【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第7分科会 すべての人が共に暮らす社会づくり

 近年、よく耳にする性的マイノリティ(性的少数者)やLGBTという言葉だけは知っていても、その言葉を正確に理解している人が実際にどのくらいいるのかと考えたきっかけや私自身の経験(当事者との出会い)、世界の国や地方自治体の取り組みと現状を報告します。



性の多様性と地方自治体
―― 性的マイノリティやLGBTとは何か ――

大分県本部/日田市職員労働組合 井上  純

1. はじめに

(1) LGBTとは
 近年、日本でもよくLGBTという言葉を耳にするようになってきました。
 しかし、LGBTという呼び方を聞いたことがあるという人が多くても、その内容を正確に理解し、自信を持って説明できる人は少ないと思います。
 私自身、仕事で携わるまではLGBTという言葉を知っているだけでした。
 LGBTとは、性的マイノリティ(性的少数者)の総称をいい、L:レズビアン(女性として女性を好きになる人)、G:ゲイ(男性として男性を好きになる人)、B:バイセクシャル(異性を好きになることもあれば、同性を好きになることもある人)、T:トランスジェンダー(自認する性別が、出生時の性別と異なる人)の頭文字をとって名付けられました。
 これらの呼称は、自らのことをポジティブに語る用語として1990年代半ば以降、北米・ヨーロッパで生まれ、現在では世界中で使われています。
 日本でも、以前は「ホモ」や「オカマ」等、侮蔑的に呼ばれていましたが、2000年代頃からLGBTという言葉が使われはじめました。
 しかし、性の少数者はこの4種類だけではないのです。例えば、Q:クエッショニング(自己の性的思考を探している人)、A:アセクシャル(恒常的に恋愛感情や性的欲求を抱かない人)と言われる人もいます。
 そのため、LGBTではなく、LGBTQやLGBTQA、LGBTQ+という表現をする場合もあります。
 LGBTという言葉を使うことで理解が深まっていますが、当てはまらない少数者がいることも忘れてはいけないと思います。

(2) 性的マイノリティは本当に少数なのか
 では、性的マイノリティと呼ばれる人は本当に少数なのでしょうか。
 LGBT総合研究所が2016年に実施したマーケット調査によると、LGBTに該当する人は、日本人のうち8.0%というデータでした。
 8.0%という数字だけ見ると、少数であると感じるかもしれません。
 しかし左利きの人やAB型の人はどうでしょうか。
 例えば、「あなたの身近に左利きの人はいますか?」と訊かれたら、答えは「います」や「知っています」と答える人が結構いると思いますが、日本人に占める左利きの人は約8%です。
 また、AB型の人が日本人に占める割合も約9%と言われているので、LGBTの人の割合とほぼ同じなのです。
 そのことを考えると、性的マイノリティと呼ばれる人だけが少数ということではないかもしれません。

2. LGBTへの対応

(1) 世界におけるLGBTへの対応
 世界では1970年代、ゲイパレード「プライド」が開催され、法的権利獲得や差別撤廃等を求めました。
 その後、2009年には世界最大級のゲイパレード「サンパウロ・ゲイ・プライドパレード」の参加者が推計320万人を突破したといわれています。
 2010年、アイスランドの議会は、同性婚を認める法案を全会一致で可決し、その時の首相自身がレズビアンであることを公表しました。
 2011年、国連人権理事会が、性的指向や性自認に基づく暴力行為や差別に重大な懸念を示す決議を採択しました。
 2015年、アメリカ全州で同性婚が合憲となり、異性カップル同様に法的な保障が認められるようになりました。また、ベトナムでは同性婚を禁止する法律が廃止となり、事実上の同性婚が可能になりました。
 このように、少しずつLGBTを保護する法律が制定されてきています。オランダ、ベルギー、スペイン、カナダ、南アフリカ共和国を含む24カ国では、国全土で同性婚を合法化。異性婚と同等、それに近い権利、または部分的な権利を与えるということが認められました。
 またオーストリア、台湾も遅くとも2019年までには同性婚が認められることになっています。その他、イスラエルをはじめフィンランド、ドイツなど20カ国以上が登録パートナーシップを持っています。
 しかし一方で、LGBTに対し圧力を強める国もあります。ロシアでは、2013年6月に同性愛宣伝禁止法が成立し、未成年者に同性愛について情報提供することが禁止されました。このことでアメリカやフランスの首相がオリンピック憲章に反するとソチオリンピックの開会式をボイコットしたのは記憶に新しいです。
 また、2014年にナイジェリアでは同性婚禁止法、ウガンダでは反同性愛法が成立し、同性愛者に対する罰則を強化しました。特にアフリカ地域における圧力は顕著で7割近くの国で同性愛行為が禁止されています。

