【論文】 |
第37回土佐自治研集会 第8分科会 市民とともに「憲法」と「平和」を考える |
山口県では1982年から上関町に原子力発電所建設計画が持ち上がり、現在も推進派と反対派に分かれて議論がされている。町長は建設推進の立場であり、町議会議員についても推進派が7割を占めている状況である。この状況を見ると上関町民の大多数が推進していると考えられるが、本当に原子力発電所は必要なのだろうか。なぜ推進派が多数なのか。どうすれば建設計画を撤回させることができるのかを考察したい。 |
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1. 概 要 2017年12月1日時点での人口は2,874人、高齢化率55.71%、面積が34.81平方キロメートル※ⅰの瀬戸内海にある山口県上関町は、自然減少(平均で年間約71人減少)及び社会減少(平均で年間約34人減少)が続いている状況であり、男女別産業人口は、男性は漁業をトップとして、建設業、製造業と続いており、女性は医療・福祉をトップとして、卸売業・小売業、宿泊業・飲食サービスと続いている。特化係数(産業の業種構成などでその構成比を全国の構成比と比較した係数。ただし、極端に全国の構成比が小さい業種では特化係数が高くなるので注意が必要)で見ると男女ともに漁業が飛びぬけている町である(図1)。※ⅱ
2. 問題の本質 (1) 日々の生活に必要な賃金の面から考察
つまり、国民年金が上関町民にとって重要な収入源であるが、国民年金は満額でも6万円程度しかないので、日々の生活は苦しいと考えられる。過疎地のため自家用車が必要だが、自家用車を使用すればガソリン代や自賠責保険、任意保険の加入、自動車重量税等の税金の支払いが発生する。家を建てていれば固定資産税も支払わなければならないだろう。それから電気代や水道代等の支払いもある。食事代もかかる。病気になれば医療費も負担しなければならない。 国民年金だけでこれらの支払いをするのは、かなり負担を感じるだろう。もともと国民年金ができた経緯は、戦後の復興が進む中で被用者保険や厚生年金が機能をしていく中で、この保険に加入していない多くの農民や自営業者たちに1950年代の半ばから、従来の制度の不備を埋める機運が出来あがり、1959年に国民年金法が制定されたことである。しかし国民全員を対象とする新たな総合的制度を創出するのではなく、既存の制度から漏れていた人を対象に新たな制度を作ることが選ばれた※ⅴ。そして共済年金や厚生年金と比較して安い掛け金であるため受給額が少ないことは、サラリーマンは定年があるのに対し、自営業者たちは定年がなく生涯働けるので受給額が少なくても問題ないと考えられていた。 当時は問題なく生活できていたと思われるが、ダイエーの登場により自営業者は経営が難しくなりシャッター通りという言葉が生まれるような状況になったのは記憶に新しい。上関町の主要産業は漁業だが、漁業も海産物の輸入等により自営業者たちと同じように価格競争にさらされ苦しい状況に置かれているのは言うまでもない。また、原油価格の高騰で漁船の燃料は高くなるのに対して、あまり魚が獲れなければ当然赤字になるが、まして大漁となっても豊作貧乏という言葉があるように、価格が下落する。漁業での収入は減っていくのに対し、年金の受給額は上がらない状況で上関町民は生活が苦しいと考えられる。 (2) 人口減少の面から考察 推進派は人口減少等による町の衰退を、原子力発電所建設を起爆剤として町づくりを行いたいようであり、原子力発電所建設による交付金で道の駅「上関海峡」や温泉施設「鳩子の湯」を建設し、観光客数が年間5~6万人台で推移していたのが、これらの観光施設の恩恵で2014年には17万人超となっており、町は少しずつ活気づいているようである。(図3)※ⅵ しかし、観光客数は増加しても日帰り客が圧倒的に多く、宿泊している観光客はほとんどいないのが現状である。日帰り客が多くなっても人口減少に歯止めがかからない状況であることは変わらない。観光施設の整備により若者の雇用の場が提供されたことは良いことだが、毎年社会減少が続いている状況を冷静に考えれば、若者は上関町内に雇用の場があっても住みたいとは思っていないことが推測できる。 これは明らかに逆選択が起きていると言えるのではないだろうか。逆選択とは、市場における情報の偏りが、消費者にとってより望ましいはずの商品やサービスを逆に淘汰してしまうことである。 つまり、原子力発電所建設の交付金で町づくりを行えば行うほど、若者たちは自分の住む町に危険なものが建設される不安から、上関町を離れて行ってしまっているのではないだろうか。 原子力発電所建設による交付金で道の駅等の施設を建設して、今現在は日帰り客が増加しても、他の市町村にも同じような施設はたくさんあるので、観光客数の増加はあくまで一時的で、いずれこれらの施設は陳腐化して観光客数は減少していくだろう。その時、観光客もいなくなり、町の若者もいなくなる最悪の状況になるだけではないだろうか。
3. 円満解決をめざす 推進派は、原子力発電所建設を起爆剤とした町づくりを行いたいと主張していることから、原子力発電所が安全で、二酸化炭素を排出しないクリーンで素晴らしいものだと考えて建設したいわけではなく、衰退していく自分たちの町をなんとかしたくて、衰退を食い止める1つの手段として建設を進め、交付金を手に入れようとしているだけである。そのため、賃金水準を改善して日々の生活が楽になり、若者が定住して人口減少に歯止めをかけることができれば、推進派は原子力発電所に頼る必要はなくなるだろう。 4. 最後に 原子力発電所建設の問題に限らず、自分の考えこそが正しいと思い込み、その考えを他人に押しつけることが当たり前のようになっている。自分の考えを押しつけるだけでは何も解決しない。反対派が上関町内で反対行動を行えば行うほど推進派の感情を逆なでし、推進派をより頑固にさせてしまっているのではないだろうか。概要でも記載したが、推進派は上関町民の大多数が推進しているのに、上関町民の一部住民と外部からやってきた反対派の工事妨害に苦慮していると主張している。外部からの反対行動に嫌悪感を抱いているのが現実としてある。反対派からすれば、外部からの人間が反対行動を起こしているが、これらの外部の人間は、上関町の賃金水準が突出して低いことや人口減少に苦しむ事実に目を向けず、シュプレヒコールをして自己満足して帰っていくと映っているのではないだろうか。 |
ⅰ 山口県上関町ホームページ |