1. はじめに
2013年6月に竹原市人権推進室で「DV・性暴力専門相談員」として働き出して2018年で6年目になります。竹原市で相談業務を行う中で見えてきた、広島県内のDV・性暴力等の被害者支援について多くの課題が見えました。この課題を周知して、多くの人と繋がり、改善していくことを目標にして、第30回地方自治研究広島県集会に参加しました。そして同じ思いを持つ仲間と繋がりました。そして「DV対策研究会」を発足して様々な課題に向け活動しました。そして第31回地方自治研究広島県集会に「その後」として参加しました。今回の第32回目の地方自治研究広島県集会でさらに大きく変化したこと、変わらなかったこと、新たに見えた課題を報告します。
(1) D V
DVとは「ドメスティック・バイオレンス」のことをいいます。配偶者等からの暴力をDVといいます。最近はデートDVという若年層の交際相手からの暴力・ストーカー行為から殺人事件になる事件が多発しています。DVは人権侵害であり重大な犯罪行為です。DVには様々な暴力の種類があります。
●暴力の種類(DVの定義) |
身 体 的 暴 力……殴る・蹴る・首を絞める・押さえつける・物を投げつける・刃物を突きつける
髪を引っ張り引きずり回す・殴るふりをする・怪我をしているのに病院に行かせない
精 神 的 暴 力……脅す・大声でののしる・無視をする・大切にしている物を壊す、捨てる
経 済 的 暴 力……生活費を渡さない・お金を要求する・働かせない・収入を取り上げる
多額の借金をする・させる
性 的 暴 力……無理やり性行為をする・避妊をしない・見たくない映像を見せ同じ行為を要求する
売春を強要する
社 会 的 暴 力……メールや電話をチェックする・行動を監視し制限をする
家族友人との付き合いを嫌がり制限する
リベンジポルノ……元配偶者・元交際相手の裸の写真や動画など、相手が公開するつもりのない私的な性的画像を無断でインターネットに公開する |
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2000年に「ストーカー規制法」、2001年には「DV防止法」が制定され、現在3度目の法改正が行われました。このことによりDV被害者は法に守られることになりました。私の仕事は被害者の方の話をお聞きし、法律に基づいた支援方法を考え情報提供をすることです。支援にはその人に合った方法があり、みなさんが全て同じ内容の支援方法ではありません。その人に適した方法を考えお伝えし、最終的には当事者本人の自己決定を尊重します。加害者から逃げる人、加害者の元に戻る人様々ですが、全てを受け入れ長く繋がり続ける信頼関係も作っていきます。
(2) 性暴力
性的自己決定権のない性的行為は全て「性暴力」です。性暴力とは性的人権の侵害で被害者の性別は問いません。国連からは「女性20万人に1ヶ所のレイプ・クライシスセンターを設置する」と勧告がありました。これをうけ日本でも各地で設置にむけ動き出しました。
レイプ・クライシスセンター |
・性暴力の被害者が、国の費用により、妊娠検査、緊急避妊、人工妊娠中絶、性感染症の治療、負傷の治療、被害後の予防およびカウンセリングを含む包括的かつ総合的なサービスに速やかにアクセスできるよう規定すべきである。および、このようなサービスへのアクセスは、被害者の警察への被害の申告の有無を条件とするものではないことを規定すべきである。 |
~国連の勧告「女性に対する暴力に関する立法ハンドブック」より~ |
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「レイプ・クライシスセンター」は日本では「ワンストップセンター」という名称で開設されています。「ワンストップセンター」とは性暴力被害にあった人が、相談から支援まで1箇所で対応してくれる場所です。また2017年、明治時代に作られた性犯罪に関する法律が、110年ぶりに「強姦罪」から「強制性交等罪」に変わりました。大きな改正は、被害者が「女」と「性器に性器の挿入」から「性別を問わず、性交、肛門交又は口腔性交をした」というものです。世界的な動きとしては、ハリウッド女優達が、自分の受けたセクハラ行為をカミングアウトした上で、被害に声をあげようと「#MeeToo 私も……」とTwitterで投げかけました。多くの被害者達が自分の受けた被害をTwitterに書き込みました。そして「TIME`S UP 期間切れ……終わりにしよう」という運動に発展しました。
これを受け、日本では
「#WeToo Japan」
全てのハラスメントと暴力にNOを。
私たちも、変わろう。
私たちも言おう、もうやめようと。 |
という運動がはじまりました。
(3) 現状、国の調査結果では……