(2) 日本におけるLGBTへの対応
 2017年3月、日本政府はいじめ防止基本方針の改訂を行い、LGBT生徒の保護の項目が初めて盛り込まれました。これに先立ち、2016年には教職員向けに、LGBT生徒への対応を記した手引きも発行しています。
 しかし、実際は未だにLGBTに対する差別やいじめがあるのが現状です。
 また、異性カップルと同等の権利が法的に保障されていない点も課題の一つで、性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律(いわゆる「性同一性障害特例法」)を除き、未だ性的マイノリティを対象とした法律が日本にはありません。
 近い将来、性的マイノリティへの差別を禁止した法律や権利の保護を目的とした法律が成立することが期待されます。

(3) 企業におけるLGBTへの対応
 差別を受けたくないという理由から、職場でカミングアウトするLGBTがいないということもあり、社内での対応が進まないという現状があります。
 そのような中、最近はLGBTを自社サービスへ適応させる企業も出はじめました。
 パナソニックでは、会社の行動基準の改定(「性的指向、性自認に関する差別的言動を行わない」)や差別禁止規定、倫理規定、ダイバーシティポリシー等の中で明文化するほか、社内規定で同性婚を容認しています。IOCのスポンサーである同社は、「性的差別を行わない」としたオリンピック憲章を尊重したのです。
 ライフネット生命では、2015年11月に異性間の事実婚に準じる「同性パートナー」への死亡保険金受け取りが可能になり、同業他社に大きな影響を与えました。
 ジョンソン・エンド・ジョンソンはインクルーション文化の醸成に関する活動を行う、有志の当事者及びアライ(LGBTのよき理解者)の社員によるグループで「Open&Out」を発足し、LGBTの社員に対し社内コミュニティを提供するほか、LGBTに関する問題と知識に関しての意識醸成や啓発活動等を行っています。
 これら以外でも、LGBT学生向けの会社説明会の開催や相談窓口の設置、個別相談に対応できる体制整備をする企業が増えてきています。

3. パートナーシップに関する施策

(1) 国内での動き
 日本全国では、これまでにいくつかの自治体がパートナーシップに関する施策を発表しています。
 2015年9月から東京都世田谷区では「パートナーシップ宣誓書受領証」の発行を行っており、現在までに43組のカップルが宣誓を行いました。
 また兵庫県宝塚市や三重県伊賀市、北海道札幌市、福岡県福岡市でも宣誓証の発行が可能になりました。
 2015年10月から東京都渋谷区では条件をクリアしたカップルに対し「パートナーシップ証明書」の発行を行っており、2017年2月現在、16組のカップルが証明書の発行を受けました。沖縄県那覇市でも同様にパートナーシップ証明書の発行が可能です。
 これまでに施行された自治体のパートナーシップ制度は、世田谷区のように首長裁定に要綱による方式(世田谷区パートナーシップの宣誓の取扱いに関する要綱)と渋谷区が採用した条例による方式(渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例)に分かれています。
 日本でもLGBTへの考えが少しずつ変わってきているのかもしれません。

(2) パートナーシップに関する問題点
 しかし、パートナーシップについては、都市部では理解も得られやすいですが、地方ではどうでしょうか。
 地方では、LGBTについての理解がまだ浅く、差別や偏見が根深く残っています。最も身近なはずの家族でさえ、性的マイノリティであることをカミングアウトしても理解をしてくれないということが多くあります。
 直接、差別をうけるケースも珍しくなく、心ない言葉をかけられたり、仲間外れにされたりすることもあるようです。
 実際に私の身の回りにも数人の性的マイノリティがいます。彼らの中にはカミングアウトし、家族や職場の理解を得ている人もいますが、ほとんどは家族や職場の人にはカミングアウトしていません。
 地方では職場や居場所を失い、都市部へ出て行ってしまう人も少なくありません。これは地方で人口減少が加速化している要因の一つなのかもしれません。
 LGBTの人が地方でも差別や偏見を受けずに安心して暮らしたり、働いたりできる環境の整備も今後は必要となってくるのではないでしょうか。
 また2018年4月26日の毎日新聞で、50年近く同性パートナーと同居していた大阪の60代後半の男性が同性パートナーの妹に対して慰謝料とパートナーが所有していた不動産の引き渡しを求めて提訴したことが報道されました。パートナーの親族に共同経営していた事務所を奪われ、パートナーの火葬の立ち会いも拒否されたことへの慰謝料を求めています。何年も苦楽を共にしても同性カップルには法的保障はないのです。
 同性カップルを家族として扱う風潮が形成されつつある今、日本でも法的制度の整備をする時代が来ているのです。

