【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第8分科会 市民とともに「憲法」と「平和」を考える

 西海市内には米海軍横瀬駐機場があり、エアクッション型揚陸艇(LCAC)が配備されています。昨年11月以来、「早朝、夜間に航行しないよう米軍と調整する」という九州防衛局との協定を無視して、夜間航行訓練が強行されています。西海市労働者協議会は反戦・平和運動、制度・政策要求、市議会対策などを重点に取り組んでいます。また、毎年、8月には「戦争と原爆展」を開催し、地域住民に平和を訴えています。



自治体の「平和力」を考える
―― 西海市労働者協議会の取り組みを通して ――

長崎県本部/長崎県職員連合労働組合 生越 義幸

1. 西海市労働者協議会とは

 いわゆる「平成の大合併」により大瀬戸町・西彼町・西海町・大島町・崎戸町の5町の対等合併で西海市が誕生しました。地域運動の母体であった西彼杵地区労働組合会議は、組合員の減少、構成組織の支部再編等により組織維持が困難になることが予想されたことから、発展的解消による長崎地区労働組合会議との統合という道が選択されました。
 2005年、西海市における反戦・平和・地域運動の拠点が必要だという思い、「地域運動の灯を消さない」という思いが結集して、西海市労働者協議会が発足しました。構成人員は約400人、自治労(西海市職員組合、長崎県職員連合労働組合)、長崎県教職員組合、退職教職員協議会で構成されています。
 西海市労働者協議会は、独自メーデー、戦争と原爆展の開催(毎年8月9日前後で)、「9の日反戦ニュース」の発行(毎月1回)等も取り組んできています。


2. 西海市における反戦・平和の取り組み

(1) 「戦争と原爆展」等の取り組み
 2017年8月5日に「第13回戦争と原爆展」を開催し、のべ60人近くの市民の参加がありました。大瀬戸コミュニティセンターを会場に、パネル展示・クイズラリー・高校生1万人署名活動報告・「シチズンフォー/スノーデンの暴露」上映会と盛り沢山の内容で行い、戦争ができる国づくりが着々と進む中、「共謀罪法」の不合理さを確認するとともに、恒久平和を誓い合いました。来場者の感想に「憲法改正が議論され始めた時期に、原爆の日を前にまとめて写真を見る意味は大きい」というのもありました。8月2日には、非核・平和行進宣伝カーキャラバンを大瀬戸町で行い、「核も戦争もない平和な21世紀」を市民に訴えるとともに、「戦争と原爆展」の街宣を行いました。
 また、通年的な取り組みが必要だとの観点から、毎月9の日に「9の日反戦ニュース」(組合員向け)を継続発行しています。

(2) 政策・制度要求の取り組み
西海市長へ政策要求書を提出する濵川議長
 より良い地域づくりのために地域に根ざした働く者の要求を吸い上げ、西海市に対し政策要求に取り組んでいます。1月29日、西海市労協は、杉澤泰彦西海市長に「2017年度政策・制度要求書」を提出しました。要求書の柱は、「勤労者の立場での市政・地方財政確立」、「平和行政・人権政策」、「子育て・教育」の3つで、市民参加のもとでの持続可能なまちづくりをベースにしました。市長が交代しても引き続き民主的市政の発展のため、政策・制度要求に取り組んでいくことが重要です。杉澤市長は「定住促進のためには教育水準の向上がカギ。子どもは西海市の宝である」と回答し、さらに「政策を推進するのは職員であり、職場環境の整備が必要。コミュニケーションをとりたい」と述べました。文書回答をもとにした具体の取り組みをどうするかが課題です。


政策・制度要求に対する回答書(抜粋)

2. 平和行政及び人権政策に関すること
(1) 平和行政の基本を日本国憲法、「自由と平和のまち宣言」とし、教育予算を含む平和関連予算を拡充すること。また、住民の生命・財産を守るため、「戦争ができる国づくり」を許さない立場で行政を進めること。
<回答> 日本国憲法の平和理念の尊重はもとより、平成17年の「西海市自由と平和のまち宣言」の趣旨に沿った平和行政の推進に努め、人類がすべからく平和の恩恵を享受できるよう行政運営に努めてまいります。

(2) LCAC夜間航行訓練について、関係機関に対し、協定書の遵守を求めるとともに、夜間航行訓練を繰り返さないよう引き続き申し入れすること。
<回答> 市民の安全・安心を守るため、九州防衛局などの関係機関に対し、引き続き協定書を遵守し、夜間航行訓練を行わないよう申し入れを行ってまいります。

(3) 内外にむけた平和の発信のために、あらゆる核実験に対し抗議声明を行うこと。また、「戦争と原爆展」を共催するとともに、「非核宣言自治体」の立て看板等を設置すること。
<回答> 本市が加盟する日本非核宣言自治体協議会の取り組みを基本として、核実験への抗議活動を続けてまいります。また、「戦争と原爆展」については、今後とも貴協議会の要請に応じて共催を継続し、この活動を通じ「西海市自由と平和のまち宣言」の周知に努めてまいります。