※ 約4人に1人は配偶者から暴力を受けたことがある。
※ 女性の約3人に1人、男性の約5人に1人は、配偶者から被害を受けたことがあり、女性の約7人に1人は何度も受けている。
※ 被害を受けたことがある家庭の約2割は子どもへの被害もみられる。
※ 女性の約7人に1人は命の危険を感じた経験がある。
※ 約20人に1人、そのうち女性の約13人に1人は無理やりに性交等された経験がある。
※ 18歳未満に性被害を受けた女性のうち約2割が監護する者から被害を受けている。
※ 男性に関しては約3割が監護する者から性被害を受けた経験がある。
※ 性被害を受けた女性の約6割、男性の約4割はどこにも相談していない。 |
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(内閣府男女共同参画局 平成30年3月男女間における暴力に関する調査報告書より抜粋) |
また警察庁の発表では、2017年一年間の全国の警察に寄せられた相談件数が、過去最多とありました。この数字は警察が介入した数字で、警察まで介入されない事案や、被害者が相談に繋がっていない、また自分が被害者である自覚がない潜在化された被害を入れると数字はもっと多いと思います。また初めて男性の性被害の数字がでました。18歳未満で性被害を受けた男性の約3割が、監護者であったことには驚きました。
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(中国新聞2018.3.16掲載記事) |
2. 変 化
(1) 性被害ワンストップセンターひろしま開設
広島県でも2016年6月頃より、性被害者ワンストップセンターの設置に向け動き始めました。「DV対策研究会」としても定期的に勉強会と情報交換会を開きました。そして開設準備の際、様々な課題などが出てきました。研究会では参加している委員を通じ、課題や疑問などを県に投げかけ、課題の整理、方向の軌道修正などを行ってきました。その中で大きな問題として、名称の問題がありました。当初県は、「性被害」ではなく、「性犯罪」ワンストップセンターという名称にする予定でした。これに対し、研究会のメンバーは全員危機感を覚えました。DV被害者は「どこに相談したらよいかわからない」「警察に相談することには抵抗がある」「たらいまわしにされて二次被害を受ける」ことを理由に相談をためらっている人が多くいて、名称を「性犯罪」としてしまうと、警察に届けることに抵抗をもつ人は相談しにくくなるからです。名称を「性犯罪」ではなく「性暴力」とするよう取り組むこととしました。
県の開設準備のための連絡調整会議の委員の方と連携をとり、発言をしていただき改名に取り組みましたが、県はかたくなでした。半ば、研究会でも、「名称変更はできない」という雰囲気になっていました。そのとき急遽、組織内議員でもある、宮政利県議に相談のメールを送ったところ、ちょうど開催された生活福祉保健常任委員で「名称の再検討をしてはどうか」と促す質問をしていただきました。結果、「性暴力」とはなりませんでしたが、「性犯罪」から「性被害」ワンストップセンターに変わりました。これは大きな違いです。「DV対策研究会」のみんなで喜んだとともに、大変驚きました。宮県議の質問内容は的確でした。現在「DV対策研究会」の仲間と共に「性被害ワンストップセンターひろしま」に関わることができています。
県の担当課の職員の人と共に、被害者支援ができる仕組みを少しずつ構築しています。関わってみて名称を「性犯罪」ではなく、「性被害」としたことで、被害者が電話をかけてきやすい相談機関となっていることを大きく感じています。
(2) 繋がり
岡山市から単身で竹原市に来て「相談員」として勤務を始めて、2018年で6年目になります。初めての年は困難事例があっても、広島では繋がる場所や人がいないため、解決への方法や、アドバイス・相談員として受ける精神的なケアなどは岡山の人に頼っていました。広島県でのDV支援の課題の多さに、思う支援ができず疲労困憊していきました。その中で、自治研を利用して、広島県の実態を多くの人に知ってもらい仲間を作ることを目標に参加しました。そして多くの人と繋がりました。現在は、他市町の婦人相談員や施設の職員の人や、母子の子どものケアができる専門機関等と横の繋がりができてきて、お互いが困ったときに「困った」と相談して解決できるようになりました。当事者がより良い支援を受けることに繋がったと思っています。
私にとって竹原市の相談員として働くことで心強いことは、竹原市の職員の人達が、DVについて意識を持ち、それぞれの担当課で、できる支援について考えてくれていることです。時には私が知らないことなども教えてくれます。相談員が一人で抱え込まず、市役所内の関係部署が連携をとり、被害者の負担を軽減できるように、竹原市役所では、ワンストップサービスが構築されています。
