【自主レポート】 |
第37回土佐自治研集会 第7分科会 すべての人が共に暮らす社会づくり |
子どもの貧困、ワーキングプアなど10年前にはあまり聞かれなかった言葉が大きな社会問題になった今日、地方行政とりわけ地域福祉を推進する立場から貧困層に象徴される社会的孤立状態に置かれている市民を支援するために実施している生活困窮者自立支援事業の取り組みを中心に紹介します。 |
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1. はじめに 子どもの貧困、ワーキングプアなど10年前にはあまり聞かれなかった言葉が大きな社会問題になった今日、地方行政とりわけ地域福祉を推進する立場から貧困層に象徴される社会的孤立状態に置かれている市民を支援するために実施している生活困窮者自立支援事業の取り組みを中心に紹介します。 2. 実施体制の構築 杵築市では2014年10月から他の自治体に先駆けて生活困窮者自立支援事業のうち自立相談支援事業に着手しました。この事業については、まず推進体制として市が直接行うのか、社会福祉法人等に委託するのかを検討しなければなりませんが、当時の杵築市の状況としては、この事業については社会福祉協議会自体が法人の使命として担わなければならないとの意識が強く、当然のことのように市から受託するものと考えていたようで準備も進めていたことから、社会福祉協議会に委託することとなったようです。社会福祉協議会では相談員を新たに2人雇用するとともに、従来から相談業務を担当していた職員を他の業務と兼務させ、2.5人態勢で支援業務に携わることとなりました。 3. 相談実績・ケース内容等 相談事業開始から2016年度末までの実績として相談の受付件数は189件となっています。年代別では50代が最も多く全体の24.9%、40代20.1%と続いており、30から60代までで約8割となっています。 4. 任意事業について 任意事業のひとつである「就労準備支援事業」については、補助要件として年間の利用者が15人以上との壁があったことから、大分県の調整により共同実施に賛同した杵築市を含む5市と県とで2016年度から実施することとなりました。実施方法は既に県内の他市で実績のある法人に委託することとし、委託料については人口割で負担しています。現在この事業については2年目を迎えていますが、期待していた成果が現時点では見受けられず、この事業の困難さを痛感するとともに来年度以降の事業の組み直しを検討しなければならないと考えています。 5. 人材育成について 杵築市では、2012年度から介護保険利用時のケアプランが自立支援に資する内容となっているかどうか、高齢者の身体機能や生活機能の向上を図るための適切なサービスが提供されているか等について協議する場として「地域ケア会議」を実施しています。この会議では、地域包括支援センターの職員をはじめ介護保険の担当者やリハビリ職、管理栄養士、歯科衛生士、薬剤師等の専門職が高齢者の自立支援を促進するためにケアマネジャーやサービス提供事業所に対し多方面からの助言を実施することで、状態が改善する高齢者が増え、要介護認定率が下がり結果として介護給付費の上昇が抑制され、第6期(2015~17年)介護保険事業計画では介護保険料を前期の金額と同額に据え置くことができるなどの成果が表れています。 6. 保健医療福祉総合計画について 人材育成ツールとして活用していた地域ケア会議でしたが、ケースの検証から新たな課題が見えてきました。例として子育て支援プランを検証していた事例では、祖母が要支援2の要介護認定を受けて週1回のデイサービスを利用していたのですが、運動機能を向上させるためには明らかに週2回利用する必要があったのですが本人の希望で1回のみの利用となっていました。その理由は孫が放課後帰ってきた時は自分が家にいなければならないとの訴えであり、両親の状況を確認すると、父親は無職で生活困窮状態、母親はネグレクト(養育放棄)の状態であることが判り、この世帯の自立を阻害している複数の課題が浮き彫りになりました。このような世帯を支援するためには、子どもについては子育ての支援機関、祖母は地域包括支援センター、両親は生活困窮者自立支援センターの各担当者が個別に支援しても連携が充分に取れていなければ自立させることは不可能となります。このように世帯によっては丸ごと支援しなければならない場合が他にも数多くあることが確認されました。 7. 全世代包括支援センターの整備 総合計画の具体的な柱のひとつとして全世代に対応する包括支援センターの整備を盛り込むことを予定しています。具体的には高齢者を支援する地域包括支援センター、子ども子育て包括支援センター、障害者自立支援センター、生活困窮者自立支援センターを統合し、新たに就労支援センターの機能も担える機関として整備する予定です。 8. むすびに 急速な人口減少時代を迎えた今日、地方行政には新たな課題が山積しています。杵築市の今後の人口推計では15年間で約2割の人口が減少しますが、市内を地区別(小学校区)に見ると最も減少する地区では15年間で半数となる見込みであり、13地区のうち半数以上の地区では今後30年程度で消滅する危険性が増しています。 |