽減がはかれるのではないかと考えました。しかしながら、市内の事業所は点々とあるため、ルートの選定や運転手と経費の確保、法令等の条件をクリアしていくことに困難を極めました。そのような中ではありましたが、送迎車両については、地元の企業に協力してもらいリースで契約することができるというありがたいお話まで頂きました。
 本計画については、1年間かけて準備・検討を行いました。しかしながら、①就労支援部会独自で取り組むには壮大な計画であったこと ②法令等の条件のクリアが困難であったこと から、実現には至りませんでした。今後、これまで以上の障害者雇用を推進していく上では通勤は大きな課題となっていることは明らかです。この内容は、法令整備も含めて、国・県と連携した竹田市レベルでの取り組みが必要となります。

(2) 一般就労にむけた取り組み
 就労支援部会では、障がいをお持ちの方が一般就労にむけてどのような準備や心構えが必要か考えたときに、身だしなみやあいさつなど日常生活を送る上で必要不可欠なスキルを向上させる必要があるのではと考えました。就労支援事業所に通所している利用者の方は、作業は徐々にできるようになってきているものの、服装が何日も同じ服であったり、お風呂に入っていなくて汗のにおいが気になるなどの意見が部会で出されました。部会において特に心配される点として、①利用者が身だしなみを整えないと事業所以外の人と会ったときに不快感を与えるのではないか ②事業所以外の人とコミュニケーションがうまくいかず、あいさつや会話をするときに適切な距離感で言葉を交わすことができていないのではないか などがあがりました。そこで、就労支援事業所を利用されている方を中心に講師の方を招いてのスキルアップ研修会を開催しました。
 第1回目は、就労に際しての心構えについて、豊肥地区障がい者就業・生活支援センターつばさの支援員さんを講師に招いて、「働くこと」や「職種によってどのような業務があるのか」をわかりやすく丁寧に説明していただきました。仕事をする際には、「あいさつに始まりあいさつに終わる」ことを話していただき、最後は受講者全員で声を出してあいさつの練習を行いました。研修会終了後に受講者を対象にアンケート調査を実施しました。アンケートには「とてもよかった」や「ぜひまたやってほしい」など意欲的な回答が多く見受けられました。就労支援部会の反省会でも、今後も継続的にこのような研修会を開催していく必要があるとの意見で一致しました。
 第1回目の研修会の成功を受け、次年度に第2回目のスキルアップ研修会を開催しました。第2回のテーマは、「接客にみるコミュニケーションと得意を活かした配置について」でした。今回は竹田市の就労支援事業所から講師を招き、さらに、利用者の方に実演をしていただいての講義でした。講義中には、研修会参加者にも実際に接客業を体験していただく場面もありました。講師からは、①障がいの有る無しに関わらず誰しも得意分野と苦手分野があること ②得意を活かして作業を行うことで本人の自信につながり、意欲的に作業をこなすことができるようになること ③接客においては、日頃から声を出すことで接客以外の時も自然と声が出るようになること など、利用者の方の実体験を交えての講演がありました。今回の研修会で特に印象的だったのは、体験コーナーや質問タイムで、利用者の方が積極的に手を挙げて体験や質問を行っていました。前回の研修会と比較すると参加型の非常に積極的な研修会になり、就労支援部会の活動を通して利用者の一般就労にむけて意識の変化を実感することができました。
 第2回目の研修会アンケートでもまた受講したいとの声が多く、さらには、「コミュニケーションについて学びたい」や「メイクアップについて学びたい」など受講者の学習意欲が出てくるようになりました。第2回スキルアップ研修会の反省会では、「それぞれ自分の学びたい内容を伝えてくれているが、本当に改善が必要なところに目をむけられているか。」というこれまでになかったワンランク上の課題が聞かれるようになりました。これまでの研修は、障がい者の仕事の関わり方や対人関係・コミュニケーションに視点をおいて開催してきましたが、受講者の中には、歯磨きをしっかりすることができていないなど一般生活を送る上で必要な事象についての研修が求められる人も見受けられたため、第3回目の研修会テーマとして取り上げていく必要があると認識しました。受講者の研修意欲を無駄にすることのないように、次回は個人の生活課題に目をむけて、解決・克服していく手法について伝えることができるよう試みを進めていきます。