(4) 「平和推進基本条例」を制定し、平和政策の展開と具体的実施体制の整備を進めること。また、差別をなくすために人権保障計画を策定すること。
<回答> 先行事例の研究に努めてまいります。

(5) 被爆者救済の視点に立ち、被爆者援護法の国家補償法への改正、二世・三世及び在外被爆者を含むすべての被爆者援護法の適用について、政府に対し強く働きかけること。
<回答> 被爆者救済の視点に立ち、現行審査基準や現行法制によって救済の対象から外れている高齢化する被爆者、在外被爆者、被爆2世及び被爆3世に対し適切な施策を講じるよう要望してまいります。

(6) 住民の命と暮らしを守るため、脱原発・クリーンエネルギー政策を推進すること。具体的には、学校施設などでソーラーシステムや風力発電等の施設の導入をさらに進めること。
<回答> クリーンエネルギー政策について、平成22年に策定しました「西海市地球温暖化防止対策地域推進計画」に沿って、その実行に引き続き努めてまいります。

(7) 市民の重要な個人情報が不正取得されることを防止するため、戸籍・住民票を第三者が取得した場合に本人に通知する制度(登録型の本人通知制度)を導入すること。また、マイナンバー制度については、プライバシー侵害の未然防止・個人情報の保護に十分留意すること。
<回答> 本人通知制度については、広く周知することで、戸籍や住民票の不正請求及び不正取得を抑制する効果があるといわれており、個人情報保護の観点から導入する自治体が増えている状況です。県内では、長崎県戸籍住民基本台帳協議会で協議し統一した対応を行うことと協議したところですが、細かな部分について意見がまとまらず、長崎市が平成28年10月から、五島市が平成29年10月から実施しているようです。本市としては、国や県内の他団体の動向等を注視しながら本人通知制度の導入に向けて慎重に検討してまいりたいと考えております。
 また、マイナンバー制度は国が先導して行っている制度であり、個人情報の保護については厳しい制限があります。市民課においてマイナンバーカードを交付するにあたっては、その保管や取扱いについて丁寧な説明を行っており、紛失や暗証番号の遺漏などがないよう充分に説明をしているところです。

(3) 西海市議会対策
 私たちの意見を議会に反映させるために、清水正明市議と連携して市議会に対し、意見書採択に取り組みました。9月議会において、「地方財政の充実・強化を求める請願書」を提出しましたが、不採択になりました。また、3月議会では、2017年7月7日に、人類史上初めて核兵器を違法化する核兵器禁止条約が国連会議で122カ国の賛成により採択されたことから、「核兵器禁止条約の署名・批准を求める意見書」採択に取り組みましたが、不採択になりました。

3. LCAC夜間航行訓練反対の取り組み

3月6日 第1回抗議集会を開催
 
佐世保港内を訓練するLCAC
 北朝鮮情勢が緊迫化する中、日米軍事一体化・基地の機能強化が進みました。米海軍は2017年11月7日、西海市・議会が中止を求めているにも関わらずエアクッション型揚陸艇(LCAC)の夜間航行を強行実施しました。
 同日、県平和運動センター等と連携して長崎県知事に対し、九州防衛局に「西海市との協定を順守し、米軍の夜間航行訓練を行わないこと」を要請しました。2月27日には、平和フォーラム・県平和運動センター・社民党県連とともに、防衛省・外務省に対する要請行動を実施しました。防衛省等は「地元の懸念は伝えた。最大限の安全面の確保及び地域住民の生活環境への配慮を要請していく」との回答に終始し米軍に対し中止の要請をしていないことが明らかになりました。
 3月6日に、西海市労協は西海町横瀬の寄船地区でLCAC夜間航行訓練抗議集会を開催し、約40人が結集しました。3月29日には、県平和運動センター・社民党県連とともに、西海市長に対して「夜間航行訓練中止」の要請行動を実施しました。対応した小島副市長は「反対の立場は変わらないが、抗議するかどうかわからない」と回答しました。安全対策に万全はなく、あくまでも西海市当局が協定書の順守を求め、LCAC夜間航行訓練に反対する立場を堅持することが重要であり、基地周辺の住民のいのちとくらしを守るため、継続していかなければなりません。


(LCAC夜間航行訓練に関する経過)
9月28日  米海軍佐世保基地広報官が西海市を突然訪問し、夜間航行訓練計画を説明
9月29日  九州防衛局企画部長が西海市を訪問(夜間航行訓練は調整中で決定でない旨を説明)
10月30日  九州防衛局企画部長が西海市を訪問(11月7日~9日の訓練計画を説明)
10月31日  九州防衛局企画部長が西海市を訪問(西海市は「LCACの夜間航行禁止の要請書」を提出)
11月6日  九州防衛局長が米海軍佐世保基地を訪問し、夜間訓練中止を要請
11月7日  九州防衛局長が米海軍佐世保基地を訪問し、夜間訓練中止を要請
      (その後、佐世保市、西海市を訪問し、調査結果を報告)