また、この自治研をきっかけに、他県の同じ思いを持つ職員と、前回開催された第36回地方自治研究全国集会(宮城自治研)で繋がり、情報共有ができるようになったことも大きな強みになりました。呉市においては、今まで提出した2つのレポートを読んでくれた人権推進室の職員の人の依頼で「DV相談を受ける時の対応」についての呉独自の学習会に講師として参加しました。自治研に参加したことで多くのことを得ることができたと思っています。
(3) 啓発・全中学校にデートDV講座
竹原市には中学校が4校あります。2017年より全中学校の2年生を対象に「デートDV」について出前授業をしました。初めての試みでした。授業の内容は「デートDV」だけに絞らず、相手がどんな人の場合でも暴力を振るう、振るわれるものではないこと・人と心地よいコミュニケーションを取るための方法等を授業で伝えました。そして「暴力を感じたときには、信頼できる大人に相談して下さい。」と伝えました。その後、話を聞いた生徒が大人に相談したことでその家はDV・虐待のある家庭と分かり支援に繋がり、現在は安全・安心の生活を母子で送っています。
(4) 市内啓発
公共機関・スーパー・コンビニ等にワンストップセンターシール・DVカード設置、県が作成した「ワンストップセンターひろしま」の啓発シールと竹原市が作成した「DVカード」を公共機関・スーパー・コンビニ等の女性トイレに設置しました。
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(5) LGBTのパネル展示
LGBT(セクシュアル・マイノリティ)について、全国的に啓発や自治体によっては「パートナーシップ条例」などができています。竹原市でも毎年、パネル等で啓発活動をしています。2018年度は、LGBTを支援する「アライ」を増やそうと活動している民間団体に協力をして、バタフライの形の紙に、メッセージを書き大きなバタフライを作る活動に参加しました。
また淀川区が作成した啓発パネルの展示をしました。
広島県は2017年10月より、LGBTの電話相談を開設しました。性暴力・LGBTと相談窓口が開設されると同時に、相談員として様々なことに対して対応できる、スキルアップが必要不可欠になります。
(6) 組合活動の中からハラスメントについて学ぶ学習会を開催
以前より、職員の人達と雑談する中で「パワハラ・セクハラ・自分でできるメンタルケア」等、色々なことを語り合う場所があればやりたいね、と話がありました。私自身、性被害ワンストップセンターの電話相談の中から、公務職場におけるセクハラ事案が多いことに驚きました。職員の女性の中に、実際に被害にあっている人が多数いることが見えてきました。セクハラに対しての知識を性別に関係なく認識する必要を感じ、「ちょこっと勉強会」を開催しました。
第1回 2017年8月22日(火)午後6時~
「ちょこっと学習会」 ハラスメントについて知ろう! |
参加者 |
男性2人 女性9人 |
学習内容 |
・どんな行為がハラスメントになるか? ・性について
・セクハラにあった時の対応方法・地方公務員法について
・様々な資料を集めて参加者で共有して、体験談や日頃感じているハラスメントについて話し合った。 |
終了後の
アンケート |
・頭ポンポンもされて良いと思う人、嫌だと思う人色々。好意的な相手から頭ポンポンされて「嬉しい」と感じる人がいれば、反対に頭ポンポンをされた事で一気に好意的な感情が冷める人もいる。
・「付き合っている人はいるの?」の質問もされて大丈夫な人もいれば、聞かれる事自体嫌な人もいる。
・「結婚式はまだ?」と定期的に聞かれる。相手に悪気はないと思うが「大きなお世話」と思う。
・こんな事をしてもセクハラになるのか! と自分の行動を振り返る機会が出来た。 |
第2回 2018年2月8日(木)午後6時~
「人間の性について ~人権と性暴力~ 性の基礎知識」 講師:ハーティー仙台 八幡悦子さん |
参加者 |
男女合わせて約30人 組合加入者以外の参加も受け入れた 20・30代男性職員の参加が多かった |
学習内容 |
・様々な「性」の形について ・性暴力について ・基本的な性知識(妊娠・避妊・性感染症)
・具体的なセクハラ事例とその代償について |
終了後の
アンケート |
・性について話す事がないので貴重な体験だった。
・性や人権について詳しく学ぶ事がなかったので参加してよかった。
・性について間違えた知識、知らない事の怖さを感じた。
・貴重な体験だった ・自分が嫌なら嫌と言っていいんだと思えた。
・自分から子ども達に話せる様になりたい。
・実例を踏まえての話で分かりやすかった。 |
3. 課 題