4. 地方自治体としての取り組み

(1) 市民を対象とした講演会の開催
 LGBTへの理解を深めるため、市民を対象とした講演会の開催を行っている地方自治体も増えてきています。
 日田市でも2017年11月21日に男女共同参画市民公開講演会を実施し、講師としてメディアや新宿2丁目で活躍している女装パフォーマーでライターのブルボンヌさんをお招きし、自身の学生時代から現在に至るまでの話や性的マイノリティに関する基礎知識についてわかりやすく講演していただきました。
 講演会が決まった後で「なぜブルボンヌさんに講演を依頼したのか」「なぜLGBTをテーマとしたのか」と聞かれることがありました。
 2017年6月にある講演会でブルボンヌさんの話を聞かせてもらった際に私自身がLGBTについて思っていた以上に理解していなかったと気付き、自分の身の回りにいる友達でも実際にLGBTについて理解している人は少ないのではないかと感じたこと、また当事者がなかなかカミングアウトできない現状を多くの人に知ってもらいたいと思ったことが講演をお願いしたきっかけです。

(講演会アンケート)※一部抜粋

・LGBTという言葉は聞いたことありましたが、何も理解していませんでした。ブルボンヌさんの話を聞くことができて本当に良かったです。

・職場に女性を好きな女性がいます。これからは彼女の話をもっと聞いてあげることができたらいいと思います。

・性的マイノリティの方がこれから自信を持って生活できるような社会になるといいですね。

・テレビでみるオネエという芸能人の中にも色々な分類の人がいることを知りました。今はカミングアウトする芸能人の方がたくさんいますが、これが私たちの回りにも広がってLGBTの人がイキイキと暮らせるようになるといいと思いました。

 ブルボンヌさんは日田市での講演会での他、たくさんの自治体や企業、大学で数多くの講演を行っています。
 このような講演をきっかけに多くの人がLGBTに対する理解を深めてくれることを望みます。

(2) 申請書の性別記入欄の削除
 就職や賃貸住宅の入居の際に住民票の提出を求められ、性別欄があるために困っているトランスジェンダーの方も多くいます。
 そのため、総務省は2016年12月12日付けで各自治体へ性別表記のない「住民票記載事項証明書」を発行できるという通達を出しました。
 また、現在は多くの自治体で印鑑登録証明書など自治体が様式を定めるものから性別記入欄の削除や男女の届出の必要のない書類では届出を廃止する動きもみられています。

(3) 今後の取り組み
 LGBTの抱える問題とは、性的指向が同性に向くことや、性別違和があること自体ではなく、それをとりまく自治体や社会、学校がLGBTを前提に仕組みを作ってきていないからだと思います。
 現在、都市部の自治体では支援体制の整備や同性カップルの公営住宅への入居、里親認定に同性カップルを含める等LGBTを意識した多彩な施策が急展開しています。
 しかし、地方ではまだまだ昔からの考えや風習が根強く、市民がLGBTを受け入れることが容易ではないと考えます。
 ではどうすれば地方自治体でパートナーシップに関する施策を進めることができるでしょうか。
 解決策の一つに各地方自治体がそれぞれ取り組むのではなく、県レベルでの取り組みが必要となってくるのではないでしょうか。
 これからは地方でも当事者が肩身を狭くせずに暮らしていける社会の形成ができるようになることを期待します。

5. 最後に

 私が性的マイノリティやLGBTについて考えたきっかけは、身近に当事者がいたことです。
 最初はLGBTという言葉すら知らなく、ただ同性が好きな人とだけ思っていました。その人と出会った時に回りにいた友人は差別や偏見なく接していて、それが普通だと感じていました。
 しかし、彼は家族にカミングアウトしたことで、疎遠になっており、長い間連絡すら取っていないということでした。やはり身近な人であっても、自分の子どもや兄弟が性的マイノリティであると聞くことで強い偏見を持つのだと感じました。
 さらにブルボンヌさんや事務所関係者と出会ったことで、LGBTに対する理解が深まると同時にもっと理解していこうという気持ちが芽生えました。
 前述したように都市部に比べ、地方ではLGBTの方に接する機会が少ないのが現状です。「もしかすると貴方の隣にもLGBTの人はいるのかもしれません。ただ気づいていないだけかも……」
 マイノリティというと、自分には遠い存在のように感じるひとが多いのかもしれません。ただ性的マイノリティに限らず、マイノリティについて理解を深めるなかで、自分には関係ないと跳ね除けるのではなく、自分がマイノリティであったらと想像して取り組みを進めていくことが大切です。
 「他人事」ではないのです。
 このレポートを読んでいただいた方が一人でも、彼らの理解者になれることを希望します。