2018年3月29日
 
 西海市長 杉 澤 泰 彦 様
 
長崎県平和運動センター
議 長 松 田 圭 治
 
社会民主党長崎県連合
代 表 吉 村 庄 二
 
西海市労働者協議会
議 長 濵 川 治 彦

米軍のLCAC夜間航行訓練中止に関する要請書

 米海軍は、長崎県西海市横瀬駐機場に配備するエアクッション型強襲揚陸艇(以下「LCAC」)の夜間航行訓練を強行しました。1度目は、昨年11月7・8・9日、2度目は、12月6日(4日・5日も計画されていたが悪天候のため中止)、3度目は、事前通告もなく今年1月31日と2月1日の2日間行われました。
 重なる米海軍の夜間航行訓練に対し、貴職及び市議会議長におかれましては、九州防衛局への中止要請行動や、今年2月5日にはアメリカ大使館への抗議行動、翌2月6日には、小野寺防衛大臣へ抗議文を直接手渡すなど、貴職及び議長の行動は、市民の安全と安心を守る上から敬意を表するところです。
 長崎県平和運動センター、西海市労働者協議会及び社民党長崎県連合は、夜間航行訓練中止という考え方は貴職と同様です。今年2月27日、「夜間航行の中止を米海軍に申し入れること」の要請と同時に、「政府の対応」を質すため、防衛省・外務省の担当者と直接面会しました。
 その際、担当者は最終的には「米海軍に対して、地域の環境や住民や漁業関係者などへの配慮をするよう申し入れたが、夜間航行訓練の中止については言及していない」と述べました。度重なる西海市の抗議や要請にもかかわらず、「協定書」の反故に等しい態度をとる防衛省の姿勢に対し、厳しく抗議してきたところです。
 昨日の報道(長崎新聞3月28日)によると、「米海軍は、4月と5月に夜間航行訓練が再度実施される」とあります。さらに西海市安全安心課は「夜間航行には反対だが、今回は事前通告とみなし、まずは安全対策を講じたい」とも記載されています。
 この記事が正確とするならば、従来西海市が主張されてきた、夜間や早朝訓練の禁止を意味する「協定書」から逸脱した行為を西海市が認めたことになります。さらに「協定書」を反故にしたと言われても仕方ありません。
 LCACの夜間航行は、民間船舶や漁船等、事故発生の危険度を格段に増加させ、夜間の騒音など新たな問題も生じさせます。
 以上、住民の安全な生活を守るべき西海市の市長として、今後とも2000年1月26日に締結された「横瀬駐油所におけるLCAC施設の整備などに関する協定書」を堅持されることを強く要請します。


(資料)

(資料)(抜粋)

横瀬駐油所内におけるLCAC施設の整備等に関する協定書

 FAC5039横瀬駐油所内に、LCAC施設を整備するに当たり、その設置及び運用に関し、西海町長(以下「甲」という。)と福岡防衛施設局長(以下「乙」という。)は、次のとおり協定を締結する。

(基本事項)
第1条 甲は、防衛施設庁が西海町内横瀬駐油所にLCAC施設を整備することについて、これが国の防衛に関する重要な事業であるとの認識のもとに、同施設の設置・運用が及ぼす周辺地域への影響に対する配慮及び航行等の安全が確保され、更に地域振興の促進に寄与するとの判断から、乙の協力要請を受諾する。
2 乙は、LCAC施設の設置及びLCACの運用に当たっては、前項の甲の意向を最大限尊重するものとする。
(安全確保)
第2条 乙は、LCAC施設の設置及びLCACの運用に際しては、航行等の安全を確保するとともに、エンジン試運転場の設置並びに上限速度(約20ノット)及び航路を設定すること等により、騒音や潮害等による環境への影響を最小限にするよう責任を持って米軍と調整するものとする。
2 乙は、甲からの要求に基づき夜間、早朝の航行については行わないよう米軍と調整するものとする。
3 乙は、西海町から前項に関する資料、情報等の提供を求められた場合には、速やかに対応するとともに、必要に応じ実測等の調査を行うものとする。
~以下略~
    平成12年1月26日
       甲:西海町長        山下 純一郎
       乙:福岡防衛施設局長    小竹 秀雄


横瀬LCAC施設の運用に関する協定書

 FAC5039横瀬駐油所内に整備されたLCAC施設(以下「横瀬LCAC施設」という。)が運用されるにあたり、西海市長(以下「甲」という。)と九州防衛局長(以下「乙」という。)は、平成12年1月26日に西海町長と福岡防衛施設局長との間で締結された「横瀬駐油所内におけるLCAC施設の整備等に関する協定書」が今後とも効力を有することを確認した上で、次のとおり協定を締結する。

(目的)
第1条 この協定は、横瀬LCAC施設が運用されるにあたり、西海市民の生活や周辺環境に被害が生じることがないように、甲乙双方が最大限努力するとともに、住民の不安や懸念が生じた場合は、これらの解消を図ることを目的とする。

(基本事項)
第2条 平成12年1月26日に西海町長と福岡防衛施設局長との間で締結されている「横瀬駐油所内におけるLCAC施設の整備等に関する協定書」に定める事項については、甲乙双方誠意をもって遵守するものとする。
~以下略~
    平成24年11月9日
       甲:西海市長      田中 隆一
       乙:九州防衛局長    槌道 明宏