(1) あらゆるハラスメントについて
近年、スポーツ界・芸能界・政界・議員・民間企業から様々な暴力事案が表ざたになっています。身体的・精神的・性的・社会的暴力……まさにDVの定義にある暴力が、親密な関係にある者同士以外の、他人同士の間で起こっています。おかしな点は、加害者擁護の発言や行動が正当化されて話されることです。ある人は「抱きしめてもいい?」という発言を「ただの言葉遊び」と言い、ある人は「加害者に人権はないのか!」「セクハラ罪という犯罪はない」「被害者が名乗りあげないから話にならない」「はめられた可能性がある」などと時代錯誤かと思わされる発言がありました。この内容はまさに、「被害者が悪い。もっとしっかりすれば被害に遭わなかった。一対一であった被害者にも落ち度がある」とあくまでも「悪いのは被害者」といわんばかりの内容です。救われるのはこのような発言に「おかしい!」と声を上げる人達の声が多かったことです。いかに国民の生活を見ていないか、今の世の中の動きを見ていないか、この時代にまだ男尊女卑の時代の考えを持っているのか等の「生活観の格差」年代の違いで考えがちがう「歳の差格差」を感じました。この二つの格差は市役所で働いていても感じることが多々あります。これはあきらかな人権問題にも繋がります。まず行政職員から、意識をもち行動をする必要があると思います。
(2) 情報は常に更新されている……
広島県内のある市で「住民票閲覧制限」(DV被害者が加害者に住居を特定されないようにする対策)を国の通知の通り行わず、被害者に不利益を与えるということが発覚し、2018年6月には連日、新聞報道され市長が謝罪をするという出来事がありました。原因は、行政の担当者が国の方針が変わったことを知らなかったからです。DV被害者の支援には行政支援が必要不可欠です。現在の国の方針は、「被害者の精神的負荷を軽減するよう、途切れの無い寄り添った支援をする」となっています。相談員は常に最新の情報を取得しながら支援します。しかしながら、その相談員の支援を阻害する担当職員も存在します。担当職員の対応も様々です。一緒に調べてくれる人、知りえた情報を教えてくれる、全く取り合わない、調べようともしない、「うち(市)はうち、よそ(他市)はよそ」と言いきる人、「非常勤の相談員が意見するな!」と発言を打ち切る等が現実問題としてあります。
国の通知通達は都度見直され、更新されていきます。今までのやり方では問題が見えたので問題を解決するため、被害者の負担を軽減するため、被害者の利益のために変わります。常に新しい情報を得ることの必要性を感じて欲しいです。そして相談員の声に耳を傾けて下さい。
(3) 雇用問題
私の雇用形態は非常勤特別職で昇給・一時金はありません。給料は月額146,000円です。この内容は2013年竹原市役所で働き始めてから、何も変化はありません。相変わらず、数箇所でバイトをしています。市役所の給料は銀行口座に振り込まれますが、家賃・光熱費・携帯代・保険料等が引き落とされると、ほぼ残高はなくなります。だから給料が振り込まれる銀行口座から、現金を引き出すことはありません。使えないのです。生活費はすべて、バイト代からまかないます。午後4時まで市役所で働き、午後5時から午後11時までバイト。金曜日は午後11時から翌朝8時まで夜勤をこなし、寝ることなく朝の9時から午後5時までバイト。翌日は午前9時から午後11時までバイト……そんな生活をしています。休日はほとんどありません。これだけ働いても年収は300万円にはなりません。雇用体制は何も変わらない。相変わらず多数のバイトの掛け持ちをして生計を維持しています。このような働き方をする婦人相談員は、私だけではありません。多くの婦人相談員が人の命に関わる、大変重く責任ある相談業務を抱え、DV事案の増加・性暴力・LGBTと習得しなければ、相談員として業務ができないスキルが増えていく一方の状態です。習得しなければならないスキルアップ研修は、年休を取り自費で参加している相談員がほとんどです。2018年度婦人保護事業の推進(児童虐待・DV対策等総合支援事業)の中で婦人相談員手当が、月額最大191,800円に拡充と決定されました。厚労省から通達が出ているにもかかわらず、未だに変わる動きも何もありません。何のための通達なのでしょうか? 熊本県水俣市は通達を受け、手当が上がったと聞きました。上がらない理由の一つに「臨時・非常勤に関する地方公務員法の改正(施行期日2020年4月1日)」の中で手当の見直しを調整するということがあります。婦人相談員の改正とは別ラインです。混同されては意味がありません。2020年まで待つことのできる婦人相談員はどれくらいいるのでしょうか?
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