(3) ケーブルテレビを活用した取り組み
 続いて、障がい者理解についての取り組みです。ケーブルテレビを利用して地域の方や企業の方に障がいをお持ちの方がどのような活動をしているのか見てもらい、理解と雇用につながることを目的として取り組みをしてきました。私が担当する前から、就労支援事業所の支援者が出演して事業所の紹介を行っていました。その反省の中で、事業所利用のPRにはなるものの、障害者就労のPRにつながっているのかという意見が出されました。利用者自身が出演し、実際に作業を行っている状況を放送し見てもらうことにより、障がいのある方が、日頃どのような作業をしているのか、訓練によりこんな作業ができるようになるということを広く市民に周知するためです。
 協議の結果、市内にある8事業所を2事業所ずつ4回に分けて放送を行うことにつながりました。事情により、撮影時期が年末からになってしまったため映像としては冬の作業が中心となりましたが、補強をするために、夏の作業や旅行等のレクレーションについては写真で対応するなど年間を通じた事業の取り組みがわかるように工夫しました。撮影のために事業所を訪ねると、利用者の中には少しの変化で調子を崩しやすい方もいらっしゃったため、利用者の方の気持ちを第一に考え、支援者の方と綿密な打ち合わせを重ね収録に臨みました。作業風景と同時に利用者の方のインタビューを入れ、自分の言葉で事業所を利用しての感想を一生懸命伝えていただきました。その結果、各事業所の特色を引き出すと同時に、利用者それぞれが得意分野を活かした活動を実践している様子を放送することにつながりました。また、撮影する作業内容は、できるだけ事業所ごとに違う作業を選び、映像として少しでも多くの情報が提供できるよう心がけました。撮影時には「いつもどおり」とお願いしていたのですが、どうしてもカメラを意識してしまい、いつもと違うお互いのぎこちない動きに利用者の皆さんが大変盛り上がり笑顔がこぼれていました。
 また、この取り組みには、利用者の方の活動の様子をお伝えすることと同時にもう一つ目的がありました。それは、障がいのために現在活動が何もできていない方に対し、事業所通所を始めて一緒に活動しませんかというメッセージです。ハローワークへ相談に行き就労先を見つけられる方はいいのですが、一日働くことへの不安や継続して通勤することへの不安、新たな人間関係を築くことへの不安を抱えている方が多くいます。そのような方々に、まずは訓練を通して不安を一つずつ取り除いていただき、将来の就労へ繋げていただきたいとの願いがあります。放送後には、事業所を利用してみたいとの問い合わせも数件あり、当初想定していたよりも大きな効果を得ることができました。
 2018年(平成30年)3月末時点での竹田市の障害者手帳所持者は、身体障害者手帳が2,012人、療育手帳が241人、精神保健福祉手帳が217人です。その中で、就労支援事業所の訓練を受けている方は140人程度であり、そのほとんどが、知的・精神障害者です。今後、訓練が実を結び一般就労される方が出てくる可能性があります。働けるのに受け入れ先がない、法定雇用率を満たしていないのに受け入れられないというような状況が生まれることがないようにしなくてはなりません。そのために、今後はこの放送をDVD化や、竹田市のホームページに載せて広く発信していくなど、積極的に活用していきたいと考えています。

5. 今後の障害者雇用に求めること

 障害者雇用は、今後も推進していくことが予想されますし、私自身も強く望んでいます。私たちは障がいに対する理解を深め、一緒に働く準備をしていくことが必要です。現状では、一般就労が可能な身体障害者を中心に就労が進められています。知的・精神障害者も少しずつ増加傾向にあるものの、依然として壁は高いと感じます。新規採用となると不安になるのは採用された障がい者よりも採用する事業所の方かもしれません。どのような仕事を任せてよいのか、職員とうまくやっていけるかなど考えたらキリがないと思います。一様に障がい者と言っても個性はそれぞれ違うので、個人の性格を十分理解してどのように付き合っていくかを考えなくてはなりません。これから、障がいがある方と一緒に働く準備を私たちが進めなくてはなりません。
 さらに、現在、法定雇用率の基準を満たしている事業所の中で純粋に障害者雇用を行った事業所がどれだけあるでしょうか。採用したら偶然障害者手帳を所持していたので障害者雇用率に含めている事例が大半ではないでしょうか。新たな労働力として障がい者と理解した上で採用が進むことを切に願います。
 また、2018年(平成30年)4月1日から障害者雇用義務の対象に精神障害者が加わりました。全国各地で仕事上のストレス等を理由とした悲しい事故や事件が起きています。同じ職場の中でもストレスを抱えやむを得ず手帳を取得した方が障害者雇用率に含まれることがないようにしなければなりません。自分の職場から障害者を作り出し、そのことにより法定雇用率を満たすということだけは決してあってはなりません。
 また、障がい理解を進めていくためにも子どもの頃から障がいについて学ぶ機会を作っていくことも必要であると考えます。現在の小学校には特別支援教室があります。親御さんは、特別支援学校よりも地域の小学校への入学、就学を希望されるものの、その後年齢を重ねるごとに授業や活動についていくことができずに、特別支援学校へ移行されるケースが多く見受けられます。しかしながら、大人になって共生社会をめざすのであれば、学生時代にも希望する学校へ通い、勉学に励むための合理的配慮が求められるのではないでしょうか。先生方に負担を強いることになる可能性はありますが、学校現場の改革も進めていく中で、身近なところに障がいを持つ方がいることがごく当たり前になることも共生社会への近道だと思います。
 「共生社会」を実現するための課題はたくさんありますが、正しい理解と優しさで解決していくことができるはずです。私たちの一人ひとりの心がけは小さくてもまとまれば大きな力になります。できることから始めていきましょう。そしてその取り組みが継続することにより、障がいをもつ仲間とともに働き、ともに生きていく社会の実現を強く願ってやみません。